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女難危行・拉致した皇女と六人の嫁  作者: 雛人形
第二章
36/90

出会・別れ

よろしくおねがいします

 

 俺達が、イリスの意識の中から戻って、二時間後に彼女は眼を開けた。

 意識が戻ったが、直ぐに動くには、まだ早い。


 只、一言だけ告げた。


 「命を……ありがとう」


 

 「さてと、イリスも助かったし後は、奴を倒すだけね」

 ロゼはあいつを倒す気満々、それは他の三人も同じ気持ちらしい。

 

 違うのは俺と、サラトの二人。

 二人だけは、別の想いで意気揚々とは成らなかった。


 イリスの状態は、異様な速度で回復していき、夕方には歩けるまでになっていた。彼女は寝ていた六日を、まるで取り戻したいのか?って位動き回っていた。


 サラトが似ていると思ったのは、間違いでは無かった。動き回ってはいても、何処かもの静かさを失っていない。常に物腰の柔らかい人だ、遠い親戚かも?と、言った彼女の言葉に妙に現実感を覚えた。


 彼女の命を奪いかけた吸血鬼、その討伐に向かう時間が来た。

 「皆様の、ご無事をお祈り致しています」


 その際に見せた礼は、ロゼより遥かに様に成っていた。


 「では……向かいましょ!」


 地竜は俺達を乗せて、森の奥へと駆け始めた。


 魔物の気配濃く。よく言ったもので、入るなり二体の人狼が襲ってきた。しかし、いまさら只の魔物如き、俺達の相手に成る訳が無く、アネスの弓の二発で倒れた。


 「ふむ、いきなり襲ってきたな……」

 「この先、まだ来るかもね、注意しましょ」


 厄介なのは魔物より寧ろその道中で、道そのそのものが複雑な迷路状、樹木の根を潜り抜け、逆戻りしてるかに思える通路を抜けたら、正しかったりと、その間常に魔物が襲ってきた。奴らのねぐらを捜しに行った者が、帰ってこなかったのは成る程、理解出来る。


 こんな魔物その物と言える森、普通の衛兵達では突破は無理というものだ。

 

 途中で巨大な樹木の魔物に道を阻まれ、已む無くロゼが火焔を使ったが、危うく森を火事に巻き込みそうになり、サラトが急遽消化の為の、魔法を使うという珍事も起きた。


 「ロゼ様、もう少し加減して下さいな」

 「あはは、ありがとうサラト!」

 ロゼはそのうち、本当の山火事の原因となりそうで怖い。

 

 だが、その心配も奴の城が視界に入った事で、未然に防がれた。


 「あれね……、凄い古い城だわ」

 「吸血鬼というより……、幽霊がでそうですね」

 マリネがズグロを前に、幽霊と言ったもので、一瞬彼女の顔が強張った。


 真夜中まであと少し、城をじっくりと観察してみた。正直、城と言うか建物の、機能も果たしていない、屋根は無いし壁も穴だらけだ。吸血鬼とはボロ屋が好みなのか?、棲みかは執着してないようだが、獲物には執着してるとこが、何かおかしかった。


 「来ます、皆警戒を!」

 いきなり、ズクロが警告を発した、遂に奴が現れる様だ。


 空間の一部が揺らめき渦が表れた。中から最初に腕が現れ頭、そして昨日の吸血鬼が本体を曝した。


 「昨晩の続きといこうか……、小僧」

 「ちょっと、私達は無視するわけ?」

 ロゼは自分の存在を蔑ろにされて、ご立腹の様だ。


 「って、もう一人は何処よ?、隠れて不意打ちでもしてくるのかしら?」

 「娘は……、此の場から逃がした、もう此処には居ない」


 昨日の彼女の剣幕からして、素直に親の言う事を聞きそうな雰囲気は無かったが。今思った事を良く考えたら、何処かの皇女と似てるではないか……。しかし、どうも昨日と雰囲気が違う、昨晩は六人を一度に相手をしても、怯む気配すらなかったのに何故今夜は、決闘に拘った?。


 殺気すら感じなかったこの時、全員が完全に油断し過ぎていた。ズグロのいきなりの警告に当然、体勢が不十分な事もあった。昨日と打って変わった、奴の穏やかな言動とその態度に、皆が緊張を解いていた。


 刹那に変化し、瞬速の速さで、マリネにその刃を向けた!。

 誰も、反応出来ない。声すら出す時間さえ無かった。


 吸血鬼の鋭爪が、マリネの首に…………。


   ゴォオ━━━━ン!

 

 鐘の音が響きその波は空間を拡がっていく、暗闇の色が灰色へと変わる。

 音も、風もすべて事象が、灰色の世界の中でその活動を停止した。


 「ユキヒト様……、これが……私と貴方が共有した力……」

 「これ、時間が……止ってる?」

 「急いで……、絶対的な力は、その影響できる時間も限られます」

 サラトの進言を素直に聞いて、マリネを吸血鬼の爪から、離し抱いた。

 爪はその切っ先が、マリネの首に届いていた、時間が止ってなかったら。


 彼女は、首から血飛沫を上げ死亡していた。

 想像したら、冷や汗が滲み彼女を抱く腕に力が入る。


 ズザァ━━━。


 止った時間が動き出し、マリネの首に届いていた吸血鬼の爪は空を斬り、その身体は大きく的を外して、地面へ激突寸前で止った。


 「ユキヒト……、如何して?、何故腕の中に?」

 気が付いたら腕の中に居て、訳が分からない様子だが、それは全員が同じと言えた。特に、首を取ったと奴は感じてた筈、実際……サラトの力が発動していなかったら、彼女は死んだ。


 だが、今はゆっくりと説明する様な暇は無い、油断したばかりに。

 危うく、マリネを失いかけた。

 

 「マリネ……剣に、頼む!」

 「は、はいぃ」


 桜が舞い……、右手に剣を確認した。

 マリネの剣を手にして負ける気はしない、一気にケリを……。


 動きがない……。

 「おい! 、何の心算だ……」

 

 背中を向け動きを止めていた吸血鬼は、手を下げたまま、振り向いた。

 その顔には又も、殺気が無い、いや……、気力が消えてる。


 「卑怯な手段すらも、凌駕して見せたか、異界の民よ」

 「知ってるのか……」

 吸血鬼は何千年も生きている、奴もその一人なら知ってるのも、当然か。


 「もう良い……、さあ、止めを刺して欲しい、異界の民よ」

 「最初から……その心算だったのか?」

 ひょっとしたら、首にかかった爪も引いたのではないか?。


 「如何かな……、だが、知っても意味が無かろう、さあ突け!」

 永劫に生を成せる魔物が、その死を願うのか……。


 俺は剣を上げ構え、その狙いを彼の胸に定め……。

 

 やめて━━━!


 娘の吸血鬼が剣の前へと、躍り出た……、ずっと観ていて飛び出した。

 剣を引き、彼らを見詰た。


 「お願い……、殺さないで。私には、仲間がもう父しか居ない」

 「馬鹿者! 、ラミカ……何故戻った!」

 

 「勝手な理屈を、言わないでくれる! 、あんたらが何してきた?」

 ロゼの言ってる事は間違いない、俺達が昨晩居なかったらイリスは死亡していた。或いは、吸血鬼にされていた筈。勝手な言い分には違いない。

 

 「如何しても殺すなら、私も殺して……、一人きりは嫌……」

 「吸血鬼が此処まで情けないとは……、ユキヒト構わん、やれ!」

 『ユキヒト様……、此処で見逃して、他で犠牲がでたら……』


 皆は、俺にこの二人をどうしても殺させたいか……。

 下げた手に力が入り剣先が、上を向いた。


 じっとしていた吸血鬼が動いて……、自ら剣に己の胸から飛び込んだ。

 「いやっ! 、父上━!」

 「ラ……ミカ、これで良い……お前は生きて」

 深々と突き刺さった剣に彼の血が流れる、もう抜いても意味は無い。


 「頼みがある……異界の民、ラミカはハーフだ、血を求めなくても生きて行ける。純潔の吸血鬼は……、私が最期の一人だ。頼む、娘だけは見逃してくれぬか?、娘は一人も歯牙に掛けていないのだ」

 

 世界が違っても種族が変わろうが、娘だけは助けたい……か。

 だが、その何十倍もこの男は死を撒き散らしてきた。


 「耳を貸すなユキヒト、その場凌ぎに違いないぞ!」

 

 「娘が誰も殺していないのは、本当か?」

 「死の直前だ……嘘はつかぬ」

 娘のほうに目をやる、小さく頷いていた。


 「あんたの言葉を信用するよ……、ラミカは殺さない約束する」

 「すまん感謝する……。ラミカ……、生きて……」

 最期の吸血鬼は娘の命を委ねた後、永劫の生を手放し死んだ。


 「父上━━!」

 何時までも剣を刺しておくのは忍びない、ゆっくりと引き抜いた。


 「まただ! 、見逃す事はできん!」

 アネスは弓を引き、矢をラミカへ放った。


 キィン!

 俺は彼女が放った、その矢を切り伏せた。

 「何故だユキヒト!」


 「約束した……、ラミカは殺さない」

 「甘い! 、甘すぎる今殺して措かないと……皇帝との約束は如何する?」

 「妹は救った、殺してくれとは言っていない」

 「詭弁だ!」 

 「俺に約束を破らせる気か! 、アネス!」

 出会ってから初めて、アネスへ命令した。


 「父親を埋めてから此の地を去れ、約束、わすれるなよ……」

 

 ラミカと呼ばれた女は父親を棺に入れ、地下の扉を閉めた後、飛び去った。その後は屋敷で火を熾し、その場でキャンプをした。翌日、起きた後に昨晩の一件を、口にしたものは居なかった。皆、朝食を黙々と食べた後は地竜に乗り、皇帝の待つ鉱山都市へと向かった。

 

 そこで別れが待っていたとは、誰も想わなかった。


 「妹を救ってくれた事、心より感謝する」

 皇帝は俺達に又もや、頭を下げて礼を尽くしてくれた。


 「陛下……、約束は守って頂けますよね」

 「勿論だ、此処に私の印を記した書面が在る、これを渡して欲しい」

 皇帝は印の付いた書面を見せ、ロゼへと手渡した。


 長い歴史の中で、初の帝国との和平成立は、歴史的快挙といえた。

 「もう一つ、和平の証を渡そう、入って来なさい」


 正面入り口のドアではなく、隣の部屋と繋がっているドアが開き女性が入ってきた。何処かで見覚えが、ある筈だ。イリスが入ってきた。


 「改めて紹介したい、妹のイリスだ、彼女を諸君達と同行させて欲しい。これは私ではなくて、妹の希望だ。如何だろうか?」


 「ファラ・イリスです、皆さんとご一緒させて頂けませんか?」

 何時もなら此処で、アネスがスパイでは無いか?と、疑うとこだが、珍しく何も言わなかった。となれば、後はロゼ次第だが、顔をみたら聞かなくても分かった。


 「分かりました、イリスさん一緒に行きましょ」

 「ありがとう御座います、ご迷惑はお掛けしません」


 「これで全て片付いた、私も安心して首都へ戻れる」

 「では、私達もこれで失礼します」


 

 総督府を後にして、地竜を繋いでる厩舎へ到着すると。

 サラトが、急に皆に話があると注目する。


 「皆さん……、七日間の短い時でしたが、これでお別れです」

 「あら……サラトは、ラケニスの処へ戻るのね?」

 ロゼの問いにサラトは首を振った。


 「私は……七日間の期間だけ、生を受けました。今日がその日、だから此処でお別れです。私の代わりはイリスさんが、だから何も心配いりません」


 「そんな……急すぎるよ、俺は……まだ何も返せてないぞ」

 「いいえ、願いを叶えてくれたでしょ」

 サラトはイリスの横へ、その白いローブと銀髪を靡かせ歩いていった。


 「イリスさん……後をお願いしますね、ユキヒトさん、甘えん坊ですから」

 「はい……」

 「時間です、皆さん本当にありがとう、ユキヒト……

 

 彼女の最期の言葉は、聞こえて来なかった、透明になった彼女はイリスへと重なり、その姿を完全に消し、イリスと同化した。


 サラトの最期の言葉は。

 『貴方に逢えて良かった』


   小僧……。


 〝ラケニス!〟

   サラトに代わって礼を言おうぞ、感謝する。

   本来あの日、主達を迎えに行かす為だけに創造した

   一緒に行くと言った時は、びっくりしたがの

 

 〝サラトは……、幸せだった?〟

   無論じゃ、主が願いを叶えてくれたからのぉ

   サラトが観た物、感じた物は全て共有しとった

   あの娘は、間違い無く幸福を感じとった、安心せい

 

 〝そうか……、ちょっと寂しいけど〟

   最期にもう一度、礼を言う、ありがとう

   では、さらば……又、逢おうぞ


 ラケニスが頭の中から去った、あの婆さんに又、逢う日が来るのかね?。


 「ユキヒト?、どうかした?」

 「いや、何でも無い、さあ帰ろうぜ!」

 「そうね……、さあ皆帰るよー」


 戦争を回避するのを、目的に此の地へと六名でやってきた。黒衣の奴の罠にはまって、もう少しで大事な女性を一人失いかけ、決闘裁判ななんて事をする羽目にも遭った。図らずも、此の国で三つの能力の開放を見た、その一つを開放した女性は、もう姿を見る事はない、だが彼女を忘れる事もない。彼女の意志は、新しく仲間に入った女性と同化したらしい。


 帝国領でのやるべき事を全て終えて、首都の入り口へと近付いている。

 門の処に見える影はきっと…………。


 まだ、明かされていない残りの力。

 黒衣の者の企ても不明のままだ。


 出会いと別れ、そして冒険の話を土産に首都へと帰ってきた。

 彼女達との危行は、まだ続く。




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