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剣士のバルド



 教会の外、晴れ渡った青空に夏の日差しが燦々と降り注ぐ。

 広場の噴水が日を浴びてきらめき、涼やかな風を運んでくる。


 だが、俺の心は暗く沈んでいた。


「いやぁ今回のイベントは最高だったな!」


「まったくだ。こんないい日はないぜ」


「うふふっ本当ね。幸せすぎて困るわあ」


 高笑いしながら楽しそうに語らう仲間たち。

 景品がティッシュ2個の俺は蚊帳の外だ。


 まさかこんな事になるなんて。

 たった数分のダーツですべてが決定的に変わってしまった。


 ちょうどイベントも混みはじめたようで、教会の前では冒険者たちのパーティーが列を作り楽しそうに談笑しながら自分たちの順番を待っている。


 待っている彼らには想像も及ぶまい。


 もう一時間もすれば彼らはイベントで景品を得た側と得られなかった側のどちらかに、決定的な差をもって分かたれるのだ。

 

 教会前のあちこちにはためくサマーキャンペーンの旗や垂れ幕が忌々しい。

 今日起きたことを全部忘れられたらどんなに良いだろうか。


 そんなことを考えていると、ダリルが俺を呼ぶ声がした。


「おいナガト。今日は俺たちの新しい武器の試し斬りをするからよ、先に冒険者ギルドに行って適当なクエストをおさえておいてくれ。俺たちはちょっと用があるからあとでギルドで合流だ、いいな?」


「ああ、わかった。じゃあ先に行ってるよ」


 俺は、重い足取りで冒険者ギルドへと向かうのだった。


 

 ギルドに入った途端、聞こえてきたのは酒場からのバカ騒ぎの声だ。


 声の主は剣士のバルド。主に単独(ソロ)で活動している、なんというか寡黙であまり目立たない冒険者なのだが今日の彼は違っていた。


 酒場の一番大きなソファーに足を大きく開いて座るバルド。

 彼の両脇には二人の受付嬢を侍らしている。


 受付嬢は普段は着ないようなミニのスカートを履いて生足を露出させていて、胸元のはだけさせた衣装をまとい媚びるような声をあげながらバルドに身体を密着させるのだ。


「ああん、バルド様! なんて逞しい腕なのかしら。素敵だわ」


「ははは! そうだろう? ほらもっと近くに来るんだ」


 バルドは受付嬢の体をがっしりと掴んで抱き寄せた。


「きゃあ!? もお、バルド様? エッチなのはダメなんですからね」


「いやあ悪い悪いつい手が滑ってしまってね。ほらこれで機嫌を直してくれるかな?」


 バルドは懐から金貨を掴んでジャラジャラと取り出すと、受付嬢の衣装に挟んでいった。


「わあい! バルド様大好き!! ん……ちゅ!」


 たちまち機嫌を直した受付嬢は背伸びして、バルドの頬にキスをする。


「むふふ……たまらん! 今日は最高の気分だ。冒険者をやっていて本当によかったぞ!」


 もう一人の受付嬢がバルドに声をかける。


「あら? バルド様、グラスが乾いておりますわ。なにか注文いたしますか?」


「ふふ、そうだなあ。この店で一番高いシャンパンを三人分貰おうか? いや、それでは足りないな。よし、シャンパンタワーをやるぞ! 一番高いシャンパンでタワーの準備だ!! 金はいくらでもある! 遠慮は無用だ。酒場の全員に振舞うのだ!」


「さすがはバルド様、男の中の男ですわ。すぐに手配いたしますね」


 バルドは上機嫌で大笑いだ。

 そしてどうやら俺に気が付いたようで声をかけてくる。


「よお! ナガトじゃねえか。そんなところで突っ立ってないでこっちに来いよ。おう、今日は俺の新しい誕生日だ! 今、酒を頼んだところだ。お前も付き合えよ。ははははは!!」


「や、やあバルド、ずいぶん景気がいいみたいで何よりだよ」


「おう、そうよ! まったく女神さま、聖女さま万歳だってもんだぜ。詳しく聞きてえだろ? なあ?」


「ははは……まあ今度時間があったらお願いするよ」


「そうかい? 遠慮しなくてもいいんだがな。おっ酒が来たぜ? ヒュー! 壮観だねえ!!」


 酒場の天井近くまで重ねられた数百のグラスのタワーが台車に乗って運ばれてきた。

 最高級のシャンパンのボトルが惜しげもなく開けられていく。

 グラスには瑞々しい季節の果物も入れられていた。


「はあい、バルド様。あーんしてくださいね」


 黄金に彩られた液体が滝のように流れ出し、天井の灯りに照らされながらグラスを満たしていく。

 受付嬢の白い指が伸び、果実をバルドの口へと運ぶ。

 バルドは果実を咀嚼しながら、飛び散った果汁に濡れた受付嬢の指を美味そうに舐めまわすのだった。


「ああん! くすぐったいですぅ」


「へっへっへっいやあ、甘露、甘露。たまらんなあ!!」



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