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女難危行・拉致した皇女と六人の嫁  作者: 雛人形
悲しき破壊の女神 一
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虐殺

続きです、よろしくお願いします

 

 「蛮族の長のあんたに話が有る……」

 

 格好付けて、勇んで言ってはみた物の……、如何切り出せば良い物か?。

 下手な事を言ってしまうと、怒って斬りつけて来ないとも限らない。

 

 翌々考えたら、誰かを説得する事なんて経験が無かった。第一、蛮族と言われる位だし、その性格も短気で粗野な筈だ。そんな連中の長なら、物凄く出来た人柄か若しくは、激しく兇悪かのどちらかだ。今目の前に居る長の顔付は、とても前者とは言えない。

 

 最大に凶悪と予想される長を、どうすれば話を聞いて貰えるのか?。

 悩んでいるのを悟られない様に、精一杯虚勢を張って見せる。


 「貴様も……人間だろ?、何時此処へ流れ着いた?」

 先に相手が切り出してくれて、情けないが助かった!。


 「いや違う……、呼ばれて黄泉に来てる」

 「黄泉の国に呼ばれただと?、ふざけるんじゃねぇ、そんな馬鹿な話聞いた事が無い! 、一体誰に何の為に呼ばれたと言うんだ、あぁん?。さては貴様、王達に頼まれ俺を殺しにでも来たか?」


 最後の問いの時は、その男は薄ら笑いを浮かべていた。此れまで天軍を相手に、連戦連勝してきた自信がその男に、絶対の自負を持たせている。周りの蛮族の装備や人数を改めて確認しても、俺達が此処の連中を相手にして、遅れを取る要素は皆無にしか思えなかった。


 「同族なら俺を殺せると?、随分コケにされた物だ!」

 長の男は、俺が殺しに来たと決め付けてしまいそうだ。


 「うーんちよっと違うかなぁ……、あんたの持っている剣を……」

 俺は、相手の腰に見える剣を指さした。 


 「俺のこの剣を……だと?、ははあ……貴様この剣の威力を知ってるな」

 男は自分の腰の物を、掌でぽんぽんと叩いて見せた。 


 「知ってる……、その剣を渡して欲しい」

 素直にはいそうですかと、渡す筈は無いのに安易な事を言った。

 男は直ぐに不快感を見せて、断ってきた。


 「馬鹿か貴様は?、腐れ王達に一泡吹かせれる武器を、誰が渡すかっ!」

 「そこを……何とか渡して欲しい、でないと俺達は……」

 「ふんっ、やっぱり仲間が隠れてやがるか、おーい、その仲間を呼んで俺達を殺すらしいぞおっ!」


 天軍が情けないのか、ここの蛮族が強すぎたのか?。蛮族の長は此れまで随分な数をその宝刀で、天軍の兵達を斬り倒してきている様で、その絶大な剣の威力に酔いしれてしまっている。周りの仲間に大声で叫び上げると、蛮族達の豪快な笑い声が辺りに響き渡った。


 「あの王達に抵抗してると聞いてたから、期待したかったけど」

 「貴様何を言ってる?、俺達が正義の戦をしてるとでも思ってたのか?」


 思っていたのだ……。

 理不尽にこんな場所に飛ばされた。行き着いた先でも、高邁な王達から人間と言う事で虐げられ苦汁の日々。偶然にも統治者達に、対抗出切る武器を手にした事を切っ掛けに、同じ様な者達を連れて外へと逃げ延びる事にも成功した。


 此れから流れてくる者達の為にも、自分達の居場所を確保する必要が有る。

 その居場所を作る戦いを挑んでいると、思いたかった。

 実際は只の憂さ晴らし……、奴等と戦える力が手に入って暴れているだけ。


 「最後に……、その剣を渡す気は……

 「返すと思うかぁ? 、どんだけ間抜けなんだ貴様!」


 話は決裂した。

 本意では無いが……、力尽くで取り返す。


 如何するか決ってからは、あっという間に事は済んだ……。

 彼女達の方へ顔を向け、首を振ったのを合図に二人が飛び出してきた。一斉に群がってきた蛮族も、ロゼの火焔で瞬時に焼き払われた……、逃げ惑う者もアネスの矢で次々と射抜かれ倒れていく。たった二人の攻撃で蛮族は全滅した。


 最後に残った蛮族の長も哀れな物だった。

 狂った様に剣を振り回してくるが、只それだけの攻撃……。

 マリネの剣を手にして……、一太刀でケリが付いた。


 蛮族達の集落は、大量虐殺の惨劇の場と成り果てた……。

 死体と成った蛮族も、何処かで無為な殺戮をしてきたのは事実だが。

 抵抗すら叶わぬ力で捻じ伏せてしまった。


 何とも遣り切れない、自責の念が俺の中で芽生えていた。

 長の手に握られていた剣を手にして、俺は呟いていた。


 「こんなの……、只の虐殺だ」

 「ユキヒト……、焼き払ったのは私なんだから……」

 「逃げ惑う者を射抜いたのは私だ! 、お前がそこまで……」


 二人は、そこまで俺が気に止む必要は無い、そう言っていた。

 彼女達の気遣いは痛いほど嬉しい……。


 「蛮族討伐、ご苦労でした……、後は我等が……」

 もう一つの宝刀を渡してくれとばかりに掴んできたが、振り払った。


 「此れは俺が渡す……、文句は言わさない!」

 「わ、分かりました、ではその様に……」


 武官は集落の土地から魔法陣を作り、俺達を運び始めた。

 帰る途中でアネスが、耳元で囁いてきた。


 「ユキヒト……、何かやる気だろ?」

 その答えには無言で頷いた。

 帝釈天の思惑に乗って、蛮族と長の討伐は終らせたが、このまま黙って剣を渡してやる心算は、全く無かった。奴の思い通りに全てを終らせては、気が済まない。俺達をこんな事に理由使用とした償いは取らせてやる心算だ。


 夜叉姫の屋敷へと戻ってきたら、そこには帝釈天も居た。

 俺がもう一つの剣を手にしているのを見ると、駆け寄ってきた。


 「ふん、蛮族は討伐出来た様だな、その剣も此方へ渡して貰おう」

 

 帝釈天は手を伸ばして来たが、それを宙に投げ……。

 夜叉姫から受け取った刀で、もう一つの宝刀を両断した。


 金属の破断される高音の響きと共に、地に落ちた白刃は音も無く消滅した。

 刀同士で斬れる保障は無かったが、見事に切断され姿を消した。


 「己っ!、貴様ぁ何をしたのか分かって……

 「十分に分かってる!」


 帝釈天の首元に、刃を付きつける。武官たちが俺達を取り囲んだ!。

 夜叉姫も、俺がまさか帝釈天に刃を向けるとは思っていなかった様で。


 「待てっ! 、帝釈天を斬ると……」

 「こ、ここの天を斬る心算かぁ!」

  

 勿論、そんな事をしたら彼女も只では済まなくなる。

 そんな馬鹿な事をする心算は、もうとうない……。


 「俺と一つ約束してくれたら……、何もしない」

 「なに、何を約束しろと言うのだ……」


 俺の言いたい事は、一つだけだ。

 「黄泉に飛ばされて来た人間達に、二度と理不尽な扱いをしない事だ」


 討伐した蛮族達も、まともな扱いをされていれば、ああは為らなかった可能性だって十分に在った筈だ。そうしたら、あんな虐殺紛いの事に成らなかった。


 かもしれない……。

 俺達が討伐してしまった者達に負える事は、此れしか思いつかなかった。

 もう一度、白刃を帝釈天の首へと押し付けて迫った。


 「約束してくれるよな?」

 首に自分を滅し去る刃を押し付けられても、まだ王としての虚栄を張りたいのか、直ぐに返答をしない帝釈天だが、窮地を脱する方法を見つけられなかったらしく、観念した。


 「分かった……、理不尽に扱わぬ様に手配する、これで良いだろ」

 「んー、欲が出た、夜叉姫にも何も手を出すな!」

 「ぐぬっ……、わかったぁ、それも約束する」


 帝釈天の首から刃を放し、開放すると一目散に武官の下へと駆け寄った。

 しかし……、威厳を持って断ってきたら……と、ヒヤヒヤ物だった。


 「二度と黄泉の国へ来るでないわ!」

 神とは思えぬ捨て台詞を吐いて、帝釈天は去って行った。


 「異界人よ……、帝釈天を脅すとは、とんだ怖い物知らずだな!」

 「あははは……、ちょっとロゼのマネして這ったりかまして見た」

 「もう……、私だって神に這ったりなんてしないわ……」


 いや……、ロゼなら必要に迫られたら間違い無くやるぞ……。

 

 「此れで、全部片は付いたのかしら?」

 「うむ、奴の失態も阿修羅が根回して、他の王達に知れる事に成った」


 夜叉姫の頼みは、とんでもない事に成ったが無事に終わる事が出来た。もう少し、滞在して行かないかとの申し出は、現世の事も在り丁寧にお断りする事にした。

 

 「名残惜しいが……、この借りは何時か返そう、さらばだ……」

 夜叉姫は、魔法陣を開き俺達を現世と送り返してくれた。


 イリスの屋敷に戻って来た俺達は、全員がその場へと座り込んだ。阿修羅王の様な神も居るし、全員が帝釈天の様な神とは思わないが、たった二日の出来事なのに随分と長い期間、黄泉の国に居た様に錯覚した。


 「ニクスの件て……、どうなってるのかしら?」

 

 疲れた顔でロゼがぽつりと呟いた。

 二日間は黄泉に居た為、何か在っても連絡取れなかったと思う。

 俺達が戻って来た事で、何か進展があればラケニスが言って来るだろう。


 ニクスの件は当然として……、最後に皆でラケニスの塔に行った時、ひとりロゼだけが残った。彼女と何の話をしていたのか?、今もって聞かされていない。


 重要な事なら皆が知っていた方が、良いと思うのだが……。

 

 「なぁロゼ……、最後に塔から帰る時、彼女と何を話してたんだ?」

 俺からの質問に、気だるそうに力無く手を振り。


 「あれね……、大した事じゃないから気にしないで……」

 「ふーん……」

 彼女がそう言うなら、大した事でもないのだ。

 そう納得する事にした。

 

 この時、二人が塔で話していた事は、遠い先で判明する事に成る……。


  まだ……ずっと先の話……。


 黄泉の国から戻って二日目に、夜叉姫が姿を見せた。


 「一応……、その後の顛末を教えておこうと思ってね」


 俺達が黄泉の国から帰った翌日に、王達が緊急の召集を開き、帝釈天の一連の不始末の報告と、不意に流されて来る人間達の扱いに付いて、夜叉姫と阿修羅王から提案を出した。今後は、漂着した者にも役目を与え、理不尽に扱うのは禁止の取り決めが成された。


 「以上よ……、長居するのも禁止だし、これで帰るわ」

 要件だけ伝えると彼女は、早々に立去った。

 多分、気軽に現世へ来るのも厳しく制限されたのであろう。


 そして翌日の事、遂にラケニスからの連絡が入った。

 イリスに扉を開いて貰い、塔へラケニスに逢いに行った。


 「何か……掴めたの?」

 「済まぬな……、やはり手間取ってしもうたわ……」

 「それで、痕跡が見付かったのか?」


 「うむ、百数十のニクスに纏わる物を使い魔に調べさせたいたら、在る所で使い魔からの連絡が途絶えた。奴らは間違い無く、そこじゃ……」


 ようやく……、事態に進展が訪れる……。

 俺達は、彼女からの次に語られる言葉に聞き耳を立てる。



有難うございました

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