戦争の危機
続編です、よろしくおねがいします。
ユキヒト様! 起きて下さい━━━━!。
俺は寝てるか、考え込んで入る時に叩き起こされる運命の様で……。
アネスの様に蹴り倒されるのは、勘弁して欲しい。
あれは、本当に心臓に宜しくない……。
叩き起こした犯人は、たれぞと見れば、マリネ。
「ユキヒト様、急いでロゼ様の部屋へ」
用件だけを伝えると慌ただしく出て行った。
あの感じだと又何やら起きてるが、三つ巴の愛想劇には成りそうな気配では、なかった事に不謹慎ながらほっとした。
この上は早く姿を見せないと。
「遅い!、ユキヒト」
やっぱり……。
「まあいいわ、あと一人来るまで待ちましょ」
俺に遅いとか怒鳴りつけてた癖に……、まだ着てないのが居るじゃないか! 。
言えない……、殺される事は無いけど、ピンポイントで焼かれるのは非常に痛くて癇に障る。やった本人は気分良いのかもしれんが、避けるに越した事は無い。
コンコン………… ガチャ
「待たせた……済まない」
「アネス! 、もう動いても……?」
条件反射的に、お決まりの質問をぶつけたが初期の治療した時、既に動き回ってたアネスだ。彼女から見たら無粋な心配はいらん、馬鹿者! 、に違いない。
「皆……、動けるメンツは揃ったから話を進めるわ」
「戦争が始まるかもしれない……」
戦争……。大編隊、大艦隊は今は無い、情報が全てを支配する。
俺の世界でも、何処かの国同士は戦争をしているが、平和な日本では数十年前に敗戦してからは、無くなっている。一部の老人以外は戦争がどういうものか、実体験しているものは居ない。
同じ規模は在り得ない、が、しかし戦争に巻き込まれる羽目になりそうだ。
自国ではない、この異世界で……。
「お父さ……皇王がまだ、執務出来ないタイミングで、難癖付けてきたわ」
彼女はそう言って一枚の紙を机に投げ捨てた。
御請求書
拝啓
貴国におかれましては益々ご繁栄のこととお慶び申し上げます。
さて、貴国が追い立てた魔物の群れ、我が国に甚大な被害を及ぼした事、
御報告させて頂きます。
つきましては、下記の通り賠償金ご請求いたします。
お支払いの程よろしく願い申し上げます。
敬 具
賠償金 9,000兆ドルス
尚、上記金額を速やかにお支払い頂けない場合
武力行使も已む無き事、ご承了承お願いいたします。
「なに……この日本風な……請求書?、金額は分からんけど……」
「難癖など付けて来るのは……、オスマニアか……」
「ええ、その通りよ」
アネスの言ったオスマニアとは、隣国の国家で此の国とは以前より、対立に近い状態であったらしい。事あるごとに、難癖を付けては戦争の機会を窺ってきていたらしい。此れまでは皇王の計らいで戦争には突入したことが無かったが、まだ執務できるに足る程に回復してはいない。
「この期に乗じて、攻め込む心算ですか……卑怯な」
「因みに、もし戦争に成ったら?」
互角なら、交渉の余地は十分ある。
「前面戦争に成ったら……、我が国に勝ち目は……無いわ」
強い指導力と他国にも、人望厚い皇王が執務を執れない。強引に戦端を開く口実を作り、戦力差に物言わせて一気に攻め込み制圧。国民の命を盾に降伏を勧告、領土を奪い更に国土を拡げる算段か、手段は卑怯だと思うが短期で決着するには、理に適ってる。
多分、戦争ってそういう事なのだろう。
国連とか在れば仲裁とかも出来るんだろうけど、そんなの有る訳が無い。
「こんな金額支払える訳ないわよ……、あの時の魔物の残党が……、仮にオスマニアに入って何かしたとしても、約百年分の国家予算なんて……犠牲者が居るなら償いは必要よ……けどこれは」
「もし入ってたとしても、国境の警備が討伐している筈だ」
「警備の居ない箇所からとか、幾らでも理由付けは出来ますね」
サラトが言った通りだと思う。最初から戦争有りき、で接触してきている。理由なんて星の数ほど用意している事だろう。
普通なら、皇王が即座に対応していた。重鎮達はそれに対しての意見を論じて来ただけで、決定は全てを主君に委ねる形だったようだ。専制体制の弱い所だ、特にそれが名君で有る程……。
「ロゼは……如何する心算なんだ?」
まあ、聞かなくても彼女の性格から考えたら答えは、聴くだけ野暮だが。
「勿論、交渉しに行くわ!」
当然そう言うだろうとは予想通り。
「大人数で行く訳には行かない、だからあなた達にお願いしたいの、私と一緒にオスマニアの首都へ赴き、交渉の列に就いて欲しい」
それも、聞くだけ無駄だと想うよロゼ皇女。
「面白い! 一度、奴らと手合わせしたかった処だ」
マテマテ、喧嘩を吹っ掛けて煽るな……やりそうで怖いぞアネス……。
「私はロゼ様の従者です、当然お供させて貰います」
「ユキヒト様が行くなら、私もご一緒させて頂きます」
「主が行くと言うなら当然、同行させて頂く」
「肝心のユキヒトは?、此処に残る?」
俺を睨むロゼの眼は、静かな物言いに反して、拒否は許さないと言っている。
彼女達だけで行かせる訳に行かない。
〝大切にせい〟。ラケニスの声が頭に蘇ってくる。
「ふぅ……、断ったら焼き殺されそうだし……行くよ」
「うん、有難う!」
顔はにこやかにしているが、断ったら本当にやりそうだ。
「それでは、各自出発の用意して頂戴。済み次第発つわ」
ロゼの言葉で、一同は退出していく。
「私は、武器の修理と……、そのなんだ……服装を変えてくる」
ニズとの戦闘で、ハルが選んだ黒一色の服はボロボロになって、今は衛兵の服を借りて着ていた。ハルが選べないから今回はアネスの趣味の服に成る筈だ。
「用意といってもなぁ……、何したら良いのかな?」
日本だと、仮に何か忘れても大概は何処かで補充が利く。
一人、悩んでいたらマリネが腕を絡ませ提案をしてきた。
「では、私と一緒に地竜を、選びに行くのは如何ですか?」
旅行用の鞄とか、服装とか言わない所が、この異世界らしい話だ。
「そうだなぁ、良い奴を選んでくれる?」
「勿論です! 、任せて下さい」
やたら機嫌が良い、遊びの旅行でもないのに……。
二人で腕を組み歩いて行くと、ズグロも一緒に動き始め、俺達の後ろに続こうとした処。サラトに止められていた。
「ズグロ…………」
「いや、しかしだな……」
片腕をサラトに掴まれて、半身で二人に振り向く。
「心配しなくても大丈夫ですよ、ズグロちゃん」
ちゃん付けで呼ばれて紅くなる。
「ちゃんは、止めて頂きたい……、まあサラト殿がそう言うなら……」
恨めしそうにな眼をして眺めるズグロ。
「私達は、食料の用意でもしましょう」
「心得た……」
独り、自室に残っているロゼは、今回の件に考えを巡らせていた。
〝何故、お父様が倒れた事を知っていたの?、知らないとしたらタイミングが良すぎる。知った上で絡んできたと、考える方が合点がいくけど……、知った理由が分からない。発表なんてする分けないし、宮殿内にスパイが居る?。そうだとして誰よ……〟
「うがぁぁぁ! 、私の頭で考えたって分かる筈無いっ! 、止めっ」
綺麗な金髪を両手で掻き毟る姿はとても見せられない。
突然、はっとなりドアを振り向く。
「はあ……、居る訳ないか……、ちょと私……何を気にしてるのよ?」
誰も居ない私室で、独りで勝手に騒いで、顔を真っ赤に染めている。
「もう……やだあ……。こんな事してらんない、爺さん共に一応言わなきゃ」
そう言って、大臣達の待機している執務室へ向かうロゼ。
「ユキヒト様……、この子は如何ですか?」
マリネと二人で地竜選びをする為に、厩舎に足を運んでいたのだが、何故か中々と決らない。此れは鱗が剥げかかってる、此の子は脚が細すぎるとか、此の子は顔付が好くない。以前に、ペットを飼いたいから付き合ってと無理矢理連れ出され、散々引きずり回された挙句、大金使わされた記憶が蘇り、思わず聞いてしまった。
「これってさ……、金額は高いの?」
「はあ?何言ってるんですか、皇王を救った英雄様から、お金なんて取れる訳ないですよ?」
「ははは……英雄なの?俺て……」
英雄という言葉の響きにやたらとむず痒く感じていたら。
「当然です…………それより、今……他の人の事を浮べてませんでしたか!」
実に恐ろしきは女の感……忘れていた……。
その気も無いのにやたらとそういう事だけは、突っ込みしてくる女達。況してや、マリネは……好意を抱いてくれている、もっと配慮すべきだったのを迂闊にも、失念していた。
「うん、日本に居る時にやはり生き物選びを、こんな感じで付き合わされた」
嘘八百を並べ立てても経験上、碌な眼にあったことが無い。
「ユキヒト様の……、想い人……ですか?」
世界が違っても、聞かれる事は変わらないのかと、変な処で関心する。
「いや、全然……、代金払わされた……だけで」
忘れ去りたい過去の自分を、思い出して心で涙する……。
「日本の女性て……、私は、そんな事絶対しません!」
されて堪るか!、此処だけは声には出さずに心で吼えてみた。
マリネが身体を摺り寄せ、預けてきた……。
「だから……、ユキヒト……」
マリネが始めて名前を呼捨てにした。
眼を瞑り顔を上げてくる、その姿が堪らなく愛しく感じた。
厩舎の柱をマリネから押された形で、背にしている。
マリネを包んでいる腕に力が入り、彼女は小さな声を吐いた。
「あっ…………」
微かに開かれた唇が更に、鼓動の波を加速させた。
彼女の微かに開かれた唇に、そっと重ねた…………
ちょっと! あんた達!、何時までいちゃついてんのよ━━━━!
「きやああああああ」
「うわああ」
同時にとんでもない悲鳴を上げ離れる。
地竜達まで、驚き……吼えた。
「ったくもぅ……、地竜決ったら荷物載せて発つわよ、急ぎなさい」
〝見せ付けられた、こっちの身になれっての、人の気も知らないで……〟
不機嫌そうに立去るロゼを眼で追いながら。
「はぁ……勘弁してほしい、心臓破裂するかと思った……」
「私も……です、まだ、ドギドキしてる……」
半分呆れ顔というか、若干怒りを感じている、俺に対しマリネはご機嫌だ。
「でも……、ロゼ様より……多くなった」
何が多くなった?、暫らくはその意味が俺には分からなかった。が、言われたとおりに、地竜を選び決定した際に、彼女が魅せた笑顔の中の唇が、やたら目に付いてやっと気が付いた。
「はあ……女ってそういうの気にするのか?」
「え?何をですか?」
分かって聞いたのか、本当に気が付かなかったのか……それは分からない。
「早くしないと、又ロゼ様に怒られます……」
「ああ、そうだね、早く行こう」
「はい」
異世界に来てから、何度も命の危険に曝されながら、今は帰ろうと思えない。
どういう因果でそうなったのか……、何故か七名も傍に女性が居る。
しかも、全員が大きな意味で愛してくれているらしい。
帰れるはずが無い……。
全員が皇都の出口に集った。
サラト達ふたりが、持ってきた食料と荷物を分担して地竜に載せた。
積み込みしている時に、アネスを見てちょっと驚いた。
当然、以前の服装だと思い込んでいたら、ハルの選んだ服装を一式揃えて来た。意表を付かれた服装に見惚れたいたら。
「何か……この服が……問題あるの……か?」
「いや……綺麗で……宜しいかと」
正直な感想を述べてしまう。
「ば、馬鹿者……なにを……」
何時も上から目線のアネスだが、服装を誉めるとテレて逃げる。
〝熱っ〟
何か火が飛んできた?、振り向いたらマリネが脹れていた。
そう言えば……、初めてラケニスの塔に入る前にも、同じ物を受けた……。
〝あれも……マリネの仕業だったのか……〟
今になって、やっとあの時の火傷の原因が判明した……。
「用意できたわね、出発するわよ!」
ロゼの一声で、地竜に搭乗する。
国境まで、役二日の距離らしい、地竜が走り出す。
この先も……、又、何事も起こらない筈が無かった。
ありがとうございました!