ガチャ
ライザは俺の幼馴染で物心ついたころからいつも一緒だった。
木のカップからワインを口に運ぶライザ。その顔は赤く高揚している。
昔は男友達に混ざって遊んでいた彼女の体は、最近では女性らしさを増して出るところが出ていて何というか少し目のやり場に困る。
彼女も冒険者で、俺とは冒険者ランクが差があるため、違うパーティーに所属しているが俺の家に来て一緒に夕飯を食べるのがいつものことだった。
「そうだ! 見てこれ。うふふ、ようやく貯まったんだ」
ライザは懐からなにやら光る物を取り出した。
テーブルに置かれたのは三枚の金貨だ。
一枚で10万ディナールの価値があり、金貨一枚あれば一か月分の生活費になるだろう。
「へえ、どうしたんだライザ、これは?」
「えへへ、その……また【10連ガチャ】を回そうと思ってね。頑張って貯めてたんだ」
「はははっ、ライザも最近はすっかり【ガチャ】に夢中だね。いやあ、ガチャの魅力を分かってくれたみたいで俺も嬉しいよ」
そう、ガチャ。ガチャこそが冒険者最大の醍醐味だ。
アクトゥスの街の中央に建つ女神カミラを祀る教会の前にはいつも馬鹿でかい看板が立てられている。
そこに描かれるのは教会が提供する冒険者向けの装備提供サービス【ガチャ】、その期間限定のピックアップ装備のイラストだ。
アクトゥスで一番大きな教会の建物の周りにはずらりとのぼりが立ち並び、そこには「期間限定」、「10連でSR以上確定」などの文字が躍る。
教会の前ではシスターたちが道行く人々に寄付を募るのだった。
「10連を頼もうか」
財布から金貨を3枚取り出してシスターに告げる。
「はい、10連ガチャ1回。30万ディナールですね。ご寄付に感謝いたします」
シスターはぺこりと頭を下げ、満面の営業スマイルでそれを受け取った。
寄付金を入れる箱にチャリン、チャリンと硬貨の音が響く。
「それではこちらにどうぞ」
俺はシスターに手を引かれ、建物の中に通される。
厳かな雰囲気の静謐な教会の中に俺とシスターの足音だけが響く。
並び立つ石の柱は緩やかなカーブを描きながら天井へと伸びていて、まるで森のようだ。
ステンドグラスの窓から虹色の光が零れ落ち、床を複雑な色彩に染める。
その奥には女神カミラの像があった。
窓からの光を受けて輝くそれは、慈愛に満ちた視線を落としている。
「さあ、御手をお触れ下さい」
俺は片膝をついて跪き、頭を下げ、右手を前に差し出した。
女神カミラの像がぱぁっと光に包まれる。
そして、ガチャ……ガチャ……と何かが回るような音。
空中に現れた大きなクリスタルの塊がゆっくりと俺の手のひらの中へと降りてきた。
クリスタルからは黄金の光が漏れだしていて俺の顔を照らす。
俺の指先がクリスタルに触れると、クリスタルはいくつもの光に分かれて俺の周りに飛び散った。
光はゆっくりと形を変えていく。光の中から現れたのは様々な装備の数々だ。
これこそ女神カミラのもたらす奇跡の一端である。
銀色の長剣……曲がりくねった杖……分厚い魔導書……俺のまわりにいくつもの装備品がふわふわと浮かんでいるのだった。
俺はそれらにざっと目を通して言った。
「くそっ! ハズレかよ! 畜生!! シスター、もう一回だ! もう一回10連をやるぞ」
「はい、10連ガチャですね。ありがとうございます。30万ディナールになります」
「おう、今日は引くまでは帰らねえ。すぐに次を引くぜ!」
俺はまわりにごちゃごちゃと浮かぶ装備品をまとめてアイテムポーチに突っ込み、シスターに次の金貨三枚を渡すのだった。
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