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女難危行・拉致した皇女と六人の嫁  作者: 雛人形
第二章
35/90

願い

よろしくお願いします。

 

  俺の知ってる吸血鬼は、此れじゃなかった━━。

 最初に見た時は、そう感じたけど。


 いの一番に、マリネが狙われた。


 吸血鬼の特性なのか?、魅了しやすいと判断されて彼女が犠牲になる、紅い目がマリネの眼を捕らえ、彼女は虜となり中間に剣を向けた。


 その標的は魅了されない者、俺に向いた……。

 細剣(レイピア)の影が多段となって、突き刺さる、が、そこで終る。

 ズグロがマリネに気を叩き込んだ、小さく呻き倒れるマリネ。

 「ううっ」


 『己、龍族か……、忌々しい!』

 アネスが弓で狙うが、部屋の中ではその不利な状況を否めない、咄嗟に短剣へとスイッチした。その動きと短剣の煌めきは、確実に奴の首に届く距離へ、が、只の黒マントと見えていた物が硬化し、それと彼女を跳ね返す。


 ロゼの火焔は此処では使え無い、部屋その物まで焼き尽くす。

 「あぁもう、部屋の中は戦い難いわね!」


 だが、外へは出られない、でれば奴は再び部屋へと戻る、それを防ぐには戦力分散しなければならない、人数だけは多いが、魅了される女性中心の構成はかなり不利。その上更に、後手にまわりそうな戦法を、取るわけにはいかない。


 夜の吸血鬼の強さは相当な物だった。刃と代えた翼が、強気のロゼとアネスの身体を切り裂き、鮮血が飛び交う、致命傷に至らないのはサラトの回復の御陰だ。


 そのサラトを、奴は睨み標的にした。アネスの短剣を跳ね、ロゼの火炎をマントで掻き消し彼女に迫る、紅い眼が煌めく刹那、ズグロの気が吸血鬼を弾き飛ばす。


 「サラト殿、無事か?」

 「勿論、ズグロ助かりました」

 

 「全く、何時も我を邪魔する……、龍がぁ!」

 「黙れ! 、貴様達が我が物顔をする時間は、当に過ぎ去った、闇へ帰れ」

 ズグロの言い方は、昔に奴等が支配していた時期が在ったという事か……。


 「う、……私」

 マリネが意識を戻した。


 「マリネ……、剣に……来い!」

 「あ……はい」

 桜が舞い、右手にマリネの刀身が輝きを見せた。

 今の感情の昂ぶりは、何なのか知りたいとこだが、今は考えを捨てる。


 『ユキヒト様……私がおそ……』

 「そんなのは問題無い、それより先にあいつだ」


 「ぬ……、小僧、何処から剣を……」

 「それは秘密だ」

 

 左下から斜行し切り上げる一閃、黒い影は右腕を振り翼を盾にに変えた。その翼は盾とは成り得ず、スパッりと切り裂け、右腕は床に落ちると青い炎と共に消滅した。


 「ぬおお! 、馬鹿……な、人間風情が腕を!」

 左手で無くした腕を押さえ、動きが鈍る。追撃で左腕も切り落とした。

 「くがああ……、そんな……在り得ないぞ、人間が我を滅するだと?」

 

 脚も切り落とし、完全に動きを止めて心臓を刺せば終る。今夜は追い返すだけの予定の筈が、図らずも吸血鬼に止めを刺せそうだ。いくら魔物とはいえ、嬲り殺し等はやりたくは無い。


 「あの人をお前に、渡せない……、斬るしかないんだ悪い」

 「小僧……」

 苦しめる命の絶ち方は嫌だ……、せめて一撃で!。

 吸血鬼の心臓へと、桜色の剣は、突き……


 ブワァ━━

 

 開かれた窓から真っ黒な影が、傘を開いた様な形で飛び込み、俺の視界を防いだ。反射的に後方へと飛び下がる、即、体勢を戻し乱入してきた者を見定める。


 「父上……、引きますよ!」

 「え……女?」

 「人が……、父上をよくも……絶対コロス!」

 乱入してきた女の吸血鬼は、毒舌を吐き、両腕の無い男を抱え外へと飛ぶ。


 「今……、父上て言ってなかった……か?」

 「言ってましたね……」


 まるで、天空に浮かぶ月へ目指して飛んでいるかに見える、その黒影を見詰ながら考えた。魔物でも上位種には意思が在り、その親族に情が在った。あの最初の吸血鬼を、その心臓を貫き、殺していたなら、俺は彼女にとって父親殺しの仇になっていた筈だ。


 防がなかったらイリスが死んでいた。だから阻止した、それは間違ってはいない。そこには確信を持てる、しかし吸血鬼だからと、殺してしまっても良いのだろうか?。血を摂取しなければ生を永らえない、血を摂取されすぎたら俺達は生きていられない。


 現代日本ならやり様はある、この世界に輸血や献血といった気の利いた物が在るとは思えない。相反する生命体として、弱肉強食の摂理に従い殺し合いしかないのか?、意思在るもの者同士で話し合い、共存が出来なかったのか?。


 俺が考えてる事は、この世界の住人から見たら、ただの理想論の偽善、と、言われるのは予想がつく。それでも、何とかならないのかと、遠ざかる影を観ながら遣る瀬無い気分に成った。



 

 

 月を背に、女の吸血鬼は父親を抱え、城へと舞い戻った。

 椅子へ座らせ、父親の前に膝を付き、見上げている。


 「父上……、腕の具合は如何ですか?」

 「ううっ、あと……少しで動くか……」

 斬られた筈の両腕は、既に復元していたが、自由には動かない様だ。


 「己! 、人間絶対許さぬ……、父上、腕が治り次第、復讐を致しましょう」

 父親の方は、斬られ再生中の腕を眺めながら言う。


 「ふむ……、あの龍の言う通りかも知れん、我らの時代は終っておる」

 「そんな……、まだ私と、父上、彼方が居る。終らせません!」

 時代がもっと大昔なら、娘の意見を普通に承諾していた。


 「私は良い……、悠久に等しく生き永らえて来た。だがお主は……」

 「何故?、急に弱気に成られた?。昨日まではもっと……」

  確かに、昨日までならその意気も在った。ある存在が、全てを否定した。


 「娘よ、お前は見てはいなかったのだな、あれを……」

 「仰って下さい、アレとは?、私がそれを排除してきます」

 娘の意気や良し、だが、強く叱り付けた。


 「為らん! 、あれに近付いては、あれは我らには手に追えぬ者」

 父親からの激しい叱責で、たじろぐ。


 「其処まで……恐れる者とは……一体、何なのですか……」


 「あれは……、異界の民と、その意を受けた剣だ、手を出すでないぞ」

 「異界人……、ただの伝説では?」

 首を横に振り否定した。


 「わしの硬い翼も、紙の如く切り裂き、両の腕をも叩き落とした、それが証拠だ、娘よ彼らは明日に成れば、この城へとやってこよう、わしは最期の純血種として残らねばならん」


 「私も……、父上とご一緒します。戦います!」

 娘の想いが父親には、宝石の如く思えた。しかし、それは許さなかった。


 「絶対に許さぬ、お前は逃げ延びて生きよ、分かったな?」

 それだけ娘に伝えると、部屋を出て行った。


 「父上……、私を一人にするのですか……」

 

 

 

 

 夜が開け吸血鬼の時間は終った。昨晩の襲撃を防いだ事で、イリスは取り合えず生を成した。しかしまだ、生きていると言うだけの状態は変わっていなかった。


 「まだ……、時間が要るとか?」

 「昨晩、阻止したばかりだし、その可能性はあるな」

 「昼迄、様子を診ては如何でしょう?」

 どのみちそれしか、今はやれる事が無い、三人の意見でまとまった。


 昼が来る前に、時間が有る。皆何かをしに行くかと想ったが、昨晩待機していた部屋から誰も、出て行こうとしなかった。そこで、駄目元で質問してみた。


 「安全に人の血液を抜く方法て、此処には無いのかな?」

 「はぁああ?、何を馬鹿な事を……、有る訳無いじゃない」

 そっこう、ロゼに否定された。


 「ユキヒトの世界には、そんな方法が在る訳?」

 「ああ、うん、在る」

 「ほぉ、在るのか……、それは凄いな!」

 当たり前に見て来た物だけに、アネスに驚愕されて変に照れた。

 その後直ぐに、マリネから質問を返された。


 「でも……何故?、そんな事を聞いたんです?」

 「血液が安全に採取できたら……、あの二人は人を襲わなくて済むじゃないか、人を襲わない吸血鬼なら……、戦わなくて済む。殺す必要も無くなる」


 俺の意見はやはり、この世界の人には驚愕らしい、呆気に取られた顔だ。

 唯一人、違う人が居た。


 「ユキヒトさんは……彼らと共存出来ると考えたのですね」

 「吸血鬼と共存?、馬鹿なそんな事は有得ん!」

 アネスの意見は、この世界の住人の代弁なのだと思った。


 「確かに、安全に採取出来るなら、可能性はありますね」

 サラトは完全否定をしなかった。


 「やっばり異世界人は何処か違うわね、私、殺す事しか無かったもん」

 「ユキヒト様、優しすぎです、でもやはり……、怖い存在としか」

 「うん、仕方ない、この世界では俺の意見は戯言でしかない……」

 

 分かってはいるが、遣る瀬無い気持ちも変わらなかった。

 そこへ執事がドアを開け入ってきた。


 「イリスはどう?、意識は回復した?」

 執事は、虚しく首を横に振って答えた。


 「一向に……、回復の兆しが見えません……」


 イリスが横たわるベッドの周りへ皆が集った。

 確かに、全くといって昨日から変わっていなかった。


 「やはり……肝心の吸血鬼を、倒さないと治らないのかも」

 命を絶つ事に躊躇している俺には、その言葉は刃に刺された感じがした。


 「でもこれ……、お父様の時と似てないかな?」

 皇王が、夢魔に侵されていた事を言っている。それを聞いていたサラトが、ゆっくりとベッドに近付き、その手をイリスの額へと当てた。暫し、その体勢を続けていたが、手を離し俺達に言った。


 「はい……イリスさんの中に、何かが居る事は間違い無い様です」

 「やっぱり……、よしサラト行きましょ!」

 意識の内へと入れるのは、サラトともう一名、ロゼが同行を前回したなら、今回も慣れた彼女に任せた方が良いだろう、皆はそう思っていた。


 「ユキヒト様……、お願いできますか?」

 「どうせ、劇よわだから、誰でもいいわね、今回はユキヒトに頼むわ」

 行く事は、別に何も無いが何故俺を指名したのか、気には成った。


   彼のものが夢見し世界へと……、我らを導け。

 

 サラトが詠唱を唱え、俺とサラトはその場からイリスの意識下へと消えた。


 以前にロゼから話を聞いた通り、螺旋の階段が下へと続いていた。

 その道に沿って、数多くの扉があるが、開けてはいけない。

 「確か、僅かに開いてても、覗くのも駄目だったかな?」

 「はい……決して見てはいけませんよ」


 螺旋階段を下りながら、又、疑問が蘇ってきた。

 〝サラトは何故、俺を指名した?〟


 一度疑問に想うと、更に興味が強まっていく、ここ最近彼女に感じる違和感も、得体の知れない疑問と成って、頭の中を掻き混ぜる。


 「ユキヒトさん……、深層へ着きました」

 そこには他とは違って色も大きさも違う、扉が待っていた。

 さっそく、中へ入り夢魔とやらを倒して帰ろうと、扉に手を掛けようとした。

 

 その手をサラトは自分の背中へと導き、自らの肢体を胸元へと預けてきた。傍から観たら、恋人同士が抱き合ってる形が出来上がっていた。


 「サ、……サラト?」

 「貴方を指名したのは、此れが理由です……。一度、他の人と同じ様に……」


 俺の腕の中の、細い肢体が動きを見せた。

 胸に当てられていた両手は、首筋へと伸び絡みつく、アネスの腕よりもっと、柔らかく……強く、首を引かれサラトの唇は重なった。


 切なさでも陶酔でもない、心穏やかな一時の安らぎを、俺に与えてくれた。

 それは、その感覚は、サラトそのものから包まれた気がした。


 永久にそのままで居たい衝動を、サラトの手が遮った。

 胸からゆっくりと身体を離していった。

    

    〝サラトよ…………願い叶い、よかったのぉ〟

 

  

 何か、婆さんの声が聞こえた気がしたが、気のせいだろう。

 「もう……願いは叶いました。夢魔を倒して帰りましょう」


 今度はサラトが扉を開け、その先の夢魔を指差した。

 それは聞いていた通り、直ぐに倒れた。


 「これでイリスさんは意識を戻す筈です……、ユキヒトさん帰りますよ」

 一言も言葉をかける事ができず、只彼女の傍へと寄った。

 

 

 


 「あ! 、もう帰ってきた。どう?弱かったでしょ」

 「ああ……うん、弱かったよ」

 ぎこちない俺を他所に、サラトは笑顔で話した。


 「もうイリスさんは大丈夫です。時期に意識を戻します」

 少し、疲れたので隣の部屋で休ませて欲しいと部屋を出て行った。


 その時、彼女を一人にした事を、ずっと後悔した。




ありがとうございました。

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