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テスト

「君にはある生き物を隔離する仕事についてもらいたい」


「生き物ですか」

 剃り残した髭が指先に触れる。なぜ自分が慣れ親しんだ隊を離れ、見たことも聞いたこともない研究機関に所属せねばならないのか。それがケン中尉には謎であった。

 軍にはそもそも頭を使うことが求められない。すべては縦社会であり、上の命令には絶対服従。ただ今回の任務の奇抜さは、目の前に座る白衣の黒人を見れば明らかだろう。

 研究員はそれほどお金に困っているような様子もない。左手首に日本製のデジタル時計を付けておきながら、分厚い眼鏡の向こうに落ちくぼんだ目が見えた。あの薄い胸板の下にはガリガリの体があることだろう。金はあるのに痩せている。おおかた酷い精神状態に追いやられているのだろう。

 研究員はため息をつくようにゆっくりと言葉を紡いだ。

「とても貴重な生物だ。生物学的な価値からしても数兆ドル。君には世界からそれを守っていただきたい」

「絶滅危惧種なら他に頼む先があるでしょう」

 ケンは胸のポケットから煙草を取り出して、ガソリンスタンドでもらった安物のマッチで火をつける。彼は確実に作動するものが好きだ。オイル不足や低すぎる温度のせいで不能になるライターよりも確実に火をともすマッチを携行する。

 そしてその趣味は武器や装備品まで及び、はやりのごちゃごちゃとレールの付いた『拡張性の高い銃』を嫌い、工学サイトを嫌う。つまり直接目で見て銃を撃つような男だった。


「禁煙、なんだがね」

 ふーと深く吐き出された白い息が、研究員の黒い肌を包んだ。ゴホゴホと咳をするのを見るに、研究所ではタバコを吸う人がいないらしい。

 とても残念なことだ。明日死ぬかの知れないというのに何年、何十年先のことを気にして生きてどうするのか。ケンは灰皿が見つからないまま、短くなったタバコをもみ消して次の一本に手を出そうかと思った。


「こちらの指揮下に入るのだから、すこしはルールに従っていただきたい」

「ルール。まず、それを教えてもらわなくちゃならない」


 投げてよこされた分厚いファイルには『極秘』の文字が並ぶ。

 目次を呼んでいる間に「明日までに目を通しておくように」と残して研究員は先に部屋を出た。

 これを全部読めって? 辞書の方がまだ読む価値がある。その証拠に第一章から文字には黒線が乗せられほとんどが読むこともできない。それどころかそのマニュアルには赤く太い文字で書かれた部分もあった。

 ケンは指先でそれをなぞると顔を顰めた。


 戦場で慣れ親しんだその臭いと色は忘れたくても忘れられない。

 血で書かれた文字だった。そこには『生き物とけして口を利かないこと』と書いてある。


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