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女難危行・拉致した皇女と六人の嫁  作者: 雛人形
第三章
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葬送

続きですよろしく

 

 サラトの時とは違う……、確実な死が仲間に訪れた。

 

 急報を受けた俺達は耳を疑った。大雨でぬかるんだ道を、急ぎ町へと地竜を走らせた。警吏の待つ待機所に駆け込んでいくと、警吏達は立ち止まり敬礼しているが、それには一切眼もくれずに奥へと走った。安置室に入り眼に入った物は、台の上と運ばれた者が毛布が掛けられている光景だった。


 ロゼはぎこちない歩きで台の傍に行くと、手を震わせながら掛けられている毛布を、両手で取り除くように剥いで行くと、顔からは血の気が消え物言わぬ、変わり果てたブラッディの姿がそこに現れた。


 二人以外は、眼を伏せ顔を背けた。

 

 「嫌ぁ! 、ブラッディー!」

 変わり果てた姿を見た瞬間、マリネは両手を顔を押さえ、堪えきれずに泣き崩れた。ロゼは目の前の事実を受容れていない、彼女は寝ているだけと判断したように。

 

 「ブラッディ…………、帰るわよ起きなさい!」


 寝ている彼女を起こそうと身体を揺するが、只、虚しく揺れるだけだ。こんな悲しい事実を認めたくないが、彼女は死んでしまった。ブラッデイの冷たくなった身体は二度と動く事は無い、彼女の声は二度と聞くことも出来ない、俺達は大事な者を一人失ってしまった。

 

 死んでいない、まだ生きていると、主張して離れようとしないロゼを見ているのは、居た堪れなくて辛かった。そんなロゼをイリスは、魔法で眠らせアネスが倒れるロゼを受け止めた。


 「ロゼが、こんなに取り乱すとはな……」

 「信じたくない気持ち……、良く分かります」

 誰もが、彼女を失った事にショックを受けているが、ロゼはそれを素直に、現実として受容れていなかった。

 

 帰り際に警吏から、彼女に起きた事をきいたが、普通ならそんな遅れは取らなかった筈。魔物でも無く、腕の立つ相手でもない者に、何故殺された?。だが発見された時に手に持っていた木箱を渡され、それが何か分かって、彼女が出遅れた理由が見えた気がする。


 ロゼの、喜ぶ顔が見れる物を手に入れた。その嬉しさから、気分が浮かれ警戒心が薄れてしまった、木箱に入った葉が雨で濡れるのにも、気を取られていたのでは?と、想像出来た。


 ブラッディの亡骸を引き取り、大公の屋敷へと戻る俺達の気分は最悪の物だった。ロゼは大事な友であり従者の一人を失い、マリネも同様に友である同僚を失った。彼女達以外にしても、此れまで共に戦ってきた仲間を不意に失った。誰も、語る言葉を失っている。


 そして俺は何を失った?。


 一度屋敷に彼女の身体を連れ帰ったが、夕方になり悲報を聞いた両親が、彼女の遺体を受け取りに屋敷へとやって来た。それに合わせた様に、ロゼは眼を覚まし彼女の両親と体面した。父親はその死を確めて、肩をおとすが母親は違う、娘の亡骸に縋りつき泣き叫び、その場に崩れ落ち、立ち上がれない。


 「騎士に成ったからには、何時かはこうなるかもと、覚悟していました……」

 

 父親はロゼに頭を下げながら思いを語り、泣き崩れている妻と娘の遺体を我が家へと、首都へ戻って行った。ブラッディが眠る棺を運ぶ、地竜の姿が見えなくなるまで俺達は見送り続けた。


 家族に遺体を引き渡した後から、屋敷の内でロゼの姿が見えなくなった。マリネなら知っているかも知れない、彼女を捜すと、俺の部屋の前にマリネが居た。


 「マリネ、ロゼが居ないけど見掛けた?」

 

 声を掛けたら、彼女も此方を捜していたのか、小走りで寄って来た。 

 両手を胸の前で組み、沈んだ気持ちを声に表した。

 

 「ロゼ様……が、部屋に篭ったまま、ずっと出てこないんです……」

 

 マリネから聞いた話では、三人は子供の頃からずっと、一緒に育ってきたらしい。皇女になってからは従者として常に行動をともに、俺を捜しに出た時も最初から共に居た。いつも傍に在る大事な物は、平素はそれをあまり実感しない、失って初めて気が付く。


 「何を言っても、今のロゼには慰めにならんだろな……」

 「暫らく、そっとしておいてあげましょう」

 

 俺も気の利いた言葉の一つも掛けてやりたいが、彼女達の意向を尊重して、無理にロゼを訪れる事はしない様にしている。もしロゼの方から、誰かと話したいならその時は、そいつが彼女の話を聞いてやれば良いと想う。

 

 その役は、イリスが適任かもしれない……、サラトの意思を継いだ彼女なら、きっとロゼを癒してくれるだろ。ロゼが篭って出てこない部屋の前で、俺はそう感じていた。


 もう一つ、厄介なことが起きている。ブラッディが居なくなった事で、七つの繋がりが絶ち切れた。邪龍すら圧倒したあの力は、いまの俺達から消えている。もし、破壊の女神様とやらが動き出した場合、力を失った状態でそれと対峙する事に成る。


 今更ながら、ラケニスの告げた言葉が胸に突き刺さる。大切にしてやれと言われていたのに、ブラッディを守れなかった。そのつけは大きすぎる、厄災に対峙する力まで失ったのだ、屋敷の廊下を歩く足が鉛の様に重く感じた。


 

 「食事に誘ってきたのですが……、ロゼ様の返事すら返ってきませんでした。如何したら、ロゼ様は元気を取り戻してくれるのでしょう……」

 

 マリネもロゼと同じ位、悲しい思いをしている筈なのに、彼女は主の方を案じている。ロゼの気持ちは分かるが、悲しいのは一人だけではない。だが、それを今の彼女に付き付けるのは、やはり酷なのかもしれない。


 夕食の時間になり皆が集まってきたが、ロゼの座る席だけは空席のまま、テーブルに運ばれた食事も減っていくことが無かった。何時もは貴族の屋敷とは思えないほど賑やかになる、その和やかな時間のはずが、重苦しい空気だけが蔓延し、食事も実に味気無い物となった。


 


 俺達は、この場を離れるのが良いのでは?、眠れぬベッドの中で、そう頭に浮かんだ。女神も黒衣の奴も気にはなるが、悪い事が重なり過ぎた今、一度この地から離れ気分を変えた方が良い。明日、起きたらそれを皆に伝えて、ロゼをこの地から連れ出そう。


 考えがまとまった処で、眠気が襲ってきた。


 ギィーイィ


 真夜中にドアが開く音が聞こえ、眼が覚めた。

 しまった、ちゃんと閉めてなかったかと、ベッドから降りたら。

 暗がりの中、女性の影が見えた、まさか幽霊?、が違った。

 〝ロゼ……?〟


 どれくらいの涙を流せばそうなる?、眼は真っ赤に充血している。

 髪も乱れ、酷い形相になっている。


 「ユキヒト……此処に居ても……いい?」

 ロゼは話し相手に、俺を選んだ様だ、聞いてやるしかない。 

 ベッドの隣に、ドサッと座り込んだ。


 何かを話をしたいから来ているのに、黙ったまま時間は過ぎて行く。

 俺は、耐え切れなくて口を開こうとした。

 

 「又、人が死ぬのが……怖いの」

 

 突然、ロゼは言葉を出した。此れまでは幸いな事に死人が出なかったが、この地へ来た途端に二人が死亡、この俺も又、そう成る寸前まで陥り、辛うじて命を拾っていた。気丈なロゼが死に対して、酷く怯えてしまった。大丈夫もう誰も死なないと、言ってもそんな確証は在りはしない。


 言うのは簡単だ、けどそれで気が晴れると思えない。何の根拠も確証も無い言葉に、何の重みも無い。そんな物で、怯えきった彼女の精神を解き放てやしない。


 震える身体で、ロゼは縋りついてくる、肩を抱いてやるしか。

 俺には出来なかった……。

 

 しかし、ロゼがこんなに脆い女性とは想わなかった、何時もの態度は、この隠れた脆さを無意識に隠していたのか?。 とても魔物に正面から挑み、戦っていた同じ人物と思えない、何処にでも居る普通の女だ。魔物と戦う事などとは、縁遠い者と変わらないでは無いか。


 ロゼは更に、身体を寄せて自然と押し倒される形で、ベットに俺達は倒れていた。流石に此れは不味い、身体を離して起き様とする俺の身体を、ロゼは抑えつけてくる。


 「ロゼ、これは……離れないと」

 「貴方は、私の事が嫌いなの?」

 

 女は……ずるい、此処でスバッと、お前が嫌いと言える男が居るのか?。

 しかも、好意を抱いている相手に言える訳が無い。

 「ロゼの事が嫌いなはず、無いだろ……」

 「嫌じゃないのなら……、離さないでお願い」

 「ロゼ……お前、何を……


 昼間と同じく、ロゼに言葉を遮らた。一度離れたロゼは、言葉を続けた。

 「お願い……黙って好きにさせて……きっと明日は普通に戻れる……から」

 言葉を終えると、ロゼの綺麗な影姿が見え、再び重ねてきた。

 

 他に誰も居ない私室での事だ……、これに逆らえる術を持っては居ない。

 激情の渦に巻き込まれ、抗う事が出来なかった。

 

 その夜、ロゼは一晩を俺の部屋で過ごした。

 彼女は早朝、服を戻すと自分の部屋へと戻って行った。

 俺はまだ、温もりが残る場所を手に感じながら、再び眠りに落ちた。


 昼近く迄寝ていたが、アネスに蹴り起こされなかった。

 昨晩の事が、夢のような出来事に想える。昨日、決めた事を皆に伝えなければいけない、頭を振って眼を覚まし、ベッドから降りる。多分、皆は広間にいる筈だからそこへ向かうが、広間の傍まで行くと笑い声が聞こえてきた。


 「あ、ユキヒト……おはよう」

 「やっと起きてきたぞ、遅い……馬鹿者!」

 

 何時もの明るいロゼの声がに戻っている。昨晩、明日には普通に戻ると言っていたし、その通りで問題は無いのだが女ってそうなのか?、こっちは……。


今は、先に言うべき事が待っている。 


「皆に相談が有るんだけど、いいかな?」

 

 

  

ありがとうございました

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