第一章 第二話 大魔女キルケーを拾う
くそう。結局人生ダイスに書かれたとおりの結果になってしまったじゃないか。
起き上がろうとして身体を動かすと、全身に痛みが走る。
だ、ダメだ。きっと骨が折れている。まともに身体を動かすことができない。
このまま俺は死んでしまうのかもしれない。だけどDTのまま死ぬ訳にはいかない。どうせ死ぬのであれば卒業した後だ。こうなったら一か八か。最後のダイスに委ねるしかない。
「うん……めい……の……ダイス……ロール」
最後の力を振り絞り、俺はスキルを発動する。
すると、四面ダイスと十面ダイスが現れ、回転を始めるとやがて止まった。
その瞬間、身体中に走っていた痛みが嘘のように消えた。
俺は立ち上がり、地面に転がっているサイコロを見る。
「上級回復呪文のネイチャーヒーリングが出るとはな。お陰で命拾いをした。しかも十面ダイスのほうはゼロと一。スーバークリティカルじゃないか」
急死に一生を得た俺は、身体中の汚れをどうにかしようと思い。スキルを発動させてサイコロを振る。
「生活ロール」
サイコロは回転を初めて動きを止めると、表面に『ウォッシュ』と表示される。
やった! これで身体を綺麗にすることができる!
魔法が発動し、俺の身体を大きな水が包み込む。そして水の中から泡が現れ、俺の身体についた汚れを落とす。
「ふぅ、さっぱりした。だけど水浸しだな。まぁ、町に向かっているうちに乾くだろう」
町の方角を見つめ、俺はノアたちのことを考える。
「まぁ、俺は別に一人になっても問題ないのだけどなぁ。ノアたち、俺がいなくても勇者パーティーとしてやっていけるのだろうか? それが心配だ」
はっきり言って、あいつらは欠点が多い。戦闘力にしても、人間性にしても、あらゆる場面で俺がフォローしてきた。急にサポート役の俺がいなくて、問題を起こさなければいいのだどなぁ。
「まぁ、あいつらが決めたことだ。仕方がない。それに、俺は人生ダイスの導きには抗うことができない。こうなった以上は、俺が心配するだけムダだろう」
とにかく、今は気持ちを切り替えるとしよう。それに考え方を変えれば、戦闘においてはこれから自由になる。今までサポートに徹していたんだ。これからはガンガン攻撃していこう。
一人で森の中を歩いていると、再び俺の前に人生ダイスが現れる。サイコロは回転を始めると地面に落ちた。出目には、『町で女の娘を拾う』と出ている。
女の子を拾う? 何だそりゃあ? 捨て犬のように、箱の中にでも入っているのか? まぁどっちにしろ、出目に現れたことは現実に起きてしまう。
それに数分前の出目に現れた『勇者パーティーから追放されるけど、最後は幸せになる』の『最後は幸せになる』が気になる。もしかしたら女の娘を拾うことで、俺は幸せになれるのかもしれない。
「とにかく、出目に従って町に戻るとするか」
俺は人生ダイスに導かれるまま、森を抜けて町に戻った。
町に戻ると、空腹を感じてお腹が鳴り出す。
「そういえば、そろそろお昼の時間帯だよな。ダイスの導きも気になるが、先に食事でもするか」
先にお腹を満たそうと思い、俺は町の食堂に向けて歩く。
そう言えば、ここの裏路地を進んだほうが近道だったよな。もしかしたら混んでいるかもしれないし、早く到着するにこしたことはないだろう。
一秒でも早くお店に行きたかった俺は、路地裏を歩く。
うん? あれは何だ? 人が倒れているのか?
路地裏を歩いていると、ローブを着た人が倒れていた。その光景を見た瞬間、人生ダイスの出目に現れた言葉を思い出す。
もしかしたら、あの人が拾うことになる女の娘かもしれない。一応声をかけてみるか。
「おい、大丈夫か? 何があった?」
倒れている人物に声をかけ、抱き起こす。その瞬間、俺は言葉を失う。
ピンク色のセミロングは細くサラサラとしており、白い肌で美しい顔立ちをしていた。その見た目からは、平民の町娘とは全然思えない。
俺は唾を飲み込む。
「おい、大丈夫か! しっかりしろ! いったい、ここで何が起きた!」
女の娘の身体を揺すり、意識を呼び戻してみる。すると、女の娘はうっすらと瞼を開け、青い瞳がチラリと見えた。
彼女は口を小さく動かして何かを言っている。だけど声が小さく、聞き取りにくい。俺は女の娘の口元に耳を持っていく。
「お腹空いた」
今度ははっきりと聞こえる。空腹であると。
何だ。ただの行き倒れか。よかった。何かの事件に巻き込まれなくて。だけどまぁ、ここで会ったのも何かの縁、人生ダイスの導きによるものかもしれないし、彼女を食堂に連れ行くか。
女の娘を背負い、彼女を町の食堂に連れていく。
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「二名です」
「二名ですね。では、お席に案内します」
よかった。どうやら待つことなく席に座れそうだ。
給仕に案内され、背負っていた女の娘を席に座らせる。
また意識を失ったようだな。自然と頭が下がってテーブルの上に顔を埋めている。
気にはなるけれど、まずは注文しないと。
「スープを二人前お願いします」
「わかりました。ありがとうございます」
給仕が俺たちから離れ、厨房に注文の品を伝えにいく。
料理の匂いで意識が戻ればいいのだけどな。
「お待たせしました。スープ二人前です」
しばらく待つと、給仕が注文の品を持って来た。スープの入った器をテーブルの上に置く。
「あれ? 美味しそうな匂い?」
匂いに釣られ、女の娘は目を覚ましたようだ。最初はボーッとしている感じであったが、目に光が宿る。すると、彼女は一気に豹変した。
「た、食べ物!」
女の娘は目の前に置かれたスプーンを握ると、スープを掬って口に持っていく。
「美味い!」
彼女はさっきまで本当に行き倒れていたのかと思うほど、大きい声で料理を褒める。そしてスープの入った器を片手に持ち、スプーンを使ってガツガツと食べ出す。美しい顔には似合わない食べ方だ。
女の娘の食べっぷりに圧倒されていると、彼女の食べていたスープは空になり、俺の分のスープを奪う。
「それは俺の……まぁいいか」
行き倒れていたんだ。スープ一杯ではお腹が満たされないよな。
「すみません、注文いいですか?」
「はい。何にしますか?」
ちょうど近くを通った給仕に声をかけ、俺は再度注文の品を伝える。
「すみません、スープをもう一杯」
「おかわり!」
はっやー! もう食べてしまったのかよ!
「スープを二杯お願いします」
「かしこまりました」
給仕に注文の品を伝え、俺は女の娘を見る。
「なぁ、君は……」
「ああ、お腹が空いて元気が出ない」
声を掛けようとした瞬間、女の娘は再びテーブルの上に頭を埋める。
結局まともに話ができたのは、彼女が一人で十人前を平らげてからだった。
「ふぅ、お腹一杯だ。行き倒れのところを助けてくれてありがとう。私の名はキルケー、君は?」
「俺はウルクだ。ウルク・アビス。それにしてもキルケーなんて変わった名前だな」
「ああ、キルケーは本名じゃないよ。あだ名だ」
「あだ名?」
俺は彼女の言葉の意味が分からず首を傾げる。
あだ名、あだ名って何だ?
「あだ名が通じないか。えーと、他の言葉でなんて言えば通じるかな? えーと、えーと、そうだ! ニックネーム! ニックネームと言えば分かるかい?」
「ああ、ニックネームね。それなら分かる」
それにしても、どうして本名を教えてくれないんだ? もしかして訳ありなのだろうか?
「どうして本当の名前を隠すんだ? それにどうしてあんなところで倒れていたんだ?」
「ミステリアスな女の娘には色々あるんだ」
キルケーと名乗った女の子は、片目を瞑ってウインクをする。
気になるけれど、これ以上は訊かないほうがいいかもしれないな。もしかしたら厄介ごとに巻き込まれるかもしれない。
「そうか。ならこれ以上は訊かない」
「案外引き際がいいのだな。もっとぐいぐい来るかと思った」
「人は話したくないことの一つや二つはあるものだろう? 話たいのなら聞くが」
「いや、できれば話したくない。どうせ話したところで信じてはくれないだろうからね」
女の娘は話す気がないといい、自分の髪を弄る。
キルケーを助けても何も起きない。この娘じゃなかったのか?
そんなことを思っていると、俺の前に人生ダイスが出現した。サイコロは回転するとテーブルの上に落ちる。
やっぱり、拾うことになる女の娘はキルケーだったのか。さて、次のお導きとはいったい?
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