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女難危行・拉致した皇女と六人の嫁  作者: 雛人形
第一章
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傷痕

続きです。読んでくれてる方、よろしくおねがいします。

ロゼが目を覚ましたのは昼を大きく廻った頃。

 ハッ━━━━━、ここは?


 「ロゼ様━━━━━、やっと起きましたね」


 心配そうに顔を覗いきたのはブラッディ。

 ロゼから眼が覚めて早々、マリネと駐屯兵の安否を聞かれ、彼女は答える。


 「マリネは地竜の様子を、

   駐屯地は…………………

 

 魔法発動でオークの約三分の二を撃破し、中央を突破に成功。

 その後、別の中継基地へと緊急避難。

 全員が落ち着いてから、斥候が駐屯地に偵察しに出た事を話した。


 「何人…何人が死亡したの?」


 彼女が目を伏せ答える。


 「約………三分のニです」


 正確な数字は出ていた。

 しかし、ブラッディは大まかな数字を伝えた。ロゼの心の痛みを少しでも軽くしたかった。

 

 ロゼは急いで隊長に話をと立ち上がるが、即パランスを崩しブラッディに支えられる。通常アレだけの規模の魔法陣を発動させる場合、サポートが入るものだが、ロゼは単独で発動させた。結果はフラフラ皇女の出来上がり。意識は戻ったが、今しばらくは安静にしている方が懸命と言える。


 「マリネが戻ったら相談しましょう」 

 

 地竜の世話を終わらせマリネも戻くる、ロゼが目覚めている事でホッとした様子だ。

 

 「ロゼ様、本当無茶ばかりで、

   ……心配させないで下さい」


 マリネの心配は従者として当然だが、強行しなければ全滅したのも事実だ。

 それでも……。

 

 《私達が居なければ……

  

 その思いが取り戻せない物を無くした事を後悔させた。

 

 《もっと早く使っていれば………


 もっと多くの命が助かった筈だと、後悔してもしきれ無かった。

 心が張り裂けそうに成る、


 《大声で喚けば少しは楽に?………


 駐屯地への寄り道はマリネの提案だ、口にすれば彼女が傷つく。

 いやもう十分苦しんでいる筈だ、地竜の世話をわざわざしに行った。

 ロゼの顔を見るのが辛いと。自分の進言で主に要らぬ重荷を背負わせたと。

 口にしたらマリネの苦しみに拍車が掛かる事になる。

 

 《それはできない…》


 悩んでも悔やんでも時間を巻き戻す魔法は無い、仮に有っても知らない。

 三人にやれる事は、此れから先を考える事。


 「よし、皆揃ったし三者会談よ!」

 

 三人で相談し出した答えは、先ずはロゼの回復を優先して待つ、十分に回復しきった時点で早々に此処の基地も退去する、話がまとまった。最初に訪れた駐屯地もそうだったが、ここは魔物との最前線で自分達の様な者が居れば迷惑以外の何者でもなかった、その事実を突き付けられた。


 約三時間後ロゼは全ての回復を終わらせた。

 黙って出て行く事は礼儀に反すると、先の駐屯地隊長にだけは一言、礼と自分達が居たことで撤退が出来ずに大きな犠牲者を出したことを深く詫びた。隊長は今から発つと途中で夜に成る為、もう一晩留まる事を進言するが、今度だけはロゼは承諾しなかった。


 「御好意に感謝するわ、でも発ちます」


 「では、皆の旅のご無事を」 


 三人は深々と礼をすると地竜に騎乗し中継基地を後にした。

 しかし、ロゼ以下三人の心に、深く傷痕を残す一日となってしまった事は言うまでもない。


  



 悲惨な結果を残し出発したロゼ達だが、ユキヒトの方は街へと戻るや否や、何やら服装で揉めている様子である。アリアネスがその服装では、変に目立って仕方ないこちらの服装に変えろと言う、ハルもその服は珍しくて興味あるが、やはり変えた方が良いのではと半ば共謀された。


 「別に愛着は無いんだが……」


 郷に入っては郷に従え、それは理解してるが仕切られっぱなしの境遇に、気分が悪い。此処は断固こちらの意見も通さすのが、男の僅かな甲斐性だと、条件を付き付ける。


 「変えるよ、だが、二人もだあ」


 二人からの猛反撃を喰らうかと思いきや、以外と素直に聞き入れる。

 弁当を食べて眠り扱けた石像の場所で、待ち合わせをし二人を待つ。


 待つ事約一時間、最初に顕れたのはハルの方だった、彼女は前の野暮ったい灰色の服から、まるでメイド服の様な服装で現れた。メイド服のフリルは無いが、女性らしく可愛さをアピールしてハルに良く似合っている。


 「ハルそれ良い!

    似合ってる!」


 正直な感想をハルに投げると、彼女は感激して腕に抱きついてきた。


 「良かったあ、嬉しいー」


 あっちで、女性には散々な目に遭って来たユキヒトだが、素直な気持ちを顕にして、腕に抱きつかれて気分が悪い筈が無い。笑顔一杯しがみ付いていたが、そろりと腕を外し石台へと座ったハル。ショートの髪を軽く指で流し、女神像を見詰める姿は可憐な乙女と言った処か。


 《いいわぁ、こういうの》


 可憐な乙女に、心此処にあらずの状態を、覚めさせてくれたのはアリアネス。


 「ま、待たせたな…」


 「………………」


 確かに緑のフード付コートから変わってはいたが、彼女の姿は大昔のヒッピーである、その服装を批判する訳ではないのだ、現在でも一部で嗜好されているとユキヒトは聞いた事がある、然しながらユキヒトの趣味ではない。ハルがビシッと似合いの服装をしてきたので、当然彼女も大人の女性をアピールする服装で顕れると期待していたのが、大いに外れてしまった。


 《困ったぁ、下手な事言えないぞ……》


 感想を述べるのに四苦八苦していると。


 「こ、この服は……駄目か?」


 何か不都合でもあるのか?ハッキリ言え、とでも言われるかと身構えたのに、なんと意表を突いたセリフか、元々がエルフの美貌である。その容姿で身体を隠す様に縮め、こんなセリフを口にされたなら、男なら誰でもドキッとなるのは必然と言うもの。


 「うお…これはツンデレか?、

    て、わああぁ!」


 アリアネスの意表を突いた言動に思わず生声だしてしまう。

 

 ユキヒトの狼狽振りをそばでじっと観察し見ていたハルは、彼が何を感じて如何想っているのか?、なんとは無しに分かってしまった様子。期待した服装とは違っていた、そして此れまでの彼女の言動と違ったセリフに、戸惑っていると。

 要するに。


 《………服装が気に入らないっ、

   外観(イメージ)と違った反応に戸惑っているっと》


 「って、事ですよねえ━━━ぇ」


 「え?」

 「へ?」


 二人同時に反応する。それを楽しげに眺めながら、大丈夫です自分にまかせて欲しい、きっと期待に沿う服装を探してきますと言い放ち、アリアネスの腕を強引に掴み引っ張っていくハル。その腕を振り払う事もせずに、ハルの成すがままに連れて行かれる。


 一人石像前に残されて、ポカンとなっているユキヒト。


 去っていく二人の後姿を眺めながら思った。陽気なハルは良い、彼女はそういうイメージだ。しかしアリアネスのあの変わりよう、何時もの命令口調とは違う、あんな別人な一面を見せられて動揺を隠せなかった自分に。


 《俺もしかして、年上に弱い?……》


 等という思いが頭を過ぎるが、ハルがどんな服をアリアネスに選んで来るのか?、考えるだけで非常に興味が沸いてきた時点で忘れ去った。想わぬ展開で一人きりとなっているので、今度は昨日放置されてからの事を、振り返って整理してみた。


 「こっちへ飛ばされて二日目か……」


 此処がフォーチュンと呼ばれる異世界だと分かった。化け物の山犬を始め、この世界には凶暴で残忍な魔物が生息している事が判明した、それをいとも容易く討伐する者も居る。意にそぐわぬ召喚をされてしまったが、この世界で三魔女と呼ばれる一人が、元の世界へと帰せる方法を知っている可能性があり、彼女の居場所を聞く為に、理不尽に試されるが合格、此れからその場所へと向かう。


 「その手前で、停止中と」


 試された事で自分にも何がしかの、得体の知れない物が宿っているのも事実のようで、そうでなければオークと比較に成らない巨大な龍を、あっさりと手懐けた神業と思しき行為など、出来様筈がない。その後で考えてみると、山犬の時もアリアネスの言った、心臓を破壊したという行為も、ひょっとしたら本当に無意識の内に自分がやったのではないのか?と思えてきた。


 「けど、此処に留まる理由にならない……」


  ユキヒトさ━━━━ん!


 ハルが服の選定を終えアリアネスを連れて来た。


 「これで如何ですか━━━━ぁ」


 「うおっ!!」


 ハルの選んできたアリアネスの服装は。全身黒で統一、黒皮ミニのワンピースに小物入れ付きのベルトで腰をギュッと締め、肩からは黒のシャツが細い腕の手首まで延び、細身のブーツは黒のタイツを膝頭の下まで隠す。なんと最初から知っていたかの様に、ユキヒトのど真ん中ストライクの服装を選んできた!。


 「ハル、G・Jだ!」


 ハルのG・Jてなんですか?っというベタな質問には笑って誤魔化す。

 これでやっと出発できるなと。


 「じゃあネーブルへ………


 「まだです!」

 「まだだぁ!!」


 二人に輪唱されビシッと指を刺され━━━━。


 「俺か……………」


 「私にこんな服着せたんだ、覚悟しろ」


 っと、先程までのデレモードは終了してツンモードに再突入、声の強さと、二人から腕を取られ連行していく様に、どんな服装にされるんだ?と覚悟していくが、普通に無難な服を着せられた。


 しかし此れでやっとネーブルへと行けると一安心する。彼女らの話では陸からも行けるが、かなりの距離で日にちも掛かる、途中で魔物や山賊の類に襲われそうな箇所も多く、港町ペレストまで地竜で走りそこから船で渡るのが一番良いのではないかと話が落ち着いた。


 「でも地竜なんて持ってないけど?」


 「大丈夫ですよ」


 町から町へと有料で借りれるのだと説明を受ける。


 《はぁ…レンタカーって事か》


 手続きは自分がしてきますと、走って行くハル、よく動く(ひと)だなっと関心する、待ち時間もさほど掛からず、間も無くハルは三頭の地竜を連れて来た。ユキヒトの地竜の見た感想は、ダチョウとラプトルを足して半分にして一回り太くした感じ?、っといったとこだった。


 「よし、それでは出発するぞ!」


 やはり仕切るアリアネス。


 三人は地竜に跨り森林の街ズーイを出発する。

 異世界で初めて訪れた街、何度も死にそうな目に遭った。

 しかし全て切り抜け生きている、そう想うと胸に込み上げてくる物がある。


 来る時にはあれほど遠く長く感じた道も、もう巨漢の旦那の家が見える。

 あの少女はもう山犬に襲われていないだろうか?

 あの夫婦は相変わらず陽気で逞しいのか?

 そう想っていると森の出口が見えてきた。


 ユキヒトは短くも長い、一日半をこの森で生き抜いた。

 胸にぐっと込み上げてくるが。


 《さよならー》


 一言、心で告げながら三頭の地竜は森林を抜けた。

 

 

 ロゼ達がドアの森林を抜けてから数時間後、辺りは夕闇が訪れ、此処で野宿を強いられる事となった。地竜の鞍から携帯用の粉スープと干し肉を取り出し、火を熾しお湯を沸かしスープにしてから干し肉と一緒に口にする。 火を絶やさぬように交代で番をして、三人は一夜を過すが今朝の悲劇が頭に浮かぶ、その夜は誰もがしっかりと睡眠を取る事が出来ずに朝を迎える。


 ポツポツと顔を叩く感触で三人は雨だと気が付きく。


 「わわ雨降ってきた!」


 「これ着てください!」


 ブラッディからコートを受け取ると素早く身に纏う。

 空模様から通り雨と判断し、朝食は雨を切り抜けてから取る事にし出立した。



 ユキヒト達の方はズーイの森を抜けた後、暗闇の中を走り続けていたが、彼の腹の虫が癇癪を起こして鳴り続けた為に、そこで今日の移動を中止にした。空腹のせいで止まった事で、アリアネスからは馬鹿にされるわ、ハルからは笑われるわ、朝から気の休まる事のない一日だ。


 「えーい喧しい!、

    鬱陶しい音を何とかしろ!」

 

 ハルユキの空腹を知らせるサイレンが五月蝿いと、此方も早々に薪を拾い集め火を熾す、携帯食を口にして、やっと騒音が解消された。明日も一日走る予定で早くに寝たほうが吉なのだが、最初の番は自分がするとアリアネス。こういう状況には熟れているらしい、それではと横になろうとするユキヒトにハルが質問してきた。


 「ハルユキさん……て

  誰に連れて来られたんですか?


 当然、質問されても不思議ではない、普通に考えて招致されたのだから、召喚した相手が居る筈である、なのにずっと独りなのだ。此れにはアリアネスも興味を引かれた、耳をそばだて聞いている。


 「誰だか…知らない……」


 昨晩、賢者アジモフに語った一通りの顛末をハルにも聞かせてやった。

 

 「その女性(ひと)の特徴とか?」


 髪は長く金髪で、背丈はハルと同じ位だと。しかしそんな特徴の女性はこの世界に掃いて捨てるほど居るだろうから当てに成らないよと答えるユキヒト。話をじっと聴いていた二人だが、召喚出来る事と外見的特長、更に連れて来るときの振る舞いから、どうやら当てがある様だ。だが確証が無い為どちらもそれを語ることは無かった。

 質問も終わり、明日も早く発つから寝ろと、仕切られ二人は横になった。




   ………おきて、

       ハルユキさん……起きて下さい


 想ったより良く寝れ、優しい声で起こされるが………


 「早く起きんか馬鹿者!!」


 ドカッ━━━!


 足で蹴り転がらされて、一瞬で覚醒するユキヒト。


 「通り雨だ走り抜ける、着ろ!」


 《少しはハル見習えって…》


 絶対口に出来ない言葉を心で吐きながら、コートを纏う。

 通り雨だと言うのに随分と雨雲の切れ間に到達しない。

 アリアネスが地竜の速度を落とし、声の通る位置まで後退した。


 「前からも誰か来る、

   此方が右に避けるぞ」


 距離があっても地竜の脚は速い、少しでもふら付き接触したら投げ出され、大怪我でもしたりされたりを避ける為、早めの回避行動である。



 「ロゼ様、前から来ますが、

 先方が避けてくれてます」


 「了解、このまま進みましょ」


 やがて、すれ違う三体の地竜の二組。


 此処で雨が降っていなければ、両方の地竜は急停止した事だろう。

 だが、雨の中地竜で疾走するコート姿、横並びは刹那で過ぎた。


 一方はネーブル目指して港町ペレストへ。

 一方は賢者アジモフに逢いにズーイへと。


 二人が顔突き合せるのは、いま少し先の模様。



読んでくれてありがとうございました

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