アダマンシザー
サンドクラブたちの『大移動』を止めるため入り江の洞窟に向かった俺たちは、いよいよ洞窟の最深部へと足を進めていた。
「ここが最深部か。かなり広いな」
洞窟の奥に広大な空間が広がっていた。
天井が一部崩れて外が見えており、そこから月の光が差し込んでいる。
――その時だった。
「グゴオオオオオッ……!!」
地鳴りのような雄叫びが辺りに響き渡る。
地面を激しく震わせながら巨大な影が俺たちの前に姿をあらわした。
「どうやらこいつが蟹たちの親玉らしいな」
「うそ……な、なんて大きさなの!?」
黄金の甲殻が月明かりに照らされて輝く。その両手には巨大なハサミ。
ドラゴン並の巨躯を持つカニの魔物【アダマンシザー】だ!
やはりこの魔物が黒幕だったか。
こいつを倒せばサンドクラブたちの『大移動』は防げるだろう。
「ナガト、ど、どうするの?」
「まず俺が強化効果と弱体効果をかける。最初はいつも通りやればいい。俺が合図をしたら、例のスキルを使って一気にいくんだ」
「わ、わかったわ!」
「よし、じゃあ強化からだ。はあっ【筋力強化】!」
まず、ルナリエに【筋力強化】の魔法をかける。
アダマンシザーのパワーは高い。近接で戦うルナリエにはかけておいた方がいいな。
「うあっ……す、すごい。これがナガトの強化魔法なの? びっくりするほど体が軽いわ!」
ルナリエが手にしたカラドボルグを軽々と振り回す。
続けて俺はアダマンシザーに杖を向け、魔法を詠唱した。
「【攻撃力弱体】! 【物理防御弱体】!」
半透明の魔法の霧がアダマンシザーを包む。
弱体魔法の効果でアダマンシザーのステータスが下がった。
魔物は強さがある一定の水準を超えると、ステータスの値が跳ね上がる傾向にある。
大抵そういう魔物はダンジョンの奥に潜んでいたり、不定期に出現する特別な相手だったりするものだ。
俺はそういう魔物を【ボス】と呼んでいる。
ボスの魔物になると、普通にやりあうのは大変危険だ。
ボスはステータスが高いので、相当な苦戦を強いられることになる。
強い装備をそろえれば勝てないわけではないが、効率が悪いのでおすすめできない。
体力の値も相当なので一気に倒すことも難しく、長期戦を覚悟する必要がある。
こちらも何かしらの回復手段は必須だろう。
そしてボスを倒すために一番重要なこと。
それはしっかり【弱体効果】をかけた状態で戦うことだ。
ほとんどのデバフは相手のステータスの値を一定の割合で下げてくれるのだが、ボスは元々の値が高いので低下する量も相当だ。
デバフ魔法は消費する魔力が比較的大きいので、普段使いには向かないがボス戦には必須だと言えるだろう。
キイン! ガキィン!!
振り下ろされた鉄塊のようなハサミを、ルナリエが剣ではじき返す。
洞窟に火花が舞った。
体格の差は圧倒的だが、しっかり強化と弱体効果がかかった状態なら十分に正面から打ち合えるのだ。
「す、すごい……! これがバフとデバフの効果!?」
「ああ。奴の体格にひるむ必要はない、スピードはこっちが上だ。確実にダメージを与えていくんだ」
「わかったわ! ええいっ!!」
ルナリエの素早い剣戟がアダマンシザーを次々と切り裂く。
俺は【稲妻】で援護しながら、タイミングをみて【回復】でルナリエを回復させていた。
今のブラック治療師は二人パーティーと人数的には少ないが、ルナリエが持つのは最高クラスの攻撃力を誇る覇剣カラドボルグだ。
レベル150のこの武器があるのは非常に大きい。十分効果的にダメージを与えているはずだ。
なぜ彼女がこんな武器を持っているのかは、まあ言うまでもないだろう……
俺は戦いながら、ルナリエの攻撃回数と自分が【稲妻】の使った回数をカウントする。
ルナリエのステータス、武器の攻撃力、装備による補正値――そこからアダマンシザーの防御力とデバフによる補正値を計算し、導き出されるアダマンシザーの残り体力(HP)。その割合は……
71パーセント……68……64……
俺は杖を握り、タイミングを計る。
魔物の中には残り体力が一定の割合を切ったタイミングで、特定のスキルを発動させてくるものがいる。
アダマンシザーは自分の体力(HP)が最大値の50パーセント以下になると、防御力と魔法耐性を大幅に上げる【硬質化】のスキルを使ってくるのだ。
こういうHPの値を条件にした魔物たちの行動を、俺は『トリガー』と呼んでいる。
一度アダマンシザーに硬質化を使われるとダメージが全然通らなくなる。
さらになんとか削っても、今度はHP25パーセント以下で【超硬質化】を使ってくるのだ。
アダマンシザーにまともに付き合っていると、ひどい長期戦を強いられる。
硬質化したハサミの攻撃や、巨体を活かした体当たりも単純だが強力だ。
効率よく倒すには『トリガー』発動前に、あの魔法を使うのが一番だろう。
ルナリエのカラドボルグがアダマンシザーを切りつける。
55……52……
よし、このタイミングだな。
俺は杖を振り上げ、魔法を詠唱した。
「【麻痺】!!」
「グゴッ……! ゴ、ゴゴッ!?」
発動した【麻痺】の魔法でアダマンシザーの動きがぴたりと止まる。
「アダマンシザーの動きが止まった!?」
更に追撃したルナリエの攻撃で、奴のHPは50パーセントを切ったが【硬質化】のスキルは発動しない。実は状態異常の麻痺になっている間、魔物は『トリガー』による行動はしてこないのだ。
【麻痺】は何度も使うと魔物の耐性が上がり効きにくくなるが、初回は確実に効果がある。使うタイミングが重要だ。
「今だ、ルナリエ。例のスキルで一気に攻めろ!」
「わかったわ! えっとまずは……【アイギスシールド】!」
アイギスシールドの効果でルナリエの防御力が上昇する。
透明な障壁が彼女を包む。そして……
「ええいっ! 【不知火の構え】!!」
剣を振り上げスキルを発動させたルナリエの体が、燃え上がる炎のようなオーラを纏う。
スキルポイントで得た剣士のスキル、【不知火の構え】だ。
―――――――――――――――――
【不知火の構え】
ジョブスキル:剣士
効果:自身の防御力を0にして攻撃力に変換する。
発動中、常に体力(HP)を消費する。
―――――――――――――――――
不知火の構えは自分の防御力を攻撃力へと変換するスキルだ。
この順番でスキルを使うとアイギスシールドによって上がった防御力分も変換し、攻撃力が飛躍的に伸びる。
効果中は防御力が0になり、HPを消費するので脆くなってしまうが今の状況なら問題ないだろう。
「すごい……力が溢れてくる! これならやれるわ!」
ルナリエの剣の一撃にアダマンシザーが大きく揺らぐ。
甲高い音が響き、奴の分厚い甲殻にヒビが入った。
よし、かなりのダメージを与えられているな。
物理防御弱体の効果時間もまだ残ってる。
これならやっかいな硬質化のスキルを使われることなく倒せそうだ。
俺は残った魔力(MP)を使って【稲妻】を連射した。
そして……
「はああっ! 【疾風連斬】!!」
ずばああッ!!
「グゴオオオオオオオ……!?!?」
風を纏った剣の連撃が、アダマンシザーの分厚い装甲を貫く。
巨体が力を失い、土煙をあげて地面に崩れ落ちた。
「やったな! 討伐成功だ」
「す、すごい……本当にあの大きいのを倒しちゃった……?」
この小説を読んで
「面白い」
「続きが気になる!」
「この先どうなるの!?」
と少しでも思ったら、↓の★★★★★を押して応援してくれると嬉しいです!
ブックマークもぜひお願いします。
あなたの応援が、更新の原動力になります!
よろしくお願いします!




