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追放



「……ナガト・ハイルーク、お前をこのパーティーから追放する!」


 冒険者で賑わうギルドの一角にダリルの大声が響いた。


 サマーキャンペーンより二週間ほどが経ったその日、いつもより早くギルドに来ていたパーティーの皆の前で俺はそう告げられた。

 あまりの突然の出来事に俺は我が耳を疑う。


「そ、そんな……どうして……」


「どうしてかって? そんなの決まっているだろう。ナガト、お前が役立たずの劣等民だからだよ!」


 ダリルはゴミを見るような目で見下しながら言い放った。


「おい、ナガト。お前、俺たちが説明してやらねえと自分の無能さもわからんらしいな。少しは自分の頭で考えることを覚えたらどうだ?」


「あなたのような低能のクズに存在価値なんてないのよ。劣等民に同じパーティーにいられるだけで不愉快だわ」


 ボーラスとミカヤから冷ややかな視線が向けられる。


 どうしてこのようなことに……



 劣等民(れっとうみん)。あのサマーキャンペーンの後、いつからかそのような言葉が使われ始めた。


 劣等民とは、サマーキャンペーンで四等のティッシュしか景品を得られなかった冒険者につけられたあだ名だ。


 今、この冒険者ギルドでは劣等民は装備が貧弱で役立たずという意見が支配的なのだ。

 ダリルたちは好んで俺をこの名で呼び、今日まで奴隷のように扱ってきた。

 

 

「おいおい、何だ? 意外そうな顔だな。こんなの当たり前だろう。俺たちがサマーキャンペーンでどれだけ強くなったと思う? 今の俺たちならダメージをもらう前に、敵を瞬殺できる。もう、お前のような役立たずの治療士はパーティーにいらないんだよ」


 ダリルの脳内ではアタッカーがいれば回復役は不要らしい。

 この数週間新しい武器を振り回した結果、どうやらその考えに至ったようだ。


 いくら強力な武器があるとはいえ、それがどんなに危険な事か知らない訳はないのだが……


「待ってくれ。確かにパーティーの火力は上がったけれど回復役がいないのは危ないよ。俺も頑張ってパーティーに貢献してるだろ? いらないなんてひどいなあ……俺たち、今までともにやってきた仲間じゃないか」


 しかし、ボーラスとミカヤも考えはダリルと同じようだった。


「仲間? おいおい冗談はよしてくれ。それに、ここ最近で俺たちがマトモにダメージを貰ったことなんてあったか? おいナガト、お前が役にたつってのはいつだ? 十年後か? なあ。大体、回復ならポーションを買えばいい話だろ。なんでわざわざ役立たずを置いておかなきゃならないんだ」


「はあ……呆れた。ナガト、あなた頑張ってそれならよほど才能がないのね。今までだってお情けであなたをパーティーにいれておいてやったのに、それがわからないなんて。あなたのような雑魚に仲間呼ばわりされると虫唾が走るの。さっさと私たちの前から消えてくれるかしら?」


 口汚く俺を罵倒する二人。


「おっ! 見ろよ、また始まったみたいだぜぇ!」

「キヒヒ……! お気の毒にねぇ……」


 口論を聞きつけ、ギルドの冒険者たちが集まって来た。

 彼らは遠巻きに俺を囲んではニヤニヤと笑って見ている。


 よく見れば最近見知った顔が何人もいた。

 ここ数週間で聞いてもいないのに散々自慢話を聞かされたのですっかり顔を覚えてしまった。

 彼らはサマーキャンペーンで景品を得られた側の人間なのだ。


 彼らからすれば劣等民がパーティーで揉めて追い出されるのは毎日のようにギルドで開催される愉快なショーであった。


 俺のような劣等民が無能と蔑まれ苦労を共にしたパーティーから捨てられるのを見るたびに、彼らは自分たちの恵まれた境遇を思い出すことができるのだろう。



 やれやれ、まいったな……


 せっかくダリルたちの攻撃能力に合わせて高難易度の周回プレイに挑戦する計画を練っていたところなのに、ここで追い出されたら計画がパーである。



 どうにかダリルに考えを改めてもらわねば。


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