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レベル差



「綺麗ねえ……」


 浴槽からの景色を眺め、ルナリエが声を上げる。

 俺とルナリエはイルマの宿の温泉に一緒に入っているところだ。


 露天風呂からはジュノ海岸の海が一望できた。


 空に浮かぶ月からの光が、空を覆う結界に反射して降り注ぎ波頭を複雑な色に染めている。


「いい景色だ。今日は泊まっていって正解だな」


「ええ、そうね。こんな素敵な宿を守れてよかったわ」


 波の音が静かに聞こえてくる。

 イルマは準備があると、風呂場を出て行ったのでここにはルナリエと二人きりだ。


「ねえナガト。私もそっちに行っていい?」


「ああ。かまわないぞ」


 俺の隣で湯につかりながら腰掛ける彼女の白い肌は、夜の光に照らされてとても艶やかに見えた。


 ルナリエは――さすがに少し疲れたのだろう。俺の肩に寄りかかる。

 彼女の髪のよい香りがして心地よかった。


「今日は疲れただろ? 色々あってさ」


「ええ、少しね。でも私、今とても幸せな気分だわ」


「ああ。俺もだよ」


「ずっとこうして、いられたらいいのに……」


「ははは、それじゃのぼせてしまうよ」


「それでもいいわ。私、ナガトの傍にいたい」


「大げさだなあ。俺ならずっと傍にいるよ。また依頼を受けて、いろんな所に行けばいいさ」


「そうだけど……でも、まだ足りないものがあるの」


「足りないもの?」


 一体何のことだろうか……


「私には、サマーキャンペーンで貰った剣があるけどそれだけじゃ足りないわ。ナガトと同じパーティーで戦えるように、もっと強くなりたいの」


「ルナリエ……」


「ねえナガト。今日見てて思ったんだけど、ナガトはサンドクラブを一度に何十匹も倒したのにレベルが上がってなかったわ。もしかしてナガトのレベルは私よりかなり高いんじゃない?」


「それは……まあ、少しね」


 ルナリエの方が冒険者になって日が浅いというのもあるが、俺とレベル差があるのは事実だ。

 俺は前に散々レベル上げのために魔物を狩りまくったので、実際レベルはルナリエよりかなり高い。


 レベルアップに必要な経験値も多いので、あれぐらいの数のサンドクラブを倒してもなかなかレベルは上がらないのだ。


 なのでなるべくルナリエに倒させて経験値を配分しようとしていたのだが、どうやら気づかれてしまったらしい。


 まいったな。

 あまり気にさせたくはなかったのだが……


「うーん。やっぱりそうよね……」


「気にするなよ。今日だってかなりレベルが上げられたはずだ。すぐに俺と同じくらいのレベルまで上がるさ」


「うん。私、もっと頑張るわ。ねえ、それでなんだけど……」


「ああ。どうした?」


「ナガトは何か知らないかしら? 効率よくレベルを上げる方法とか、そういうのをね」


「レベル上げ、か……」


 ルナリエの言葉に、俺は遠くを見ながら考える。



 効率のいいレベル上げ。実を言えばその方法はある。


 今日偶然手に入れた【EXPポーション】がそれだ。

 EXPポーションは普通に飲んでも効果はあるが、ある特殊な方法で使用することでその何倍もの効果を得ることができるのだ。


 そしてその方法とは治療師にしかできないものであり、つまり俺なら一応可能なことではあるのだが……


 しかしなぁ。あの方法はちょっと色々問題が……


 俺が頭を悩ませていると、ルナリエがじっと見つめながら言った。


「おねがいナガト。どんな方法でもいいの。何か……知らないかしら?」


「……」


 彼女の真剣なまなざしに俺はおもわずどきっとしてしまう。


 ルナリエは本気で強くなりたいと思っているのだ。

 俺も治療師なら彼女の力になってやるべきなのか……


「……方法はあるよ」


「本当!? ど、どんな方法? 教えてっ」


「あるけど、あんまりおすすめはできない。ルナリエも聞いたら、嫌がると思う」


「大丈夫よ。ねえナガト、私たちもう仲間じゃない。隠し事なんてしなくてもいいでしょ?」


「ああ、そうだな。レベルの件、黙ってて悪かった。これからはこういうのは無しだ。……例のレベル上げの件は考えておく。だが、あまり期待はしないでくれ」


「うふふっ、楽しみにしてるわ」



 海からの風が、温泉で火照った身体を心地よく撫でていく。

 俺たちは星空の下、二人で温泉を堪能するのだった。




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