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第一章 第三話 俺はキルケーのピグレット

 俺はテーブルの上に落下した人生ダイスの出目を見る。そこには『ギルドに向かう』と表示されてあった。


「もしや、これは人生ダイスと呼ばれるものかい?」


「キルケーは俺のオートスキルのことを知っているのか!」


「もちろんだよ。何せ私は……いや、なんでもない。聞かなかったことにしてくれ」


「いや、それは無理だろう」


 勝手に話し出して意味深なことを言ったのだ。聞き流すことはできない。


「私としたことが困ったなぁ。よし、このことに深く追求しないと約束してくれるのであれば、君に技を授けてあげよう」


「技だと?」


「そう! その名もダブルヒットだ」


 ニッコリと笑みを浮かべながら、キルケーは技名を告げる。しかしそのような技は、聞いたことがなかった。


「ダブルヒット? そんな技、聞いたことがないぞ」


「当たり前だろう。ダブルヒットは、ユニークスキル【ダイスロール】をもつ人にしか使えない技だ。当然、私も使うことはできないが、技の使い方を教えることはできる」


「どうやるんだ?」


「まずは判定ダイスを出してくれ」


 言われるまま、俺はスキルを使って赤と青の十面ダイスを出現させる。


「ダイスを出したね。なら後は簡単さ。ダイスロールを行い、十の位の数字が高かった場合、一の位のダイスを魔力で操作してぶつける。そして確率をやり直す。ただこれだけさ」


「なるほどな」


 彼女の説明を聞き、俺は苦笑いを浮かべる。確かに教えるのは簡単だ。だけど魔力操作は容易ではない。高い集中力が必要になるので、相当な熟練度が必要となってくる。


 だけどまぁ、やる前から諦めるわけにはいかない。


 俺は二つのダイスを机の上に転がす。


 先に十の位である赤いダイスが止まった。数字は九。失敗確定だ。一の位のダイスはまだ回転している。動きが止まる前に、魔力を送り込む。


 すると、青いダイスの回転速度が早まった。回転させて遊ぶオモチャのように、勢いよく回ると赤いダイスに接触した。そしてぶつかったダイスは、再び回転するとやがて止まる。


 今度は一になった。成功確実。


「で、できた」


「ほう。たった一回でこの技を習得するとは思ってもいなかった。中々やるではないか。ふーむ」


 俺のことを褒めてくれたキルケーは、なぜかジーッと俺を見てくる。


「よく見ると中の上と言ったところか。それに魔力操作を簡単にやり遂げる才能もある。更に飢え死にしそうになった私を助け、食事をさせてくれた優しさも兼ね揃えている。いい男だ……よし、決めた! 君を私の愛豚(ピグレット)にしてあげよう」


「はぁ? 愛豚(ピグレット)?」


「改めて自己紹介をしよう。私の名はキルケー、大魔女だ。惚れた男を愛する豚に変えて生涯飼い慣らすのが生き甲斐なのさ。私は君に惚れた。だから豚になってもらう」


「な、何を言っていやがる!」


 驚いた俺は勢いよく立ち上がる。そのせいで座っていた椅子が倒れたが、今はそれどこではない。


「さぁ、私と愛し合おうではないか。豚になーれ! ピッグイズピグレット」


 キルケーが言葉を発した直後、身体が一気に重くなる。二本足で立っているのが少しだけキツイ。もしかして彼女の魔法にかかってしまったのか。


 このまま豚になるつもりは毛頭ない。抵抗させてもらう。


「バフロール」


 スキルで判定ダイスを三つ出現させると、四面ダイスのほうを先に投げる。ここでも魔力で操作して、この場に適した魔法が発動するようにダイスを動かす。


 よし、今だ止まれ!


 ダイスの面に弱体無効の魔法、ウイークネスズ・リリースの文字が浮かび上がった瞬間に、ダイスの動きを止める。


 狙いどおりに、発動する効果は弱体化を防ぐ魔法が発動される。


 続いて赤と青の十面ダイスを投げた。これも同様に魔力操作を行い、成功確率を上げる。


 最初に十の位が動きを止める。ダイスは二だった。


 これで、成功は確実だ。だけど相手は、人間を豚に変えることができるほどの魔力量を持っている。油断はできない。この状況を乗り切るには、クリティカルが必要だ。


 ダブルヒット!


 心の中で叫び、一の位のダイスを操作。赤のダイスに当て、再び回転を始めさせる。


 こうなったらやけだ。一か八か、二つのダイスに魔力を送る。


 魔力操作を行い、二つのサイコロの出目を操る。


 これが真のダブルヒットだ!


 両方のダイスの動きを止めさせる。狙いどおりにダイスの数字はゼロと三になっていた。


「ク、クリティカルだと! まさか、私の魔法を完全に無効化させるとは」


 サイコロの魔法が発動したようだ。感じていた重みがなくなり、身体が軽くなる。


「さぁ、これでお前の魔法は効かなくなったぞ」


 豚に変身する魔法が通用しないことを指摘する。


 すると、彼女は口角を吊り上げてニヤリと笑った。


 まさか、まだ何かしようというのか。


「いやーまさかここまでダブルヒットをマスターするとは思わなかったよ。やっぱり私の目に狂いはなかった。実は、本気で君を豚に変える気はなかったんだよ。君に教えた技の完成度を上げるために、わざと命の危険を感じさせたのさ。人間死ぬ気になれば、才能が開花するからね」


 苦笑いを浮かべながら、キルケーは頭を掻く。


 彼女が言っていることは本当なのか? 本気で俺を豚に変えるつもりはなかったのか? 負け惜しみで言っているような気がしてならないのだけど。


「でも、気に入ったのは本当さ。だから、君に着いて行こうと思う。いずれ、君のほうから私の愛豚(ピグレット)になりたいと言わせるからな」


 キルケーの言葉に俺は溜息を吐きそうになった。


 やっぱり負け惜しみじゃないか! 技を授けたのはいいけど、予想以上に使いこなしたから、ビビってしまっているだけじゃないか!


 どうやら、彼女は相当プライドが高いようだな。自分の敗北を認めようとはしないのだから。


 平気で人を豚に変えようとするやつに、俺はこれから付き纏われるのか? これも人生ダイスの導きの結果なのか?


 少しだけ不安な感じもするけれど、まぁ、彼女の魔法は俺には通用しないから。問題ないだろう。


「さてと、それじゃあ飯の代金を払ってギルドに向かうとしますか」


 人生ダイスに表れた『最後は幸せになる』の言葉を信じて、俺はキルケーと共にギルドに向かう。


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