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女難危行・拉致した皇女と六人の嫁  作者: 雛人形
第二章
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鉱山

続編です、よろしくおねがいします。

 ━━━ワーレン鉱山洞窟。


 鉱山とは、鉱脈から目当ての鉱物を採取する場所を言う。

 広い坑道に、数多く分岐するレールとトロッコ。

 この規模だと、百人以上の鉱夫達が常時…………居たはずなのだ。


 人っ子一人居ない……。

 

 「人が居る気配が本当にしないな……」

 先頭を歩くアネスが、周囲を探りながら言っている。 


 宰相の話だと、このワーレン鉱山はオスマニア領内でも屈指の、希少アダマンタイトの産出量を誇っていたらしい、しかし最近になって閉鎖に追い込まれた。


 鉱山の中は、サラトが自身を蛍の様に発光する魔法を全員に施し、松明なしでも十分に道が分かる様にしてくれている。時折、壁の天井に張り付いているコウモリが出入りしている位で、魔物の影は見えないが、ズグロが異様な気配を奥から感じ取っていた。特に、先の見えないこの様な場所では、彼女の特異能力が非常に助けになる、只、幽鬼(ゆうれい)が居ないか聞いてきたのは内緒だ。


 鉱石運搬用のトロッコのレールが、幾つもある分岐へと延びている、全盛時にはさぞやレールを走るトロッコの音で洞窟内が反響していたと思う。だが、今は誰一人として作業員の姿は無く、無人の空洞と成っている。


 複雑に入り組んだ鉱山内は迷宮と呼ぶに相応しい、それを迷わず進んでいるのは、アネスが鉱山内の地図を確認しながら、確実に目的地へと向かっているからだ。

 

 そのアネスが皆の足を手で制して止めた。


 「止れ、何か居た……」

 彼女が歩みを止めた薄暗い坑道内先を凝視すると、何か地面から突き出ている物が見える。更に観察を続けていると、僅かに波打つ様に動いている。


 「土竜ワーム……こんなデカイ奴が、本当にこんな場所に居るとは」

 周囲の薄暗さにも眼が慣れ、アネスの言った土竜ワームをはっきり視認した。

 地面から人の背丈程の土竜ワームが、その先の坑道に点在している。


 「何この……巨大なミミズみたいなのは……気持ち悪っ!」

 ロゼの率直な感想は、皆の共通の意見でもあった。


 「土竜ワーム自体は珍しくはない、ゾーイの森周辺にも数箇所で群生しているが、問題は大きさだ……普通は膝辺りの高さ位にしか成長し無いものだ、それが、人の背丈程に……、こんなの見たことが無い」


 「では……宰相が言った奴も、この先に本当に居るのね」

 「嘘ではなさそうだ……な」


 宰相が言った、奴とは…………。



 ━━━━ 昨晩、宰相との会見


 「何度も申したとおり、この金額は譲れませんな皇女殿下」

 「しかし、この金額は余りに法外過ぎます! 、我が国の約百年分の国家予算に匹敵してるんですよ。此れでは例え今有ったとしても、国庫が破綻するだけでは済みません」


 ロゼは身を乗り出して、何とか交渉を成功させるべく熱弁している。

 「それは、そちらの事情ですな、我が国の喪われた領民の命は、金額では補えません。国境を追われ、我が国の森林へと侵入した魔物が、一体何人の命を奪ったとお思いですかな?」


 「その遺族と逢わせて下さい、確かに仰るとおり、お金で償える物ではありません。しかし可能な限りの償いはさせて頂きます。ですから……」

 宰相オーベルンは、ロゼの必死の語り掛けに眉一つ動かさない。只机に両手を置いた体勢から非常な対応を繰り返す。

 

 「逢わせようにも……、親戚縁者の全てを魔物に殺されては、逢わせようにも不可能な事です。だから国家が遺族みたいな者で、国家の大事な民を喪った損害を請求している次第です。それにあそこには、貴重な我が国の人材も多く住んでいまして、斯様な金額となってる訳です、ご理解頂けますかな?ローゼス皇女殿下」


 今にも暴れ出しそうなロゼを、席へと戻すアネス。

 〝詭弁よ……、この調子だと……現場も細工してわねぇ、何か打開策を……〟


 俺達は戦争を回避する為に此処へ来た。それには相手を怒らせる訳にはいかない、ロゼが何時もの調子でこの場を荒らし、宰相を蹴り飛ばして気分を晴らすのは容易である。仮に軍、衛兵を呼ばれた所で簡単に蹴散らせる。それだけの仲間が同行してきている。


 しかし、それでは宣戦布告をした事に成る、全面戦争へと突入して多くの一般庶民が戦争の犠牲と成る。相手を憤慨させず要求を撤回、変更させないと、此処へ来た意味が無くなる。


 ロゼは今、非常に辛い立場に立たされた。


 だが、こういう理不尽な要求を突きつけて来る場合、得てして代替案を持っている事もある。最も、元々理不尽な要求を叩き付けてくる位だから、その内容の困難さは言わずと知れようが、最初に突きつけて来た物よりは、達成の確立は高い筈だ。


 〝無いかも知れないが……このままだとロゼが……賭けだ! 、言おう〟

 「すいません、宜しいでしょうか?」

 こんな場は経験無いが、ロゼの援護に成れれば……と、発言を求めた。


 「ええっと、貴殿は皇女殿下の……」

 「護衛の一人です、宰相閣下」

 〝うわ、閣下とか……言い難らっ!〟

 

 「ちょっ、ユキヒト……あなた……」

 「護衛?……、まあ良かろう、何か有るなら申してみよ」


 「では、宰相閣下には……、此れの代案を、お持ちなのでは?」

 「ほお、何故?そう思うのかね?」


 「それは……、要求が余りに理不尽過ぎだからです。支払えないのなら戦争?、本当に争いにしたいなら宣戦布告した方が早いでしょ?。こちらは首都へ赴く旨を伝えていました。遠いこの鉱山都市へと招いた上に、御自分一人で来られた。その理由は、首都の首脳陣に知られたくなかったからでは?」

 

 此処まで聞いて何も反論してこない、何か持ってる可能性が高い。


 「首都には知られずに、何か処理したい事が有るのでは?、宰相閣下」

 〝結果が怖いが……、〟


 宰相オーベルンは、話の途中、机から手を放し、両手を組み顎を乗せ聞き入っていた。間違い無く何かが有るから、興味を引かれて体勢が変わった……筈。


 「ふむ、中々に……。だが何も無い! 、と言いたいが、確かに有る」

 「本当ですか! 、それは……、何を?」

 又、ロゼが席を立ち上がり、身を乗り出して宰相に詰め寄った。


 「我が鉱山に棲まう魔物を討伐して欲しい。ある日突然として、鉱山にそれまで居なかった魔物が出現し始め、作業が出来なくなった。勿論、討伐隊は何度も派遣したがね、(ことごと)く全滅を繰り返すだけだった。衛兵では不足かと、騎士団を向かわせたんだが、これも敢え無く全滅した。たった一人、まだ息がある内に残した言葉が、『巨大な蛇にやられた』。此れ以上の派遣は首都でも判ってしまう、難儀している所へ、皇女殿下と一行が邪龍を倒したと報告が入ってきた。」


 「スパイを送り込んでいる居るのね……」

 「それには、お答え出来きませんな、それに今聞ける立場かね?」


 皇女ロゼと宰相オーベルンの睨みあいが続いた。

 先に、沈黙を破ったのはロゼの方だ。


 「つまり……、その鉱山へ行き、巨大な蛇を倒せばいいのね?」

 「首尾良く討伐出来たなら、賠償の件は白紙にしよう」

 お互い、口調が変わっていた。


 「いいわ、受けます。鉱山へいくわ、けど白紙の件は……」

 「それは、信用してもらおうか。なにせ今の首都は、貴女の国と戦争を始める意思を持っていない」



━━━━。


 「九千億に比べたら、魔物のが遥かに安く済んだわ」

 賠償金が無くなるとロゼは、意気揚々としている。


 「巨大な蛇……、少し気に成りますが」

 ズグロが何かに警戒しているみたいだけど、ロゼは構わなかった。


 「さあ、邪魔なミミズの化物掃除して進みましょ」


 ロゼの掃除宣言で、ミミズの討伐しながら先へと進み始める。

 

 毒や、地面を支点にしての周囲攻撃、どれをとってもこの面々を、怯ませるに足る物は無い。矢で貫かれ、焼き焦がされてる奴に、動きを封じられ処を更に凍結にされ、叩き割られる。


 坑道を先へと進むにつれその数は増してきたが、雑魚がどれだけ湧いていようが、一切の障害と成り得ない、次々とその姿を無残に炭化されるか、粉々の氷片となり地面に刺さっていく。


 「私達を阻みたいなら、龍でも連れてきなさいってね」

 心なしかロゼは楽しんでいる様にしか見えない……。

 

 「ロゼ様変な事言わないでください……、本当に出たら如何します?。それでなくても、蛇は……苦手で嫌いです!」

 ズグロに続き、苦手を暴露した二番手はマリネだった。


 「きゃあああああああ」

 突然、マリネが叫んだ! 。

 ミミス゛は……居ない、では何だ?。


 「うーむ、マリネ……これ只のロープじゃ……

 激しく抱きつかれて息が出来ない位だった。


 ブチッ

 「マリネ! 騎士でしょシッカリしなさい! 、これ普通の紐!」

 しがみ付いているマリネを見てから、語気がきつくなった。

 意気揚々とした姿が消えていた。


 「も、申し訳ありません…… 気を付けます」

 主の激怒に、消沈気味のマリネをサラトが気遣った。


 「マリネさん、あまり気にしちゃだめですよ」

 「はい……」

 気遣うサラトの姿を傍から見ていると、あのラケニスの模写とは、到底思えない優しさを魅せてくれている。本体の方は五千年もこの世界に居て、時間を持て余しているのか性格スレ過ぎだろ……。だけど、今のロゼの言動はちょっと酷い気もする。


 〝私、何でこんなにイラつく?〟

 最近のロゼは、頻繁に態度を急変させる事が増えていて、どうにもやりにくい。女心と空きの空、昔の人はよく言ったものだと、つくづく感心した。

 

 マリネの叫び声か?、ロゼの怒号で逃げたのか、ミミズが居なくなった。ミミズ処か、坑道内に一切の生命が居なくなっている様に静かになり、俺達が歩く音だけが構内に響いている。まるで幽霊でも現れそうな雰囲気で、これはズグロが怖がっているのでは?と、振り向いたら彼女は怖がる素振りなど見せていない、恐怖ではなく嫌悪に等しき表情をしていた。


 「この先だな……」

 地図を見ていたアネスが歩くのを止め、それを小さくたたみ服にしまった。俺達が発している蛍火で照らされた坑道の先に、大きな空間が広がっている。ニズの居た大空洞の空間より、更に広い場所なのが見て取れた。


「さてと、巨大な蛇の正体を見ましょうか」

 アネスより先に、ロゼが広場へと足を踏み入れた。

 皆が、中へと入った時、足下から地震とも取れる振動の波が襲ってきた。


 「うわぁ、何よ……この振動」

 各自がパランスを立て直している。


 ドゴオ━━━!

 地面が大きく隆起して、四方へ崩れ巨大な生物が姿を現した。

 最後尾に居たズグロが正面へと躍り出て、声をあげた。


 「やはり貴様か、邪龍ヴリグラーネ」

 邪龍と聞いて、皆が一斉にロゼを睨む……。


 「ええ! 私の……せい?、かな……ははは、ごめん」

 ロゼのせいじゃ無いけど、笑えない……。

 又しても、邪龍を討伐しなくては成らなくなった、だがロゼの一撃で……。


 「皇女殿下、こ奴には焔も通りませぬ」

 「嘘でしょ、マジで?」

 

 「ロゼ様……」

 「ニズすら倒した焔が、通らないとなるとマズイな」

 

 「やってみなくちゃ、ユキヒトお願いよ」

 「試してみないとは賛成だ」


 ロゼが目標を定めた、紫光の輝きがその姿を水晶へと変貌させ、やがて紅蓮の焔へと変わる。その灼熱の姿は一瞬だけ見せて、彼女の腕の動きと共に、捉えた標的を焼き尽くす。ヴリグラーネの全身が灼熱の焔で包まれた。


 「よし! 、利いた」

 「駄目です、剝がされます!」

 ズグロが叫んだ通り、燃え尽きたのは表面部分だけ、その下から新たな表皮が、焔を強制的に削ぎ落として行く。


 「そんなあ……本当に利いてない!」

 


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