第七話
※男性同士のカップルが出てきます。
特に絡みはありません。こことここ付き合ってるんだーくらいの感じです。
「ありがとうございました。えっと、あなたがベリー?」
マガジンが乗った電車が走り去った後、一は気になっていたことをヒメに尋ねた。
「違う。来て」
ヒメは一からの質問に素っ気なく返すと、返事も待たずに歩き出した。
一は慌てて後を追い掛ける。
──なんだかさっきまでと雰囲気が違うような……?
──さっきまでは俺が話そうとしたら、すぐ被せてくる勢いだったのに、今はなんか、話しかけるなオーラがすごいし……。
先を歩くヒメの背中を見失わないように付いて行きながらも、一の頭の中は疑問だらけだった。
──もしかしてマガジンが居たときの態度は営業用で、こっちが素とか?
ヒメに直接聞く勇気はないが、気になって仕方がなく、歩きながら一の一人脳内会議は続いた。
***
ヒメの後を付いて電車に乗り、向かった先は渋谷だった。
駅を出てからもヒメの後を付いて行く。歩いてスクランブル交差点を渡り、センター街を進み、途中井の頭通りに入り、そこからさらにビルとビルの間にある細い道を歩くこと五分。
ビルが立ち並ぶ間に、一軒の二階建てアパートが現れた。
ヒメはそのアパートの前で立ち止まり、こちらを無言で見上げてくる。
「……えっと?」
「ここにベリーがいる」
そう言うとヒメは、二階に通じる階段を上って行った。
一も後に続いて階段を上りながら、(渋谷って人住めたんだな……)と謎に感動していた。
二階に着くと、ヒメは奥の角部屋の前──ニ〇三号室。に行き、扉を数回ノックした。が、中からは何も聞こえない。
一が本当にここにベリーが居るのか?と疑い始めた時、勝手知ったる他人の家とばかりにヒメが扉を開けて、中に入って行った。
(鍵開いてたのかよ! 不用心だな……)
一連の流れを見ていた一は、いろいろ思いながらも後に続いて部屋に入ろうとしたが、足を踏み入れる前に立ち止まることになった。
なぜなら、ヒメが玄関に立っていた男に抱き締められているからだ。
(誰!?)
男はヒメを真正面から抱き締めているせいか、一からは顔と手くらいしか分からないが、襟足眺めの金髪、左耳に光るシルバーの二連ピアス──どう見てもチャラ男だ……!
いきなりの展開に、一がどうしたらよいか分からずにいると、チャラ男(仮)が口を開いた。
「ヒメ~! おかえり~」
「……RICKY、離して」
「またまた~、嬉しいくせにぃ~」
どうやらチャラ男は、RICKYと言うようだ。
(会話からして二人は恋人同士なのかな?)
「あ! おまえ!」
二人の絡みに入れず、後ろに立って話を聞いていた一に気付いたRICKYは、ヒメを抱き締めたまま一を指で差してきた。
「えっ! はいっ?!」
RICKYの声は先程までヒメと話していた甘い感じではなく、どこか怒っているように聞こえ、一は無意識に背筋を伸ばした。
「おまえのダチのマガジンつったっけ? 今度から財布にチェーン付けて、腰に着けとけって言っといて」
「はい?」──なんでここでマガジン?
「そいつが財布を落とさなきゃ、今日本当はデートだったのによ~。しかも何で、知らねーヤツが俺のヒメとデートしてんだよ。マジムカつく」
「いや、男同士だから。デートじゃないよ」
「いや、俺らも男同士だけど、デートって言うじゃん」
(なるほど。ヒメさんとのデートを邪魔されたから、RICKYさんはマガジンに怒ってたのか……ん? 男同士?)
「……あのー、すみません」
「なーにー?」
「えっと、男同士って?」
「ヒメは男だよ? おまえ、気付いてなかったの?」
「えー!」
──た、確かに。声が女の子にしては低めだなとは思ったけど……。
一が思い当たる節に気付いている間にも、RICKYは爆弾を投下していく。
「ヒメは女の子の格好すんのが好きなんだよな? なんだっけ? 女装男子? んで、俺の彼女ね」
「えー!(やっぱりー!)」
「ま、夜は俺が女だけどね! なんつって!」
「えっ」
そんなことまで言ってもいいのかと驚く一と、なぜか自慢気に話すRICKYの間に挟まれたヒメが呆れたように口を開いた。
「良いから、早く中入ろ」
そう言うとヒメは抱き付いているRICKYをくっ付けたまま、靴を脱いで、部屋に上がって行く。
一も慌てて後を付いていった。




