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女難危行・拉致した皇女と六人の嫁  作者: 雛人形
第二章
29/90

邪龍戦再び

又、面倒を抱え込む。

よろしくおねがいします!。

 

 焔が利かない━━━。


 正確には内部までその焔が焼き焦がさない、が妥当な表現かもしれない。全体をどんなに 灼熱の業火が包もうと内部から新たな表皮がそれを削ぎ落としている。


 二度同じ様に試したが、やはり焔は剥がれ地表に消炭を体積させていく。


 内部に攻撃を到達させないと倒せそうに無いが、その手段も今は思い付かない。焼くのが駄目なら凍結は如何なのかと、サラトが試すがこれも同じく新たな表皮に阻まれる。寧ろ凍結の方が良くなかった、表面が入れ替わるときに、氷を飛散させそれを俺達が回避せねば成らなくなった。


 「いけません……凍結の方が性質が悪そうです」

 こちらの攻撃が結果として向こうの攻撃を援助している。


 「ズグロ、何とか出来ないか?」

 「今回も……、我は手が出せませぬ、申し訳……」

 ズグロが手を出せないのは仕方が無い、それが古からの掟でありそれに逆らう事は、不可能な理なのだと聞いている。


 此方の事情等、あちらさんは考慮なんかしてくれない。巨大な蛇にも似た胴体が、地表から高く天井近く迄突き出ている。その頭部には眼は配置されていない、大量の土砂をも一度に地表から消し去りそうな、巨大な口しか無い。


 その洞窟に等しき口腔から毒霧が吐かれる、接触すると皮膚が激しい毒で焼け爛れる、それだけでなく身体内部まで侵蝕され、手当てが遅れると死に至る。その毒は、自然素材を主材料にしている服や鎧にも同じ効果を及ぼす。広範囲に撒き散らされる毒は、回避し切れない時があり、俺達の服に僅かに付着、服を焼き皮膚を焦がす。


 ロゼが手を挙げ風を纏う。

  風よ我らを…疾風と成せ…


 いまの彼女に詠唱は不要、だがそれすら忘れ唱える。

 余裕がない……。


 ロゼの起こした風の魔法は俺達を包み、疾風と化す。

 これで毒霧には即、反応できる。しかしその効果は短い十秒たらず。

 

 直ぐにサラト、マリネの近い方が毒を中和しに駆け寄ってくる。ほんの一滴でも時間が経てば、体内を侵蝕し始める。救急治療が深刻な事態を避ける手立て、しかし邪龍はその時を待ってはくれない、容赦無く次の毒を撒き散らしてくる。吐かれた霧は飛礫(つぶて)となり、時には槍となり時には雨となり、俺達を侵蝕しようと襲う。


 雑魚戦では、数が居ようと圧倒的な破壊力の彼女達だが、龍王を相手にすると、やはり後塵を拝している。俺の毒を治療しているサラトが、次弾の毒に侵され、その美しい白一色のローブを焼かれている、サラトへ俺はいいと言うが聴かない。


 「マリネ━━! 、早くサラトを!」

 「動かない……で、ユ……キヒト様」

 毒に焦がされているのが判って心が痛む……美しい服が……肌が焼かれている。


 「サラトさん……、診せて」

 マリネが間に合い、毒を中和し回復を掛ける。


 邪龍ヴリグラーネ、その攻撃は、今俺達を苦しめている毒だけでは無い。雑魚がやった様な、地を支点にした範囲を巻き込む回転攻撃、その破壊力は雑魚なんかとは比較にすら成らない。直撃を喰らえば たとえ結界があっても即死となる。本体に接触するほどの直近ならば、死角となり得るがそこから離れる事が出来なくなる、離れている最中に次がくれば避け様が無い。


 「ロゼ、アネス……、あいつが馬鹿口開けた時に、やれないか?」

 恐らく、そこから内部へ攻撃を与えるしか、手が無い様に想えて提案した。


 「うむ、その通りなんだが……、射程が」

 「魔法も同じよ、無限の射程じゃないのよ……」

 確実に口腔へ攻撃するには接近するしか無い、範囲攻撃の真ん中へと突入する事に成る。疾風の魔法を掛け、一瞬に移動して攻撃し即、離脱を繰り返せば……。


 その提案に二人が乗った。


 緑の風が二人を包んだ、刹那に敵の範囲の只中へ飛び込み、弓を引き絞り敵を狙うアネス、腕を上げ魔法を放つロゼ………。


 ドゴ━━!

 攻撃が放たれる一瞬早く、地中から第二の頭が飛び出し二人を弾き飛ばす。


 「きゃあああ」 

 「ぐふ━う!」

 壁の近くまで吹き飛び転がる、受けた衝撃で即座に立ち上がれない。

 容赦無く、第二の頭が二人の頭上を叩き潰すべく迫る。


 ガイン!

 サラトの放った氷塊が、その鎌首を横へと押し退け二人を助けた。

 

 後、少しでも遅れていたら二人は潰されている、状況をしっかり見ていたサラトの大手柄だ。しかし第一の頭がサラトを捉えている、サラトは今動けていない、反応が遅れた。


 「あ…………」

 ほんとうぎりぎりのタイミングだった。ロゼの疾風が利いていなかったら俺はサラトを救えなかった。彼女を庇う形で地面を転げ回避できた。


 「ユキヒト様……ありがとう」

 「はは、此れ以上、綺麗な服も、肌も焼かれるのを、見るのは御免だ」

 「あらぁ、こんな時に……お上手ですこと……」

 サラトは僅かに頬を染めた。


 アネスとロゼにマリネが張り付いている。

 今二つの頭に追撃を慣行されたら、俺達はなすすべが無い……。

 

 しかし、運が良かった。追撃は少し遅れて開始され、応急が済み全員その場から離脱、攻撃を回避する事に成功した。


 〝そういえば……ズグロは?〟

 一人動きが無い、そう想って姿を捜すと、方膝着き手を地面に着けている。

 慌て傍へと駆け寄り声を掛ける。


 「ズグロ、如何した?」 

 「主……殿、済まない我は……動けぬ」

 

 邪龍ヴリグラーネの攻撃は、実はまだ他にあった。この場所に最初に入った時に、地面が地震の様に揺れたやつ……、それが奴の隠れた特性だった。戦闘になると、一定間隔でその本体から振動波が放射され、大地を踏みしめている者はその動きを封じられる。


 ズグロはそれを、ずっと同じ振動波で 打ち消してくれていた。

 ここまで無事に戦えていたのは、彼女が影で助けてくれていた御陰だ。

 「ズグロ……、済まないありがとう」

 「なに……こんなの当然の事、気にするに及びませぬ」


 ニズの様に激しい動きはない、が、性質が悪すぎる。

 

 「宰相に……追加料金、請求しちゃる……これ九千億じゃ安いわ……」

 冗談とも本気ともいえぬ言葉をロゼが呟いた。


 「いけない!! 、皆……地面が」

 ズグロの注意を促す叫びを、その意味を理解した時には遅かった。

 地面が裂け、その中にアネスが落ちた、咄嗟に手を伸ばし掴む。

 「あ、アネス……」

 「馬鹿者! 、お前まで落ちて如何する、早く放せこの……」

 「却下する…… 断る、嫌だね……」


 ロゼとマリネが掛け付け、俺の足首に手を伸ばし掴む……が。

 二人の手と指は、虚しく空気を握り締める結果となった。


 途中で頭を打った俺は、意識を無くした。


 

 此処は………………、地面が裂けて落ちたのか。

 アネスは立ち上がり身体を調べる。

 

 「よし……、擦り傷だけか」

 〝ユキヒト……、一緒に落ちた筈だが……?〟


 辺りを見渡すと少し離れた位置に倒れている、急ぎ、走りより声を掛ける。

 「おい、起きろ……、ユキヒト起きろ」

 〝まさか……〟


 口に手を当てる。

 〝嘘……息していない……〟

 心臓マッサージを始めるアネス、しかし鼓動も息も戻らない。


 〝安心しろ……死なせない〟


 ユキヒトに顔を寄せ、その口から息を吹き込む。

 ふ━━っ、ふ━━。

 マッサージで心臓を動かす、そして又、唇を重ね息を吹き込む。


 〝お願い……戻って……ユキヒト〟

 アネスの必死の救助行為。三回目に唇を重ね、息を吹き込み離した時。


 ゴホッ、ゴホッ!

 命が戻って来た。

 〝良かったぁ……ユキヒト……〟

 

 その時のアネスの顔は、戦友の顔をしていなかった。

 が……、彼がその表情を確認したかは……。


 「俺……生きてたか……、頭を打って気絶していたみたい……だけど」

 「傷は大した事は無い、他は何処か痛むか?」

 アネスの顔は再び、戦友の顔に戻っている。


 俺はアネスに言われ身体の各部を動かしてみたが、少し痛いだけで、骨や筋は痛めていない事が判り、彼女に伝えた。

 「頭の怪我以外は、何ともないみたい。しかし、此処は?」


 坑道の通路ではない……、レールもトロッコも、放置された工具類すらも、何処にも見当たらない。只の洞窟の通路としか、俺には判断が出来なかった。

 「いや、これは多分……奴の通り道だ」

 「奴?、げっ、あれの専用の通路かよ……」


 連続した振動波同士がぶつかり、地表では事無きを得ていたが、地中ではそうはいかなかった様だ。邪龍の開けた空洞の、弱くなっていた箇所が崩れ落ち、俺達はそこへ墜落した。


 「早く皆と合流しないと……」

 見上げる天井壁に、落下した亀裂が無い。


 「複数に、破壊された通路を経由した場所だろう」

 アネスは冷静に判断している、その冷静さは敬服に値するけど。


 「しかし……、悠長にしてられない、早く皆を……」

 アネスの言葉を遮る程、強く早く抱き締め横穴へ飛び込んだ。


 「こ、こら何を……」

 「しー、黙って……、来た……」

 

 スズズ……ズズズズ……

 地を重たい物が通り過ぎる音が聞こえる。

 邪龍ヴリグラーネが、俺達を捜して徘徊している……。


 心臓の鼓動が激しく木霊している。

 〝俺……じゃない、アネス?〟


 姿を隠す為に咄嗟に彼女を抱き、横穴に入ったが。

 〝男にこんなに強く……、駄目……鼓動を彼に……聞かれる〟


 地面を這いずる音は遠くへと離れたが、アネスを開放するのを忘れていた。

 「ユキヒト……もう良いだろ……放して欲しい」


 強く拒否するのではなく、弱弱しい語気に、何時ものアネスの姿は無い。

 「あ……ごめん」

 「つ、強く抱きすぎ……だ、戯け……」


 俺は……こんなにも平静な気持ちで、女性に挑めるのを初めて知った。

 

 一度はその力を解放した腕に、再び力を戻しアネスを胸中に束縛した。

 自然に彼女の首筋へと手が伸び、引き寄せる、アネスは抵抗を見せない。


 冷たい土の壁を背にしている俺に、アネスは完全に身体を預けている。

 その顔を胸から離し、見つめて来た……。

 その眼をゆっくりと閉じ、無防備な唇だけが強調され……重ねた。


 ロゼとは一瞬の時、マリネともこんなに長い時間、交わした事は無い。

 マリネとの切なさの感じとは違う、甘美で陶酔してしまいそうになる。


 そして……。


 ユキヒト━━━━! 、アネ━ス━━! 、何処よ━━━!


 又もや、ロゼの罵声にも似た声で、甘美な一時を強制遮断された……。


 「ふっ……無粋な皇女殿下だ」

 そう言うと、今度は強く突き放し、アネスは立ち上がって声のする方へ歩く。


 「そんな馬鹿みたいに反響させると、あ奴を呼ぶぞロゼ」

 「あ……そんな場所に隠れてたのね、二人とも無事?」

 ロゼが声に反応して駆け寄ってくる、他の皆も続いて来た。


 分断されたが、俺達は再び合流を果たした。

 離れていた時に、アネスと有った事は秘め事にしなくては成らない。

 邪龍との戦闘中、又も……。しかも今度は、自らの意志で行為に及んだ。


 だが、それを云々している余裕は無い。


 合流を果たしたのは良いが、場所が悪い。此処は奴の通路で、何時その姿を現してもおかしくない、一刻も早く広い場所へ移動しないと、通路では回避行動が取れない。この場所で奴と対峙しては、こっちは手も足も出ない状態で全滅を余儀なくされる。


 「元の道は、こっちよ」

 一人、先を進み始めたロゼを、俺達は追従しようと動いた。

 

 調子良く、進むロゼが急に立ち止まった。

 「ははは……如何しよう……、前に居た」


 俺達が向かう正面の通路に奴は現れ、その無い筈の眼に捉えられていた。

 直後、後方からも二番目の頭が突き出た、挟撃をしてやられた。


 逃げ場はもう無い。土竜でも居たら別だが、狭い空洞で動きを止められた。

 

 「皆、我の元へ早く!」

 ズグロが何か、手を想いついた?、それに縋るしか無い、皆は彼女の傍へと集り固まった。彼女の身体が発光し、その身体を元の白龍へと変えた。そして天井壁に向かい咆哮を放つ、その壁に僅かな亀裂が走ると、白龍は俺達を抱え勢い良く飛び立ち亀裂に突撃した。


 一つ目の空洞の天井を破壊して、上へ抜けた。白龍ズグロは再び天井に向かい咆哮一閃、そして又、亀裂へと突撃を慣行し、元の坑道へと俺達は飛び出した。


 「ズグロ……助かったありがとう」

 その場に、身体を倒し力尽き人の姿へと戻った。


 「皆……、無事で……何より」

 それだけ言うと、意識を失った。

 意識を失う程のその身体に、多くの傷を残している。


 俺達を追って邪龍ヴリグラーネは姿を地中から現した。

 「これはもう、引けないわね絶対倒す!」


 全員同じ想いで対峙する。

 その前へとアネスが俺達を掻き分け、正面へと立った。


 「私が……、やる」


 アネスは弓を手に、邪龍ヴリグラーネを見据えている。




ありがとうございました。

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