第一章 第一話 勇者パーティーから追放されるけど、最後は幸せになります
俺はウルク・アビス、十七歳だ。現在伯父であり、育ての親である勇者ノアとその子どもたち、トロイとハシィから袋叩きに遭っている。
「おら、おら、さっさと謝らないか!」
「お父様の言うとおりよ。早く自分の過ちを認めて、無様に謝罪したほうがいいわ」
「親父の機嫌を損ねたお前が悪いからな。さっさと俺たちに謝れ!」
くそう。どうしてこんなことになっているんだよ。俺は本当に何も悪いことはしていないと言うのに。
殴られたり、蹴られたりとボコボコになりながらも、俺は一時間ほど前のことを思い出す。
俺は勇者ノアのパーティーの一員としてギルドの依頼を受け、ハイゴブリンの討伐に来ていた。
「喰らいやがれ!」
パーティーリーダーである勇者ノアが、剣を振り上げて今にも魔物に攻撃を当てようとしていた。
ノアの筋力では、魔物を一刀両断するのは無理だよな。ここはいつものように、サポートをするか。
「バフロール!」
ユニークスキル【ダイスロール】を発動させ、俺の前に三つのサイコロが現れる。一つは四面ダイス。残りは赤と青の十面ダイスだ。その三つを掴むと、先に四面ダイスを振る。出目にはエンハンスドボディーと表示されていた。
よし、一番いいバフが出たじゃないか。
続いて残り二つのサイコロを振る。赤いサイコロが十の位、青いサイコロが一の位だ。これらの数字により、先ほどの魔法の威力が大きく変わってくる。
地面に転がり、一番上になっている数字を見る。
俺のこのユニークスキルは、ダイスの数字が五十以下で成功、そして数字が低ければ低いほど、効果にボーナスがつく。
十の位が一、一の位が九、十九だ。成功!
バフロールに成功し、魔法の効果が勇者ノアに発動する。
「うおりゃあ!」
筋力が強化されたノアの一撃を受け、ハイゴブリンは一刀両断される。魔物は鮮血を噴き出しながら地面に倒れた。
「親父に続け! スカイアッパー!」
勇者に続き、格闘家のトロイが魔物の顎に拳を放とうとした。
トロイは攻撃力は高いけれど、素早く動けられないのが欠点だよな。上手くサポートできるか分からないが、やれるだけやってみよう。
「バフロール」
先ほどと同じようにサイコロを振る。四面ダイスにはスピードスターと表示され、赤いダイスは四、青いダイスは九となった。
あっぶなー! ギリギリだけど成功だ。ボーナスはつかないけれど、スピードスターならハイゴブリンに当てることができるだろう。
魔法が発動した瞬間、トロイの動きが急激に早くなっていく。
魔物の顎に拳がヒットし、ハイゴブリンは天高く上空に吹き飛ばされた。
「お兄様もなかなかやるわね。私も負けていられないわ! ファイヤーボール!」
彼らに続いて魔法使いのハシィが魔法を発動させ、火球を生み出す。
彼女は様々な魔法が使えるけど、魔力量が少ない。だから威力が低いという欠点があるんだよな。えーと、ファイヤーボールを強化するには、バフロールでいいよな。
「それ! もう一度バフロールだ!」
ハシィをサポートするために、三度サイコロを振る。バフの種類を表す四面ダイスには、エアーと表示された。そして赤いダイスはゼロ、青いダイスは一が出た。
スーパークリティカル!
バフの魔法の効果が現れ、ハシィのファイヤーボールはみるみる大きくなっていく。
「さぁ、喰らいなさい!」
直径五メートルほどに膨れ上がった火球は、複数のハイゴブリンを飲み込み、魔物の肉体を焦がす。
よし、みんな順調だな。俺だって攻撃して活躍してみせる。
「攻撃ダイスロール!」
四面ダイスを投げ、技の選択を行う。出目に現れたのはストロングウインドウだ。
この魔法は、強風を発生させて敵を吹き飛ばす魔法。吹き飛ばされて障害物に当たれば、打ちどころが悪い場合は即死につながる。
いい魔法が出たな。続いて威力判定のダイスロール!
続いて赤と青の十面ダイスを振る。ダイスに表示された数字はゼロとゼロ。
まずい! ファンブルだ!
ダイスが両方ともゼロの場合は大失敗だ。ファンブルになったときは、何が起きるのか分からない。予想不可能の事態に陥る。
魔法が発動して強風が発生した。しかし風は敵ではなく俺を襲う。身体が宙に浮くと後方に吹き飛ばされた。
「まじかあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
くそう。風の威力が高すぎて、上手く身体を動かすことができない。
「グハッ!」
何かに当たり、背中に激痛が走る。
痛みに堪えて後方を見ると、どうやら大木に激突したようだ。
あたた。どうやらこの大木のお陰で止まったようだな。もし、岩にでもぶつかっていたのなら、一歩も動けなくなっていたかもしれない。
ああ、頭が少しクラクラする。
若干の頭痛を感じ、俺は自分の黒髪に触れる。
だけどこのままここで寝ている訳にはいかないよな。
ゆっくりと立ち上がり、俺は伯父たちのところに戻ろうとした。その時、目の前に大きいダイスが現れる。
「人生ダイス!」
いきなり出現したサイコロの名を口にする。
このダイスは俺のスキルの一種だ。俺を導き、サイコロに書かれたことが必然的に我が身に起きる。
ノアがあの年で勇者になれたのも、この人生ダイスの導きによるものだ。
「さて、今度は俺をどんなふうに導いてくれるんだ?」
人生ダイスに尋ねると、サイコロは回転を始めて地面に落ちる。出目には『勇者パーティーから追放されるけど、最後は幸せになる』と書かれてあった。
はぁ? 俺があいつらから追放される? そんな馬鹿な。これまで俺がバックアップをしていたからこそ、ここまでこられたんだぞ? そんなこと、あいつらだってわかっているはずだ。これは何かの間違いなはず。あいつらが、俺を追放する訳がないんだ。
そんなわけがない、そんなわけがない。
心の中で連呼をしつつ、俺はノアたちのところに戻る。
どうやら戦闘は終わっていたようで、討伐対象のハイゴブリンたちは死体の山になっていた。
「みんなごめん。どうやら終わったみたいだな」
「おい、何やっているんだよ! 肝心なときに失敗しやがって! 俺たちの足を引っ張るんじゃねぇよ」
謝罪の言葉を述べると、勇者ノアは俺に怒鳴り声をあげる。
「そうだぞ、自分の魔法に吹き飛ばされるなんて、なんとも情けない。勇者パーティーの一員として、いや、義理の兄弟として恥ずかしいぞ」
「お兄様の言う通りだよね。本当にお荷物だもの。お父様の温情で、あなたをこのパーティーに残してあげているって言うのに、荷物持ちしか取り柄がないじゃない」
格闘家のトロイに続いて、魔法使いのハシィまでもが、俺に冷めた視線を送る。
「何を言っているんだよ! 失敗って言っても、俺が吹き飛ばされただけだし、それにそれ以上のことをしてあげているじゃないか!」
「はぁ? 寝言は寝て言えよ、お前、この依頼でハイゴブリンを倒したか? 倒していないだろうが! 全然活躍していないぞ! 寧ろ、俺たちの足を引っ張っているだけじゃないか!」
「そうだぞ、謝れよ」
「謝りなさいよ」
ノアが激昂すると、トロイとハシィは謝罪をするように言ってくる。
はぁ? どうして俺が謝らないといけないんだよ。俺はちゃんとサポートとして、皆んなをフォローしていたじゃないか。
「それはこっちのセリフだ。俺は自分ができることを精一杯にやった。自分が間違っているとは思っていない」
「何だと! 誰に向かって口をきいていやがる! 俺はお前をそんな風に育てた覚えはないぞ!」
「ぐはっ」
俺の態度が気に食わなかったノアが、俺の腹に拳を叩き込む。まさか手を上げてくるとは思っていなかった俺は、躱すことができずに一撃を受けてしまった。
「再教育が必要だな。誰のお陰でこれまで生活できていたと思っていやがる」
「ぐっ、がはっ」
「トロイ、ハシィ、許可する。お前たちもやれ」
「やった! 前からウルクのこと気に入らなかったのよね」
「親父を怒らせたのが悪い。この折檻も身から出たサビだと思え!」
勇者ノアに続き、彼の娘である魔法使いのハシィ、息子の武闘家トロイが俺に暴行を加える。
「おら、おら、さっさと謝らないか!」
「お父様の言うとおりよ。早く自分の過ちを認めて、無様に謝罪したほうがいいわ」
「親父の機嫌を損ねたお前が悪いからな。さっさと俺たちに謝れ!」
くそう。どうしてこんなことになっているんだよ。俺は本当に何も悪いことはしていないと言うのに。
「チッ、いつまでも謝らないなんてな。もうお前はここで捨てる。まぁ、一応ここまで育ててやったんだ。死んだ弟の義理は果たしただろうよ。トロイ、ハシィ行くぞ! ハイゴブリンの討伐完了の報告をしなければならない」
勇者ノアが俺を蹴るのを止め、離れていく。
「じゃあな。のたれ死んでいなければいつかは再会するかもしれないが、次にあったときは赤の他人だ。こいつは餞別だ!」
「がはっ!」
餞別と言いつつ、トロイは俺に一発蹴りを入れる。そしてノアに続いて俺から離れて行った。
「ハ……ハシィ」
俺は眼球だけを動かし、勇者ノアの娘である魔法使いのハシィを見る。
「どさくさに紛れてスカートの中をみようとするな! この変態! くそ! 死ね!」
確かに俺は眼球だけを動かした。だけど俺が見たのは彼女の顔であって、スカートの中ではない。
勘違いをしたハシィは何度も俺の顔面を蹴り、最後に唾を吐き捨て、俺から離れて行った。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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