怒り
続きです、よろしくお願いします
俺に目掛けて放たれた十本の黒き槍━━━。
その全ては、身体に纏われた白き霞で阻まれ失せた。
霞は白き鎧へと変貌し炎の如く揺れ燃え立っている。
だが、熱さは微塵も無く、心地よい感覚がこの身を包んだいた。
声が届く。
『此れよりは、我がその鎧と成りその身を守らん』
「ズグロ……お前、鎧で守ってくれたのか……」
「今だ! 、奴らの動きが止っている!」
アネスの一声で、三人が飛び出る!。
水晶の輝きから紅蓮の姿へと変わるロゼ。黒き粒子が弾け、姿を消し俺の背に翼として現れるラミカ、弓を構えたアネスの周囲へ浮かぶ十本の銀光の矢。
翼得た俺は、軽く雪を蹴り上空へと飛翔した。
ロゼの、紅蓮の炎が魔族の身体を焼き包む、焼かれながら空へと舞い上がる魔族達は、アネスの放つ銀光矢で次々と射られ雪原へと撃墜され、十個の焼け跡を雪原に残して果てた。
上空の俺達の姿を見上げている四人。
「うむ……、ズグロの白き鎧か!」
「私に欲しいくらいね」
「本当、綺麗な鎧ですわ……」
「…………」
雪原へ下りると元の姿へと、三人は戻った。
共闘の力で道を開き、俺達は再び魔女の城を目指して先を急いだ。
その列を宙に映像を浮かべ、眺めている者が居る。
彼女達の予想通り、魔族はこの者が召喚した様だ。
「ちょっと、ちょっと、何よこれ、てんで相手に成らないじゃないよっ!」
容姿の程は、成長すれば男を虜にすると思われるが、十代半ばに足らず。
金髪をツインに分け、古めかしい黒の服装はゴシック調であった。
その少女は、膨れっ面で隣で立っている男に不満をぶつけていた。
「それは……当然かと、リリア様、異世界人一行ですよ!」
「そりゃ……ラスタの言うとおりだけど……」
不満をぶちまけている少女が、齢を一万を数える第一の魔女リリア。
隣で彼女の不満を聞く男は、彼女の従者みたいな者であるが、リリアに比べると彼は成人の男性。その容姿の程は、宮廷の廊下を歩かば女性がウットリ振り返る。美貌の貴公子といった風貌。
「ジェネラル級をぶつけた方のが、良かったかしら……」
「変わらないと思いますよ……例えレジェンド級でも……」
「明日には此処へ来るでしょうから、楽しみはその時ね」
体躯と比べ巨大な椅子に脚を投げ出し、薄ら笑う。
その表情だけは、変に大人びて見えた。
「素直に教えて差上げれば宜しいでしょう……」
「冗談でしょ! 、数百年ぶりの楽しみなのにっ!」
座った状態から見上げる顔は、子供が駄々を捏ねてる様に見えるが、彼女は第一の魔女である。此の世界で最も古いと言われる、その三人の内で最古にして最強魔女だ。見た目こそ真の少女であろうとも、その魔力と知識は絶大な物が在る。
「ひひひっ、明日が愉しみいぃ━━」
「はあぁ……、城ごと大地まで破壊しないで下さいよ……もぅ」
少女の笑い声が、城中に響き渡っていく……。
魔族を退けて先を進んでいる俺達は、入り口で見た山々の麓へと辿り着いていた。此処から先へ進めば夜に雪原をいく事に成るが、それは避けて此の辺りで一晩を明かす場所を探す。
驚いた事に、山麓を進んでいると、古い小屋が見付かった。
当たり前の話だが、その小屋に住んでいる者が居る痕跡は無く、随分と長い年月の間放置されてきた埃のみが堆積していた。部屋の中は風を防ぐには十分であり、俺達はそこを一晩の宿代わりにした。
「何時の物か知らないが、此処まで来た者が居るのだな」
アネスは、焚き火に手を当てながら部屋を見渡している。これだけの小屋を建てるなら、その材木もかなり必要であり、誰かが一人でとはいかない。昔には此の辺りは魔物が居なくて、人の往来が在ったのであろうか?、それならもっと痕跡が在っても良さそうではあるが……。
「この場所から城までは、半日も在りません……」
「交代で火の番をしながら、早めに寝ましょうか」
イリスの魔法で極寒の寒さは防げていたが、完全と言う訳でもなかった。
途中で数回の雪虎の戦闘、魔族との戦いも在った事で皆も疲れ切っている。
荷物は、此処で使うには丁度良い、皆が分厚い皮の寝袋に包まった。
明日の昼頃には城へと着く。
ラケニスは第一の魔女の居場所は、教えてくれたが人物までは語らなかった。
最古の魔女でラケニスの倍を生きている。普通に考えたら、御伽噺に出てくる典型的な老婆しか浮かんで来ないが、誰かの例もあり予想の範囲を超えている可能性も高い。
性格は如何なのだろう?、高慢で懐柔的なのか……。
長い時を生き、温和で清楚な人柄なのか……。
そう言えば、名前も聞いていなかったな。
第一の魔女の人物を想像している内に、何時の間にか眠っていた。
「さあ━━! 、こいつは如何するかな?ボウヤ達は、ひひっ」
魔女リリカは、翌日早朝から御機嫌で又、何かを送り込んだ。
遅れて宙の映像を覗き込む、ラスタはその映像を見て眼を見開いた。
「リリカ様っ! 、魔人じゃないですかっ!」
「そよっ、これなら少しは見て楽しめるでしょ?」
少女の様なはしゃぎ様に、ラスタは呆れ帰るが、懐柔した所で無駄。
一度動き出したら、もう誰にも彼女を止める事は不可能であった。
「地形が……変わってしまいますよ」
「良いじゃない……後で戻すわよっ!」
「もう……、知りませんよ……」
ズズ━━ン……ズズ━━ン……ズズ━━ン……ズズ━━ン
朝方、地鳴りで俺達は飛び起きた━━!。
真っ先にズグロが飛び出て行く。
「なっ! 、魔人が……、何故だ?」
「ま、魔人ですってっ!」
全員が、小屋の外へと出た所で、その姿を見た……。
小山程の身体は全身が氷、朝日を浴びて眩しく光り輝いている。
透明な氷の塊ではない、氷の装甲とでも言うべき輝きに見えた。
「冗談じゃないぞ……、魔人なんて魔族以上に気安く呼べる者じゃない!」
「イヤこれもう……、嫌がらせだわ」
「ロゼ皇女の意見……、半分正解かと、第一の魔女が遊んでます……」
ズグロは恐らく彼女を知って居る、此処までやるとは予想外という顔だ。
俺も、此れには気分を害され、腹立たしく怒りを覚えた。
「遊びだと……、大概にしろよ!」
「め、珍しいわね……、ユキヒトが怒りを諸に出すなんて……」
ロゼが驚いているが、本人が一番驚いている。
普通ならパターンだと、ここはロゼかアネスが怒りを顕に怒鳴り吼える。
昨日の、番犬代わりの魔族を嗾けたのは良い、まだ許せる……。
だが今朝は違うぞ、あの巨体だとその破壊力は、昨日の魔族とは比較に成らない。拳一振りで大地を抉り、山を削り取る……、自然の地形その物まで破壊される。
それだけじゃない……、その拳は当然此方へと向けられるのだ。結界が張って在った所で、その拳から繰り出される破壊力の前には、意味を成さないだろう。
俺達を遊んで愉しむ域を超えている。
死んでも構わないと、そう思ってこの魔人を送り込んできた。
「第一の魔女は……、俺達に牙を向けた……」
「ちょっ……、ユキヒト?貴方……」
魔女の気紛れで大事な者を傷つけられるのは、断じて許せない。
以前……、船上で巻き起こった怒りに、近い物が湧き上がる。
第一の魔女は、今俺の敵と成った。
頭を下げて居場所を聞くという、考えは消え去っている。
「来い! 、ズグロ、ラミカ!」
「待て……主……
「ユキ……きゃあ
二人の意を無視して俺へと纏われた。
雪原を蹴り、魔人へと飛翔した━━!。
「ユキヒトは如何したんだ?……、普通じゃなかった」
「今の怒り……、ロゼ様と再会した時と……似てる」
「確かに……、似てたかも!」
「私……、呼ばれなかった」
「いけません……怒りのみで戦えば……闇にのまれてしまう」
闇に飲まれてしまうと……、黒衣の者と化す。
何故、マリネの剣を使わなかったのか、俺にも分からなかった。
もう一振りの剣、夜叉姫から渡されたもう片方の刀が……、それが俺に彼女を使わせなかった。勿論刀が、語りかけてきた訳では無い、この場で彼女は必要ない。
本能がそう悟り、彼女を呼ばなかった。
氷の魔人へと間近に迫ったとき、俺の右手は刀を抜き魔人へと直進する。巨大な氷の腕が拳が、俺を叩き潰そうと襲い掛かって来る、その腕を上昇反転して避けた後、右手の刀は易々と手首から切り落とした。魔人には痛覚が無いのか、すぐさま逆の腕が襲ってくる。その腕を右腕一本で、今度は肘から切り落とした。
「なんとっ! 、魔人の両腕を切り落としたぁ?」
「人間業じゃないわ……、どうなってるの?」
両腕の使え無い魔人は、魔法へとその攻撃をシフトした。
凍気の渦が魔人へと集約されていき、俺目掛けて数百の氷の矢が飛び交ってきた。俺へと襲い来る氷の矢も、刀の一振りで俺に届く前に全て弾け飛んだ。
「ロゼ様……何なんですかあの剣は?」
「わ、私に聞かれても……、私だって知らないわよっお!」
マリネはロゼに問い詰めるが、知っている筈は無い……。
この場の誰も、その刀の秘密を知らない。
氷の矢を粉砕した後、魔人の片足を切断して膝を付かせた。魔人の動きを封じた俺は、急上昇後、即反転し氷の魔人を、その頭頂から両断して止めを差した。
真っ二つに両断された魔人は、咆哮をあげる事も出来ずに消滅した。
魔女が期待した愉しめる状況には、その思惑通りとは成らなかった。
「はああ?、何あの刀は?」
不思議そうに映像を見る眼に、城へと向きを変え飛んで来る姿が映された。
「何……、此処へあのまま乗り込んでくる気?」
「リリカ様の……、お遊び過ぎるからです……」
その言葉と、向かってくる姿を見たリリカは……、態度を変えた。
「はんっ! 、人間如きが魔人倒して何を粋がるか!、我は第一の魔女ぞ」
一方ロゼ達も。
「魔女の城に乗り込んで、斬る心算じゃないでしょうね……」
「いや……、我を見失っている、多分斬る心算だ」
「いけません! 、追います……」
イリスは眼を閉じ意識を集中させた。
ありかとう御座いました。