第二章 第四話 お姫様を連れ帰ったら、俺は勇者扱いをされることになりました
〜ウルク視点〜
シャルロット姫様を救出した俺は、彼女をお姫様抱っこをしたままキルケーと一緒に王都に向かっていた。
「あのう。そう言えば、まだお名前を聞いてはいなかったですよね」
「そう言えば、そうでしたね。俺の名がウルクです」
「ウルク様、私を抱き抱えたままずっと歩いていますが、大丈夫なのですか?」
「大丈夫ですよ。シャルロット姫様は軽いので」
牢屋に閉じ込められていたときは、殆ど食事をさせてもらえなかったのだろうな。お姫様には軽いって言ったけど、軽すぎるぐらいだ。こんな状態で歩かせて、万が一にでも転んでしまった場合は骨折するかもしれない。
そろそろ肉体強化の効果も切れるころだけど、これぐらい軽ければ問題ないだろう。
そう思いながら歩いていると、急にずしりとした重みを感じる。
「ウルク! 私歩くの疲れた! だからおんぶして」
耳元からキルケーの声が聞こえてくる。間違いなく、彼女が背中に乗っている。
「キルケー、言う前から背中に乗るんじゃない! 子どもじゃないんだから、王都ぐらいまで歩けるだろう。早く降りてくれ」
「別に良いじゃないか! ウルクの温もりを感じていたいんだよ」
「ダメだ。降りろ」
「いやだ! 降りたくない」
背中に乗っているキルケーが駄々を捏ね、俺の肩を前後に動かす。
「こら、危ないじゃないか。シャルロット姫を落としたらどうするんだ」
「あのう。私はもう歩けますので、キルケーさんのお願いを聞いてあげてください」
シャルロット姫は優しい人だな。他人に優先順位を譲るだなんて。だけど彼女を歩かせるわけにはいかない。こうなったら、男の意地を見せるか。
「わかった。おんぶしてやるから、暴れないでくれ」
「わーい! ありがとう!」
おんぶされたままでいいと言うと、彼女は元気よく返事をする。
元気一杯に返事をしやがって、本当に疲れて歩けないのかよ。
俺はシャルロット姫をお姫様抱っこしたまま、キルケーをおんぶした状態で王都を目指した。
一時間ほど歩き、ようやく王都に辿り着く。
「すみません。王都に入りたいのですが」
門番の人に声をかける。
「うん? お前が抱き抱えているのは……シャルロット姫!」
「はい。シャルロットです。こちらのウルク様に助けてもらいました」
「なんと! わかりました。少々お待ちください。直ぐにお城にお連れしますので」
門番の男は、踵を返すと門を開いたままどこかに走り去って行く。
体感で十分ほど待たされただろうか。俺たちの前に一台の馬車がやって来た。
「おお! シャルロット!」
「お父様!」
馬車から降りて来たのはこの国の王様だった。彼が近づくと、俺はシャルロット姫を王様に渡す。
「そなたは確か、勇者ノアと一緒にいた青年ではないか」
「当時は伯父のノアを勇者に任命して下さり、ありがとうございます」
俺はキルケーを背中から下ろし、片膝を突いて頭を下げる。
「こんなところでそのような格好をするではない。お前は娘の命の恩人だ。直ぐに楽な体制を取りなさい」
「ありがとうございます」
一度礼を言い、俺は立ち上がる。
「とにかく話を聞きたい。城に招待するから馬車に乗りなさい」
「おおー! 異世界のお城! やっぱり中世ヨーロッパのようなお城なのかな!」
城に招き入れてもらえると聞いたキルケーは、目を輝かせながら声を弾ませる。
俺たちは王様の乗ってきた馬車に乗り、お城に招き入れてもらう。
「移動しながらになるが、話を聞かせてくれないか? どうしてそなたは、勇者ノアと行動を共にしていない?」
「実は――」
俺は勇者ファミリーから捨てられたことを話し、それから一人で行動していたことを伝える。
「伯父の勇者パーティーから捨てられただなんて、現地主人公追放物のテンプレじゃないか。しかもウルクの実力からして最強物でもある。タイトルをつけるのであれば『オートスキル【人生ダイス】の導きにより、敷かれたレールの上を歩く人生を送っていた俺は、おっさん勇者パーティーから追放されたけれど、異世界少女にダブルヒットを教えてもらい、サイコロ無双します』で決まりだね」
俺の隣で、キルケーが意味の分からないことをぶつぶつと呟いているが、ここは無視するとしよう。
「なるほどな。どうやら余が間違っていたようだ。真の勇者はノアではなく、ウルク、君だったようだな」
「俺は勇者のように大それた人間ではないですよ。ただ自分が生きるために必死だっただけです。その結果、今のようなことになっているだけですので」
「こうなるのであれば、ノアから勇者の証を返して貰えばよかったな。そしたらそなたに渡すことができた」
「伯父と最近お会いになったのですか?」
「ああ、昨日の話しではあるがな。ギルドとは別に、余が直々にシャルロット救出の命令を出していたのだ。そしたらヘカトンケイルに敗れ、余のもとに強制帰還をしてきた」
やっぱり俺の不安が的中したのか。人生ダイスの導きの結果とは言え、そんなことになっていたなんて。
「勇者の証をあげることはできないが、報酬金額とは別に、他の物を余が進呈しよう」
「いえ、お気持ちだけで結構ですので」
「そう言うな。持っていればそなたの冒険の助けとなる」
うーん。これは断るわけにはいかないよな。最悪の場合、権力を使って強制的に渡されそうだ。
「わかりました。では、ありがたく頂戴します」
王様と会話をしていると、城に着いた。俺とキルケーは玉座の間に通される。
「では、まずはギルドに依頼したとおりの報酬金額だ。受け取ってくれ」
王様は俺に袋を手渡す。中身を確認すると、中には札束が入っていた。
「ありがとうございます」
「では続いて例の物を贈ろう。あれを持って来てくれ」
控えていた兵士に王様は声をかける。すると、命令を受けた男は部屋から出ていった。しばらくして玉座の間に戻ってくると、彼の手には布に包まれている何かを持っており、俺に差し出す。
「これは我が城に代々伝わる家宝の一つ、勇王の腕輪だ。身につけている者の魔法の威力を上げ、更に魔力消費を少なくすることができると言われている」
「やったじゃないかウルク! これで更に長時間戦えるようになったじゃないか」
勇王の腕輪か。
布を開き、腕輪を着ける。
身につけても、何も身体に変化が起きないな。
「ありがとうございます。大事にさせてもらいます」
「そなたはこれからどうするんだ?」
「まだわかりません。ダイスの導きしだいです」
「?」
人生ダイスの結果で決めることを伝えると、王様は言葉の意味を理解できていないようで首を傾げる。
「とにかく、此度は娘を救ってくれて本当に感謝している。もし、何か困ったことがあれば立ち寄ってくれ。力になれることがあれば協力しよう」
「ありがとうございます。では」
王様に礼を言い、軽く会釈をすると玉座の間から出て行く。
「えー、どうしてあそこで終わってしまうのさ! 普通は食事をする流れじゃないか! こっちは命がけでお姫様を救出したんだよ! お城の高級料理を食べさせろよ」
お腹が空いていたのか、城から出るなりキルケーが、文句を言い出す。
「腹が減ったのなら今から飯を食いに行くか?」
「行く! 大金をもらったのだから、今日は高級料理店に行こうよ!」
「まぁ、たまにはいいだろう」
「やった!」
今から食事をすることを決めたところで、俺の前にサイコロが現れた。
人生ダイスか。今度は俺に何をさせる気だ?
サイコロが回転して俺に次の目的を伝える。
え? これってマジなのか!
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