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女難危行・拉致した皇女と六人の嫁  作者: 雛人形
第二章
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救う手段

続編です、よろしくおねがいします

 

 マリネの処刑まで残り……、夕刻に執行される。


 朝食の後にロゼは呼び出され宣告された。

 前だったら、誰も食事には手が付けられなかった。


 昨日の今頃は、まだ希望を求めての高揚感に溢れ、皆の士気が高かったが、今は如何か?。黒衣の者に()められてマリネの命を奪われんとしている。ロゼが戻って宣告された内容に愕然としてからは、誰もかもがまだ口を閉じたままである。重苦しい空気のみ漂う空間に四人は、各々が打開策を巡らせているのだろうが、言葉が出ないのは誰も見つけていない証拠だ……。


 悪戯に時間だけが過ぎ去っていく……。


 マリネは拷問を受けていないだろうか?。

  もし……そんな事に成っていたら、俺は許さない……。

 

 牢獄に独りきりのマリネは……、何を想っているのか?

  きっと皆を想って泣いているに違いない。


 俺は如何したら良い?、如何したら助けられる?

  俺達が大暴れして、彼女を助け出すのは簡単だ。


 そうすれば彼女は救える、その代償は全面戦争と成る。当然、今の通常戦力では太刀打ちできまい、やはり俺達が前線に赴く事に、そして……大量虐殺の結末を迎える。


 ハインデリアは戦争に勝つ為に、無慈悲な大量虐殺を行った。ロゼの名はそれを命じた、為政者として歴史に名を残す。国を奪われ、親しい者を失った者達が集り、復讐戦を挑んでくる者達も出るだろう。同盟国からも宣戦布告されるかもしれない、そして又、大量虐殺。


 それを覚悟で強引にマリネを奪い返せるか?。

 自分を救う為に、俺達が大量虐殺をやると成ったら……彼女は?。


 今度は自分で命を絶つかもしれない。


 結論が出ない、名案が浮かばない、無駄に時間のみ費やしている。

 簡単に救えるのに、それを行使出来ない歯痒さに、心が張り裂ける。


   『大切にしてやれい』

 ラケニスの言葉が、刃となって俺を裂いてくる様だ。


 「俺の世界だったら、この事態と成る前に打つ手は有ったが、この世界は俺には判らない事だらけだ。ロゼ……本当に何も……手段は残されてないのか?、有るなら教えて欲しい」


 長い沈黙の空間を、俺自らで破った、ロゼとアネスが顔を見合わせている。

 何か、手段が残っていそうだ。


 「何か有るんだろ?、顔を見合わせてたぞ……」

 「うん……、たった一つだけ……」

 持っていた……。言えなかった理由が分からないが、何で有ろうとやる。


 「如何したら良い?、教えてくれロゼ」

 

 「決闘裁判……」

 聞き覚えがある、西洋の慣わしだったか?、この世界でも……在るのか。


 「神の御前に措いて、勝利者が正しい。ってやつのことか?」

 「ユキヒト……知ってるの?」

 「俺の居た世界でも、大昔は在ったらしい、今は無いけど」

 それで勝てば……、マリネを救える。


 「それしか無いなら、やろう、ロゼかアネスで余裕だろ?」

 「駄目……、私も……いえ私達、女性全員が……その資格が無い」

 「って……、まさか、男だけとか?」

 「そういう事、代理者は被告が何であれ、男性のみ資格を有する」


 マリネを救う道が見えたと思ったら、とんだ落ちが待っていた。

 だが、迷う事なんて何一つ無い。


 「俺が出れば問題ない、勝てばいい!」

 「そんな簡単に言わないでっ!」

 何故か、ロゼは悲痛な声で俺の言葉を否定した。

 それ以上、言わないロゼの代わりにアネスが言葉を続けた。


 「もしも、決闘裁判で、こっちらが勝ったら、此の街で宰相を殺害され、その上その犯人を放す事になる、連中のメンツは丸潰れになろう。絶対に勝てると、確信出来る者を代理に立てて来る。貴様まで命を落とす事になってしまったら……」


 皆が俺の命も、心配して話せなかった…………のか。

 こんな嬉しい事は無い、やるべき事は決っている。


 決闘裁判で勝利して、マリネを救い出す。


 「ロゼ……出るよ、連中に伝えてくれ」

 「ユキヒト……貴方本気なの?、死ぬかもしれないのよ?」

 「死ぬとは決ってない。俺の世界に……こんな古い格言みたいのが在る」


 男には、負けると分かっていても、行かねば成らぬ時が在る。

  死ぬと分かっていても、戦わねば成らぬ時が在る……。


 「それを……果たしたい………、て、格好付けすぎた……?」

 「もう……ばか……ねぇ、いいわ、そこまで言ってくれるなら貴方に賭ける」

 「頼むぞユキヒト、マリネを救え」


 マリネはドアを叩き、衛兵に告げた。

 少しの間を空け、衛兵隊長が部屋へやってきた。


 「良いでしょう、但し被告がそれを望まなければ、決闘裁判は無しです」

 「ユキヒト……、貴方がマリネを説得してきて」

 「ああ、分かった」

 

 衛兵隊長はドアを空け、俺を連れ出した。長い廊下を幾つも通り、地下へ続く階段を降りた。その先は冷たく暗い石の通路が延びている。こんな場所にマリネはたった独りで一晩、放置去れていたのかと想うと、今直ぐにでも衛兵を蹴散らし、救い出したい衝動に駆られる。

 

 「入れ、説得出来なかったら、終了だ」

 そう言って、俺を独房に押入れドアを閉めた。


 「マリネ……」

 俺の声が聞こえていない?、違う……認識出来ていない。装備を剥がされ、ボロボロの布としか言えない服を、その細い身体に着せられ床に項垂れている……。どんな想いでこの境遇に耐えてきたのか……。


 「マリネ……、しっかりしろ! 、俺を見ろ」

 ゆっくりだが、反応して顔を上げた。

 俺だと分かると大粒の涙を流し、抱きついて来た。

 細い華奢な身体が震えている、情動に流されそうになるを耐えた。


 「ユキヒトさ……ま、わたし……わた……」

 そこに、騎士の凛々し姿は見えない。

 

 命の火を消され掛けている。一人のかよわき女の姿だけだった。

 沸き立つ情動を跳ね除け、彼女の肩を掴み身体から離し、会話を続ける。


 「良く聴けマリネ、お前を救う方法は一つしか残ってないんだ」

 「はい……」

 

 「決闘裁判を受容れてくれ、そして勝ってお前を救い出す、これしか無い」

 「い、いや……ダメ、ダメ、ダメ、貴方が死んじゃう、そんなの駄目!」

 マリネは、首を大きく振り乱し、拒否を示す。


 「ユキヒトまで、死んじゃうなんて……、そんなの絶対ダメ!」

 

 彼女は……死を受容れているのか?、俺までと言葉にした。

 しかし、それは間違いだった、死を受容れたのでは無い。

 受容れようとしていた……、俺の顔を見るまで、声を聞くまでは……。

 

 「聴いてくれ、これまで八人一緒だっただろ?。こんな処で、マリネだけ一人を欠いて七人なんて、そんな事出気やしない、無事に六名で首都に帰って八名の勢揃いだ」


 昨日からずっと一人きりで、孤独と苦痛に耐えてきたが、俺と話しをする事で生きる事への執着、それが戻って来た様に見える。


 「皆で一緒に、うちに帰ろうマリネ……」 

 「やっぱり……私、生き……たい、皆と……貴方と、もっ……

 

 それ以上の言葉をマリネに、語らせ無かった。

 長い時間が過ぎ……、それはアネスの時よりも、ずっと長い時間。

 口の中が、塩気で充満する前に、彼女をそっと離した。

 

 「それにだ……、俺は英雄様なのを忘れたか?」

 「そうでしたね。あはは……忘れてました……」

 マリネの顔に笑顔が、蘇った。再び、悲しい涙を呼び戻させはしない。

 

 「マリネ……決闘裁判を受諾しろ……絶対助ける」

 「はい……、全てを貴方に……ユキヒト」

 

 話は着いた、彼女の意志を聞いた以上は、此処に用は無い。

 何時までも、こんな場所に居座って入られない。


 「衛兵、話は着いたぞ、決闘裁判だ!」

 ドアを潜り衛兵が来た。


 「女! 、受容れるのか?」

 「はい、決闘裁判を望みます」

 「チッ!」

 衛兵は、俺を外へ連れ出し閉めた。

 去り際に垣間見た彼女の顔は、希望に満ちていた。


 ロゼ達の待つ部屋へ戻ると、皆の心配顔が見えた。

 「決闘裁判は……、正午に開催される」

 「なに! 、早過ぎるぞ」

 「決定事だ、それまでに命の洗濯でもしておくんだな」

 言い捨てて、衛兵隊長はドアを閉め、出て行った。


 「連中……、これを予想してたな」

 「ええ、早過ぎる、間違い無く、勝利を確信し得る奴を、選んでるわね」


 今頃になって、自分がこれからやろうとしている事を、頭と身体が連結して理解した。落ち着かせようとしても、脚の揺れが止まらない。何度も拳で叩いても、それは治まらなかった。


 〝くそ、くそっ! 、止れよ……!〟

 幾度も殴っていると、柔らかい手で拳を止められた。

 

 「今からそんなに、自分を傷つけてはいけませんよ」

 「サラト……、脚が……、止らないんだ……。これじゃ助ける事なんて」

 彼女は俺の背中に頬と、両手を、身体を寄せ。


 「大丈夫です……、貴方はきっと勝てます。私は心配していませんよ」

 彼女の言葉は、樹木が水を吸い上げるように、全身の隅々に行き渡った。

 不思議と、落ち気が戻ってきた、脚の震えも治まっている。


 「ありがとう……サラト、凄く楽になった」

 「お役に立ててよかった……」

  この人、本当は性悪婆さんじゃなくて、女神の模写(コピー)じゃないのか?。

 

 「何よ、あの態度……、サラトに引っ付かれたら……コロっと」

 「全く同感だ!」


 「馬っ鹿じゃないの……、けど……今日は許して上げるわ」

 「そうだな……マリネを救い出さないと、多少の事は…………」

 「多少の事は?、その後は……何かなぁアネスさーん」

 ロゼの顔も何時もの、意地悪を嗜好している物に成っていた。


 「それはぁ! 、何でも無い、たいした事じゃない!」

 「本当かなぁ……、妖しいなぁ」

 

 「おほんっ、それを言うなら皇女殿下の方が、余程怪しい!」

 「許して上げるって、まるで自分のおと……

 「わああああああああ、分け分かんない事、言わないで!」

 

 サラトに礼を言って振り向くと、ロゼが真っ赤な顔してアネスと会話中だ。どうも良く分からないが、その姿を見ていると、魔法も弓とかも使え無い普通の女性の感じだ、何だが微笑ましかった。二人を見ていたら、急に此方を向いたと思った途端、襲い掛かってきた。


 「わっ、何だ、何なんだ?」

 「喧しい、一発殴らせなさい!」

 「右に、同じく!」

 

 それを、見ているサラトとズグロが大笑いしている。

 とても、決闘裁判の直前とは思えぬ、雰囲気になった。

 

 しかし……。

 早朝から続いていた、重苦しい空気が今は消え失せている。

 何時もの仲良し八……今は六人か、首都に残してきた二人が居る。

 マリネをそこから欠けさすのは忍びない、必ず連れ帰る。


 「時間だ! 、用意してもらおう」

 「さあ、マリネを迎えに行きましょう」


 衛兵隊長に連れ立たれ、俺達五名は決闘が行われると言う闘技場へ向かう。


 負ける事は許されない、全てを失う。



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