表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女難危行・拉致した皇女と六人の嫁  作者: 雛人形
悲しき破壊の女神 一
54/90

怒り

続きです、よろしくお願いします


  俺に目掛けて放たれた十本の黒き槍━━━。


 その全ては、身体に纏われた白き霞で阻まれ失せた。

 霞は白き鎧へと変貌し炎の如く揺れ燃え立っている。

 

 だが、熱さは微塵も無く、心地よい感覚がこの身を包んだいた。


 声が届く。

 

 『此れよりは、我がその鎧と成りその身を守らん』

 「ズグロ……お前、鎧で守ってくれたのか……」

 

 「今だ! 、奴らの動きが止っている!」


 アネスの一声で、三人が飛び出る!。

 

 水晶の輝きから紅蓮の姿へと変わるロゼ。黒き粒子が弾け、姿を消し俺の背に翼として現れるラミカ、弓を構えたアネスの周囲へ浮かぶ十本の銀光の矢。


 翼得た俺は、軽く雪を蹴り上空へと飛翔した。

 ロゼの、紅蓮の炎が魔族の身体を焼き包む、焼かれながら空へと舞い上がる魔族達は、アネスの放つ銀光矢で次々と射られ雪原へと撃墜され、十個の焼け跡を雪原に残して果てた。


 上空の俺達の姿を見上げている四人。


 「うむ……、ズグロの白き鎧か!」

 「私に欲しいくらいね」

 「本当、綺麗な鎧ですわ……」

 「…………」

 

 雪原へ下りると元の姿へと、三人は戻った。

 共闘の力で道を開き、俺達は再び魔女の城を目指して先を急いだ。

 

 その列を宙に映像を浮かべ、眺めている者が居る。

 彼女達の予想通り、魔族はこの者が召喚した様だ。


 「ちょっと、ちょっと、何よこれ、てんで相手に成らないじゃないよっ!」


 容姿の程は、成長すれば男を虜にすると思われるが、十代半ばに足らず。

 金髪をツインに分け、古めかしい黒の服装はゴシック調であった。

 その少女は、膨れっ面で隣で立っている男に不満をぶつけていた。


 「それは……当然かと、リリア様、異世界人一行ですよ!」

 「そりゃ……ラスタの言うとおりだけど……」


 不満をぶちまけている少女が、齢を一万を数える第一の魔女リリア。

 隣で彼女の不満を聞く男は、彼女の従者みたいな者であるが、リリアに比べると彼は成人の男性。その容姿の程は、宮廷の廊下を歩かば女性がウットリ振り返る。美貌の貴公子といった風貌。


 「ジェネラル級をぶつけた方のが、良かったかしら……」

 「変わらないと思いますよ……例えレジェンド級でも……」

 「明日には此処へ来るでしょうから、楽しみはその時ね」

 

 体躯と比べ巨大な椅子に脚を投げ出し、薄ら笑う。

 その表情だけは、変に大人びて見えた。


 「素直に教えて差上げれば宜しいでしょう……」

 「冗談でしょ! 、数百年ぶりの楽しみなのにっ!」

 

 座った状態から見上げる顔は、子供が駄々を捏ねてる様に見えるが、彼女は第一の魔女である。此の世界で最も古いと言われる、その三人の内で最古にして最強魔女だ。見た目こそ真の少女であろうとも、その魔力と知識は絶大な物が在る。


 「ひひひっ、明日が愉しみいぃ━━」

 「はあぁ……、城ごと大地まで破壊しないで下さいよ……もぅ」

 

 少女の笑い声が、城中に響き渡っていく……。




 魔族を退けて先を進んでいる俺達は、入り口で見た山々の麓へと辿り着いていた。此処から先へ進めば夜に雪原をいく事に成るが、それは避けて此の辺りで一晩を明かす場所を探す。


 驚いた事に、山麓を進んでいると、古い小屋が見付かった。

 当たり前の話だが、その小屋に住んでいる者が居る痕跡は無く、随分と長い年月の間放置されてきた埃のみが堆積していた。部屋の中は風を防ぐには十分であり、俺達はそこを一晩の宿代わりにした。


 「何時の物か知らないが、此処まで来た者が居るのだな」

 アネスは、焚き火に手を当てながら部屋を見渡している。これだけの小屋を建てるなら、その材木もかなり必要であり、誰かが一人でとはいかない。昔には此の辺りは魔物が居なくて、人の往来が在ったのであろうか?、それならもっと痕跡が在っても良さそうではあるが……。


 「この場所から城までは、半日も在りません……」

 「交代で火の番をしながら、早めに寝ましょうか」


 イリスの魔法で極寒の寒さは防げていたが、完全と言う訳でもなかった。

 途中で数回の雪虎の戦闘、魔族との戦いも在った事で皆も疲れ切っている。

  

 荷物は、此処で使うには丁度良い、皆が分厚い皮の寝袋に包まった。

 明日の昼頃には城へと着く。


 ラケニスは第一の魔女の居場所は、教えてくれたが人物までは語らなかった。

 最古の魔女でラケニスの倍を生きている。普通に考えたら、御伽噺に出てくる典型的な老婆しか浮かんで来ないが、誰かの例もあり予想の範囲を超えている可能性も高い。


 性格は如何なのだろう?、高慢で懐柔的なのか……。

 長い時を生き、温和で清楚な人柄なのか……。

 そう言えば、名前も聞いていなかったな。


 第一の魔女の人物を想像している内に、何時の間にか眠っていた。





 

 「さあ━━! 、こいつは如何するかな?ボウヤ達は、ひひっ」

 

 魔女リリカは、翌日早朝から御機嫌で又、何かを送り込んだ。

 遅れて宙の映像を覗き込む、ラスタはその映像を見て眼を見開いた。


 「リリカ様っ! 、魔人じゃないですかっ!」

 「そよっ、これなら少しは見て楽しめるでしょ?」


 少女の様なはしゃぎ様に、ラスタは呆れ帰るが、懐柔した所で無駄。

 一度動き出したら、もう誰にも彼女を止める事は不可能であった。


 「地形が……変わってしまいますよ」

 「良いじゃない……後で戻すわよっ!」

 「もう……、知りませんよ……」



 ズズ━━ン……ズズ━━ン……ズズ━━ン……ズズ━━ン


 朝方、地鳴りで俺達は飛び起きた━━!。

 真っ先にズグロが飛び出て行く。


 「なっ! 、魔人が……、何故だ?」

 「ま、魔人ですってっ!」

 全員が、小屋の外へと出た所で、その姿を見た……。


 小山程の身体は全身が氷、朝日を浴びて眩しく光り輝いている。

 透明な氷の塊ではない、氷の装甲とでも言うべき輝きに見えた。


 「冗談じゃないぞ……、魔人なんて魔族以上に気安く呼べる者じゃない!」

 「イヤこれもう……、嫌がらせだわ」

 「ロゼ皇女の意見……、半分正解かと、第一の魔女が遊んでます……」

 

 ズグロは恐らく彼女を知って居る、此処までやるとは予想外という顔だ。

 俺も、此れには気分を害され、腹立たしく怒りを覚えた。


 「遊びだと……、大概にしろよ!」

 「め、珍しいわね……、ユキヒトが怒りを諸に出すなんて……」


 ロゼが驚いているが、本人が一番驚いている。

 普通ならパターンだと、ここはロゼかアネスが怒りを顕に怒鳴り吼える。

 昨日の、番犬代わりの魔族を嗾けたのは良い、まだ許せる……。

 

 だが今朝は違うぞ、あの巨体だとその破壊力は、昨日の魔族とは比較に成らない。拳一振りで大地を抉り、山を削り取る……、自然の地形その物まで破壊される。


 それだけじゃない……、その拳は当然此方へと向けられるのだ。結界が張って在った所で、その拳から繰り出される破壊力の前には、意味を成さないだろう。


 俺達を遊んで愉しむ域を超えている。

 死んでも構わないと、そう思ってこの魔人を送り込んできた。


 「第一の魔女は……、俺達に牙を向けた……」

 「ちょっ……、ユキヒト?貴方……」


 魔女の気紛れで大事な者を傷つけられるのは、断じて許せない。

 以前……、船上で巻き起こった怒りに、近い物が湧き上がる。

 

 第一の魔女は、今俺の敵と成った。

 頭を下げて居場所を聞くという、考えは消え去っている。

 

 「来い! 、ズグロ、ラミカ!」

 「待て……主……

 「ユキ……きゃあ


 二人の意を無視して俺へと纏われた。

 雪原を蹴り、魔人へと飛翔した━━!。


 「ユキヒトは如何したんだ?……、普通じゃなかった」

 「今の怒り……、ロゼ様と再会した時と……似てる」

 「確かに……、似てたかも!」

 「私……、呼ばれなかった」

 「いけません……怒りのみで戦えば……闇にのまれてしまう」


 闇に飲まれてしまうと……、黒衣の者と化す。

 

 何故、マリネの剣を使わなかったのか、俺にも分からなかった。

 もう一振りの剣、夜叉姫から渡されたもう片方の刀が……、それが俺に彼女を使わせなかった。勿論刀が、語りかけてきた訳では無い、この場で彼女は必要ない。


 本能がそう悟り、彼女を呼ばなかった。


 氷の魔人へと間近に迫ったとき、俺の右手は刀を抜き魔人へと直進する。巨大な氷の腕が拳が、俺を叩き潰そうと襲い掛かって来る、その腕を上昇反転して避けた後、右手の刀は易々と手首から切り落とした。魔人には痛覚が無いのか、すぐさま逆の腕が襲ってくる。その腕を右腕一本で、今度は肘から切り落とした。


 「なんとっ! 、魔人の両腕を切り落としたぁ?」

 「人間業じゃないわ……、どうなってるの?」


 両腕の使え無い魔人は、魔法へとその攻撃をシフトした。

 凍気の渦が魔人へと集約されていき、俺目掛けて数百の氷の矢が飛び交ってきた。俺へと襲い来る氷の矢も、刀の一振りで俺に届く前に全て弾け飛んだ。


 「ロゼ様……何なんですかあの剣は?」

 「わ、私に聞かれても……、私だって知らないわよっお!」

 

 マリネはロゼに問い詰めるが、知っている筈は無い……。

 この場の誰も、その刀の秘密を知らない。


 氷の矢を粉砕した後、魔人の片足を切断して膝を付かせた。魔人の動きを封じた俺は、急上昇後、即反転し氷の魔人を、その頭頂から両断して止めを差した。


 真っ二つに両断された魔人は、咆哮をあげる事も出来ずに消滅した。

 魔女が期待した愉しめる状況には、その思惑通りとは成らなかった。



 「はああ?、何あの刀は?」

 不思議そうに映像を見る眼に、城へと向きを変え飛んで来る姿が映された。


 「何……、此処へあのまま乗り込んでくる気?」

 「リリカ様の……、お遊び過ぎるからです……」

 その言葉と、向かってくる姿を見たリリカは……、態度を変えた。


 「はんっ! 、人間如きが魔人倒して何を粋がるか!、我は第一の魔女ぞ」


 一方ロゼ達も。


 「魔女の城に乗り込んで、斬る心算じゃないでしょうね……」

 「いや……、我を見失っている、多分斬る心算だ」

 「いけません! 、追います……」


 イリスは眼を閉じ意識を集中させた。

 



ありかとう御座いました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ