第二章 第三話 ノア、大勢の前で恥を掻く
勇者ノア視点〜
うーん? ここはどこだ?
俺こと勇者ノアは、目が覚めると頭が働かずにボーとしていた。
「どうやら目が覚めたようだな。勇者ノア」
「その声は!」
耳に入ってきた声を聞いた瞬間、俺の脳は覚醒した。そして片膝を付いて頭を下げる。
「おい、トロイ、ハシィ起きろ。王様の御前だぞ」
「え? 王様?」
「マジか。とにかく頭を下げないと」
眠気眼のまま、トロイとハシィは俺と同じように片膝を付いて頭を下げた。
「王様、どうして俺たちはここにいるのでしょうか? 確かヘカトンケイルと戦っていたはず?」
俺は王様に尋ねる。頭を上げていいと許可が出ているわけではないので、勝手に頭を上げて表情を伺うことはできない。
今、王様はどんな表情をしているのだろうか。
「どうして、余の前にいるのかがわからないだと?」
「はい」
「この戯けが! それでも本当にお前は勇者なのか! お前を勇者に任命したときに説明しただろうが!」
正直に答えると、王様は怒鳴り声を上げる。
説明をしただと? 何かあったか? 勇者に任命されたときは浮かれていたから、殆ど王様の話を聞いていなかったぞ。
「よい、この際だ。自分の身に何が起きているのかも理解できない阿呆に、もう一度説明をしようではないか」
王様の言葉に、俺はカチンときた。
くそう。この国で一番権力があるから好き放題言いやがって。俺が覚えていないのはお前の責任じゃないか。ちゃんと相手が理解するまで教えるのが、上に立つ者の役目だぞ。
心の中で王様の悪口を言いつつ、俺はやつが説明するのを待つ。
「お前たち勇者とその一行が敗北した時、その証拠として余のもとに召喚されることになっていると説明をしたではないか」
あー、そう言えばそんなこと言っていたな。今思い出した。つまり、俺たちはヘカトンケイルと戦い、敗北した訳だ。うん? 敗北?
「何だってえええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
俺はあまりにも衝撃な事実を知り、思わず大声で叫ぶ。
そんなバカな! 勇者であるこの俺がヘカトンケイルに敗北しただと! 確かに戦闘中に城の外に吹き飛ばされたのは覚えている。だけどあれだけで、敗北扱いをされてしまったというのか。
「王様! 待ってくれ! これは何かの間違いだ! 確かに城の外に吹き飛ばされたのは事実だが、それだけで負けと判断されたのは納得がいかない」
「お父様の言うとおりよ! こんなの可笑しいわ!」
「そうだ! 親父は勇者としての職務を全うした。城の外に吹き飛ばされただけで負けだなんて可笑しいだろう!」
俺に続いて子どもたちが抗議する。
当たり前だ。こんなのどう考えても可笑しいに決まっている。
「例え城の外に吹き飛ばされただけと言うことが事実だとしよう。それでも、お前に授けた勇者の証が敗北したと判断したのだ」
王様の言葉を聞き、俺は胸に手を置く。
俺の首には、王様から頂いた勇者の証であるネックレスがかけてある。
こいつが勝手に俺の敗北を決めやがっただと!
俺は勇者の証に対して怒りを覚え、首から取り外そうとする。
こんなものがあるから、負けていないものが負けとして扱われてしまった。こんな役立たずの証なんか、俺にはいらない。
「ほう、取り外すか。まぁ、それでもいい。だが、勇者の証を取り外してしまえば、お前はただの凡人に逆戻りだ。それでもいいのか?」
王様の言葉が耳に入り、俺は動きをピタリと止める。
この勇者の証を取り外してしまえば、俺は凡人に逆戻り。
俺の脳内に過去の記憶が蘇る。
まだ俺が若く、結婚もしていなかったころ、俺はよく弟と比べられていた。弟のほうが優秀であり、家の後継者は弟だと決められた。多くの人からバカにされる日々、あんな日常二度とごめんだ。
くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!
ネックレスから手を離し、心の中で絶叫する。
「ふん、無様だな。勇者ともあろうものが情けない。いいか、勇者に敗北は許されない! どんな時であろうと勝ち続け、人々の希望でなければならないのだ! 此度の敗北は目を瞑ろう。しかし二度はないぞ」
「はい……分かりました」
くそがあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
何が二度はないだ! 俺様は勇者なんだぞ! それが王様の態度かよ! 人類の希望なら、もっと俺を大事にしろよ!
再び俺は心の中で絶叫する。
「おい、何笑っているんだよ。王様の御前なんだぞ」
「だってよ。人類の希望の勇者が負けてしまったんだぜ。俺たちよりも敗北の重みが違うのに、負けやがった。勇者なのに恥ずかしいよな。俺なら斬首を望むね」
「まぁ、お前の気持ちもわかるけどよ。王様の前なんだから言葉を慎め」
玉座の間に控えている兵士たちのヒソヒソ話が聞こえてくる。
あいつら、好き放題に言いやがって! 勇者の役目がどれだけ過酷なものなのか知らないくせに!
今にも殴りかかってあの二人を黙らせたい気持ちになる。だけどそんなことをしては、俺は勇者から罪人となり、転落人生を送ることになるだろう。
運が良かったなお前ら! 王様の前でなければ、今ごろお前たちは生きていなかったぞ。
「とにかく、もう一度己を見つめ直すがいい。お前たちにはヘカトンケイルの討伐は期待していない。今、己に足りないものが何なのかをもう一度見極めるがいい。もう良い、下がっていいぞ」
「分かりました。失礼します」
俺は立ち上がり、子どもたちを引き連れて玉座の間から離れる。
城を出て裏路地を歩いているときだ。
「あーくそう! 王様だけではなく、あの兵士たちも好き放題言いやがって!」
建物の壁を殴り、怒りとストレスの吐口に使う。
「くそう、くそう、くそう!」
「お父様、気持ちは分かるけど、その辺にしたほうがいいと思う」
「親父、ハシィの言うとおりだ。こんなところを他の兵士に見られてしまったら、またあの王様から何を言われるのかわからないぞ」
壁を殴っていると、子どもたちが止めに入る。
確かにこいつらの言うとおりだ。感情に流されて残りの人生を棒にふるなんてことは、あってはならない。
「確かにお前たちの言い分にも一理ある。とにかく、今俺たちに足りないものを考えないといけないな」
「それ、私考えたのだけど、もしかしたら四人パーティーから三人パーティーになったのが原因じゃない? 一人減ったから上手く連携できなかったとか?」
なるほど、人数に問題があったか。その可能性は十分にあるな。
ちょっとは親の役に立つじゃないか。お前を性奴隷として売り捌くのはナシにしてやろう。
「とりあえずは隣町のギルドに向かうとするか。そこで仲間を募集するとしよう」
俺たちは新しい仲間を手に入れるために、隣町に向かうことにする。
城下町の表通りを歩いているが、やはり俺のイライラが止まることはなかった。
くそう。やっぱりイライラが止まらない。少しでも何かに当たりたい気分だ。
「ああ、くそう! おのクソ国王にクソ兵士どもが!」
「グハッ!」
左手を横に振ると、男の声が聞こえる。
トロイにでも当たったか? もしそうなら運が悪かったな。
「親父!」
「お父様!」
そう思っていたが、息子は俺の右側を歩いていた。
俺が殴ったのはトロイではない? ならいったい誰を殴ったんだ?
首を横に振って確かめてみると、気付かないで殴ったのは兵士だった。
「隊長! 大丈夫ですか」
「ああ……お前は勇者ノア! これはどう言うことだ!」
「どう言うことも何も、俺の近くを通ったテメェが悪いのだろうが」
「人を殴っておきながら謝罪もしないなんて。それでも勇者か!」
この男、城の兵士如きで勇者である俺にたてつきやがるか。
「なら、少し痛い目にあってもらうしかないな! 喰らえ!」
俺は勢い任せに拳を振り、二人の兵士を殴る。
「キャアー! 暴行よ! 誰か来て!」
チッ! 運がねぇ、今のを誰かに見られてしまった。
「どうかされましたか?」
「あの男が、隊長さんたちを殴っていましたわ」
「何だって! とにかく捕まえるぞ!」
「番犬を放て!」
「お父様! 駆け付けた衛兵がヘルドッグのリードを外しましたわ!」
ハシィが叫んだその瞬間、ヘルドッグが瞬く間に距離を詰め、鋭い牙のある口を開けて飛びかかって来た。
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