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劣等民



「……ナガト・ハイルーク、お前をこのパーティーから追放する!」


 突き刺すような視線が向けられていた。


「そ、そんな……どうして……」


 俺はあまりに突然の事に呆然となって立ち尽くす。

 パーティーの仲間たちは、ひどく蔑むような表情で俺を見ていた。


「どうしてかって? 決まっているだろ、お前が役立たずの劣等民だからだよ!」


「さっさと失せろ。この劣等民が!」


「劣等民に同じパーティーにいられるだけで不愉快だわ」


 仲間たちとの信頼、冒険者としての成功。

 いまや失われたそれらを取り戻すことは不可能と言ってよかった。

 

 俺たち冒険者には二種類の人間がいる。

 それは【劣等民(れっとうみん)】か、それ以外か、だ。


 俺たちはかつて同じ冒険者だった。


 どうしてこんなことになったのだろう。

 

 俺はどうにもならない現実に、ただ嘆く事しかできなかった。


 もう戻らない日々、引き裂かれた絆。


 白く塗りつぶされていく思考に、まだ俺たちが仲間だった頃の思い出が浮かぶ。

 


 これは、俺たちの運命を変えたあの日……

 【サマーキャンペーン】ですべてが変わってしまう前の記憶である。


 




◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ーー【サマーキャンペーン】、その前日。






「ギャオオオオッ!!」


 青々とした草木に彩られた美しい森の静寂を、恐ろしい雄叫びが破った。

 声の主は8本の首をもつドラゴンに似た姿の魔物フレイムヒュドラだ。


 荒ぶる怪物と対峙するのは勇者ダリル率いる冒険者のパーティー【紺碧の輪】。そして俺、ナガト・ハイルークはこのパーティーの治療師である。


 フレイムヒュドラは8本の首による手数の多さに加え、毒属性の攻撃も織り交ぜてくる厄介な相手だ。

 

「【回復(ヒール)】! 【解毒(キュアポイズン)】! 【回復(ヒール)】!」


 俺はパーティーの後方に位置取り、前線を張る勇者ダリルと戦士ボーラスの動きを追いながら【回復】と【解毒】の魔法を撃ち分ける。

 

「おいナガト! さっさと俺の体力(HP)を満タンにしろ! サボってんじゃねえ」


 かすり傷を負ったダリルがイラつきながら俺に命令する。


「ああ! 【回復(ヒール)】! 【自動回復(オートジェネレート)】!」

 

 俺はダリルに追加の回復を重ねて詠唱する。


 だが、同時にフレイムヒュドラを視界に入れておくのも忘れてはいけない。

 ダリルたちの攻勢を受けたフレイムヒュドラが後ずさる。

 そして、その首を大きくのけぞらせ、その喉元が隆起する。

 奴の反撃の合図だ!


 俺は心の中でカウントをする。

 3……2……1! 今だッ!


「【魔法障壁(ディバインウォール)】!」


 俺は叫びながら杖を振り上げる。

 直後、フレイムヒュドラの八つの頭から悍ましい咆哮が放たれた。


「ギュオオオオオオオッーーー!!」


 聞いたものをスタンさせる魔力を伴った叫び声。

 ーーしかしその効果は発揮されることはない。


「へッ……! 何だよこけおどしじゃねえか」


 ダリルが冷や汗をかきながら言った。


 反撃は防いだ。ここでダメージを稼ぐべきだろう。


「【物理防御弱体(ソリッドブレイク)】! 【魔法防御弱体(マナウィーク)】!」


 フレイムヒュドラの防御は硬い。通常の攻撃では致命打は難しいため、弱体効果(デバフ)は必須だ。戦闘開始直後にかけていたが一定時間で効果が切れるので、ここで再度かけ直しておく。


「おいグズ! さっさと強化効果(バフ)をかけろよ、ノロマが!」


 戦士のボーラスが俺に怒鳴りつける。


「ま、待ってくれ今やるから。……ハアハア。【筋力強化(パワーエンハンス)】! 【武器強化(ウェポンバースト)】! 【魔力強化(マナバースト)】!」


 俺の魔力(MP)はあっという間に底をつく。


 俺は魔力回復ポーションを取り出し瓶から一気飲みする。魔力回復ポーションは独特の苦みと生臭さがあって慣れないとかなりキツい。パーティーの皆は全く飲みたがらないが、俺の魔力は戦闘ごとに毎回枯渇するので瓶何本も飲むのが日常になっていた。


「ごく……ごく……うっぷ、はあはあ」


「情けないわね。また魔力が尽きたのナガト? あなたね、使った魔力回復ポーションの分は報酬の取り分から減額だからね。わかっているでしょうね?」


 横から口をさすのは、魔法使いのミカヤだ。


「教えてあげる。魔法ってのはね、こうやって使うのよ。はああっ! 【風精霊召喚サモン・シルフィード】!!」


 ミカヤは召喚のクリスタルを握って詠唱する。クリスタルから溢れる光と共にあらわれたのは、背中に二対の羽をもつ妖精のような姿の召喚獣シルフだ。シルフの羽が突風を起こし、風の刃がフレイムヒュドラに襲い掛かる。


「ナガト、ぼさっとしてないでさっさと私の魔力(MP)を充填しなさい」


「わ、わかった! 【魔力充填マナリジェネレート】! 【詠唱短縮クイックキャスト】!」


 ミカヤの魔法、そしてダリルの剣とボーラスの大槌の攻撃がフレイムヒュドラの体力(HP)を削っていく。俺は回復魔法を撒きながら仲間たちの攻撃回数をそれぞれカウントする。ダリルの剣が12回、ボーラスの大槌が8回でその内1回がクリティカル。ミカヤの召喚獣の攻撃が4回。そこから導き出されるフレイムヒュドラの残り体力(HP)は……


 41……37……


 残り体力の25%がラインだ。もう少し引き付ける。


 34……31……27……! 今だ!!


「【麻痺(パラライズミスト)】!!」


「ギャ……!? ギ……!?!?」


 突如、フレイムヒュドラの巨体が動きを止める。


「よおし、こいつも虫の息だぜ! 皆、畳みかけろ!」


 ダリルが檄を飛ばし、フレイムヒュドラに集中攻撃を仕掛けた。

 剣と大槌、そして魔法の刃がヒュドラを捉える。 

 

「ギイアア……」


 フレイムヒュドラの巨体は力を失い地面に倒れた。

 討伐成功だ!


「ははは、いやあ今回も楽勝だったな!」


「へへ、こんなもんか。まだ殴り足りないぐらいだぜ」


「じゃ、次に行きましょ。ナガト、休んでないで早くそいつの素材を回収してよ」


「ああ、わかったよ」


 フレイムヒュドラの爪や牙は武器の素材として重宝される。冒険者ギルドに持ち帰れば相応の金額で買い取ってもらうこともできる。


 俺は解体用のナイフを取り出して傷のない部位を選んで切り取りアイテムポーチに詰めていく。


 ふと気が付くと周りに仲間たちの姿がない。

 どうやら俺を置き去りにして先に行ってしまったようだ。


「おおい、待ってくれよ」


 俺は急いで回収を済ませると、仲間たちを走って追いかけるのだった。






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