課金
まったく、ガチャほど楽しいことはおよそこの世には存在しないだろう。
もちろんガチャをしない冒険者もいて、彼らは【無課金】と呼ばれている。
まあ、考え方は色々あるんだろうがある程度ベテランの俺から言わせてもらえば、冒険者をやるならガチャを引いた方が絶対に良いと断言できる。
ライザも最近までは無課金だったが、今ではすっかりガチャの虜だ。
無課金は教会で冒険者の証を提示すれば、初回の10連ガチャはサービス価格の10万ディナールで引くことが出来る。
俺は、親切心からこのことをライザに教えてやったのだが、なんと最初の10連ガチャでライザはその時ピックアップされていた最新型の強力な双剣を引き当てたのだった。
その時の彼女の喜びようはもう凄いもので、俺は喜ぶライザを見て、いいことをしたなあと感慨深かった。
ガチャの低確率をくぐり抜けて期間限定ピックアップ装備を手にした先にあるのはまさに至福そのものだ。
ガチャの宣伝広告は教会の周辺にとどまらず、街のメインストリートのあちこちにも張り出され、冒険者ギルドの中もガチャ関連のポスターでびっしりだ。
街の人々はイヤでも知る事になるし、特に冒険者にとっては誰が何の武器を引いたかは最大の関心事といっていい。
ピックアップ装備を持って大通りを行けば、道行く人々が次々とこちらを振り返る。
心地よい視線を浴びながら俺は冒険者ギルドの扉をくぐるのだ。
ギルドにいたのは冴えない顔をした陰気な冒険者の連中だ。
彼らの身に着ける装備は、何故だろうか……昨日、見た時よりも酷く古臭くてつまらない物に見えてしまう。
ギルドの壁には俺が身に着ける装備と同じもののポスターがびっしりだ。
まあ、俺はもう手に入れたし関係ないか。
俺に嫉妬の視線を向けて突っ立ている連中を見ると哀れでため息がでる。
羨ましいと思うなら取るべき行動は決まっているはずなのに、仕事もせずこいつらは何を考えているのやら。
そんなだから、いつまでたっても負け犬だと気づかないのだろうか……
俺はクエストの報告をしようと受付の列に並ぶのだが、俺の装備に気づいた受付嬢の子たちがたちまち集まって来て俺のまわりできゃあきゃあと大盛り上がりだ。
休憩中の子まで集まってきてギルドに黄色い声が響く。
やれやれ……俺はクエストの報告をしようと思っただけなんだがまいったな。
受付嬢がみんな俺のまわりに集まってしまったので、相手にしてもらえず受付の前に突っ立って待っている連中がなんだか気の毒だったので、俺は受付嬢に仕事に戻るようにたしなめる。
「さあ、そろそろ君たちも仕事に戻りなさい。あそこで待っている人たちもまあ彼らなりに古い装備でなんとかやりくりして頑張っているみたいだから。あの装備ではパッとした戦果をあげることは難しいだろうから、少しばかり退屈なクエストの報告になってしまうかもしれないけど……これは仕事だからね。君たちちゃんと話をきいてあげるんだよ」
「はあい」
「えーん、もう少し見ていたかったのになあ」
しぶしぶと受付に戻っていく受付嬢たち。
ギルドを見渡してみると見慣れた三人がそこにいた。
「やあダリル。ダリルもクエストの報告?」
「おう、俺たちも今済ませたところだ」
「がっははは、今日はお前も飲むだろう? ナガト」
「私はナガトの奢りなら付き合ってもいいわよ」
「やれやれ、しょうがないなあ」
俺はダリルたち三人と共にギルドの酒場に向かった。
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