落城
よろしくおねがいします
衛兵の報告で、皆は玉座の前から離れテラスへと走る。
上空を見上げると、雲海の中に確かに城が見える、城と言うより要塞だ。
「あれが……、七夜城なのか?」
「うむ、多分……そうだな」
俺達が上空の城を見上げていた時に、後方から悲鳴が飛んだ。
「きゃあああ」
「ぬおおぉっ!」
瞬間にしまったと思うが、既に皇王と皇后は、どこからか現れた黒いフードの男達に、身柄を拘束されていた。一瞬……、黒衣かと想ったがコートの下からは、甲冑と剣がチラついて見えたことからも、違うと分かった。
「貴様ら何者かっ!」
ロゼか激しい口調で、三人のフードの男に迫る。
敵だと言う事は、分かるがどこから現れたのか……。
「二人を今直ぐ放しなさい!」
「離すと思うか?、皇女殿下っ!」
その口調は、わざとロゼを挑発しているかに思え、ロゼを抑える。
「待てロゼ……、挑発だぞアレは……」
「なんだ……、かかって来ぬのか?、では遠慮無く二人はいただくとしよう」
この台詞でロゼは、我を忘れ二人を奪還しようと走り寄るが、無謀すぎた。四人目の男がロゼの背後へ姿を現し、間接を極められた上、首に刃を当てられ拘束された。
「は、放しなさいっ!」
「いかん……、ロゼまで捕まった!」
「ロゼ様っ!」
「しまった……」
この時、俺達は三人を拘束されたされた事以外、宮殿内の状況を把握出来ていなかった。一番後方にいたズグロが、異変に気が付きテラスから外を見渡していた。
「これは……、まずい宮殿内が敵で充満している」
「なんだってっ!」
「その通り……この城は、じきに落ちる我等の悲願が、成就されるのだ!」
三人の人質を取られている、彼らに迂闊に手が出せない。
だがこの状況を、覆す方法は有る、イリスに時間を止めてもらえば……。
五秒間で、三人を引き剥がし救出するっ!。
俺は、イリスに目配せした。彼女もそれを狙っていた様で、すぐに理解してくれた。後はタイミングの問題、ロゼの首に当てられた刃が一瞬だけ離れた。
「イリスっ! 、今だっ!」
「はいっ!」
イリカが時間を止め…………、止らない。
「イリス?」
俺は飛び出しかけた体制から、イリスの方を振り返った。彼女の顔に、薄緑の何かが取り付き、気絶している。時間を止める直前に、彼女の動きを封じられた。
「イリスっ! 、貴様ぁ彼女に何をしたぁ?」
「時間を止められては叶わぬ、彼女にはそのまま死んで貰う」
ハルとアネスが緑の物体を、引き剥がそうとしているが、彼女の肉まで引き千切りそうになり、手を緩めるしかなかった。イリスの身体が痙攣を始めている、このままでは、彼女が窒息して本当に死んでしまう。迷っている暇は無い。俺は、刀を抜き彼女の顔に張り付いている物体を斬った。
「かはあっ、はあ、はあ、はあ」
イリスの顔に付いていた物は、切り落とす事に成功した。
彼女は、激しい呼吸をしているが命は助かった。
「ユキヒト……さん、ありがとう……」
「ほぉ……、そいつを切り落としたか、貴様が異世界人だな」
「それがどうした?」
「貴様が持っている、その神殺しの刀を渡して貰おうか」
「ユキヒト、こいつらに渡しちゃだめよっ!」
ここまでの状況を見ると、この敵は皇王が言った七夜城からやって来たと考えるのが妥当だが、イリスの時間を止める能力や、夜叉姫から託された刀の能力まで知っている。
どうやら、コチラの情報を調べ上げ、対策を立てた上で襲ってきた。戦う相手を、調べ上げて対策を立て襲撃する。当然のセオリーを俺達は、物の見事にしてやられた訳だ。
それに引き換え俺達は、天空の城からやってきた敵としか、認識が出来ていない。正体が知れない相手に不意打ちを喰らい、人質を取られ完全に敵の術中にはまっている。
「その刀、渡さぬならこの女の首を切り落とす!」
首に当てた刃に力が入り、ロゼの首から鮮血が流れる。
それを見た瞬間に、俺は正気を失うかと想うほど動揺して叫んだ。
「待てっ、止めろぉ刀は渡すっ!、だから彼女を放せっ!」
「ふっ、刀さえ渡せばこの女は離してやる」
「わかった!」
「馬鹿ぁ!」
ロゼから詰られたが、俺は腰から鞘ごと抜き取り放り投げた。
その男は刀を掴むと、ロゼを突き飛ばして放した……。
「ロゼ様……、傷をみせてっ!」
ハルが、すぐさまロゼの首の治療を施した。
幸いにも深い傷ではなかったため、すぐに治療は終った。
「どうして渡すのよっ!」
「馬鹿を言うなっ! 、刀とロゼを比較なんて出来るかよっ!」
「馬鹿……っ」
だが、まだ皇王と皇后を拘束された状態は、続いている。
「我等の目的は、果たされた。この場に用は無い、戻るぞ!」
「マテッ! 、貴様ら……、父上と母上をどうするつもりだ!」
「知れた事を聞くなっ! 、我等の城に連れて行くに決っている」
その言葉を最期に、四人の敵は姿を消した。
とっさにテラスへ出ると、上空に姿を見せた。
「逃がさんっ! 、ラミカ、ズグロ、マリネ頼む」
俺の言葉で、三人は変化して鎧と翼が装着され、マリネの剣を手にした俺は、奴ら目掛けて飛翔した。彼らの移動はそんなに早くは無かった。すぐに追いつける筈が、ズグロが叫んで俺を止めた。
『いかん、主殿とまって! 、結界ですっ!』
「なっ!」
ズグロの御陰で、全速で結界に突撃するのは避けられたが、二人を拘束した奴らを目の前にして、手が出せずまんまと城へと連れ去られてしまった。
「くそ……、刀を奪ったのはこのタメか……」
『その様です……、主殿引きましょう』
「そうだな、宮殿の方も心配だ」
結界が破れない以上、ここに居る意味は無い、すぐにロゼ達の元へと戻った。心配そうな顔で迎えたロゼに、取り逃がした事を言うのは、非常に辛かった。
「ロゼ……、済まない結界で先に行く事が出来なかった」
「くう……今は、宮殿内に居る敵を排除するのが先ね」
「それが、ロゼ様……」
マリネの力の失せた言葉に、ロゼが返した。
「宮殿内がどうかしたの?」
「ロゼ……、表を見てみろ……」
アネスの言葉に改めてテラスへ出て、宮殿を一望すると。
上空から降りてくる時には、認識出来ていなかった物が広がっていた。
「そんなぁ……、城が燃えている!」
美しい造りのハイデ城、その半分以上が既に業火に包まれ始めていた。
俺達が謁見の間で、敵と対峙していた時に、宮殿内にはかなり敵が潜入していたらしい、生き残りの者を救出し、残党を排除しながら宮殿の外へと脱出し、後ろを振り返ると。
「私達の宮殿が……、燃えて無くなってしまう……」
ロゼは宮殿が焼け落ちるのを見ながら、その場に膝から崩れてしまった。
今日の襲撃で、宮殿内に居た者が、どれだけ犠牲になったのか知れない。
首都の中心に位置するハイデ宮殿は、炎に包まれ落城した……。
有難うございました




