魔女の城へ
続きです、よろしくおねがいします!
さて……、どの様な裁定が下るのだろうか……。
早朝、ハルが部屋を出て行った後の事だが、昨晩六名から目撃された件について、一人で自らに下るであろう判決を予想していた。
階段を下りる足が重い、廊下を歩く足が鉛の様だ……。
決して悪事を働いた心算は無い。
ロゼと一晩共にした時はには、目撃されてるのを知らなかった。
昨晩は、明らかに目撃されているのは確信出来ていた……。
皆が居るであろう広間へ、後数歩の位置に来て足が止る。
〝はぁ……戻ってアネスが蹴り飛ばしに来るのを……待つか?〟
本気で逃げようと一瞬動き始めたが。
それでは余りに情けない! 、大人しく判決を受け……
「何時まで廊下でボケッとしておる、馬鹿者━━━!」
「うあああっ!」
「ささっと、朝食済ませて用意せんか!」
廊下で躊躇している所を、アネスから怒鳴られた!。
恐々と顔を覗かせると。
「おはよう……偶には、早起き出来ないの?」
「ユキヒト様、お早う御座います!」
あれ……、一番睨まれそうな二人が普通……?。
ハルも何事も無かったかの様に挨拶をしてきた。
「ユキヒトさん、お早う!」
「皆、早いね……、お、お早う……」
朝食の後に被告席へと連れ出されるパターンか?、しかし食べ終わっても、その気配が無い。何も責められないのも、帰って怖い物があるのだが、連行される雰囲気が訪れてこない。
どうにも不気味な雰囲気で気持ち悪いが、連行されずに済むらしい。
ずっと先になっての事、此の朝に、針の筵に成らずに済んだ理由を知る。
イリスの屋敷から一路凍土へ向け、地竜は駆け始めた。
「最初は入り口の監視所へ向かうので、私が先頭て案内しますね」
「そうだな……、此処はイリスに頼むとしよう」
移動の際の先頭は、此れまでアネスがやってくれていたが、帝国領には詳しくない。そこで今回は、アネスが道案内で先導する事になった。
以前に、ラミカ親子が居た城が有る森を、右手に臨んでいる。
今回は凍土を目指している。山間の道を北上して行くが、森の傍を通る時やはり思い出が在るのだろう、ラミカは暫らく森を眺めていた……。
遠くに万年雪を頂いた山脈、夜間部の砂利道を沿うように流れる大河。
凍土へと急ぐ行程で無いなら、間違い無く止って見物している。
男の俺が景色に虜になっている、当然女性達も雄大な景色に視線を移していた。本当に一時止って、皆で景色を背景に一枚撮りたい処だった。
残念な事に、この世界に来た時に携帯等は失っていたせいで、記念撮影とはいかない。まあ、仮に持っていたとしても、何れは充電切れで見れなく成るが……。
道は雄大な景色を後方へと追いやり、深い森林のへと入って行く。森林地帯を抜けると、切り立った崖の合間の道へと変わった。先頭を走るイリスの地竜が足を緩め、速度が落ち監視所が迫っている兆候が見えた。
大きな洞窟の手前に、監視所が見えた。
当初の通り、此処で地竜を置いて歩きと成るが、城に着くまでに一度一泊する。翌日に、半日程歩けば城へと辿り着く筈だ。寒さを凌げる場所はアネスに任せる、俺達は、此処で最低の物資を受け取り、凍土へと抜ける洞窟へと入り極寒の地を目指した。
洞窟を抜け光差す出口を潜った。
「凄い……、何て綺麗な……」
「綺麗ですねえ……、こんな場所が在ったなんて……」
ロゼとマリネが感嘆を上げている、俺達もそれを見た瞬間に虜にされた。
遥か遠方に尖った山々が見え、その頂は薄っすらと岩盤の色を残すも白。蛇のようにうねり蛇行する川、両側には樹木が拡がり僅かな緑が見えるが、雪の枝葉を成し巨大な霜柱の様な光景を魅せている。
白く広がる台地には、一変の邪魔する物が無く、白一色。
此処に、人の生きた存在を示すものは皆無である。
日暮れ時には、あの山頂を紅く染め美しさが映えるのが、眼に見える様だった。
この光景を頭に焼き付けるしかないのが、実に勿体無い気がする……。
「あの山の先に、第一の魔女の城が在ります」
俺達が見惚れている目の前の山々を指してズグロが言った。
凍結した川を渡り雪の林を通り抜け、大雪原へ出る。
その先は、山を迂回して反対側へと進めば、城へと辿り着く。誰もが足を止め見入ってしまう、秀美なこの風景と相反し、数多くの危険な魔物が徘徊している場所だった。
先ずは凍結した川を渡る必要が有るが、その透明な氷の川は凍結している事を疑う程。足を着け凍っているのを実感しないと、流れている様に錯覚すら起こした。
樹氷の続く林を通っている時に、此処が魔物の地であった事を衝き付けられる。
先頭を行く、ズグロが立ち止まった。
「手強い相手です……気配を察知させずに……囲まれました」
「なんだと!」
ズグロの言葉で皆が身構え、アネスは周囲を見渡した。
銀世界には何物も、音を立てる物は無い様に思えた……。
目の前の雪が盛り上がり巨大な姿が、現れた。
薄灰色の顔はネコ科の物だが、体躯は馬鹿でかい四メートルは有りそうだ。
「雪虎……、こんな所で生息していたのか」
「こいつらって、随分と昔に絶滅したはずよね?」
「してなかった様だな……」
絶滅したはずの魔物が此の地に居た。
「こいつ一体でも、数十名の騎士が殺されてきたのよ……それが」
最初の一体が姿を曝すと、次々に雪が飛び散り仲間が現れた。
完全に包囲されている、五体が俺達を中心に円を描き周回を始めている。先ずは一体目がタイミングを計っているのか?、此方も円陣になった。
一体目が雪を巻き上げ跳ねた!。
ズグロの正面……、だが元が巨大な白竜である、眼光ひとつで地に伏せ、後ずさる。二体目、三体目と続き跳ね飛ぶが、その巨大な牙を剥き出し迫る口腔へ火球を叩き込み、火達磨と成り地へ落ち雪を溶かす。
三体目の雪虎は、雪中から突き出た氷柱に阻まれ転倒した処を、矢で眼を射抜かれ悶えた処を焼かれ、やはり雪を溶かしながら絶命した。
お馬鹿な魔物達なら、此の後も仲間の復讐に飛び込んで全滅する。
格差を感じたのか?、ゆっくりと後ずさり撤退していった。
「賢い魔物だわ……、格の違いを感じて逃げていった」
ラミカは短剣を収めながらも、遠ざかる雪虎を見ていた。
こんな所へそうそう人が来る物ではない、腹を空かせて待っていたのだろうけど、やって来たのが俺達だった事は、奴らに運が悪かった。
樹氷の林を抜ける間に、もう一度別の集団が襲ってきたが、同じ様に撃退してやった。三度目の時は、こちらから蹴散らし道を開いた。此れまで遠征隊が此処へ来ても恐らくは、この雪虎達にやられていたのだろう。確かに普通の騎士達や、歩兵部隊では相手に成らなかった筈。
此方は龍王達と戦った身だ。今更、通常の魔物如きは相手に成らない。
そう思っていたが、意外な苦戦を強いられる相手が居た。
魔族が居た……。
「冗談でしょ……、誰がこんな場所に魔族を召喚したのよ……」
「私……、魔族なんて初めて見ました!」
此の世界に生きて来た彼女達でも、魔族にお目にかかることは無い。
奴らは、魔法も使えるし武器も振るう、魔物とは格が違う……。
俺の居た世界へと導く魔法陣とは別に、魔界からの召喚陣。
古の魔法は存在を肯定されて入るが、おいそれと行える物では無いらしい。
半端な者がそれを行えば、召喚された魔族からその場で命を取られる。
「此の地の魔女が、番犬代わりに呼んだとしか思えんな……」
その黒い身体のデーモン種とやらが、十体程が行手を阻んでいる。一体に気が付かれたら一斉に襲ってくるだろう。そうなると、誰かが遅れを取る恐れも有る。時間を掛ける事も避けねば成らない、イリスの魔法が途絶え寒波で身が凍え、やはり遅れを取る要因と成る。
十対を短時間で一掃するには……。
力の解放を持って魔族十対を殲滅する。
確実に殲滅するには、誰かが囮となり、一箇所に固める必要が在る。
当然、その役は俺が請け負う。
「でも一時的に、全部の攻撃を集中して受ける事になるぞ」
「疾風の魔法なんか、すぐ切れて持たないわよ?」
「いくらユキヒト様でも……、大怪我したら、脱出が出来なくなりますよ!」
一人に攻撃を集める為に、回復役は此の場を動けない。
怪我を負っても、癒す魔法は来ない……、ラミカの翼で脱出する前に、致命傷を受ければそこで俺は、やられてしまう可能性は高い。
だが、戸惑っている時間は勿体無い。
「マリネ頼むよ……行って道を切り開く」
「分かりました……ユキヒト様」
マリネの剣を手に魔族の中へと切り込んで行く、疾風の時間は僅かしかない。一番端の魔族を目指す、奴等の索敵範囲を端で霞め、見事に囮役は演じ切れた。
俺を目掛けて黒き光の矢が飛んで来るが、大きく回避行動を取る事は出来ない、剣で捌いていく。十体から完全包囲をされた。これで魔族を一纏めには成功したが、全ての投槍を弾くのは不可能となる、ヤバイのは一斉に槍を投げられ事だが、その行動をデーモン種達は取り出した。
『ユキヒト様! 、逃げてっ! 、避けれません!』
悲痛な叫びを上げるマリネの声は、奴らが黒い槍を放つ切っ掛けとなった。
黒い十本の黒き槍は、俺を目指し放たれた……。
有難うございました。




