第四話
午前十時半、御茶ノ水駅の近くを流れる神田川の川沿いを一は歩いていた。
何故川沿いを歩いているかは──
(なんで俺、川沿いなんて歩いてるんだろう……)
──実は一自身も、自分が何故川沿いを歩いているかさっぱり分からなかった。
一は、今までの出来事を思い出すことにした。
──確か、九時に秋葉原駅に来てって、ベリーに言われて……
***
朝七時五十分。
まだ寝ていたマガジンに置き手紙と二万円を置いて、一は家を出た。
最寄駅から約一時間程、途中乗り換えたりしながら電車に揺られ、待ち合わせの十分前に秋葉原駅に着くことが出来た。
改札を出た後の一は、電気街口広場で落ち着きがなく、ソワソワとしていた。
一は小中高と野球一筋で、大学に入学してからも勉強と引っ越しのバイトを往復する生活で、彼女はおろか女の子と二人で出掛けたことすら今までなかった。
勝手にだが、一の中でベリーは女子と言うことになっているので、財布探しとはいえ、人生で初めて女子と二人で出歩けられることに、一は心の中でマガジンにちょっぴり感謝していた。
♪♪♪
「うおっ!」
急にスマートフォンが鳴り、驚いた一は思わず小さく声を洩らした。
少なからず不純なことを考えていたので、違う意味でもドキドキしながら画面を確認すると、ベリーからLINE通話が来ている。
(え! いきなり電話?!)
心の準備もままならないが、出ないわけにもいかず、一は通話ボタンを押し電話に出た。
「……も、もしもし」
緊張からかどもってしまい、恥ずかしさで消えたくなりながら、一はベリーからの言葉を待つ。
『ども、ネット何でも屋「ベリー」やってます。ベリーです』
電話口から聞こえてきたのは、女の子の声だった。
一の想像通り、ベリーは女の子のようだ。だが思ったよりその声は高く、あどけない感じがした。
ベリーは、一より年下なのかもしれない。
「あ、初めまして金田一です。今日はよろし……『ね、マイク付きのイヤホン持ってる?』……持ってますけど」
可愛らしい声とは反対に、チャットルームばりの、こちらの声を一切気にしない物言いに、一は少し怖じ気付くが、こちらのことなどお構いなしのベリーのトークは止まらない。
『じゃあ、今日一日付けといて。たまに指示したり、連絡入れるから』
「え! あの、ベリーさんはここには来ない感じですか?」
『来ない。あんたが手伝うって言ったんだから、文句は受け付けないよ』
(いや俺からじゃなくて、あなたから手伝ったら半額にするって言ったんじゃん。……ま、いいけど)
「は、はあ……。えっと、今日は秋葉原をまた探したら良いかんじですか?」
『とりあえず、駅の窓口と警察行って』
「え、警察は昨日行きましたけど……」
『昨日は届いてなくても今日届いてるかもしれないじゃん。駅の窓口も』
「……確かに」
『結果分かったら電話して。じゃ』
プツッ
「……え、ええ~……」
***
『で、両方とも届いてなかったと……』
「はい」
一はベリーに言われた通り警察と駅の窓口に行ったが、両方とも届いて居なかった。
『じゃあ今度は神田川沿いを川をよーーーく見ながら歩いて、とりあえず御茶ノ水まで行って。着いたくらいに連絡するから』
プツッ
──そうだ! そうだった! そう言われて俺は、秋葉原から御茶ノ水まで神田川沿いを歩いて来たんだ。
と、思い出してみたが、一は結局自分が何故こんなことをしているか分からなかった。
秋葉原を探したほうが絶対良いのに、何故秋葉原から離れてしまうのか。
結局、疑問が残るだけだった。
♪♪♪
悩んでいると、スマートフォンが鳴った。
ベリーだ。スマートフォンをタップし出ると、耳に付けたワイヤレスイヤホンからベリーの声が流れ出す。
『調子はどう?』
「いや、てかあの! 俺なんで川沿い歩いてるんでスか?! 財布落としたのは秋葉原って言いましたよね?!」
『うるさい』
「いや、うるさいってあなたね……『財布は落としたんじゃなくて、スられた可能性も考えられる』」
「え?」




