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爆死と煽り



 酒場はあいかわらず客が多い。

 その中でも昼間から深酒して酔っ払い、暗い顔で突っ伏してる連中というのは大体の場合、理由は一つしかない。

 可哀そうに。彼らはガチャで目当てのものが引けなかったのだ。


 ガチャに大金をつぎ込んで目当ての装備が出ないことを俺たちは【爆死】と呼んでいる。

 俺は長年の経験からそういう連中を見れば一目でわかるようになっていた。

 

「ダリル、この席にしよう。俺が注文を取って来るよ。席をとっておいてくれ」


 俺は目を付けた二人の男が座る席の近くにダリルたちを誘導した。

 男たちの机には空になった酒瓶がいくつも転がる。この感じ、間違いないだろう。


 

 まもなく料理が運ばれてきて、ボーラスが音頭をとりながら酒のなみなみ入ったジョッキを掲げる。

 四つのジョッキがぶつかり合って音を立てた。


 俺は喉を鳴らしながら酒を流し込む。今日の一杯はまた格別だ。


 そしてここからがお楽しみだ。


 この趣味に関しては、俺とダリルたちはまったくウマが合うらしくガチャを引いたあとは決まってこれをやるのだ。


 となりで酔いつぶれている二人にもよく聞こえるように、少しばかり大きめの声で新しいピックアップの装備を実戦で使ってみた感想を仲間たちと楽しく語らうのである。


「使ってみてわかったんだが、この装備は従来のものとは全く違うね。今まで苦労していたあの魔物がこの装備のスキルを使えば容易く何体も仕留められるんだからね」


「ははは! まったく恐ろしい装備だぜ。引けなかった連中は気の毒だな」


「そうね、もし自分が逆の立場だったらと思うとゾッとするわ」


「そうだろう。でもさ、ポスターに書いてあるこの装備の説明を読んだかい? あの書き方だとさ、ここまで強いって思う人も少ないんじゃないかなあ」


「へえ、それってつまり何が言いたいんだ?」


「つまりさ、まだこの装備の強さはあまり知れ渡っていないんじゃないかってこと。まだ詳しく性能を試してみた冒険者も少ないだろうしね」


「でも、これだけ強い装備なのよ? 時間が経てば皆に強いって知れ渡るんじゃないかしら」


「そうだろうね、でもそれには時間がかかる。そして、その頃にはこの装備のピックアップガチャはもう終わってるんじゃないかな?」


「た、確かにそうだぜ!」


「じゃ、じゃあ今回のピックアップを逃したパーティーはどうなっちゃうの!?」


「残念だけどこの装備を確保できたパーティーと、できなかったパーティーは埋めがたいほどの大きな差が出来てしまうだろうね。同じ装備が再度ピックアップされた例もないわけじゃないけど、早くても1年後か2年後か、あるいは……。なんにせよ俺たちは早めに入手できてよかったよ。これを逃していたら向こう数年は苦労しただろうからね」


 俺は話しながら隣の席の男二人に目をやる。

 やれやれ……わかりやすい連中だ。

 

 顔はテーブルに伏せているが耳だけはこちらにそばだてていて、俺が何か話すたびに体をびくりと震わせている。

 人間、素直が一番だ。正直な連中は嫌いじゃない。


 ここまでくればあとは簡単だ。

 軽く背中を押してやればいいのだ。


 タイミングを見計らい、ダリルが語りだす。


「そういえばよ、さっき剣士のバルドが単発のガチャで例の装備を当てたって聞いたぞ」


「本当!? そういえば今日、私の友達の妹の彼氏が一度の10連ガチャで例の装備を二つも当てたって言ってたわ!」


「おいおい、こりゃあどういうことだ。ピックアップの当たる確率はずいぶん低いんだろ? こんな偶然があるのか」


「偶然かもしれないが、だがどうだろう。日によってやたらいい装備が出る日とそうでない日があるような気がしないか? もしかすると何か関係があるのかも……」



 俺たちがここまでを話すと、隣の二人は慌てて立ち上がった。

 そして、なけなしの金が入った財布を握りしめながらどこかへ走っていくのだった。



 真実が何か。それはここでは重要ではない。


 確かなのは、こうして送り出した冒険者たちのなかで少なくとも何割かは幸運に恵まれピックアップの装備を獲得するだろうという事だ。彼らは喜び勇んでそれを振り回し多くの魔物を屠ることになる。


 そして教会に寄付された金は次なる装備の開発費に回されて、さらに強力な装備が今後、冒険者たちの力となってくれるだろう。


 俺は自堕落な彼らを正しき道へと戻してやったのだ。


 まあそれに、仮にガチャで外れたとしても別に死ぬわけじゃない。


 あいかわらず魔物たちの侵攻は収まることを知らないし、冒険者たちの仕事は事欠かない。

 根気強く頑張れば、いくらでも稼げる機会はある。


 彼らはまだ若く、可能性に溢れている。

 昼間から酒場で泥酔して寝ている暇があるのなら、いくらでも出来ることはあるのだ。


 運命を呪って下を向くのは今日で最後にしたほうがいい。

 大切なのは戦う意思があるかどうかだ。

 

 

 がんばれよ。俺は走り去る二人の背中を暖かく見送る。


 無価値な酔っ払いにすぎなかった彼らは今日で死んだ。

 ガチャの奇跡と、女神カミラの永遠の栄光によって、人々を守るために戦う誇り高き戦士へと生まれ変わるのである。




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