第五話
「スられたかもってどういうことですか?!」
ベリーの言葉に、一は堪らず声を荒らげた。
そんな一をたしなめるかのように、ベリーはピシャリと言い放つ。
『うるさい』
『あくまでも可能性だって言ったでしょ』
「あ、すみません……」
たしなめられた一は、自分の頭が熱くなっていたことに気付いた。
周りを見ると、近くを歩いていた人もこちらを何事かと見ている。一はとっさに会釈をすると、川に落ちないように作られた柵に体を寄せて、川を眺めているフリをした。
『少し前に秋葉原でスリの被害が多発してたいたことがあったの。犯人もまだ捕まっていないし、探してなかったってことはそういう可能性もあるんじゃないかなって』
「……なるほど。えっ、で、なんで川なんですか?」
『……はぁ。あんたはさ、スリが人の財布スったらずっと持ってると思う?』
ベリーは言った。そんなことも分からないの? とでも言いたげな呆れたような口調だったが、幸い一は考え事をしていたおかげか、言外に含まれた意味には気付くことはなかった。
「……あ! 捨てる?」
『そ。アキバでも適当に捨てられそうだけど、手っ取り早いのは川に捨てることかなって。こんなデカい川もあるしね』
「なるほど」
なぜかは分からないが、ベリーの紡がれる言葉からは説得力が感じられて、一は信じることが出来た。
『あくまで可能性の一つだけどね。だから、川をよーく見て、それっぽいのあるか探してみて』
「はい!」
『で、水位が少ないとこまで来たら流れ着いてないか確認して、今度は反対側に移動してアキバまで戻りながらまた見る』
「え! それって、かなり距離がありません?!」
『……じゃ、何かあったら連絡してねー』
「あっ、ちょ……」
プツッ
一の言葉は華麗に無視され、無情にも通話は切られた。かけ直して何か言ってやろうかとも思ったが、また相手にされないだろうと諦め、これからのことを考えて一は項垂れた。
「……マジか」
水位が少ない所までとベリーは言ったが、現在地・御茶ノ水付近でまだかなり水がある。下手したら新宿まで歩くことになりそうだ。
一はため息を付きながらも、目線をしっかりと川に向けながら歩き始めた。
***
途中休憩を取ったり、たまにベリーとやり取りをしたりしながら一は歩き続けた。
最初に懸念した通り、新宿付近まで行くことになってしまった。
川沿いに道がないところもあり、遠回りしながらも見られるところを見ながら歩いてきたが、まだ財布は見付からない。
一は反対側に回り、新宿からまた秋葉原に戻って来たが「……ない」
現在の時刻は、十五時五十五分。
『ま、あくまで可能性だったからね~』
ベリーが答える。なんだかその声は、どうでも良さそうにも聞こえた。
──まるで他人事のようだ、他人事なんだろうけど。
「えぇ……いや、まっ、確かにそうでしたけど……」
『見付からなくても文句言わないんじゃなかったっけ?』
「うっ……」
少しムカッとしてしまい、無意識にイライラをぶつけそうになってしまったが、ベリーに先手を取られ、一はなんだかばつが悪くなる。
──くそっ……確か、マガジンの帰りの電車の時間て十六時四十分だったよな……
──もう無理か……
『……あ、待って!』
一がマガジンの財布を諦め、ベリーにお礼を言って通話を切ろうとしたとき、ベリーが大きな声を出した。
少なくとも今日一日、ベリーのそんな声を聞いたことがなかった一は、何事かと次の言葉を待った。
『……今から──に行って!』
「……はい?」
一分程無言の状態が続いた後、突如ベリーから発せられた言葉に、一は訳が分からず首をひねるしかなった。




