悲劇の連鎖
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森の中からの帰り道、ロゼは自然に腕を組んできた。
女性と腕を組んだことくらいは、一度や二度くらいなら此れまでも在ったけど、過去に経験したのは、女が何かを強請る時か、媚びている時位。
今みたいに自然に、相手から腕を絡んできた記憶は……。
あるぞ、在るじゃないか、あれもロゼだ。
あの時は、確か……。
「ユキヒト?、何を笑っているの?」
「あのさ、俺を連れて来た日」
「あの夜がどうかしたの?」
「今みたいに、ロゼが腕を掴んできたの覚えてる?」
ロゼは俺から言われて、見上げる様な体勢を取り、記憶を辿っていた。
「あっ、逃げられたら次が無いと想って……、それが何か?」
「白い手と指を見て、幽霊と想ったの想いだしてたっ」
「ひどっ、私を幽霊と……、ちゃんと体温もあるんですけどっ」
軽く通していた腕を、両腕で強くしがみ付いて、密着してきた。
「ほら……温いでしょ」
「顔まで暑いんだけど……」
「あはは、馬鹿……」
ロゼとの甘い戯れの時間は、俺達の視界に六名の姿が入った時点で、終了となった。ロゼは腕を離し、小走りに皆が居る場所へと向かった。少し遅れて俺も、彼女に続いて集合場所へと急いだ。
「ロゼ様、何処へ行かれてたんですか?」
俺達が戻るなり、マリネが散策場所を尋ねてきた。
「うん?、内緒よっ!」
「ええ……っ」
ロゼは機嫌が良い、マリネは露骨に膨れっ面になった。他の五人も……、翌々顔を窺い見たら、何を考えているかは推測できる。ヤキモチ焼いてるのが分かって、非常にコソバユイ感じになる。
夜に成って、使いに出た使用人が帰って来ないと報告があり、全員で辺りを捜索したが屋敷の近くにはその姿は見えなかった。此の辺りには魔物が棲んで居ない為、それに襲われたとは考えにくい。翌日、朝を待って街まで出かけて見る事にした。
だが次の日、行方不明となった使用人は、死体と成って発見された。
使用人が発見された場所は、昨晩一度捜索した場所で、一旦誘拐された後に殺害された。その亡骸を屋敷へと運び、親族へ連絡して渡す心算だったが、親類縁者が居ない事が分かった。俺達は土葬にする為に穴を掘って埋める事にしたのだが、首筋に見覚えの有る物を見つけてしまった。
「此れは……、アレの痕だよな」
その傷を見たイリスは、眼を伏せてしまう、俺達が居なかったら彼女もこうなっていたか、その姿を魔物へと変えていたからだ。
「純血種は絶滅してると言ってたけど……、じゃあこれは」
「ハーフの吸血鬼の仕業だな、まさかあの時、逃がした奴か?」
父親の純血種が、自らの命を絶つ事でその存命を願った。
俺は、その約束通り彼の娘には手を出さなかった。
名前は確か……。
「娘の吸血鬼、ラミカの仕業なのか?」
「ユキヒトの温情を、仇で返してきたのか……」
彼女が犯人とは確定していないが、他にもハーフが居るのかもしれない。確かな事は、吸血鬼に殺されたという事実だ。此れ以上の犠牲を出さない為に、今夜から巡回をして、この殺害をやった吸血鬼を捕まえる事に決めた。
森の中、町へと続く道、各所に二人一組で、周回し奴の現れるのを待ち構えていた。イリスが結界を張り、魔物がくれば分かるはずだ。
初日も、二日目も吸血鬼は姿を現を曝さない、三日目の夜が訪れた。
ズグロと二人で森を周回している。毎日、入れ替わりで組を変えたのは、女性達が何やらゴソゴソ話し合って、決めてしまった。映画の中の吸血鬼の登場する夜は、決って月が大きく、描写去れていた様な気がする。
三日目は、満月となっていた。
「もう三日目だけど、出てこないな」
「一度味をしめた魔物は、それを忘れませぬ、必ず繰り返し襲うかと」
肉食の動物が人を襲った場合とよく似ている。
此処の吸血鬼が人を襲うのは、真夜中直前。今夜も間も無くその時間を、過ぎようとしていた時、ズグロが走り出した。
「主殿、あそこ何者か戦っております」
ズグロが向かう先で、複数の影が動いているのが見えてきた。男が五人と女が一人、激しい斬り合いをしている、真夜中の森の真ん中で誰が?。急ぎ俺とズグロがその場へと駆けつけた時には、勝負は付いていた。戦いに勝った三人のうちの一人……、見覚えが有った。
森の木々の、合間にそれらは居た。
近寄って、はっきりと顔が分かる位置まで来た。
「お前……、あの時のラミカなのか?」
「ああ、あなた……は、この様な場所で何を?」
やはり、彼女はラミカであり、これは仲間同士の内輪揉めの様に見えた。人数を減らすして、獲物である人間を遅った後で、分け前を増やそうとしたのか?。
「三日前の殺人は、やはりお前達か、襲わないと約束した筈だよな……」
「待って、此れは違う、話を聞いて欲しい!」
「仲間割れして、たんじゃないのか?」
倒れている二人を指差して問い詰める。
「こいつ等は、我らの掟を破って人を襲い、血を吸った裏切り者です」
二人の男の片方が、俺に説明し出した。
「主殿、この者、嘘を言ってるとは思えませぬ、話を聞いても良いかと」
「ズグロがそう言うなら、話を聞いてみようか」
「何処か、話せる場所が在りますか?」
ラミカが落ち着いて話せる場所を希望したので、屋敷へと連れて行く事にした。他の皆に会わせたら、混乱するのは分かっていたけど、真夜中の森で長話も無いもんだ。この地へと来る時移動中に、考えていた様に仲間が存在していた。
屋敷に戻ったら、帰りが遅い俺達を迎えに来る直前で、入り口で鉢合わせになった。気の荒いアネスがいち早くラミカを見つけ、行き成り矢を射掛けて、取り押さえなければ成らなかった。
「本当に大丈夫なのか?」
「もう、我等は人を襲う事はしない……、裏切った者は処断した」
「だそうだから、今回の話と、仲間の話を聞くため連れて来た」
俺は、はっきりと目的をアネスに伝えた、彼女もそれ以上は、ラミカ達に詰め寄るのを止め弓を収めた。俺は一度大きく息を吐いて、屋敷の中へと連れて入った。
ハーフ吸血鬼三人と俺達八人、向かい合ってテーブルに着いた。この時点で彼らの圧倒的に、不利な状況で素直に席に着いた事で、俺は彼らが不安要素にならない事を感じていた。襲う心算ならとっくに森でやっている、わざわざこんな不利な場所にのこのこやって来て、俺達を襲うなど余程の馬鹿か間抜けだろう。
席に座って間も無く、先にラミカの方から語り始めた。
「私達ハーフヴァンパイアの村は、この森の中に在ります。ハーフは吸血を必要としません、人と同じ食事で生きて行けます、勿論……吸血するのは可能ですが、我々はそれを禁じました。中にはさっきの二人の様に隠れて人を襲った奴が出ましたが、皆、処断しました。もう人を襲う者は出ない筈です」
「ラミカ……それを証明出来る?」
彼女は仲間の二人と顔を見合わせ、地図を取り出した。
それは、この森の全体図で、一箇所に記しが付いていた。
「此処が、我らの村です、明日此処へ御案内します。我等が、人に対して恐怖の対象となり得ないのを、その眼で見て確認して頂ければ、お分かりに成るかと思います」
ラミカは記しの付いた地図を最初から、大公に見せる為に持っていた。
「え……そんな大公様は亡くなられたのですか……」
その死を聞いて、かなり困惑している様子が見える。此の地の統治者に話を通して、自分達が危険では無いと認識してもらい、村の存続を願っていたのだ。その大公が居なくなれば、次は誰に話を通せば良いのか?、又、亡くなった大公程話を聞いてくれる者が、統治に当るか不安が出た。
「明日、俺達がラミカの村に行って、安全と確認出来たら、村の存続はロゼが保証してくれるから、安心してくれていいよ、それで良いよなロゼ」
ロゼは此れまで、俺とラミカの会話を聞くに留まっていた。そこに、行き成り自分に話を降られたもので、意表をつかれて身体を浮かした。
「へっ?、わ、私っ?、あ……、うん保障してあげるわ」
この国の皇女が安全を保障してくれる?、ラミカにしたら吉報になった。明日、その村を訪れる事になった事も有り、夜も遅い。今夜はこれで話を終えて、ラミカ達は村へと戻っていったが、その前にイリスに対して両膝を付き、謝罪をしていた。
ラミカはイリスから見たら、自分を殺そうとした大罪人の娘。皇帝の妹でもある彼女に対する罪で、ひっ捕らえて処刑してもおかしくない処だ。だがイリスは、そんな事は一言も口にせずラミカの手を取り、跪いているのを立たせた。
その聖女の振る舞いにも似た姿は、サラトに重なって見えた。
多分、彼女ならそうした。
翌日になり、約束したとおりラミカは俺達を迎えに来た。
村へと案内され、その全てを公開してくれた。
俺は一番の不安要素の人物に、この村をどう考えるか尋ねてみた。
「くっ、私に聞くか……、ユキヒト……、意外と意地が悪いな」
偶に見せる、アネスの拗ねた顔を見れた。
一番厳しい眼で見回ったはずのアネスが、ハーフ達の村に対して何も嫌悪感を示さない。これで他に意を唱える者は、居ない。ロゼと二人で、村には理不尽な手出しはしない事を伝え、俺達はラミカ達の村を後にしようとした……。
「ユキヒト様、少しお待ちを」
ラミカに呼び止められて振り向くと、彼女が肩膝付いていた。
「如何したの?、まだ……何か不安な事があるのかしら?」
「いえ……、村の安全が保障された今、私が此処で皆を守る事も、安穏と暮らす必要も無くなりました。どうか……、私もご一緒させて貰えませんか?」
「ユキヒト、貴方が決めてよ、それに反対はしない」
「ふむ、そうだな……、お前が決めて、それに異を唱える者は居ない」
一番それを言いそうな奴が、言わない宣言してるし……。
「私からも……」
そして……イリスまでが、ラミカの同行に異を唱えない。
これで俺が嫌だと言ったら、悪者に成りそうじゃないか。
「ラミカ……俺達と一緒に行こう」
「はい……、ありがとうございます」
ラミカは昨晩共に居た二人の男と交わして俺達に合流した。
「私はこれで村を立つが、後を……」
「ええ、我らにお任せを、ラミカ殿は自分の道を行かれよ」
ハーフヴァンパイアの村を俺達は、同行者を一名増やし、九名となってその場を後にした。帰り道の途中で、ブラッディが近くの町に用事が有ると告げ、列を離れていった。
「ロゼ様、町に所要で言ってまいります」
「いいけど……気おつけないさいよ」
ブラッディの用とは、町から頼んでいた物が入った知らせを受けて、それを取りに行く事だった。注文したのは、ロゼの好きなお茶の葉、それを首都から取り寄せていた。
「騎士様、これで間違い無いでしょうか?」
木箱の蓋を開け香りを確認し、注文の品と確信したら礼を言って蓋を閉めた。
「此れで間違い無い、手間を掛けて済まない」
「いえいえ、又、ご入用の際は御ひいきに」
代金を支払うと、ブラッディは店の扉から出てくる。
彼女が空を見上げると、雨雲が広がっている、雨が降るのも時間の問題に想われた。急がないと折角ロゼに飲ませる葉が雨で、木箱が湿り濡れてしまう。
「雨が降り出す前に……
「きゃあ!、ぬ、ぬすっと……かえしてぇ」
地竜を繋いで在る場所と歩く途中、銀行から出てきた女性が、引ったくりにあった。目の前で見てしまった以上は放置も出来ない、地竜に乗るのを一旦取りやめ犯人を追い始める。
「まったく……、こんな長閑な町でもあの手合が出てくるのか」
足に自信が有るから、引ったくりを想い付いたのであろうが、一つ曲がり角を左に入った所で、彼女から取り押さえられた。
「盗んだ物を返せば、今回は見逃してやるぞ……、警吏の方がいいか?」
「くそっ、放せえこのお」
引ったくりをする様な輩、悪戯に暴れるだけで、捕縛から逃れる術が有る訳が無かった。ロゼに飲ませる紅茶を手に入れ気分が高揚していなかったら、それが雨に濡れる心配に、気を取られていなかったら、彼女は路地裏の影に潜んでいる男を、見逃す事は無かった。
だが、そうはならなかった。
視界の外から黒い物が飛び出し、自分に突撃してきたのが見えた。鈍い痛みがわき腹から伝わってくる、身体から力が抜けて行く。捕まえていた手が緩み、男は解放されるとブラッディを突き飛ばす。影から表れた男が彼女を素早く、路地裏に引き込んでから短剣を抜いた。
「おい! 、なにしてる急げ!別々に逃げるぞ」
二人の男は宣言したとおり、全く別の方向へと逃げていった。
わき腹を抑え天を見仰いでいる、その身体に水滴が落ち始めた。
ブラッディは転がり落ちたお茶の葉の入った箱に手を伸ばして掴んだ。
「ロゼ……様、お気に入りの……物が手に入りま…………
彼女の声はそこで、潰えた。
振り出した雨は、激しさを増し容赦無く彼女の身体を打ち続ける。
辺りには真っ赤な川が行く本も、姿を現し流れ始めていた。
路地裏に引き込まれず、雨も降っていなかったから。
発見が早く、運が良かったら助かったかもしれない。
屋敷に戻った俺達は、振り出す前で濡れる事は無かった。
「プラッデイは何処行ったのよ?、帰ってきたらびしょ濡れじゃない」
俺達が、急報を聞いたのは、大雨がやんだ後だった。
ありがとうございましたー