まったり団の三人組
廃課金ギルドを訪れた俺たち。
その前に、筋骨隆々の大男を含めた謎の三人組があらわれた。
彼らはいったい……
「よう、ルナリエひさしぶりだな!」
「あ、あら、サノス奇遇ね」
サノスと呼ばれた男たちは、どうやらルナリエの元いたパーティーの面々らしい。
彼は俺に気づいて言った。
「おっ、そっちの黒いコートの奴はここじゃ見ない顔だな。ルナリエ、彼は?」
「えーっと、あの、その……な、なんでもないの。ちょっとここの見学でね、来てるだけなのよ」
「おいおい、なんでもないってことはないだろ。その装備、相当の冒険者なんじゃないのか? ちょっとオレに見せてくれよ」
「だ、駄目よ。悪いけど私たち今、いそいでいるから」
ルナリエはサノスから俺を隠すように立ちふさがった。
彼女はいったいどうしたんだろう。
なにかサノスに知られるとまずいことでもあるんだろうか。
「サノス、あなた察してあげなさいよ。きっとルナリエちゃんのボーイフレンドなんだわ。ねえ、そうでしょ?」
「……ボ、ボーイフレンド!」
「なんだそうだったのか! いやあ悪いな、気づいてやれなくってよ。だが、だったらちょうどいい。二人に提案があるんだ。なあ兄さん、あんた名前は?」
「ああ、俺はナガトだ」
「オレはサノス。廃課金ギルドのパーティー【まったり団】のリーダーをやってる。後ろの二人はマーベラとマイソールだ。どうだ、二人ともオレたちのパーティーに入らないか? なあルナリエもそろそろ戻って来いよ。また前みたいに楽しくやろうぜ」
「い、嫌よ。あなたたちの所には戻りたくないの」
「ルナリエちゃんどうしてわかってくれないの。まったり団ほど待遇のいいパーティーはなかなか無いのよ? またお姉さんたちがたっぷりと可愛がってあげるわ。だから、ね。戻っていらっしゃい?」
「ルナリエ殿も、拙者らとまったりするでござるよ」
「……嫌よ。私はあなたたちみたいにはならない。もうまったりなんてしないわ!」
しかしサノスたちの誘いにルナリエは頑として拒否するのだった。
彼らと何かあったのだろうか。
「なあルナリエどうしたんだ? 彼らと何かあったのか」
「ううっ……だってサノスはいつも私に変なことをしようとするのよ」
「変なこと?」
「そうよ。私によくわからないことを言ってきたり、それに嫌がる私をベッドで無理矢理……」
「「!?」」
ルナリエの言葉に、その場にいた全員が凍り付いた。
なんということだろうか。
乙女の純潔は無残にも散らされたのだ……
「やれやれ、残念だよ。廃課金ギルドがどんなところかと来てみれば、変質者の巣だったとはね」
マーベラとマイソールは信じられないといった表情でサノスを見ていた。
「サノス……あなたなんて事を……!?」
「こ、こんなことが辺境伯に知れたら……!」
「ち、違う! オレは何もやってねえ!」
「うっ……うっ……サノスはひどいのよ? 嫌がる私をベッドで無理矢理休ませようとしたり、『有休消化率』がどうとか言って私の出勤日を勝手に休みに変えたりしてくるの。私は、もっともっと戦えるのに、サノスは戦わせてくれないの……!」
ルナリエは悔しそうな表情でうつむいて言った。
「……なあルナリエ、三日三晩寝ずに戦うとか、休みなしで周回プレイの予定を入れ続けるとか、そういうのはな作戦とは言わねえんだよ。なあ、そこんとこわかってくれよ、頼むから」
「ええっ!? でも三日くらい寝なくても別に平気でしょ?」
「ルナリエちゃん、お姉さんたちくらいの歳になるとね、色々無理がきかなくなるのよ」
「左様。仕事と私生活の両立こそが重要なのでござる。休むべき時は休む。これがわれら【まったり団】の掟でござる」
「マーベラとマイソールの言うとおりだぜ。なあルナリエ、オレはお前が無茶して体を壊さねえか心配なんだよ。戻って来いよ、【まったり団】の待遇はいいぞ。年間の休みも多い。残業手当もしっかり出るし、それにルナリエ、お前の腕ならボーナスもたくさん出してやれる。だから、な?」
「駄目よ。私はもう、ここにいるナガトと二人でパーティーを組むって決めたんだもんね!」
「な、何!?」
「なんですって?」
「な、なんと!?」
サノスたち三人は驚くと、口々に俺を心配する言葉をかけてきた。
「ナ、ナガト、本気なのか!? ルナリエは周回プレイ狂いのやばい奴だぞ? 彼女のペースに合わせてたらとても体がもたないぞ」
「かわいそうに、きっと三か月と持たず入院する事になるわ……」
「地獄の周回プレイに死ぬまで付き合わされるでござるよ……!」
「えっ!? ああ、それは……ま、まあ俺は治療師だし、自分の体の事はある程度魔法でなんとか」
「あっ! ナ、ナガト、それは言っちゃ駄目!」
ルナリエが手のひらでぱちんと俺の口を閉じようとしたが、遅かった。
サノスたちはなにやら目の色を変えて俺に迫って来たのだ。
「な、何だと!? 治療師だって!?」
「ああ、やっと見つけたわ。お兄さん、ようこそ【まったり団】に」
「これぞ僥倖でござる! ああ素晴らしい!」
「ど、どうしたんですか皆さん? 俺、何か変なこと言いました?」
「とんでもねえ、待ってたんだ。兄さんみたいな人材をな。廃課金ギルドに入れるレベルの冒険者で治療師の奴なんて滅多にいねえ。俺たちが高難易度の冒険に行くときは、いつも金を払って治療師の先生に臨時で入ってもらうしかなかったが、それも今日で終わりだな」
「ああ、サノス。今まで長かったわね……もう怪我に怯えなくて済むんだわ」
「いやあ、あっぱれ! ナガト殿! これからどうぞよろしく頼むでござるよ!」
まったり団の三人は俺のまわりで大盛り上がりだった。
ルナリエはすっかり三人から忘れられていた。
その時後ろから何かの声が……
「だ……」
「ん?」
「駄目! 駄目! 絶対ダメ!! ねーえちょっとサノス? ナガトは私が見つけたんだからね! 横取りなんてずるいわ!!」
ルナリエはサノスに抗議するようにポカポカとこぶしで叩いた。
するとサノスは、どうしたのだろう……なにやら顔を青くしながら腹をおさえて呼吸を荒くしていた。
「ぐふっ!? ぜえぜえ、こひゅー。や、やだなあルナリエさん。横取りだなんて、ほんの冗談じゃないですか。別に新しくパーティーを組まないでも、ルナリエさんとナガトさんが一緒にまったり団に入ったらいいんです。そのほうが絶対いいですよ!」
「駄目よ、サノス。まったり団のルールには従えないわ。私はナガトと二人っきりでパーティーを組むんだから。ナガトもそっちの方がいいわよね?」
「え? あ、ああ、そうだね」
「……どうしたの? まさかサノスたちが言ったようなこと、私がナガトにさせるわけないじゃない。ナガトにはちゃんとお休みも取ってもらうわ。その分私が頑張って、ナガトには楽をさせてあげるからね」
「ル、ルナリエさん……なんかオレたちの時と扱いが違くないですか?」
「ん? サノス、今なにか言った?」
「いえ、なんでもないっす……」
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