月光
「おーい、ライザ。起きなよ、こんな所で寝たら駄目だ。風邪ひくぞ」
俺はすっかり酔っぱらってしまったライザの体を揺する。
「むにゃむにゃ……うふふ、ガチャ。いっぱい回すの……ふふふ」
ライザは幸せそうな顔でまどろんでいる。
「ほら、俺が家まで送っていくよ。さあ立って」
「うーん、ふらふらして歩けないわ。ねえ、ナガトお願い?」
「やれやれ、しょうがないな。ほら、俺の背中に掴まって」
「んふふ……ありがと。ナガトは優しいね」
ライザは俺の背中にもたれかかり、俺の首にその手を回すのだった。
柔らかなものが俺の背中に押し付けられる。
熱を帯びたライザの呼吸がすぐ近くに感じられた。
俺は家を出て夜の道を歩く。
今日はずいぶんと月明かりが明るく見える。
吹いてくる夜風が心地よい。
晴れた日のヴァルナ大陸の夜は美しいことで有名だ。
雲のない夜空には七色の光が駆け巡る神秘的な光景が見られる。
これは、空を覆う結界に月からの魔力が反射して光っているのである。
俺たち人間の住む広大な領域は、女神カミラの張り巡らした巨大な結界によってすっぽりと覆われている。
この結界があるおかげで魔物はなかなか人間の領域に入ってこれないし、入り込んだ魔物もその力を制限されるのだ。
この結界は昼間は目に見えないが、夜になると月の光を反射して輝くのを見ることが出来る。
ヴァルナ大陸の大半を覆う結界となると、いったいどれほどの魔力が必要なのだろうか……想像も及ばないことである。
俺はライザの家の前で彼女を背からおろした。
「ほら、ライザ。家に着いたよ。ちゃんとドアに鍵をかけてからベッドで寝るんだ、いいね?」
「わかったわ。うふふっ、ありがとうナガト。また明日ね」
「ああ、おやすみライザ」
また明日、俺たちはいつものように挨拶を交わす。
明日の夜には、また二人で食事をして語らうのだ。
ライザと俺を隔てる玄関の戸がゆっくりと音を立てて閉じていく。
ーーそして戸を閉めるガチャリという音が、やけに大きく聞こえた気がしたのだった。
「……5時か」
太陽がうっすらと地平から顔を覗かせる頃、俺は目を覚ます。
ベッドからのそのそと這い出ると、財布を握りしめて寝室を後にした。
居間はまだうす暗く、外も静まり返っている。
「ふわーあ。さあて、やるかあ」
蝋燭に魔法で火を灯す。
部屋の片隅で灯りに照らされているのは女神カミラの小さな像だ。
これは教会が家庭用に貸し出しをしているガチャ用の小型祭壇なのである。
祭壇には小さな皿が付いている。
俺はそこに銀貨を3枚並べ、女神カミラの像の前で跪く。
これは俺の日課。【デイリーガチャ】だ。
毎日一回限定で、単発のガチャを本来の3分の1ほどの料金で引くことが出来るのだ。
目をつむり、右手を像の前に差し出す。
やがて、ガチャ……ガチャ……という音がして、手のひらに何かがゴトリと落ちてきた。
今日は少し大きいような気がするな。
これは期待が出来そうか。
祭壇に置かれた銀貨は音もなく消えていた。
代わりに手の中にあったのは淡く青色に光るクリスタルだ。
それは武器の形へと変わっていく……
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【ブロンズダガー】
武器:短剣
レアリティ:R
レベル:1/20
突破段階:0/3
攻撃力:84
スキル:なし
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「ちっ! ゴミかよ……! ついてねえな」
俺は舌打ちしながらブロンズダガーを強化素材としてメイン装備の杖にぶち込んだ。
光の粒となったブロンズダガーが俺の杖に吸い込まれていく。
不要な装備は強化素材として他の装備の強化に使えるのだ。
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【ロータスワンド】
武器:杖
レアリティ:SSR
レベル:87/100
*強化経験値を獲得+80pt
(NEXTレベル:1150pt/3500pt)
突破段階:3/3
攻撃力:2678
スキル:高速詠唱(スキルレベル:10)
魔法の詠唱時間が40パーセント減少。
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さあて、待ち合わせまではまだあるな。
俺は椅子に腰かけて、机に積まれた本の山に手を伸ばす。
ボロボロのその本には、いくつもの魔物が図説付きで解説されている。
更に上から俺がメモ書きや脚注を書き入れているので中は文字でびっしりだ。
「やれやれ、また新しいのを買わないとな……」
いくら書物で学んでも、魔物たちは次々と新種が現れるのでそれで万全とはいかないのだ。
定期的に新しく更新されたものを揃える必要がある。
手書きで一冊ずつ写されたこれらの書物は大変高価で、一冊で金貨10枚はくだらない。
まったく痛い出費だな。せめて活用させてもらわないと割に合わないぞ。
今日は効率のいい周回プレイの相手でも考えるとするか。
あんまり複雑な手順だとダリルたちは嫌がるからな……
日が上るまで、俺は次の討伐クエストの計画を立てるのだった。
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