格好いい奴
思春期に入ると、「誰が誰を好きか」だの、抜け駆け防止協定だの、逆に同調で「いいよねぇ」と心踊らせている話題が休憩時間の全部を占めてきたとき、
「で、誰が好き。言えなかったら、芸能人に寄せてもいいよ(それで大概の見当をつけるから)」の含みに、
私は物凄く返事に困り、チャイムギリギリ前に「クリストファー・リーブ」と答えたのです。
「誰それ?」
その後忘れた頃、ものすごい血相を変えて、いきなり
「ピタピタパンツの奴か、キモイ、きーもーい」
「……どこが」
しかも古い映画の人であったことに腹が立つのか、けれどもカラー映画だし。ま、「タイツの男キモイ」の時には「二度とローザンヌの悪口と熊川哲也ファンに刺されるな」は言っておいた。(君の好きな男子はピアノの稽古とバレーもしていて私は舞台で観たよ。学校で腕がツルほどしんどいといつも肩を回しては愚痴っていた意味が分かった、言わないけどね。本人近くにいてもいなくても。あれだけの女子抱えて下ろしてって、作業かってほどだわ)
「タイツ男が好きならプロレスも見るの」
「あんた、そういうの好きなん?」
「あなたに聞いているの」
「嫌いだよ。特に中途半端にプロレス技かけている奴ら見ると反吐が出る」延髄や脛椎やられて私は呼吸が止まったことがあったし、下手したら半身不随になるのをその手の人は知らない。だから嫌い。
けれどもクラスのどこかで男子は男子のまま成長する子はいた。
少年紙のグラビアアイドルよりもリングレスラーのでばやしを歌ったり、足をどれだけ高くあげられるか遊び倒して股間から布が破れる子が。
私はそういう子達の方が好きだった。話こそしないし顔で挨拶もしない。同級生が沢山居る年代に生まれただけの話。
「いいよな、憧れる人がいて」男だろうと女だろうと、「羨ましい」と私は悲しみでいっぱいだったのです。
おとなという今になっても、ラブもライクも目標とすべき憧れもなりきり演芸すら私はひとつも持てなかったということが残念です。