表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/12

5. 間抜けの代償

 夜通しで歩き続け、ようやく私は鬼岩の谷へと辿り着いた。

 そこに至るまでにも幾度となく魔獣との戦いはあった。

 あの狼たちのボスであったらしい巨大な人面狼にはさすがに驚いたが、それも腹を裂いて首を切り落として燃やしてやった。

 腹の中から妖混じりの亡骸が出てきたときには笑ったが、そいつが襲いかかって来たのには少し笑えなかったな。すぐに返り討ちにしてやったが、ちょっぴりだが驚いた。これからは気を付けよう。


 そうしたこともあって鬼岩の谷に到着したのは早朝だ。

 ここは角のように尖った岩が乱立する場所で、名の由来も岩の形から取ったそうである。

 そして、この場所にはゴーレムとオーロラトカゲが出没する。

 また、ここには間抜け野郎も出没するんだ。

 そいつは鏡さえあれば確認ができたんだろうが、幸いなことにここには用意されてなかった。

 人面巨狼を倒して調子に乗っていたのだろう。それに、もう谷を出てトゥーレの街に着く直前だったから油断していたのかもしれない。

 どうであるにせよ、まったくもって間抜けな事態になってしまった。

 私はオーロラトカゲの身隠しの魔法に気付かず、不意を打たれて肩を噛み付かれた。


「ォォオオオオオオオ!」


 私は叫び声をあげながら大鉈を振り上げて、肩口を噛み付いたトカゲの頭を斬り飛ばす。まったく……よくもまあ、やってくれたぞ。

 人の使う魔術と違い、魔獣の業は魔法。詠唱を必要とせず、自らの内に宿る法則に従って発動させる。だから近付かれるのを察知するのは難しくはあるが、いやそれは言い訳だな。

 けれども本当の問題は首を切り落として、もう始末したこいつじゃない。本命というべきか。トカゲに気付かなかったのは私の注意はコイツに向けられていたからだ。


 ガリガリガリと岩肌が削られる音がする。

 声こそあげないが、そこにいるゴーレムは私を殺すべく動いていた。

 こいつに見つからぬように集中していたのが失敗だった。これならば正面から挑んだほうがマシだったな。日和みた我が心の弱さが最悪だった。

 そして4メートルはあろう巨体から繰り出された右腕を私はとっさに受け止めるが、自重に差があり過ぎてどうにもならん。


「ガァアッ」


 私の身体は一瞬で宙を舞い、弾き飛ばされて、飛んだ先の岩に激突した。


「グッ、くそったれ」


 マズい。角岩に脇腹が刺さったか。だが抜ける。内臓も大丈夫だろう。

 私は血を吐きながらも、急ぎ立ち上がった。

 足がよろける。衝撃で頭が回らない。沸騰しそうなぐらいに頭の中が熱くなっている。全身を駆け巡る血が沸騰しそうだ。


「クソがァアア!」


 私は咆哮しながら大鉈を振るい、続けて迫ってきていたゴーレムの左拳を破壊する。体の中の魔獣が吠えている。殺せ殺せと叫んでいる。ああ、分かっているさ。だからさえずるなよ。たかだか私に負けた連中のシミ程度の分際で私に意見をするな。

 そして、ゴーレムが右腕を振り上げるが遅い。

 私は全身の筋肉を膨らませながら背の槍を抜くと、力を解放して一気に突いた。その先は胴体の中央付近。そこにひとつだけ白い岩がある。

 それがゴーレムの心の臓に値する部分だ。私は一瞬見えたその岩へと全ての力を込めて槍を突き出し、その石を貫き、同時に槍の先が砕けた。

 流石に無茶だったか。けれども、これでゴーレムは倒した。

 あとはこの場を離れて回復して……そんなことをおぼろげに思いながら、ゆっくりと前へと進もうとしてそのまま倒れ、私の意識はそこで途切れた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ