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女難危行・拉致した皇女と六人の嫁  作者: 雛人形
悲しき破壊の女神 一
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死の影

続きです、よろしくお願いします。

 黄泉の国。

 統治者会合の場━━。


 広い黄泉の国を、八人の王が領土を決め分担して統治している。

 定期的に、自らの領土で起きた事を報告している場だ。この国での王の支配力は絶対であり、それに反目するは未来永劫にわたり、永久消滅を受ける事になる。

 

 輪廻の輪から外され、無に帰す。

 要するに、何事も起きず、起こさずを確認するだけの会合なのだが……。


 その場で、夜叉姫は宝刀を人に渡した事を全王の前で、宣言したのだ。静けさは一変して緊縛の空気に変わり、一人の武王が机を叩き、夜叉姫に怒りを顕にする。

 

 「何だとっ! 、あの刀を人の手に委ねただというのか、夜叉姫」

 「如何にも……、なんぞ文句でもあるかや?」

 

 円形テーブル、正面に座席の王が、立ち上がり夜叉姫を責めた。

 

 「有るに決って居ろうが……、あれを人の手に渡す等……」

 「正気の沙汰とは思えんぞ夜叉!」


 武をもって収める各王が、かくも騒ぐ理由は何か?。

 

 「あの神殺しの刃を手に……、この国へと攻めて来たら如何する心算だ!」

 「ふむ、そう成ると大変だわなぁ」

 「何を笑っておるかぁっ!」

 

 薄ら笑いを浮かべた返答に、各王が立ち上がり激怒する。

 報告の場は、断罪の場へと様子を変えた。

 

 「事も在ろうか……、異世界の民に神殺しの刃を渡してしまうとは」

 「我慢成らん、夜叉を王から罷免すべきだっ!」

 「賛成だっ! 、永久凍結の処罰を提案する」


 夜叉姫の処遇に採決を計ろうとした時、寡黙を通していた王が、一喝した。


 「皆っ! 、静まらぬかあ!」


 その一声で罵声の空気は消し飛び、静まり返った。

 各王は常に平等で序列は無い、しかし一目置かれる王は居る。

 

 「一振り毎に、命を大きく喰らう刃に何を恐れる?」


 神をも切払う刃には、その者の命を喰らうという秘密が在った。仮に、黄泉の国へと刃持ちて攻め入ったとしても、斬る毎に命を喰われるのであれば、命果てるのは時間の問題にしか成らない。その事を再認識した王達は、席へと座りなおした。


 夜叉姫の宣言以外には、取上げる議題は無く。

 宝刀の一件も、一人の王の言葉でその処遇は、見送られた。

 会談を終了して各王は、各々の領地へと帰っていく。


 「お主が、我の見方に廻るとはなぁ……」

 不適な笑みで一喝した王に、しゃべりかけた。


 「貴様の肩を持った訳では無い……、事実を語っただけだ」

 「ふふふ……、主の事、嫌いではないぞ」

 

 黄泉を統べる王とて……、感情を持っている、夜叉姫の言葉で顔を染める。

 各王が部屋を去った後も、二人は残り会話を続けていた。夜叉姫は、その薄着の身体を武王に摺り寄せ、膝の上へと横身で座り首に腕を掛けた。


 「ば、戯けた事を……、しかし何故渡した?、命喰らう刃などを……」

 「面白そうだからに決っておる……、あの男は死なぬかも知れんぞ」

 「馬鹿な事を……命を喰らうは、あの刀の理、神すら抗えぬ……」

 「いや……、きっとあの男は……」


 夜叉姫は、絡めた腕で自らの身を寄せ、武王の唇に重ねた。



 ━━ 第一の魔女リリカの城。


 「分を弁えず、私に刃向ける?、面白いじゃない!」

 「リリカ様……、もう止めましょう」


 ラスタはリリカをなだめ様とするが、彼女の方も人にはむかわれ、怒りが収まらない。一度火が点いてしまった以上は、相手が倒れるしか止らない……。


 彼の脳裏には、城へと向かっている異世界人の死を確信するだけでなく、連れ立ってきた女性達全員の死をも浮かばせていた。


 「異世界人を殺せば……リリカ様、責任持って下さいよ」

 「私には関係無い、知った事ではないわ!」


 城の周囲には魔女の強力な結界が在る、ラケニスの塔に張られた物は触れた物を弾く物だが、リリカの張った物は別の物、触れた物を瞬時に破壊消滅せしめる物。


 結界へと斬りかかる━━。

 

 「馬鹿じゃない、結界に突撃してきたわ、あははは……、はぁ?」


 瞬時に触れた物を破壊する結界は、一太刀でその防御を喪失した。

 その勢いを殺さず、城の壁へと刃を向けた。


 「嘘でしょ! 、私の結界を……斬ったぁ?」


 彼女の驚愕した声が終った時、部屋の壁が切り崩された。

 黒き翼に白の鎧……、右腕にその刀を握り部屋へと押し入る。


 「ふんっ、いい気に成らないでよねっ!」


 天から下へと、リリカの腕は振り下ろされた。

 リリカは重力過多の魔法を放った…………が、何も起こらない。ロゼの伯母が使った物より更に、強力な加重が襲う筈が、平然とリリカへと歩み寄ってくる。もう一度掛けるが、動きの止る気配は無い。


 「如何言う事よ……、何故潰れ倒れないのよぉ?、それなら……」


 彼女は両手の間に火球を生み出し、魔力を増幅させていく。

 その球体内部は、数千度に達している、普通に霞めただけでも命は無い。


 「ひひひっ……、此れで解けちゃいなさい!」


 両手から放たれた火球は超高速で飛び跳ねた……。

 触れただけで溶かす筈の火球も……、薙ぎ払われた一閃で微塵と消えた。


 「解けなさいっ!」

 再び、超高熱の爆裂を生む火球を放つ、刀の振りで消しさられる。

 

 「嘘、嘘っ、うそっよぉ!」  

 

 後方へ飛び退き、超超高熱の火球連弾を放つ……内部の温度は万の桁に。

 が、刀の一閃を越える事が只の一撃も出来ない。

 

 「如何して?……、私の魔法が利かない?、こんなの……」


 数千年、いや……、彼女が第一の魔女に君臨してから一度も、こんな経験は無い。如何なる者が目の前に現れても、常に圧倒してきたのだ。数千年の間には、稀に強い者も現れた事は有るが、魔法自体が通用しない等という、理不尽な眼に遭ったことが無かった。


 「ひひひっ……、もう、完全に切れた……、この地ごと吹き飛ばすっ!」

 「いけない……、リリカ様、それを使っては……」

 「黙れ! 、我に指図するなっ!」


 真横に両手を広げると、闇の気が集まり始めた。

 半径数十キロを完全に破壊する闇魔法……。

   

   暗き深淵の底より地上へ来たれ、我に従え

   総ての光在る者を、その闇の底へと誘い堕とし

   

 あと、一文を詠唱し終えると発動する……。


   一切を微塵となせっ!


 「あははははは、終わりよ!」


 破壊の波動がリリカから放たれた刹那、その闇の波動の一切は。

 刀の二つの剣閃で、無い物に帰された……。


 「がはあっ……!」

 彼女は部屋の壁へと弾き飛ばされ、眼を開けると白刃が自分へと、迫って来るのが見えた。最も古き魔女は、その生涯で初の恐怖を体験している。


 この時、俺は自分の口から冷めた言葉を、初めて自信で聞いた。


 「死ねよ……、この外道が」

 「殺される……、い、いや……、止めてぇ!」


 闇の波動が消し飛んだ時に、一緒に飛ばされたラスタが走り来るが、とても間に合う距離ではなかった。


 「リリカ様! 、逃げて下さい!」 

 

 その声は彼女に届いては居なかった。

 届いていたとしても、その少女の様な身体は動く事は叶わなかった。

 それが恐怖という物だ……。

 

 右手に握られた白刃は、第一の魔女に振り下ろされ……。

 寸での位置で、扉から躍り出た五人の女性に全身を抑えられ。

 その動きを止めた……。


 一声でも発していたら……、振り抜かれて居た筈だった。

 余裕無く飛びついた事で、リリカは命を救われたのだ。


 「は……、助かった……?」

 「ふあぁ……、間一髪ね……、あっぶなぁ」


 「放してくれ、こんなふざけた奴、許しておけない!」

 「駄目よ! 、奴等の居場所が聞けなくなる、ハルを助けられない!」

 「ハル……」

 

 ハルの名前が出た処で、俺の中の闇が晴れて行くのを感じると、それと同時に、激しく燃え盛っていた怒りも、急激に収まって行った。怒りが収まると、二人も変化を解く事ができ、元の姿へと戻った。


 床へと座り込んで呆けているリリカに、従者のラスタが腰を落として肩を抱いた。圧倒的な力を見せ付けてきた彼女が、容易く命を喪いかけた。彼女が生を永らえたのは、ロゼ達が飛び込んで来た御陰で、それ以外の何物でもない。


 第一の魔女の威厳もプライドも、今のリリカは失ってしまった。

 今の彼女は、只の少女にしか見えなかった。 

 

 後は、ニクスの居場所を聞く番だ!

 ロゼの目が光った様に見える。


 「さて……、一気に終点に着ちゃったけど、話して貰うわよ!」

 「ニクスの思念体が運ばれた場所?」

 

 吐き出す言葉に、全くと言って覇気が無い、小さな声でロゼに聞き返した。

 こうなると、第一の魔女を虐めて居る様で、気が引けてくる……。


 「その為に、こんなくそ寒い場所へ来てるんだ!」

 

 俺が声を出すと、彼女は身体を震わせ縮こまった。

 つい今し方の、殺されかけたのを思い出したせいだろう。


 「リリカ様……、教えてあげなさい……」


 従者ラスタの声は、非常に優しい物で彼女はそれに頷いた。

 身体を引起しゆっくりと顔を上げ、ニクスの所在を伝える用意をしていた。

 

 「ニクスの思念体が運ばれた先は……


 運ばれた先は、の次に口から出てきた物は……。

 激しい吐血であった……!。


 彼女の心臓の辺りから流血が始まる……、黒いゴシック調の服がどす黒く変わっていく。何が起きたか分からないまま、ラスタが絶叫した。


 「そんなっ! 、リリカ様っ!。一体何が?」

 「ゴボッ……、しに……たく……無い」


 彼女の眼から光が消え、ラスタの手を掴む指が、力無く剥がれて行った。

 一万を生きた第一の魔女は……、たった今その生涯を閉じた。


  ふ……、助かったぞ覇気を取り除いてくれて

  本来なら、近付く事もまま成らないからな!

  

 黒衣の者━━!。


 「貴様かぁ! 、よくもリリカ様を!」

 「あ! 、駄目ぇ待ちなさい……」

 

 ラスタが俺達より先に、剣に手を掛け叫び上げた。

 リリカを喪い我を忘れて黒衣へと剣を抜き飛び掛るラスタ……。


 その剣は黒衣に届く事無く、奴の放った黒い炎でその身を焼かれた。

 黒衣の者を目の前にして、無念の想いで果てた従者ラスタ……。

 その焼死体を眼科に一瞥して、話を続ける黒衣の者。


 『ニクス様の居場所は、貴様らには捜させぬ……そこの女も何れ頂く」

 

 「そうはさせるかぁ!」

 

 全員が一斉に構えたが……。

 姿を消し去った、まんまんと逃がしてしまった。


 「唯一の、手掛かりが殺されてしまったわ……」


 ニクスの居場所を聞く為に、遠路凍土の魔女の城までやってきた。

 その居場所を聞く直前で、黒衣の手に掛かり第一の魔女は絶命した。


 期待をしていた分、手掛かりを無くしたショックも大きかった。

 少女の血塗れの遺体と、従者の焼焦げた成れの果てを目の前にして。


 俺達は、茫然自失に成り掛けていた……。



有難うございました

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