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第一章 第七話 勇者パーティー、ヘカトンケイルには勝てなかったよ

 〜勇者ノア視点〜




 まともにレイスと戦うことができない俺たちは、レイスを撒こうと必死に逃げていた。しかし、相手は幽霊型の魔物。人間の俺たちとは違い、壁をすり抜けてくる。


 くそう。くそう。レイスからは逃げられない。どうにかしてこいつらを倒さないと、俺たちは全滅してしまう。


「親父! あれを見てくれ!」


 トロイが前方を指差した。指先が示しているほうに顔を向けると、宝箱がある。蓋は開いていたが、中から溢れそうな量の聖水が山積みにされてあった。


「ラッキーじゃないか。これでレイスを倒してひと段落することができる!」


 トロイが宝箱に近づく。


「お兄様のバカ! 普通に考えて、こんなに都合よく聖水があるわけがないじゃない!」


 ハシィが罠であることを告げるが、間に合わない。息子が聖水の入った小瓶を取ろうとした瞬間、蓋が独りでに閉まる。


「ぎゃあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 腕がああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 宝箱の隙間から赤い液体が溢れる。宝箱と思っていたのは、トラップモンスターであるミミックだった。


「くそう。手間を取らせやがって!」


 鞘から剣を抜き、宝箱に斬撃を入れる。


 宝箱の上蓋を破壊すると、ミミックは死に、どうにかトロイを救出することができた。


 息子の手は血塗れになっており、見ていて気分が悪くなる。


 だが、ミミックの死骸である箱には、聖水が入っていた。こいつを使えば、ここの窮地を脱することができる。


「こいつを食いやがれ!」


 俺は宝箱の中に入っていた聖水の瓶を握ると、蓋を開けて幽霊たちにぶっかける。


 聖水がかかったレイスは、身体から煙のようなものを出す。その後、霧状になると霧散して消え去った。


 仲間が倒されたことで臆したのか、残りのレイスたちは逃げてこの場から離れていく。


 はは、ざまぁみやがれ! 幽霊ごときが人間様を嘗めるからこうなるんだ!


 レイスがいなくなったことで、俺は一安心した。


「お兄様大丈夫? 回復するね」


「すまない。助かった」


 ハシィがトロイに回復魔法をかける。その光景を見て、俺は舌打ちした。


 チッ、トロイのやつがミミックの罠に引っかかったせいで、とんだ手間がかかってしまった。それに噛まれた程度で喚き散らしやがって。勇者である俺の子どもとして情けない。それにハシィのやつも、お荷物になりつつあるトロイに回復魔法を使いやがって。お前の魔力は、ヘカトンケイル戦に温存しないといけないことがわかっていないのかよ。


「トロイ、ハシィ、減点」


 これでまたあいつらに対しての評価が下がった。もし、このまま下がっていく一方なら、こいつらも追放だな。


「ハシィ急げ! さっさとと治療を終えて一階を目指すぞ」


 早く治療を終えるように命令すると、俺は一人で奥に向かう。


 こんなところで時間を費やしているわけにはいかない。


 あの聖水が効果を発揮してくれているのだろうな。あれからレイスたちが俺たちの前に現れることはなかった。


 上がる階段を見つけ、俺たちは階段を登っていく。しかし、上の階はまだ一階ではなかった。


 落下して危うく死にかけたことを考えると、ここは地下一階だろうな。


「早く次の階段を見つけるぞ」


 周囲を警戒しながら地下一階を歩く。すると運がいいことに、すぐに一階につながる階段を見つけた。そのお陰でこの階では魔物と遭遇せずに済む。


 階段を上がると、天井があることに気づく。


「どうやら地下の存在は隠してあったようだな。こいつを持ち上げれば、一階にたどり着く」


 俺は腕に力を入れ、天井を持ち上げて外そうとした。


「ふん……ふぬぬ……ふぬぬぬぬ!」


 しかし、天井はびくともしなかった。


 俺の力だけで持ち上がらないなんて、どれだけ重い天井なんだよ!


「親父、もしかして筋力が下がったか? 声からして必死に持ち上げているように思えるのだが?」


「そんな訳がないだろうが! 俺の力は、大岩さえも一刀両断してしまうほどなんだぞ!」


「もしかしたら、不思議な魔法の効果があるんじゃない? 一人では持ち上がらないけれど、数人なら持ち上がるようになっているとか?」


「なるほどな。どおりで俺の力でもびくともしないわけだ」


 ハシィの思いつきに、俺は同意したふりをする。


 この扉からは、魔力のようなものは感じられない。間違いなく普通の天井だ。だけど不思議ではあるが、俺の力だけでは不足しているのは事実だ。勇者であり、父親でもある俺の威厳を保つためにも、ここはハシィの提案に乗ったふりをして、二人に手伝ってもらうしかない。


「二人とも手伝ってくれ」


 トロイとハシィにも手伝ってもらい、六本の腕が天井に触れる。


「それじゃあ一気に持ち上げるぞ。一、二の三!」


 合図を送り、俺はもう一度腕に力を入れる。すると、今度は簡単に天井が持ち上がり、光が入ってくる。


 俺たちはようやく一階に戻ってくると、周囲を見渡した。


「あ、天井だと思っていたら、玉座だったのね」


「ここは玉座の間なのか?」


「そのようだな。だけどヘカトンケイルの姿はどこにも見当たらないな」


 予想を外してしまったか?


 そう思った瞬間、扉が開かれて一体の魔物が姿を表す。


 全長三メートルほどの巨人だ。三つの頭に六本の腕がある。そして腕には剣や斧、棍棒や弓矢といった複数の得物が握られている。


『姫を奪い返しに来た者たちか』


『そうはさせぬ。そうははせぬ』


『お前たちはここで死んでもらおう』


 三つの顔からそれぞれが言葉を話す。


「トロイ、ハシィ! 戦闘だ!」


「わかった! 私のファイヤーボールで燃え尽きなさい!」


 ハシィが火球を生み出すと、ヘカトンケイルに向けて放つ。娘の攻撃は魔物にヒットし、奴の肉体を燃やす。


『俺に炎が通用するとでも思っているのか!』


『効かぬ、効かぬ』


『では、今度はこちらから行かせてもらおう』


 ヘカトンケイルは巨体に似合わない速度で俺たちに接近すると、得物を振るう。


 剣の舞か。踊るような足捌きで相手を翻弄しつつ、素早く斬りつける技だ。


「剣の舞程度の攻撃、俺に当たるとでもおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 あの程度の技は当たらない。そう高を括っていた。しかしヘカトンケイルの動きは、俺の予想は遥かに超えるほど早く、気が付くと棍棒が身体にヒットしていた。


 俺は勢いよく吹き飛び、壁に激突する。


「グハッ!」


 強い衝撃に身体が耐えきれなかったようだ。我慢できないほどの嘔吐感に包まれ、俺は口から吹き出す。


「ガハッ、ガハッ、オエェ!」


 しかしその吐瀉物は、胃の中で消化しきれなかったものではなく、血液だった。


 くそう! こんなのおかしいだろうが! ヘカトンケイルがどうしてこんなに強いんだよ! 俺はあいつよりも強い敵を倒したことがあるんだぞ!


「ハシィ……何ボーと……していやがる。俺を……回復しないか」


「ヒール」


 ハシィが回復魔法を唱えるが、先ほどと同じように回復速度が遅い。


「ザコ戦なんかじゃねぇんだぞ! さっさと回復しねぇか!」


「え? お父様、何を言っているの? ザコ戦じゃない。お父様はヘカトンケイルの討伐は余裕って言っていたでしょう?」


 ハシィの言葉に、俺はカチンとくる。


「お前、状況が分かって言っているのかよ! 俺が一発で重傷を負うほどの攻撃を喰らってしまったんだぞ! このヘカトンケイルは、これまでの敵とは次元が違う!」


「それはお父様が油断していたからじゃない? ヘカトンケイルの攻撃で大ダメージを負うなんてダッサ!」


 このクソ女が! もういい、この討伐に勝った暁には、お前のような娘は追放だ! いや、追放よりも酷い仕打ちにしてやる。性奴隷として売り捌いてやるからな!


 心の中で怨嗟する中、ようやく俺の身体は回復した。


『弱いな。この程度で姫を取り戻そうとは』


『弱い、弱い、弱い。ザコ、ザコ、ザコ』


『こいつで終わりだ!』


 ヘカトンケイルは握っている獲物を無雑作に振り回す。すると風が発生して俺の身体は宙に浮いた。


「くそう。動けねぇ」


『『『風神の舞』』』


 ヘカトンケイルの言葉が耳に入った瞬間、俺の身体は吹き飛ばされ、窓を破って城外に追い出された。


 その後、俺は意識を失う。




 うーん? ここはどこだ?


 俺は目が覚めると頭が働かずにボーとしていた。


「どうやら目が覚めたようだな。勇者ノア」


「その声は!」


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