異国
続きです、よろしくお願いします
元大公の屋敷の庭での事……。
第三の魔女ラクテルと、黒衣の死闘が繰り広げられていた事等、知り様の無い俺達は、お金が無い為に一般的な移動手段が取れず、港町テグーで停滞している状態が続いていた。
このまま、何もしない訳には行かない━━。
「ちょっと街中を周って来る、何か良い手が見付かるかもしれんしな」
石段に座っていたアネスが最初に立ち上がり、街を回ってくると言うと、ハルも立ち上がり一緒に行くと言う、それじゃ俺もと、脚の砂を掃いながら立ち上がる。
長い下り坂を、二人が歩いてるのを後ろから眺めていると、ゾーイの街が浮かんで来た。賢者からラケニスの事を聞いた後、ネーブルへ向かう為に、この三人で森林の街を旅立った頃が思い出された。
それ程長い月日が経ってもいないけど。
ちょっと懐かしい気持ちになった。
「この三人ってさ……」
「ん、三人がどうかしたのか?」
アネスは、ちょっだけ振り返って返事をするが、足を止めず歩いている。彼女の横を歩いているハルも、それに吊られて振り向いた。
「この三人で、旅始めたんだなぁって……」
「あ……、ほとんだ! 、偶然ですねぇ」
「うむ、あの時はこんな事に成るとは、想像していなかった」
ネーブルへ行って塔の魔女に会えば、元の世界に帰れる。
彼女達、ふたりとはそこでお別れに成る筈が、奇妙な事に巻き込まれながら一旦は離れた。結局、二人は戻って来る事に成った。
そして今、気が付いてみたら三人一緒。
こんな遠い場所に飛ばされてしまったが、又、三人で歩いている。
「腐れ縁とは、よく言ったもんだなぁ……」
「貴様は……、私達と一緒に成ったのが不満か……?」
「え……、そうなの?ユキヒトさん」
悪い意味で、言った心算は無い。
だが、アネスには少し誤解をされ、それがハルにも伝染した。
「それは誤解だぁ、そんな意味で言って無い。只……」
「只……何だ?」
「只、何ですか?」
二人同時に聞いてくる、良いコンビだ全く……。
「不思議な縁だなと……、思っただけ」
あの日……、アネスにあそこで逢う事が無かったら。
「あの森で、偶然にも居合せなかったら、賢者へ会わす事も無かったか」
賢者に会いに行く事が無かったら……。
「だったら━━、私にも逢えませんでしたねっ」
二人の声が、普通に戻った。
「確かに、一度分かれた後に戻ったしな」
「本当に、腐れ縁ですね━」
「だろ━━」
そこで一旦会話が途切れたが、気分を害しての事では無い。
二人は前を向いて歩いている状態だが、ご機嫌な顔をしている事だろう。
それは、アネスが知らない鼻唄を口ずさみ出した事と、両腕を後ろ手に組み、軽やかに歩くハルの姿。それを見ていたら、容易に判断が出来たからだ。
俺達三人が、坂を半分ほど下りた時に、下から人が走って来た。
「急がなきゃ……、急がなきゃ━━」
っと、呟きながら俺達の横を走り過ぎて行った。
「あの人……、偉く慌ててましたね、何か在ったのかしら?」
気の優しいハルには、知らない人でも気に成って振り返っている。まぁ、アレだけ息を切らせ走り去っていった事を考えたら、普通に大事が起きて急いでいる事は想像できた。こちらも大事の真っ最中であり、女性一人が走り去った程度を、何時までも気にしても居られず、俺達は直ぐに忘れ坂を下っていった。
街中をグルグルと渡り歩いて、一軒の店の前で足を止めた。
その店の前には、張り紙が張っていた。
【薬草は現在品切れ中に付き、買い取ります】
「ふむ……、地竜は無理だが、宿代には成りそうだ」
俺達には、三人の宿代すら無かった……。
「私、聞いてきますね━━!」
ハルが店の中へ詳細を聞きに入って行き、再び戻って来た。
「私達が、眼を覚ました森の奥に生えてる薬草が品切れで、買取中ですって」
「薬草の生えていそうな場所なら、見当が付く。行ってみるか……」
何時も、森の中を散策している彼女が居ると、こう言う時に助かる!。何とか、宿で泊まれる事には成りそうだ。ほっとした俺達は早速、元居た森の中へ薬草を探しに向う、ついでに山犬を狩って肉と皮を売り、旅費の足しを稼ぐ事にした。
「おかしい……、山犬の姿が見えない!」
多分、薬草は森の奥に在る池か湖、沼地の辺にある筈と、奥へと入って居るのだが。途中で狩る筈の山犬処か、他の動物の姿すら全くと言って確認できず、アネスが不思議がっていた。
「山犬が居ないのが、そんなに変なのか?」
山中や森に詳しくない俺や、ハルには良く分かっていない……。
「いや……、他の動物の気配すら見え……
きゃあぁ━━━っ!
そんなに離れていない場所から、女性の悲鳴が響き渡った!
「こっちだっ!」
アネスは即、方向を見定めて走り出し、俺達も続く。
草木を掻き分け、声の聞こえた場所へ辿り着いた……。
巨大な熊が女性を今にも襲いそうな光景が飛び込んできた。
「動物が消えたのは……、こいつのせいか!」
身の丈は四メートル、いやもっと有りそうな奴が女性を襲っていた。
女は、悲鳴を上げたが恐怖でその場から動けずに居る。
その体躯から、矢を数射した処で怯みそうには無い、俺にはこの場では使え無い刀のみ。治癒士のハルに攻撃魔法は無く、女性を救う方法はアレしかない。
「アネス……!」
「うむ、承知したっ!」
アネスの肩に手を当てる、一瞬アネスはビクッと震える。
構えた弓に、白銀の矢が現れる━━。
「い、いや……、だ、誰か……、助けて」
口腔から涎を垂らし……、巨大な熊は女性にその極太い筋肉の腕を振り……。
女に触れる前に白銀の矢が貫き、太い筋肉もろ共、腕を吹き飛ばした。
グオオオオオオ━━!
此方へ顔を向け、襲い来る素振りを見せるが、二射目の白銀の矢を受け巨大な頭部も、胴体から消えてなくなった。
「白銀の……矢?」
命が助かった事を、夢の様に捉えていたのか……、只一言だけ呟いた。
俺達は、彼女の傍に駆け寄り無事を確めた。
「おい……怪我は無いのか?」
その時、俺はすぐに気が付かなかったけど、ハルは違った様だ。
「あれ?、この人さっき走り過ぎた人じゃないですか?」
「え?」
ハルに言われて良く見ると、確かに街中で、俺達の横を走り去って行った女性だと分かった。だが、武器も持たない女性がたった一人で、何故こんな場所に居るのか?。
そう言えば、かなり急いでいた様だが……。
ようやく、話が聞けそうな程度に、その女性も落ち着きを取り戻した。
アネスが危険な森へと一人で入った理由を聞いた。
「お前武器も無しで、こんな場所に如何して?」
「私の、御主人様が御病気になられて、街に買いに行ったのですが……」
病気になった主に、飲ませる薬を買いに街まで行ったが、売り切れていた。それで、薬を作る材料の薬草を採りに森へ入ったが、熊に襲われ死にそうに成っていた。
っと、言う事らしい。
俺達の目的も同じであり、彼女を一人で行かす訳に行かず、俺達が一緒に付いて行く事にした。それに地元の人間であれば、薬草の正確な位置を知っている為、時間の短縮にもなる。彼女の案内で迷う事無く、薬草を手に入れる事が出来た。
お互いに、薬草を必要な分だけ手に入れ、森の入り口まで一緒に行動した。
そこからは、彼女とは行き先が違う為、別れる事になる。
「あの……、本当に有難う御座いました。」
「気をつけてね、じゃあ俺達はこれで……」
薬草を売りに街へと向かう俺達を、暫らく見送った彼女だが。坂で見せた全力疾走を、再び披露して走り去って行った。
街の入り口に差し掛かった辺りで、アネスに一言皮肉めいた事を言われた。
「ユキヒト……お前、本当に女性絡みで何某かに、巻き込まれるな」
「ふふふ、本当におおいですよねー」
「ひでぇ……」
二人に、そう言われ笑われた。
女絡みで、何か起きるのは昔から続いている事で、今更……。
この世界に来てからは、命の危険に曝される事ばかり続いているが、それ以上に大切な人達に逢えた事が、俺的には嬉しかった。
俺達は、森で採取した薬草を売り、出来るだけ安い宿を探した。
屋敷裏庭での戦闘、それを離脱した黒衣は仲間の所へ、戻って居た。
「二人やられた……」
報告を聞いた黒衣達は、想定外の事態に偉く慌てている。余りに早く八名が揃い、見張りをしていた仲間が倒されたと、勘違いをしていたからだが……。
「こちらの予想より、随分早く集結してしまったか……」
それを聞いた報告者の黒衣は、首を振って否定した。
「殺したのは……、第三の魔女ラクテルだ!」
「己っ、何故古き魔女が動いたのだ……」
「分からぬ……。だが、第二の魔女が、余計なマネをしたのかもしれん」
それは当っていた。塔から動けない自分に代わって、分断された者達が再び結集出来るまで、その失われた戦力を補う為に、第二の魔女を呼び寄せた。死んだ第一の魔女リリカを含め、三人の中では、一番の若さでは有る。だがそれは、一番弱いという意味とは重ならない、寧ろ一番アグレッシブで、戦い難い相手かもしれなかった。
現に、ふたりを苦も無く倒して、三人目も危うかったのだ。
積極的に襲ってくる彼女は、性質が悪い、分断された事で計画が進め易く成る筈が、黒衣達にとっては逆に仇と成りかねなかった。
「この場所は、まだ見付かっていないが……」
「連中が、嗅ぎ付けた場合には、今居る物だけでやってくるか……」
「これは、もう一つの計画に変更も、已む得ぬか」
黒衣達は、姿をけして何処かへと散って行った。
一方、元大公の屋敷では。
「ええ! 、裏庭で今、黒衣と戦ってきたぁ?、マジで……?」
「うん、一人逃がしちゃったけど、二人は始末してきたわよ」
黒衣を倒して来たと、報告を受けている処だった……。
涼しげな顔しながら、お茶を飲み始めた彼女を見ると。
三人の黒衣を相手に、掠り傷一つ負っていない彼女の姿に、驚愕した。
「やっぱり……、第一の魔女と同類だぁ!」
ロゼは率直な感想を口にした……。
有難うございました




