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女難危行・拉致した皇女と六人の嫁  作者: 雛人形
悲しき破壊の女神 一
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怯え

続きですよろしくお願いします

 

 皇帝との密約が有っても、正式な国交が成されている訳では無い。

 直接国境を超えて入り、変なトラブルは避けたい処。


 「やっぱ……ね、全員揃い踏みの越境は拙いよなぁ……」

 「そうだな、物分りの良い衛兵ばかりとは限らない、此処は代表が一人話し

  に行くべきだろな」

 「分かりました、私が行ってきます!」

 

 マリネが手を挙げたが、ロゼはそれを制止して自分が行くと言う。

 

 「此処は……、私が行くわ多分その方が通りやすいと思う。」

 

 代表者が一人、向こうの警備兵にイリスとの面会を伝えに行く。

 その役は、ロゼがその代表者を買って出た。

 

帝国領への二度目の越境になる、しかし今回は事前の連絡は入れていない。

俺達は、若干の不安を抱えているのに対して、ロゼは意気揚々と対岸へ向かって行く。彼女の姿からは、拿捕される可能性を全く気にしていない様子が窺える……。

 

 その度胸が、仇と成る日の来ない事を祈る。

 程なく伝言を伝えにいっていたその彼女が、橋を戻って来た。


 「要件は、伝えてきたわ、後は彼女からの連絡を待ちましょ」

 「俺達は、素直に領内へ入れそうか?」

 「多分問題無いと思うわ、警備兵の愛想が良かったもの」


 帝国の領内へ直接入るのは避ける事にした俺達は、国境の駐屯地でイリスへの取次ぎを頼み、彼女からの連絡を待つことにした。戻って来たロゼの話によると、前回此の地を訪れた来た時よりも随分と、警備兵からの愛想が良かったらしい。


 妹の命を救った事で、この国の皇帝から俺達は、個人的に信頼を得る事が出来て居る様子、此のまま正常な国交が成されれば、今後も色々と遣り易いのだが……。

 

 政治が絡む以上、そんなに甘い物では無い事位は分かる。


 まぁ、意外と警戒しながら連絡を待っていたのだが。

 取り越し苦労だった様だ……。

 

 竜車が橋の向こうへと到着し、イリスが直接出迎えてくれた。

 お互い駆け寄り橋の中央で、再会を果たす事と成った。


 「皆さん……、又逢えて本当に嬉しいです」

 「俺達も皆、イリスに逢いたかったよ」

 「此処では話も出来ませんね……、どうぞ私の屋敷へ御案内しますわ」


 彼女は、俺達が全員乗れるだけの車で迎えに来てくれていた。

 地竜は国境の兵士に預けた。イリスの車で、彼女の屋敷へと二度目の訪問をする事に成った。


 そうだ、ズグロは如何したのだろう?


 「ズグロさんなら、私の屋敷で既に皆さんの到着を待っています」

 「国境をあの姿で超えたのかしら?」


 あの姿とは、白竜の事だがそんな姿で飛んで来たら、どえらい騒ぎとなるのは必然で、そんな馬鹿な真似はしないと思うが……。


 「さあ?……、どうやったんでしょうねぇ」


 ロゼの疑問に、イリスは頗る笑顔で答えていた。

 その笑顔からして、無難に扉を開いて招いたのだろう。


 「ズグロさんから聞きましたがニクスが攫われたとか……」

 「それで、第一の魔女に会いに行く」

 「一番古い魔女……、領内に居たのですね……、それで彼女はどこに?」

 「永久凍土の先に在る城に、住んでいるらしい」

 「そんな場所に……、誰もあそこへは足を踏み入れません……」


 凍土に向かって帰って来た者は、居ない、イリスはそう教えてくれた。

 今も昔も、立ち入りには皇帝が承諾した場合しか、許可されない。

 さっそく、イリスに皇帝への連絡を頼む事と、引き受けてくれた。


 「屋敷で、兄上様の返事を待ちましょう」

 「ありがとうイリス、助かるよ」

 「貴方の頼みなら……いつでも……」


 恥らいがちに顔を伏せるイリス。

 サラトの髪と同じく銀髪の美女、その女性が恥かしそうに顔を背ける姿は、背後に百合の花が咲き乱れて見える様に、可憐でしをらしい、何処かの皇女にも見習って欲しい。


 黙って綺麗なドレスを着て立っていれば、ロゼは人形と見間違う程の美女だ。

 いや……翌々、皆を見渡すと全員が絶世の美女と言える。


 そんな彼女達が傍に居続けてくれる……。

 不思議で仕方ない、此れも異界から来た者への付与なのか?。


 「ちょっと……、何を黙り込んでるのよ?」

 

 感慨に耽っていた俺を不審そうにロゼの顔が覗いてきた。

 妙に彼女達の姿に感嘆してもので、遂そのままに答えてしまう。


 「絶世の美女ばかりが、何故集まって来たのかなって……」

 「ばばばば、馬鹿者ぉっ! 、何を言ってる……」

 「いやぁ、絶世の美女って……、それ程……あるけどね」


 狙って言った言葉じゃないが、皆のご機嫌が急上昇している。

 半年間、音信不通にした事も、これで忘れてはくれまいか……。


 戯れの時間が過ぎて行き、やがてイリスの屋敷が見えてきた。ズグロと合流した後は、凍土への行程を考える事に成る。屋敷の玄関正面に車はとまると、俺達は屋敷のメイドとズグロに出迎えられた。


 「主殿、御久し振りです、壮健そうでなにより」

 「うん、ズグロも元気そうだね」

 「さあ、皆様中へ……」


 此れだけの女性達に囲まれて居るなら、普通はもっと賑やかな状況に成って当然なのだが、俺達の話題は破壊の女神の奪還の話で、色気のない事この上ない。救いが在るとしたら、全員が美女で俺に好意を持ってくれてる事だ。


 救いが在るとか言うと、罰が当るか……。

 元の世界では一人も、この状況には成り得なかったのだから。


 「凍土の入り口までは地竜で行けますが、その先は地竜達は置いて行きます」

 最初にイリスが地竜は凍土へは連れて行けない事を、教えてくれた。何でも、地竜では寒さに耐えれず動けなくなるとか。


 「入り口より先は、永久凍土だぞ、我らとて地竜と大差ないだろ」

 「寒さは魔法で遮断しますが、地竜までは余裕がありません」

 

 地竜達を連れて行けない理由はそれか……。

 肝心な魔女の城の位置だが、ズグロが知っていた。


 「魔女の城までは、我が案内致しますが道中は戦闘もお覚悟を」

 凍土の奥へ侵入した者が帰って来ない理由の一つは、途中の魔物に殺されているのだと言う。寒さに極端に強く、その分熱には弱いと実に分かりやすい特性の魔物達だが、純粋な強さはかなりの物で弱点が分かっていても、それを衝く余裕無く侵入者は殺されている。


 「ロゼ様の出番ですねぇ」

 「勿論っ! 、任せなさい!」


 と、張り切りようは良いとして、くれぐれも俺達を巻き込まない様に……。

 イリスが一度席を離れ、直ぐに戻って来た。


 「兄上様から許可が下りましたよ」

 「理由も聞かずに、良く許可が出たな……」

 「実は、第一の魔女の……


 凍土に第一の魔女が居る件については、帝国は承知の事らしい。此れまで何度もその場所に辿り着こうと、遠征隊を送り出したが結果はさっきも言ったとおり、全滅を繰り返してきた。


 今の皇帝に成ってからも、遠征隊を送る案が出されてきたが。

 「無闇に犠牲を繰り返しなんとする。以後、凍土への遠征は中止とする」


 各大臣達へ厳命し。

 「あの者達なら、魔物が障害に成るとは思えん、自由に探索してくれ」

 

 と、魔法便に書いてきたそうだ。


 馴染みの無い俺の耳には、皇帝という名の響きは大昔の暴君のイメージしかない。如何してもそういう眼で見てしまうのだけど、イリスの兄は名君であるようだ。そういう人ほど、宮廷内部では疎まれるのではないか?、それにイリスが巻き困れなければ良いけど。


 凍土へ入る前に、情報を得た上で向かいたかったが、実際此れ以上の情報は帝国側にも無い事が分かった。ズグロに案内を任せ進みながら、何か起きたらその場で対処しながら進む事に成った。


 


 此れだけ広い屋敷だと、一人に一個寝室が用意出来るが俺以外は、全員がイリスの部屋に集まって寝る算段をしている。


 何故そんな必要が在ったのかは……。


 夜遅く眼が覚めてその後、眠れなくなった俺は、一人ベランダに出てみると、隣にもハルが一人立っているではないかっ。


 「勘弁して……、こんな処を奴らに見付かれば即、拿捕されてしまうぞ……」

 直ぐに、部屋に入るように手で合図すると、笑顔で手を振ってきた。

 間も無くドアが開き、ハルが部屋に来た。


 「ハル一人で外に出たらヤバイって……」

 「御免なさい……、でも何か寝付けなくて、少し居て良い?」

 「仕方ない……、少しだけだよ」

 長くあっちの部屋を離れて、彼女たちに見付かったら何を言われるか。


 「ニクスの子孫とか……何も実感無いです……」

 「そりゃあ……、あったら怖いけど」

 

 失言した……。

 彼女は俺が自分の中に居る破壊の血を恐れていると、受け取ってしまった。


 「怖いですよ……ね、私……」

 小さな細い身体が震えている……、血が怖いのではなく、自覚があったらそれが怖いという冗談が、不安を抱えていた彼女には通じるはずが無かった。


 「ごめんハル……、そういう心算で言った訳じゃ……

 ハルから抱きつかれ、言葉を遮られた。

 この状態になって、身体越しに伝わる震えで、不安の度合いが知れた。


 「ハル……、こんな脅えるほど怖かったのか……」

 「私が、変わってしまったら……そうなったら、如何しようって」

 「大丈夫、そんな事には成りはしないから……」

 

 確証なんて無い、彼女の不安を和らげるには、そう言うしかなかった。

 だけど……、ハルの脅えは止らず、回された腕が強くなるだけ。


 「私……、皆みたいに……強くない……」


 此の世界に来た当初は、彼女の笑顔にどれだけ救われていたか。

 その得難い笑顔のハルが消えている……。

 

 その姿は俺に、ハルを思う気持ち急激に昂ぶらせた。

 彼女を抱きよせ、一緒にベットへと倒れ込むとそのまま唇を重ねた。


 ギィ


 彼女達が見ていた事は知っていた。

 明日殴られれば、許してくれるかもしれない。

 いや、袋叩きに遭うかも知れない……、だがハルを怯えから開放出来るなら。

 明日、彼女達から下される裁断を、甘んじて受けよう。


 「ユキヒトさん、私……、嬉しい!」


 夜中にベランデで出くわしたハル。

 その後一晩中、俺の腕の中で眠り朝を迎える事と成った。


 


有難う御座いました

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