第二章 第八話 封印されていた魔物が復活したようです
〜ウルク視点〜
俺の前に人生ダイスが現れる。
サイコロが回転して動きを止めると『隣町に向かい、ギルドの緊急クエストを受ける』と出た。
隣町で緊急クエスト? これはまた面倒臭いことに巻き込まれそうな予感がするな。
数日後、俺とキルケーは人生ダイスの導きに従い、隣町に来ていた。
「数日ぶりに戻って来たな」
「ウルクと出会った町だね。数日しか離れていないのに、なんだか懐かしく感じがするよ」
町中を歩いていると、町民の様子がいつもと違うことに気づく。
うーん、それにしても何だか慌ただしいな。この町の衛兵が険しい表情をしながら走り回っている。町の様子を見る限り、人生ダイスに表示された緊急クエストと関係がありそうだな。
「何だか騒がしいね? 何かあったのかな?」
「緊急クエストと関係があるかもしれないな。早速ギルドに行ってみよう」
俺たちはギルドに向かう。
ギルドに辿り着くと、扉を開けて中に入った。中には大勢の冒険者が集まっており、不穏な空気に包まれている。
「何だい? このギルドの雰囲気は?」
「やっぱり何かあったのだろうな。こんなにたくさんの冒険者が、ギルドの中にいるのは初めて見た」
あまりにも人が多い。これでは受付のところに向かうのも難しそうだな。だからと言って、その辺の人に話を聞けるような雰囲気でもない。ここはある程度冒険者たちが落ち着いてから、行動に出たほうがよさそうだ。
「キルケー、あっちの壁沿いに行こう。あそこの方が、まだスペース的に余裕がある」
彼女の手を引っ張り、少しでも広いスペースに移動する。
「これは間違いなく緊急クエストの前触れだね。私は宣言しよう。ギルドマスターが無理難題を言い、弱腰になった冒険者が暴動に出る。テンプレ展開だ」
「宣言しちまっていいのかよ。もし違っていたら恥をかくぞ」
「その時はその時さ」
キルケーはニヤリと口角を上げた。
「冒険者の諸君よ、よく集まってくれた!」
しばらく様子を伺っていると、ギルド内に男性の声が響く。
「本日集まってもらったのは他でもない。君たちに緊急クエストを受けてもらいたい」
緊急クエストという言葉が聞こえた途端に、周囲の冒険者たちが騒めきだす。
やっぱり緊急クエストだったか。
「災害級の魔物が封印されていた大岩が、破壊されているのを確認された。封印されていた魔物はこの町に恨みを持っている。きっとこの町に来るはずだ。そこで諸君らには、災害級の魔物の討伐に向かってもらいたい」
「災害級の魔物って何なんだよ!」
「それだけじゃあ何もわからねぇって! もっと情報をよこせ!」
具体的な説明がなく、ただ災害級の魔物が現れた。だから倒してくれと言われても、納得はいかないものだ。冒険者たちは、口々に文句を言う。
しかし、今の俺にはそんなことはどうでもよかった。
鼓動が高鳴っているのが聞こえる。
マジかよ。本当にキルケーが言ったように暴動が起きようとしている。
「なぁ、言っただろう。ギルドに大勢の冒険者が集められ、ギルドマスターが無理難題を言い、それを聞いた冒険者たちが暴動を起こす。ハイファンタジーのテンプレだ」
「お前、大魔女じゃなくて預言者じゃないのか?」
「私は異世界転生をした元女子高校生だ。ラノベもよく読んでいたからね。テンプレ展開なら予測がつくさ」
再びキルケーが意味の分からないことを言ってくる。
テンプレって何だよ! 頼むから異世界の言葉で話さないでくれ!
心の中で文句を言っていると、再びギルドマスターの声が聞こえてくる。
「すまない。封印されていた魔物は大昔に封印されたもの。それしか分からない」
「どうしてギルドマスターなのに、そんなことも知らないんだよ!」
「町の歴史ぐらい知っておけよ!」
ギルドマスターの言葉に、集められた冒険者は更にヒートアップした。
「何も情報がない中、未知の敵と戦うなんざ自殺行為だ。俺は逃げさせてもらうぜ」
「俺も王都に戻るとしよう。元々この町には何も思い出もないからな」
「どうせ報酬も、参加した人数で分配するのだろう! たいした金額にはならない! 命をかけるには割に合わない!」
冒険者たちは自分の命を優先し、次々とギルドから出ていく。
「俺も、降りようかな。たったこれだけの人数では、死ぬことは目に見えている」
「そうだな。この町にはたくさんの思い出があるが、命の方が大事だ。家族を連れて王都にでも引っ越そう」
人数が減っていく度に、残っていた冒険者たちの不安が強くなったようだ。連鎖反応を起こし、更に冒険者がギルドから出ていく。
「ウルク! これはチャンスだよ! 人数が減れば、その分の分け前が多くなる。大金が手に入るチャンスだ」
「まぁ、確かにそうだな。だけど勝てる見込みは殆どないと思うぞ」
「大丈夫さ、ウルクにはダブルヒットがある。相手がどれだけ強くても、クリティカルを連発すればいい。赤子の手を捻るような感じで倒せるに決まっているさ」
自信満々に語るキルケーを見て、俺は小さく息を吐く。
たく、どこからそんな自信が出てくるのか。だけどまぁ、女の期待に応えるのも男の甲斐性と言うからな。
それに人生ダイスに参加しろと言われている以上は、俺に拒否権はない。
「人生ダイスにも参加するように指示が出されているからな。どんなに人数が減ろうと、俺は参加しなければならない」
一人で肩を落とし、落ち込んでいるギルドマスターのところにキルケーと一緒に向かう。
「ギルドマスター。俺たち、その緊急クエストを受けるよ」
ギルドマスターに依頼を受ける意思を伝えると、彼はハッとして顔を上げる。しかし、すぐに顔を俯かせた。
「ウルクか。皆んなに頼んでおきながら、こんなことを言うのは可笑しいが止めておけ。敵は君たち二人で倒せれるほど柔な敵ではないんだ」
「確かにそうかもしれない。だけどやってみないと分からないだろう? 俺はその辺の冒険者とは一味違う」
「確かにヘカトンケイルを倒し、シャルロット姫を救った君なら、並大抵の冒険者十数人分の実力はあるだろうな。だけど、それでもまだ足りない」
彼の態度に、俺はどうしたものかと悩む。
俺がせっかく名乗りを上げたというのに、ギルドマスターがやる気を起こさなければ、依頼を受けることができない。
どうにかして、彼を奮い立たせなければな。
「やる前から諦めてどうする! 行動しなければ、この町は魔物に滅ぼされてしまうぞ! 可能性が小さかったとしても、行動するからこそ、未来は変わって行くんだ。魔物を倒す未来は絶対にある!」
「そこの彼が言っていることは本当だよ。わたしには見えた。彼が封印された魔物を倒す光景が」
聞き覚えのない声が聞こえ、声がした方に顔を向ける。
角と尻尾が特徴の女性が、壁に背中を預けていた。
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