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女難危行・拉致した皇女と六人の嫁  作者: 雛人形
悲しき破壊の女神 一
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虚栄

続きです、よろしくお願いします


「八王の帝釈天と 阿修羅王の二人だ……」


 夜叉姫は、自分の屋敷へと訪れた二人の王を紹介した。

 どちらの王も、武に長じた精悍な顔付をしているが、阿修羅王に比べ帝釈天の方は冷酷な統治者を想像させる物で、俺の嫌いなタイプに見えた。


 勿論、顔で判断すべきでは無いのは重々承知の事だけど。

 生理的に受け付けない……。


 〝どうも……、この手の顔は苦手だなぁ……〟


 生理的に受け付けない、感の様な帝釈天への感想はやはり当っていた。

 

 「我は天の王である。うぬが、不遜にも宝刀をせしめた者か?」 


 紹介され終わると、さっそく尊敬と畏怖を感じ取らせたいのか、自ら天の王を名乗り高邁な態度で接してきた。来て早々に感じる典型的な支配者……、俺の嫌いなタイプと確定した。


 「帝釈……、宝刀は我が認めたから託したのだ、不遜とは失敬であろう」

 夜叉姫も彼を嫌いな様だ、直ぐに奴の言葉に異を唱え反論した。


 「黙れ下郎、人如きに宝刀を託す等、貴様には……

 「止めぬか帝釈……、喧嘩をしに来たのではないぞ」

 「うぐっ……阿修羅……」


 虚栄、過ぎた高邁さの見本の様な王だが、阿修羅と呼ばれた王は、彼の胸板に腕を当て言葉を遮った。こちらのほうは、随分と帝釈天とは違う態度で接して来た。


 「異界の民と、その連れの者達よ、我が同胞が失礼を致した。我等は争いを起こしに来たのでは無い」

 

 阿修羅王の方は、その言葉からも分かるが、俺達に敬意を持って接してくれる様だ。俺の中に有る神と言う存在と、この世界の神が同じで有るとは思えないが、必要以上に遜る気は起きない。


 「阿修羅よ、彼らに何をさせようと言うのだ?」

 

 夜叉姫の問いに対して、阿修羅王は直ぐに返答をしなかった。

 言葉にするのを、躊躇って居る様にも見える。如何やら彼は、その内容を良くは思って居ないようだ。それでも各王の代表で来ている以上は、それを提示しなければ成らない。


 暫しの沈黙は俺にはそう感じ取れた……。


 「蛮族率いる者の討伐を持って、異界人が刀の主と認める……」

 「何だと……、貴公らは、それを彼らに成させる心算かっ!」

 「当然だっ! 、その位の事をせねば認める訳にはいかぬっ!」

 「くっ……、狡猾な事を……、貴様らこそ王の資質を疑うわぁ!」


 夜叉姫達の会話を聞いていたロゼが、俺に囁いてきた。


 「何か、彼女の態度見てたら、随分と厄介事を押し付けられそうね……」

 「だよなぁ……、俺もそう思う……」

 「無視しちゃったらどうですか?」


 ハルにはしては珍しく、あざとい事を言ってきた。

 一瞬可笑しくて笑い掛けたが、確かに一理有る。


 俺達が、この国の王の命令に従わなければ成らない道理は無い。

 断ったら……、如何なる?、その問いをする前に阿修羅王が先に言葉にした。


 「無論、断る事も可能だ……」

 「阿修羅、貴様っ!」


 帝釈天は露骨に阿修羅王に対して、嫌悪を示し詰め寄ったが彼はそれを無視して、自らの考えを俺達に伝えてきた。


 「今、提示した事は我らの言い分に過ぎない。宝刀は渡し手を委ねられた夜叉姫によって、既に異界人に託された……。本来それに異を唱えるは、筋違いで我らにその権利は無いのだ」


 「貴様ぁ━━!、気でも狂ったかぁ、我等の威を何とするかぁ!」

 「王の威?、そんな物は、この国内に縛られている者にであろう」


 二人のやり取りを見ている内に、アネスも俺に囁いてきた。

 「おい……何か妙な事に成って来てないか?」

 「うん……」


 俺達にこの国の王達の意志を伝え、従わせようとしてくると思われてたが、阿修羅王がそれに対して異を唱え始め、今にも二人はこの場で斬り合いでも起こしそうな雰囲気に成っていた。


 このまま二人の様子を伺い、先行きを窺っていても差し支えは無いと思ったが、断ったらどうなるのか?、それの答えが聞けてない。俺はその答えが如何しても知りたく成り、二人の討論に割って入った。


 「討論中悪いけど、俺達がそれを断ったらどうなるんだ?」


 俺の質問に、二人の闘争は中断され帝釈天がそれに答えた。


 「ふんっ! 、貴様が断ったら夜叉姫は、永久封印に処されるわ!」

 「くっ……」

 「本当なのか?夜叉姫……」

 「判決は王達の可否で決められる……、帝釈天の言葉は本当だろう」


 神はたとえ死んでも、何時かは復活する。

 邪龍がそうであった様に、上位に位置する者は滅しきる事は無い。


 だが、永久封印なら話は別だ。

 復活する事が出来ず、ある意味死刑宣告より残酷な処罰と言える。


 「阿漕な真似するわねぇ……」


 ロゼの率直な想いに同感だが、それを聞いた上で断れる程、冷たい心は持ち合わせていない。王達の提示した事を、承諾するしか無いではないか……。


 「異界人よ、如何するのだ?」

 「蛮族を討伐したら……、問題ないんだろ、承諾するさ」

 「ふんっ、良かろう明日迎えをよこす。それまでに用意しておけ」

 

 捨て台詞よろしく去る帝釈天と、拳を震わせ耐える阿修羅王。 


 「夜叉姫……、異界の民よ済まぬ……」


 俺が承諾の意思を示した事で、二人の役目は終った。

 早々に身を翻し帰っていく帝釈天。

 非道とも言える事に、詫びを言い帰っていく阿修羅王。


 戻っていく一同の姿を見ている後ろから、夜叉姫が謝罪を示した。


 「こんな事に成ろうとは……、済まない異界人よ……」

 悲痛な表情を浮かべ、謝罪する彼女の気が晴れる様に、明るく答えてみた。


 「いいさ、蛮族をぶっ倒せば済むんだろ?」

 「確かにそうだが、断っても問題無かったのだぞ?」

 「冗談でも……、そんな事出来るかよ……」


 あー俺の悪い癖だ……、本当女に甘い……。

 元の世界で、あれだけ嫌な目に逢っても、やはりこれだ……。


 「無理、無理……、この人そういうの絶対無理だから!」

 

 ロゼから誉められたのか貶されたのか、微妙な事を言われる。

 それに呼応された様に、マリネにも言われる事に成った。


 「ユキヒト様……、馬鹿が付くほど優しいですから!」

 「馬鹿は……、酷くないか?」

 「いや……、お前は間違い無く馬鹿者だ!」

 「ぐぅ……」


 等々最後に、アネスに何時もの馬鹿者を宣言され、皆から笑われた。

 

 「全く……、お前達は……、蛮族の事を伝えねば成らん!」

 「うん、教えてくれ蛮族とは何者なんだ?」

 

 彼女から聞いた蛮族の正体は……。

 人間の事であった。


 俺が、異世界から召喚された事とは別の事象らしいが、現世から極稀に、この黄泉の国へと飛ばされる者が居るらしい。この国では、空腹にも成らず歳を取らない、一度この場所に流されたら生身の人間も、その時の年齢で永久に生きる様だ。


 蛮族とは、そう言った現世から流れ着いた者達の中で、王達の威に反旗を翻し八つの国から逃げ出し、集まった者達を指していた。


 「理由は分からぬが、今、人を率いて居る者は、王と互角の力を有しいてるのだ、王達はそいつにお前を介して、宝刀が渡るのを恐れている。だから私を……」


 「人の情を利用しようとしたのね……」

 「そう言う事だ……、お前に刀を渡した事が、仇と成るとは……」

 

 言葉には出さなかったけど、宝刀を託してくれた事は、凄く嬉しかった。

 女性絡みで、面倒事に巻き込まれるのは運命らしい。

 元の世界では、苦痛にしか感じなかったがこの世界では、受容れている。


 「もう一つ、言っておく事が有る、奴にはその宝刀は意味が無い」

 「意味が無い?」

 「その宝刀は……、人外しか斬る事が出来ぬのだ、故に……」


 只の棒と同じと言いたいのだろが、関係無い。


 「ああ……問題ない、俺には凄い剣が他にもある」

 「はい! 、任せて下さい!」


 夜叉姫から宝刀を託されてからは、少し気落ちしていたマリネだったが、今の一言で偉い張り切りようだ。彼女の事を蔑ろにした心算は微塵も無かったが、マリネ自身はけっこ消沈していた様だ。


 それを聞いた時にふと思った。

 

 「あ……、それだとリリカは斬れなかった?」

 「あっ! 、そうね……、殺せなかったかも?」 


 魔女リリカに斬りかかった時。寸での処で制止されたが、それが間に合わなかった場合でも、彼女は斬れなかったのではないか?。ひょっとしたら、一万年も生きてる者は人外扱いで、斬れたかも知れないが。


 だが、これで武器が二つ必要に成る事が判明したのだ。人外を斬る刀と人を斬らねば成らぬ時の剣、この事実はマリネには凄い朗報だったのである、自分が必要とされるという事が。


 夜叉姫から必要な事は聞けた。

 明日に成れば、迎えが来て蛮族の近くまでは運んでくれる。

 王達の言い成りに成るのは、多少気分が悪いがそれも致し方ない。


 夜叉姫はせめてもと、豪勢な料理で持て成してくれたが、空腹に成らないのでは?。空腹には成らないが、料理の味までが空に成っている訳ではなかった。万が一に備え、酒だけは皆も避ける事にした様だ。二日酔いで戦えないとか、洒落に成らない。


 「駄目━━、お腹いっぱい……、私もう寝る!」

 「うむ、私もちと食べ過ぎて……、睡魔が」


 俺も少し食べ過ぎ感があった……。

 他の五人も、夜叉姫が用意してくれた個室へと。睡魔に誘われ消えていく。


 美味過ぎる料理に睡眠剤でも入っていたか?、不思議と寝つきが良かった。

 気持ち良く寝ていたが、何かに巻き付かれた気がして眼が覚めた。


 「このまま……、居させて下さい……お願い」

 

 聞き覚えが有り過ぎる声の主は、マリネ……。

 しかも……、直接彼女の温もりを感じている。

 

 此れは……。


 「マリネ……お前」

 「私、貴方が他の刀を振っているのが嫉ましかった……」


 やはり彼女は自分に、負い目を感じていたのだ。

 だが、それは解消されたのではなかったか?。


 「今日、私も必要とされるんだって分かったら……もう」

 「そんな、一度もマリネを不用だとか……


 又……、言葉を女性に遮られた。この世界の女性が、マリネが愛し過ぎる。

 寂しい思いをさせてしまった分、今夜はマリネに優しくしよう……。

 

 他の女性達の眼が気には成ったが。

 今夜は珍しく……、誰も来ずにマリネと二人で夜を過ごせた。

 



有難う御座いました。

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