第1話 ~日常~
桜庭ユートは公立の高校で授業を受けていた。難しい数学の授業を受けていた。
目の前の女子生徒は眠っていた。女子生徒の髪の毛がゆらゆらと揺れていた。
相変わらず退屈な授業だった。
「次の問題は…… おいユート」
突然指さされたユートは答えに困った。
「えーっとわかりません」
「仕方ないな。じゃあ後ろの神崎」
「4ですか?」
「正解」
そんな感じで授業は進んでいく。校舎は古くてどこか落ち着いた。別に進学校でもなくかといって評判が悪くもなかった。
後ろの席の神崎アヤメは無口な女子生徒だった。髪の毛を三つ編みにしていて黒縁を眼鏡をかけていた。
ユートは机の上で消しゴムを転がして遊んでいた。高校三年の夏だった。鮮やかな雲が空に浮かんでいた。
夏休み前の平凡な平日だった。先生は四十台で少しはげていた。生徒は大体小声で話すか机に突っ伏しているか机の上で何かをしていた。
ユートの住んでいる場所は割と神社とか田んぼが多くて主に住宅だった。相変わらずの退屈さにユートは窓の外を眺めていた。
それでも時計の針は先に進まない。昼休みまでにあと歴史の授業があった。後ろに座っている神崎とは少し仲がよかった。
神崎はあまりしゃべらない。一人でいることが多い。
じっと机の上でノートを広げて黒板にかかれていることを板書していた。どこがテストに出るのかも教えてくれない。ただ黒板の文字を書いては先生は消していく。
「じゃあこの問題を解いてみろ。川上」
「はい。えーと7です」
「間違ってる」
「まじっすか」
「次! 黒井」
「3です」
「正解」
ユートは問題のことがまるで頭に入ってこない。闇雲に問題を解こうとしても解けない。
あまりに問題は複雑だったのだ。
教科書は薄いのにいっぱい問題があってしかもよくわからない。
ただ苦痛な時間が過ぎればいいと思った。
「次の問題を広瀬」
「はい!」
先生は次から次へと問題を黒板に書いていく。
「おい深瀬この問題解いてみろ」
「8です」
「そうだ。相変わらずお前は優秀だな。さすが全国模試で名前を載せただけある」
「そんなことないですよ」
「受験を甘く見るんじゃないぞ。確かお前は帝大の医学部を受けるらしいな」
「ええ」
深瀬は眼鏡を指で押し上げた。
「相変わらずだな」
「まぁ親と同じ道を僕はたどることになるのでしょう。先生勉強の時間がもったいありません」
「ああ。先に進めるよ」
先生はチョークを手に取り問題を先に進めた。
「この問題解いてみろ。えーと、谷川」
先生は小柄な女の子を指した。
「おもしろい問題ですね。7です」
「そうだ。正解」
谷川はさらりと髪を風に揺らしながら座った。その揺れる髪はどこか美しくそして授業の終わりのチャイムが鳴った。




