勇者ダリルの武勇伝
俺の名前はダリル。
冒険者ギルドに仲間の募集を依頼して数日が経った。
俺はボーラスとミカヤを連れてギルドの前にやってきた。
「お願いしまぁす」
「治療師の方を探しています」
ギルド前の通りでは受付嬢たちによって『治療師募集』と書かれたチラシが盛んに配られている。
「おっ、やってるな。結構いい感じじゃねえか」
冒険者ギルドの前には大きなステージが設けられ、その上には勇者の格好をした役者が立っていた。
ステージ前には冒険者たちが集まっていて、なにが始まるんだとざわついていた。
ステージの端に立つ、黒いスーツを着込んだ恰幅のいい男が大きな声を張り上げる。
「さあさあ、皆さんお立合い! 皆はもう聞いたか? 勇者ダリルの、その物語を!」
ステージの中央に立つ勇者の格好をした役者が剣を振り上げてポーズを決める。
「数々の伝説に謳われし無敵の勇者ダリル。三日三晩を休まずに戦い続け、一晩で30ものヒュドラを倒した彼は、助けを呼ぶ人々の声を聞き、いま魔物たちのはびこる邪悪な洞窟に踏み込んだ!」
ステージの脇からリザードマンの格好をした役者たちがあらわれ、勇者を取り囲む。
「洞窟の奥、あらわれたのは何十体ものリザードマン・キングの群れ。だが勇者ダリルはひるまない。彼の手にある聖剣が振るわれるたびリザードマン・キングの首が飛んだ!」
ザンッ! ズバァ!!
ステージの上の勇者が華麗な剣技でリザードマンを切り倒していく。
「うおおっすごいっ!」
「勇者って強いのね」
見ていた冒険者たちから歓声が上がった。
「しかし無敵の勇者も多勢に無勢……仲間たちを逃がすため一人残った勇者をサファイアクラーケンの無慈悲な触手が絞めつける……!!」
「ぐああああっ!」
ステージの上の勇者の迫真の演技に観客は固唾をのんで見守っていた。
論者の男は声のトーンを落として語る。
「……戦いは終わった。聖剣エクスカリバーに選ばれた勇者ダリルは生きて我らのもとに帰ってきたのだ。だが彼が受けた傷は深かった。ふたたび勇者が剣を取るまで、長い休息が必要だろう……」
「ああ、そんな……」
「もう勇者は戦えないの?」
「勇敢なる冒険者の諸君、聞いて欲しい。偉大な勇者は今、仲間を求めている! 彼の傷を癒し、ともに戦ってくれる治療師の仲間を! さあ、我こそはと思う者はこの募集用紙に署名を……彼とともに戦い、伝説に名を刻むのはあなたかもしれないのだ!!」
冒険者たちの中から大きな歓声がおこり、署名をする用紙の前に列ができていた。
ステージを降りた論者の男は、俺に気づいてやってきた。
「おおこれは、ダリルさん。見ておられましたか。募集は順調ですよ、かなりの人数が集まりそうです」
「おう、そのようだな。上手くやってくれよ」
「へへへ、それはもう任せてください。今後ともごひいきに……」
「ああ。考えておくさ」
男は俺にヘコヘコと頭を下げて去っていった。
「おうダリル、なんだかすげえ劇だな」
「あなた仲間を逃がすために一人で残ったの? おかしいわねえ」
「いいんだよ。これぐらいの方が人が集まるんだからな!」
仲間の募集は順調に進んでいるようだ。
この分なら数日のうちに優秀な治療師も見つかるだろう。
俺はひとしきり満足して、その場を後にした。
仲間の募集をかけて、あれから何日かが経った。
そろそろ優秀な治療師が集まった頃だろう。
俺たちが受付に向かうと、受付嬢は何やら興奮した様子だ。
「あっ! ダリルさんいいところに。今日はすごいお知らせがあります」
「なんだ? いい人材がいたのか」
「ええ。な、なんとあのエレノアさんがダリルさんのパーティーに参加を希望してるんです!」
「……エレノア? 誰だ、そいつは」
「エレノアさんはこのギルドでも随一の実力者と言われてる【治療師】です。彼女以上の治療師はまず見つからないでしょうね。いやぁよかったですね、ダリルさん」
「ほう、随一の実力者ね。くくっ……悪くないじゃないか」
受付嬢の言葉に、俺はおもわずニヤリと笑った。
さすが勇者の俺だ、やはり人望が違う。
さっそく優秀な治療師から声がかかったようだな……
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