第二章 第七話 メリュジーナとの勝負
〜勇者ノア視点〜
「それじゃあ、始めるぞ。準備はいいな」
「問題ないよ。早く始めよう」
「制限時間は夕方までだ。よーい、スタート」
メリュジーナに合図を送ると、俺は彼女とは逆の方向に進む。そしてその先で待機していたトロイと合流した。
「待たせたなトロイ! 早く一角ウサギを狩るぞ」
「親父も中々ずる賢いことを考えるな。三対一で勝負をするなんて」
「当たり前だ。俺と勝負をしろとは言ったが、何もサシで勝負とは言っていないからな。それにあいつは俺たちをコケにしやがった。謝ってもらわなければ気がすまん」
俺の考えた戦法はこうだ。まず、俺とトロイがタックを組んで一角ウサギを倒す。その間にハシィが魔法でメリュジーナの足を引っ張り、一回でも多くのターゲットを攻撃する際にミスをさせる。
こうすれば、時間と共に差が開き、圧倒的に俺たちが勝つというわけだ。
「ほら、見つけたぞ! トロイは回り込んで、俺のところに吹き飛ばしてくれ」
「分かった」
俺の指示に従い、息子は一角ウサギを逃さないように回り込む。
「喰らえ! スカイアッパー」
拳を構えてトロイは魔物を攻撃する。一撃を受けた一角ウサギは吹き飛ばされ、空中に浮いた。
攻撃するなら今だ!
「喰らえ!」
俺は一角ウサギに対して剣を振り下ろす。魔物の肉は裂け、鮮血を辺りに飛び散らしながら、地面に倒れた。
ふん、いくら調子が悪くとも、一角ウサギ程度なら俺たちの敵ではない。
「トロイ次に行くぞ! メリュジーナよりも、一匹でも多くの魔物を倒す」
「分かった。なら、先ほどと同じように、俺がスカイアッパーで吹き飛ばせばいいよな」
「ああ、頼んだぜ」
次の得物を探していると、五匹ほどの一角ウサギを発見した。
「トロイ! 全体攻撃を頼めるか!」
「わかった。やってみるよ。連続足払い」
トロイが身体を屈め、地面に両手を置いて連続で足払いをした。しかし息子は間合いを間違えたようで、魔物には当たらない。
しかし運がいいことに、風圧で一角ウサギたちはひっくり返った。
特徴的な角が地面に突き刺さると、肢体をバタつかせる。どうにか抜け出せないかと試みているようだ。しかし、角は深々と地面に突き刺さり、抜けることはない。
「ハハハ! 笑わせてくれるぜ! 魔物の滑稽な姿を見ると安心してしまう。やっぱりたまにはザコの魔物を狩るのもいいな。ストレス発散になる」
俺はアリを踏み潰す感覚で一匹ずつ斬り倒していく。
「さて、これで早くも六体目だ。ハシィの方はどうだろうな? バレないように邪魔をしてくれているだろうか」
それからも、俺とトロイは力を合わせて一角ウサギを倒していく。そして太陽が傾き、夕方になった。
俺は集合場所に行く前にハシィと合流する。
「おい、どうだったよ。あの女の調子は?」
「フェアリードラゴンだから警戒していたけれど、口だけの女だったわよ。大したことはなかったわ。石を目の前に出せば躓いて転ぶし、何もしないでも木の根っ子に躓いて転んだわ。こんな卑怯な手を使わなくとも、普通に勝たのではないかしら?」
「プハハハ! マジか! どうやら俺たちは、あいつを過大評価していたようだな。フェアリードラゴンと聞いて呆れる! とんだ落ちこぼれじゃないか!」
勝負相手の無様な話を聞いて、俺は笑いが込み上げてきた。お腹を押さえ、笑い死にしそうになる。
「よし、それじゃああの女と合流するぞ。一角ウサギを運ぶから、ハシィも手伝ってくれ」
「わかったわ」
一角ウサギを麻の袋に入れ、メリュジーナと合流しに向かう。
「遅くなってすまなかったな。思っていたよりも数が多かったから、子どもたちにも運ぶのを手伝ってもらっていた」
メリュジーナと合流し、俺は口角を上げた。
「ギャハハハハハ! なんだよその数は! あれだけ威勢よく言っていたくせに、たった五匹しか倒せなかったのかよ」
メリュジーナに指を向けながら、わざと大声で笑う。
ギャハハハハハ! ザマァ! 勇者パーティーである俺たちを、エセ扱いするからこんなことになるんだよ!
一角ウサギのようなザコを五匹しか倒せないとか、駆け出しの冒険者並みじゃないか。
大声で笑う俺の言葉を聞き、羞恥心を覚えているのだろう。彼女は顔を赤くさせ、拳を握りながら身体を震わせている。
「さて、約束は約束だ。大した金額にはならないが、お前の獲物も俺たちが頂いていくぜ」
彼女が倒した一角ウサギを貰い受けることを言うと、トロイが率先して前に出る。そしてメリュジーナから奪った。
まだまだ終わりではないぜ。本番はこれからだ。
「さぁ、もうひとつの約束も果たしてもらおうか! 俺たちをバカにしたことを謝りやがれ!」
見下したような冷めた視線をメリュジーナに送り、俺は謝罪を要求する。
「あなたたちをバカにしてごめんなさい」
「はぁ? 何をやっているんだよ! 俺たちは勇者パーティーなんだぞ! 謝り方が違うじゃねぇか! 勇者パーティーに対しての謝罪は、土下座に決まっているだろう! そんな礼儀も知らないのかよ」
「土下座だなんて」
「なんだよ! できないのか! なんならその綺麗な身体を傷ものにしてもいいんだぞ」
「わかった」
軽く脅してやると、メリュジーナは膝をつき、頭を地面に擦り付ける。
「あなたたちをバカにしてごめんなさい」
彼女の謝罪に俺は悦に浸る。
全くいい光景だ。あのフェアリードラゴンが人間様に土下座をしているのだからな!
「分かればいいんだよ、分かれば。一度痛い目に遭ったんだ。これに懲りて、二度と嘗めた口を聞くんじゃない」
俺はメリュジーナに背を向けると、依頼完了を報告しに一旦ギルドに戻る。
翌日、俺たちは次の町に向かう道中、休憩していた。
その理由は、急にお腹が痛くなったからだ。
人に見られないような茂みに入り、用を足す。排泄物を出したところで俺はあることに気づいた。
「か、紙がねぇ!」
ポケットの中を弄るが、尻を拭けるような紙を持っていなかった。
「おい、トロイ! 悪いが紙を持って来てくれ!」
大声で叫ぶが、息子からの返事が聞こえてこない。
「声が届かないところで用を足してしまったか。さすがに尻を拭かないまま戻るわけにいかない」
俺は何か使えないものがないか、辺りを見渡す。すると、身を隠すために使っていた大岩に、紙でできた札のようなものが張り付いていた。
「ラッキーこいつで尻を拭こう」
札には『封印されし魔物を封じているお札、剥がすべからず』と書かれている。
どうせガキがお遊びで貼り付けた偽物だろう。仮に本物だったとしても、勇者である俺が倒せばいいだけの話だからな。魔物よりも、俺の尻を綺麗にできないことが大問題だ。
大岩に貼ってある札を剥がし、尻を拭く。
パンツとズボンを履き、しばらく様子を見ていたのだが、何も起きることはなかった。
「ハハハ! やっぱりガキの悪戯じゃないか。でも助かったな。お陰で俺は尻を拭くことができた」
俺はその場を離れ、子どもたちと合流すると次の町を目指す。
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