静夜
ちょっと長め?よろしくおねがいします。
「ユキヒト━━━、力かして!」
激しく扉が開いたと思ったら、ロゼからの一括で眼が覚めた。
寝てた訳では無いのだが、渦巻く思考に捕らわれて世界から隔絶していた。
「なに?大声でいきなり」
ロゼは凄い怖い顔で俺に近寄ってきた。こんな顔は見た事が無い、あっちの世界でも怒らせた事は幾度もある、けどこの形相は今まで見たどれとも違う、何故そんな顔でロゼは来た?。
「ロゼ……顔が怖いんだけど」
正直な感想を何故か彼女に伝えた、それ程の顔付で怖かった。
本当に……、何故?その顔で?。
『お願いよ、話を聞いて、助けて……」』
この言葉を聞いた途端、頭の中が、いや……。
背中から脳天を衝撃の様な物が突き抜けた。
ナンダイマノセリフハ?。
「何処かで……、その言葉聞いた……よな」
「そうね、私が……貴方の世界で初めて逢った日に言った言葉」
「そうだな……、その言葉に、そしてこんな所に来たのか?」
「うん、異世界人が如何しても捉まらなくて、止ってくれた貴方を……、無理やりこの世界に連れて来た。その切っ掛けの言葉よ」
「そうか……、じゃ俺は家に……
眼を覚まさんか! 、この馬鹿者━━━━!
ビィ━━━━ン!
大きな一括と同時に顔を矢が横切り壁に突き刺さった。
「アリアネス!」
「嫌な予感がするから、戻って来てみれば案の定だ。貴様、あの船上で私に言った言葉と顔は嘘かっ! 、あの時の顔は紛れも無く、信念持った言葉と顔だったぞ。何だ、いまのその顔は!」
「そうですよユキヒトさん、あの時の想いを取り戻して下さい」
「ハルまで……、戻ってきた?」
「二人で相談して、最期迄ユキヒトさん達と居ようって決めたんです」
なんて女性達だ……。
「あはは、やっぱり俺を馬鹿者って呼ぶんだなぁ、アネスは」
「当然だ、寝惚けた愚か者を、馬鹿者と言わずになんと呼ぶ」
「ん━━━━、憑物が落ちるとはこういう事か」
「なによそれ?」
「あっちの世界で、スッキリした時に使う言葉さ」
「へーそうなんだ……、あのね如何しても助けて欲しいの」
「うん、分かってるよ、話を聞かせて」
ロゼは俺に、俺が塞ぎ込んで離れていた時に起こった事を順に話してくれた。
皇王が夢魔に運ばれた呪詛に侵されて命の危機にある、救うには呪詛の元を絶たないと駄目な事を、そしてその相手は尋常為らざる敵で、倒すには俺とロゼの共闘が必要だという。
「手伝うよ、俺の力が要るなら」
「ありがとう、本当に……やはり貴方で正解だった」
「しかし、俺にそんな化物と対決する様な…………
そんな弱気で如何する小僧……。
わしは手が出せんが、心配するするでない! 。
「これ……、ラケニスか?」
「うそっ何処に?」
戯け者共が、わしは塔から外へはでれん。
お前達の頭に直接語りかけてる訳じゃ。
小僧、主の力は必要な時が来たら開放される。
ニズは強いが、本来の力が覚醒したら敵ではないわ!。
「ああ、あんたが言うなら心配要らないな」
ほぉ、何か変わったのぉ、小僧。
………全てを受容れよ小僧、何が起きようと、全て必要な事と知れ。
「もう、迷う事は何も無い」
うむ、良い返事じゃ。
全て終えたら訪ねて来い、又、戯れに付き合わせようぞ。
「そうだな、そうさせて貰うよ」
待って居るぞ……、しっかりな小僧。
「消えた……、な」
「さて、全員集合だな、話は外で聞いていた。オークの守る神殿とは、やはりあそこしか無いだろうな」
「ええ、ドア森林のオークの棲家、その最も奥の場所」
「忘れられた神殿ですね」
「ええ、間違い無くそこね」
忘れられた神殿とは、ロゼ達の話を聞く。ドア森林を開拓していた時代に先ず、村が作られそこに入植者達が集ってきて街を起こし、信仰の対象として、当時ではそれなりの物が建てられた様だ。
「最初は、大きな森林都市を計画されていたわ」
だが、規模が大きく成ると当然、狩場や行動範囲そのものも拡散していく、途中からオーク達の縄張りを侵し始め、小競り合いが始まったそうだ。
「この時に……、人が大きな過ちを犯したのよ」
「何をやらかしたんだ?
「殲滅させたいが為に、隠密に長けた者を集め、オークの子供を皆殺しに」
人は戦争の名の元、陰惨な事を平気で正当化する。
「人の愚かな行為って、どの世界でも変わらないのか……」
後は聞くまでもなかった。想像は付く、怒りに狂ったオーク達が集り、大挙して街を襲い全滅させられた事くらいは容易に想像される。人はそれを、過ちを忘れたい思いから忘れられた街、そこの神殿を忘れられた神殿と名付けた?。
最後までは語られなかったから、銘々の処は推論だが。
そう感じられたし、真相を今更知ったところで、何が変わるものでもない。
「今から出発して上手く事が運んだとしても、神殿に着くのは夜中よ、此れは危険過ぎるので避けたいの、最初はドア森林の中継基地へ向かうわ」
「駐屯地から非難した場所ですか」
「そうよマリネ、最初はそこへ、駐屯地の様子を見て後を決めましょ」
事が決ったら後は現地へ、特に用意するものも無い。
各人が、地竜へと乗り一路、ドア森林の中継基地へと急いだ。
到着するまでの道すがら、考える時間がたっぷりあった。アネスとハルは、一度ゾーイへの帰途に就いていたのに、心配で再び戻って来た。プラッディも何も言わないが行動を共にしてくれている、サラトとズグロも同じだ。
ロゼは……、彼女に対して遺恨なんてもう微塵も無い、今は彼女の力になろうと、心底感じている。そしてマリネ……、彼女の事はもうほぼ決ってる気がする。あっちに居るときは、優しくしたら返って来る、それを無意識に決め込んでいたように思う。
擦れ違いに通りすぎた二組六人が、今こうして一緒に走っている。
やたら不思議な光景に見えて仕方なかった。
その中で、後方にいたマリネが、地竜を横に近付き並走してきた。
「もうすぐ、ドア森林ですユキヒト様」
初めて行く場所、ゾーイの森も俺が知ってる森とは随分と違っていたが。
「ゾーイより大きいのかな?」
「はい、遥かに広くて深い森ですよ」
深くて広いで浮かぶのは、富士の樹海だが、【美女と野獣】【白雪姫】の森の方が強く浮かんできた。こんなにロマンティストだったか?
「綺麗な場所とかあるの?」
「はい、でも魔物も出るからこわいですけどね、ふふふ」
何故だろう?、マリネの笑い顔を見て、彼女なのかと感じた。
「なぁ、マリネ……魔物出ても守るから、何時か二人だけで行かないか?」
以前なら、顔から火が出るほど恥ずかしくて言わなかったのに。
マリネは返事をする代わりに、地竜を更に寄せて接触寸前で止めた。
寄せた時に、唇が動いたのが見えたが声には出てなかったと思う。
聞こえなかったけど、何を言ったか分かった気がする。
「嬉しい……」
マリネは確かにそう言った筈だ。
その後は、何も会話しなかったがマリネは傍から離れる事がなかった。
一度、ロゼが此方を振り返って、目が合うと慌て戻した事から、多分……。
「あーもぅびっくり、あの二人いつの間に?……。これは……うん、さっさと事を終らせて、二人を思いっきりと、蚊等かってやるわ!」
ロゼが顔を前へと戻した後に、活き活きとした顔が浮かび悪寒が走った事から、彼女が何か企んだ気がしたのは、マリネも同じだったようだ。
ドアの森林にやがて到着した。マリネから聞いたように、日本ではお目に係れない物で驚嘆する、道の直ぐ横ですら、樹齢数百年の大樹が並んでいる、奥の樹木だと……。
時折、木々の隙間から動く巨大な樹木や、トラ?クマ?に見えるが大きさは比較に成らない。こんな場所に、よくもまあ都市を作ろうとしたもんだと、半分呆れた。
止ってゆっくり見物したい処だが、遊びで来た訳では無い。
今度は本当にヤバイ予感がする、誰も傷つかないのは無理なのか?。
先頭を走るアネスの地竜が速度を落とした、間も無く到着するのだろう。
《しかし、この女性本当に仕切るなぁ》
速度をおとして程なくしたら、平屋の小屋の並ぶ場所が視界に入った。
中継基地へと到着した。
厩舎に地竜を繋いだ後、マリネはロゼと会話して何処かへ向かっていった。
「此処に、マリネの従兄弟が隊長として赴任しているのよー」
ニヤニヤしながら話してくるロゼに、警戒しているとやっぱり言われた。
「あなた達て、何時から?ああなの?」
通用するとは思えなかったけど、すっ呆けてみる。
「え?、ああなの?って何?」
「はぁ?バレ無いとでも?、もう皆しってるわよ」
「うぐっ……」
皆がしってると?、恐るおそる振り向いてみると、確かに睨まれていた。
中でも、ハルの笑顔が一番恐ろしく寒気が走ったのは……。
「いい、私は良いから、絶対マリネ守って!、分かった?」
「うん……分かってる」
「なら宜しい、ちょっと私は隊長と話してくるから」
ロゼの言葉通り俺もその心算だが、多分マリネはそれを許さないだろう、主君を優先する意思を、強く示してくるのは目に見えてる。
ロゼがマリネと駐屯地の隊長を連れて戻って来た。
「隊長も手伝いたいと言ってくれたわ」
「私以下、元駐屯地の全員、そして此処の守備兵もです」
前に、魔物から大挙して攻められて大勢の仲間を喪ったと聞いている。その復讐戦をしたいのだろう、事の是非は措いて、人数は多いほうが良いが目的はオークの討伐ではない。
「私達の目的は神殿の奥に隠れてる邪龍ニズの討伐、オーク殲滅じゃないわ、大規模の戦闘は避けて陽動、撹乱に廻ってもらうわ、私達はその隙に奥へ到達する」
無駄な殺戮は避けるか、冷静に判断してるし、仕切り好きなアネスも同意らしく、頷いている。なんだロゼも良い、指揮官じゃないか。
「ごめんね隊長、本来なら駐屯地を取り返すべきだけど」
駐屯地を取り返し拠点を確保した後に、オークの縄張りへと侵入するのが一番良いのだろうが、今回は残念ながら時間が少なすぎる。皇王は持ってあと一日程度の命だとズグロが指摘した。
「駐屯地なんか後でも取り戻せます、それより陛下を優先が当然です」
「ありがとう隊長、明日の為に今日はもうゆっくりしましょ」
ロゼの言で皆は、好きな方へと散って行った。
近くの小川に行くとおきな岩が在り、その上に座って夜空の鑑賞に浸っていた。
ジャリ、ジャリ、
誰かが、歩いて近寄ってきたのが砂利の音でわかり、顔を向けてみる。
「ユキヒト様、ご一緒しても宜しいですか?」
断る理由は微塵も無い、寧ろマリネなら普通に嬉しい気持ちしかない。
「うん、横に座る?」
「はい!」
真横に座っているマリネを見ると、横顔が凄く綺麗に感じた。あの日あの夜に、ロゼが月下で魅せた姿とは又、別の美しさに観える。ロゼの魅せた物は、美そのものでマリネに感じている美しさは、上手く形容する言葉を捜せない。
「この世界の事、お嫌いですか?」
「どうして?そんな事を?」
「貴方の居た世界には戦いとかは無いのでしょ?、この世界は……戦いに満ちている。平和な世界からこの様な殺戮の多い場所へと連れて来られて、それで……」
彼女が言わんとしている事は、そうなのかも知れないけど、日本だって無い事はない。此処ほどに身近に死という文字が、隣り合わせで存在はしていないけど。
「日本にだって戦いはあるよ、こっち程じゃないけど」
「初めて聞きました、日本と言うのですね、貴方の国は」
「あれ?言わなかった?……。あ、ハルに話しただけか」
ハルに話しただけ、と聞いてマリネは拗ねてみせた。
「まぁ、ハルさんには話したのに、私にはしてくれなかったんですね!」
正直これには困った、こんな状況は経験が無い。
「ごめん、ずっと一緒に居て沢山話すから……」
「本当ですか?、それなら許して挙げます」
この言葉の何が良かったのか?皆目見当が付かないが、機嫌が治ってほっとした。
「これ言ったら怒るかも知れないけど……」
「はい、怒ります」
「いやいや、まだ何も言って無いよ?」
「何を言うか……分かります。明日、来るなと言うのでしょ」
生涯でこんなに女性の言葉で、驚いた事はない。
「うん、明日は……
「絶対に嫌です! 、私も行きます」
「しかし、君が、マリネが……
「私を守ってくれたら良いでしょ、守ってくれないんですか?」
今夜は一体、どうなっているのか?、返事に詰まる事ばかりだ。
「私は……、さっきずっと一緒にと言ったのは嘘なんですか?」
「嘘なんて、言ったつもりは、ない……
「じゃ、一緒に居させて下さい」
完全に此の場をマリネに仕切られている。なんだか、随分と身体が熱い、頭がぼーっとなってくるのが分かる。だが、いや本当に熱いぞ?、マリネがピッタリと身体を寄せていた。
「ちょっ、マリネ……そんなに引っ付いたら」
「嫌ですか?これ……」
「嫌な筈がない……」
そう呟いて、マリネは今度は下から顔を寄せてきた……。
激しく鼓動が脈打つ音がはっきりと聞こえる。
ガサガサ、と、何?……。
ちょっ、そんな近寄ったら……
ロゼ様……押さないでくださあーい……
だって、見えないじゃない!
貴様ら、のぞきはだめだ……
あら、アネスさんこそ
貴方達は、恥を知らぬのか?
おいおい、マジメなブラッディに、ズグロまで居やがる……。
「貴様ら━━━ぁ!」
「あ、いやこれは……、ハルがね」
「ええ! 覗くぞって言ったのロゼ様では!」
「私は見回りの途中で、その」
「私はロゼ様の警護です!」
「皆さんお邪魔しちゃだめでしょ」
「うむ、異常は見当たらぬ」
勝手な言い訳並べ立てて、蜘蛛の子散らすが如く逃げていった。
「ふふ、もう困った方達ですね」
こっちは顔から火を吹きそうなくらいの心境なのに、マリネは平然だ。
「凄いなマリネ、あんな事されても動じてない」
「そんな事……ありません……ほら」
マリネはこっちの手を取り、自分の胸に当てた。
「凄いドキドキ……してるでしょ」
そう残して、下から顔を寄せてくる、今度は止まる事はなかった。
今夜、初めて女性の唇に触れた。
明日は、邪龍ニズと対峙する。
そんな事は関係無いように想え、夢のような夜だった。
ありがとうございました!