国境へ
続きです、よろしくおねがいします。
舗装されてない道。
大自然はこんなにも、気分を良くしてくれる。
草原から山間部の合い間へと風景は変わる、地竜を走らせながら周囲を観察していると、此の辺りには大型の動物や魔物は見当たらなかった。ただ昆虫がちらほら見える、こんな行程でなかったら止って近寄り捉まえたい処だ。
「ユキヒト様……、何を見渡してるんですか?」
マリネの呼び方が【様】付きに戻った。
様、呼捨ての基準て何だろ?、ふと感じた。
「あはは、昆虫がね……でかいから……」
「昆虫が大きい?……、あれが普通ですけど……」
「日本じゃ、こんなものだけど」
手綱を持ちながら、親指と人差し指で小さいのを現してバランスを崩した。
「危ない!」
マリネが地竜を寄せ、腕を伸ばし支えてくれた御陰で転落を免れた。
「もう……、気を付けて……」
「ごめん……助かったぁ」
再び手綱をしっかり持ち、前を向くと……。
ロゼが睨んでる、マリネも紅い顔して後方へ下がった。
「ったく……、あんの二人はぁ……、地竜に乗ってまで、いちゃいちゃと!」
〝何で、こんなイライラするかなぁ……〟
先頭は相変わらず不動の一番、アネス、ロゼ、俺、マリネ、サラト、そして最後尾をズグロが走っている。草原の昆虫地帯を走り抜けたら、短い林を抜けて沼地へと着いた。
此処でアネスが地竜の足を止めた。
「沼地を抜ける途中で夜が来るな……」
「夜が来たら走り難くなる訳か」
「いや、夜に成ると……、幽鬼が出る。この沼の夜は危険だ」
幽鬼……、それは……幽霊の事か?。
「うむ、まあ幽霊のことだな」
「ひいぃぃ」
意外な人物が悲鳴を上げる。
「嘘っ……、ズグロが幽霊が苦手とは……」
「わ、我にも苦手な物くらい……ありや、ます」
舌かんでるし……。
「ズグロに先頭任せようと思ったが……」
「も、申し訳ない……、どうもアレだけは……」
夜に成る前に幽鬼の襲撃に備え、隊列を組みなおした。先頭をロゼ、次に四人がアネスとズグロを挟んで、マリネとサラト、最後尾を俺が走り。幽鬼が襲ってきても、その接近前に魔法で応戦する隊列に変えた。
アネスの予想通り、途中で夜に成った。光源がはっきりと月明かりのみになってくると、その下で黒い靄が蠢き姿を現してきた。まるで糸の切れた凧のような奇妙な動きをして、こっちへと向かってくる。一体、二体と、その数を徐々に増やし対処が忙しくなってくる、何対かは直近まで接近を阻めない事が出てきた。
遂に、前方からもその姿を現し、完全に四方を囲まれた形で地竜を走らせるが、ロゼが何を想っての事か、急停止を掛けた。
「あ━━もう、イライラする!」
俺達が止まった事で、もう完全に周囲を幽鬼に囲まれてしまった。
「ちょっとロゼ、何を?」
「鬱陶しい! 、一発で消し去る!」
「へ?」
一旦は、止って様子を見ていた?幽鬼が一斉に俺達に襲い掛かってきた。
魔法で応戦を始めるが、数が多すぎる、百対以上の数に膨れ上がっている。
「もう駄目……多すぎて防げない」
「ユキヒト! 、お願い!」
「はいはい、そういうことか」
ロゼが幽鬼を捕捉する、同時に紫の霧がロゼを水晶へと変える。
今回は紫光のみ、一瞬強く輝いたと同時に消えた。
「いけーロゼ!」
ロゼが腕を振る。
一瞬で百体以上の幽鬼は、炎の塊となり地面に墜落するまでには姿を消した。
ロゼは、両手の指を絡ませて天空へ向け真直ぐ伸ばし、一気に開放する。
「ああ━━━ぁ! 、すっきりっした!」
「最終的に、百体以上居たか?……それを一瞬か、全く呆れてくるな」
見た目以上に危険で、オークなんかより遥かに上位の魔物らしい。
確かに、魔法を受けても後退するだけで、倒せてはいなかった。
幽鬼を一掃した後は、魔物同士の蓮網でもあるのか?、姿は見えるが襲ってこなくなった。御陰で予定以上に早く、沼地を抜ける事が可能となった。夜中に疾走するのは此処で中断し、周囲が見渡しやすい場所にキャンプを張る事に決めた。
各自が荷物から、携帯の食料を取り出し食べ始めた。
こんな時にハルが居てくれたら……。
単調な味を工夫して、美味しくしてくれるのだが、今は居ない。
しかし、今夜は皆が無口を通している、。
中心の炎を囲んで円周に位置し、質問魔のマリネも沈黙している。
各自が想いを巡らせているんだろう、勝手に想像して納得していた。
約一人だけ、周囲が気に成る奴が居た。
〝龍王が幽霊が怖いって……どうするよ……〟
くだらない事ばかり考えて、気が付いたら一番目の見張り役、アネス以外は眠っていた。明日も早くから国境を目指す、俺も寝る事にしよう。
微かな虫の声を聞きながら、眠りについた……。
━━━。
ガサ、ガサ……。
耳元に近付いた音に、本能が危険を知らせ、咄嗟に目を覚ました! 。
「ふん……、起きたか……」
見ればアネスが足を上げていた。
「アネス……みえ……うがあっ!」
腹を踏みつけられた……。
〝ば……か……言って……たら……〟
アネスは何か言ったように見えたが……反転して地竜へと向かう。
腹を押さえ横を見ると、マリネの冷たい視線が貫いた。
「馬鹿…………」
強烈な足蹴と冷たい視線により、一気に頭も覚めた。
大体、あんなミニで脚を上げてる方が……。
「朝から馬鹿な事やってないで……、朝食食べて出発するわよ」
「あ、ああ分かってるって……」
しかし、本当に俺に好意を持ってくれているのか?、っと疑いたくなる。ロゼなんか、何時も睨むばかりですぐ怒るし、アネスに至っては前よりも足蹴が強烈に成っている気がする。
それでも……、やはり彼女達は守らないと。
まだ若干、腹が痛むが我慢しながら、干し肉と粉スーブを口にした。
全員が食べ終わり、火を確実に消しながらロゼが出発の合図を出した。
「では、此処からは一気に国境へ向かうわ」
合図と同時に登場し、六体の地竜は大地を蹴り、走り出す。
沼地を抜けた後も、再び平原地帯が広がっていた。一気にとロゼは言ったが、地竜を半日も走り続けさせるのは避け、途中の池や湖付近で地竜を休ませた。
その後も何度か地竜を休ませ、遂に国境へ辿り着いた。
「着いたわね、アレが国境の駐屯地よ」
川を挟んで、両岸に守備隊の駐屯地が見えた。
先に魔法便で連絡を入れて有り、話は付いている筈だが。
「敵対国だから油断はしないで……」
石橋に俺達が姿を見せると対岸から、数名の兵が中央部に移動し止った。
話は通っている様で、こちらも地竜を降り中央まで進む。
「ローゼス皇女殿下と、お連れの方五名に相違有りませんか?」
「ええ、間違いないわ」
「では此方へ、我等がご案内致します」
見方の衛兵が心配そうに見守る中、敵側の駐屯地へと足を入れた。
もし、いきなり襲ってきたら……、間違い無く適は全滅する。あちらさんは、そうは思っていない雰囲気がアリアリと見えるが、やめて欲しい。
大量の焼死体何か見たくも無い。
駐屯地出口付近で、騎士の一団が待っていた。
「此処より鉱山都市ベルトガへ、皆様をご案内します」
「分かったわ、宰相閣下はそこへ来られるのね?」
「左様です、そこで夜までお待ちして頂きます」
「了解したわ、案内をお願い」
「では!」
騎士が搭乗したのに合わせ、こっちも地竜へと搭乗する。
「首都じゃないのか?」
「私たちを首都へは、入れたく無いみたいね」
連中は最初から戦争したい筈で、今の案内役の騎士団の他にも伏兵を忍ばせておいて、途中で待ち伏せ合流して俺達を襲撃してくる、可能性は高いが、ロゼは余裕の笑みを浮べている。
警戒していたが、途中に待ち伏せも現れず無事に、鉱山都市ベルトガに到着した。
宰相と会見する場所は、一番大きなこの街の総督の屋敷へと案内された。
使用人の女性から夜まで時間もあり、湯浴みしてどうですか?と勧められた。
「そうね、皆行きましょうか」
「大丈夫か?、不意打ちしてこないか?」
入浴中を襲われたら……、まあ、俺以外は大丈夫か。
入浴中の女性を襲うほど、この世界の人間は恥知らずでは無いだろう。
浴室の付近で、四人と二名の二手に分かれた。
「待ちなさい…………」
ザバ━━ン
「あ━━、フロ気持ちいい━━」
そして、非常に気に成る物体が居た。
「ちょっと質問なんだけど……、何で、龍が風呂場に居る?」
龍の姿へと戻り、まるでその場と一体化した様にズグロが居た。
「この姿で無いと、行かせないと四人から……」
「あぁ……そうですか……」
確かに人の姿で入って来られたら、そりゃあ……。
あっちは美女が四人、想像すると……、やばい。
とにかく……、落ち着いて入れやしない。
早々に退散をお願いして、独りフロを満喫した。
控え室に先に戻っていたら、女性陣も部屋へと戻って来た。
薄っすらと濡れた髪が、素晴らしく綺麗に感じて視線が固定された。
「ちょっと……、私達が綺麗だからってそんな見ない!」
ロゼに言われて、我に返る。
「いや、本当に皆さんお綺麗で……」
社交辞令を言ったつもりが、反応が……。
「バカ」
「馬鹿者」
「馬鹿ですねぇもう」
「馬鹿……」
何か、本当にそう思えてくる、馬鹿の四連打……。
しかも湯上りの火照りに、更に紅く頬を染めた、それを見ていると。
ラケニスのこの世界の女は初心だと、言ったのも妙に納得できた。
「お待たせ致しました、宰相閣下が到着しました。ご案内します」
侍従長だろうか?、品の良い老紳士が迎えに来た。
建物の最上階まで上がった先の一番奥の部屋へと案内された。
コンコン
「失礼します、ハインデリア皇女殿下と五名の方をお連れしました」
宰相というくらいだしもっと老人かと思いきや、四十台半の男だった。
「初めまして、宰相アウル・フォン・オーベルンです。
以後お見知りおきを、ローゼス皇女殿下」
交渉相手と顔を合わせた。
ありがとうございました。