肉団子
夕飯時となった。時計ではそのはずであるが、今も少女には配膳も無く、ただ折り曲げた細い足を抱えて、長く伸びた足の爪を数えている。
ここの研究員は馬鹿か。食わせなければ死んでしまう。それは火を見るよりも明らかであるというのになぜ与えないのか。
きっと恐れているからだとケンは思った。
皆が恐れ、この少女が飢え死ぬことを望んでいる。殺人犯として死んでくれれば安心して眠れるのだろう。
ケンは自分の夕飯の中から少女にミートボールを差し入れた。肉を磨り潰して小さな団子状にしたそれは、とても肉と呼べる代物ではなかったが、ちょうど天井の穴から入れるには十分に思えた。
その天井はケンの目線と同じくらいの高さにある。天井の厚みは1インチを軽く超え、どう開けるのかと疑問に思いながら、緑色のパウチからミートボールを摘まんでそっと穴に近づける。
自分の顔のすぐ近くに少女の目があった。真っ青で曇りのないような両眼には、わずかに黒い色素が混じっていることに気が付く。ふとその中に艶めかしさを感じたケンは頭を振った。
こんな少女に自分は何を感じている?
馬鹿な。
これは帰る家のない子犬にエサをやるような物さ。何も変な事じゃない。
ゆっくりと頭上に移動した肉団子に少女はつられてふらふらと背伸びをする。
小さな口から漏れたと息が透明の檻を曇らせていく。
「入れるからな」
指先からわずかに垂れたソースが少女の頬を汚した。少女は舌を必死に伸ばして自分の頬を濾すように舐り回した。止めきれない涎が床に垂れ、銀色の糸が細い顎先から薄汚れた服に垂れた。
「……落とすからな」
天井の穴には少女の荒い息使いを指に感じるほどにすぐ近くに顔があった。
口で直接肉団子を受け取った少女は、何度も舌で転がし、少しずつ味わうように唇に乗せたり、吐き出したりを繰り返し、やっとのことでゴクンと飲み下す。
力の抜けきった体は、トロンとした青い両目と同じく、久しぶりのちゃんとした食事に喜んでいるようだった。
「……もう一個食うか?」
ケンはもう一つ肉団子を取り出して彼女に見せた。
少女は嬉しそうに屈託なない笑顔を見せた。自分に娘ができたらこんな感じだろうかとケンは思った。
現在の在籍者と被害者
研究所在籍職員3621名 内、行方不明4 死亡1
収容動物2匹




