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女難危行・拉致した皇女と六人の嫁  作者: 雛人形
第一章
19/90

深層

よろしくおねがいします!

 闇の空間から助け出された俺は、とても話の出切る状態ではなかった。

 

 「一体…何をされたのユキヒト?」

 「ごめん、悪いけど……、一人にさせてくれる?」

 

 見た物を正直に話す?、そりゃ無理だ……したくない。過去の異世界人が何をしてきたかを話す事は、帰る方法を語る事になる。俺が元の世界へ帰るには、自分の愛した女の命を絶つという悲惨な事実を、彼女達に知られる、それは嫌だと強く感じている。


 では、如何するのか?既に、誰も殺さないそう決めたんじゃなかったのか?。ラケニスの塔で彼女に方法を聞いた時に、この世界で生きる事を決めた筈だ、知られても問題無い。


 では何故こんなにも心が落ち着かない?


【そして元の世界へ帰してやる】。


 あの黒衣の者は、俺にそう言った。

 

 奴と行けば元の世界へ帰れる?、しかし只とは思えない、きっとこの世界に仇名す事をやる羽目になる。そうなると、此処に一緒に居る彼女達を傷つける結果に、いや違うやはり殺す事にも繋がる。だったら同じだ、(むし)ろ奴と行く方が大量の悲劇を呼ぶ、やはりこっち側が正解……なのか?。


 こんなにも優柔不断だったのか……。


 奴は最初に俺が帰ると言った後、何も干渉しなかった。肝心なのは、俺さえこの世界から消えれば気が済むのか?、それなら……、奴と行っても誰も殺す事無く俺を元の世界へ帰してくれる……。


 誰も殺さなければ、それで良いのか……?。


 「ユキヒト様……顔が、蒼白です……」

 「そうね、もう少し落ち着いてから話の続きをしましょ」


 ロゼとマリネの意見に他の三人も賛同して、俺がその場で語るのは回避できたが、いずれ何等かの話をする事になる。その時、何をどう語れば良い?、それ以前に俺はどの道を選ぶのか?。


 どの道を選ぶ?だと、何を……いまさら決めた筈だぞ?。

 ちくしょ━━━━、何なんだこれは……。 

 

 マリネが部屋まで付き添うと言ってくれたが、一人で帰れると断った。

 

 「ロゼ様、一体何が遭ったんでしょ?」

 「さあ……、私にはわからない……」


 俺が一人自室へ向かっている時に、ロゼの部屋では急報が届いていた。


 「ロゼ様大変です!」

 「なに、なに?そんな大慌てで」

 「皇王様が……、御目覚めに成りません」


 ゆっくりと寝たい時も皇王にも在るだろうが、もうが昼近い。それに彼女の慌てようも普通ではない、病気で意識が戻らないと考えるに至るまでに、それ程時間を要さなかった。


 「お父様の状態は、酷いの?」

 「とに角、寝室へお急ぎ下さい」

 

 ロゼは返事をする代わりに急ぎ飛び出して、皇王の寝室へと向かった。


 寝室では皇王が苦しげな擦れ声を洩らしている。

 「うううっ━━━っ」


 ベッドの周囲には心配顔の皇后と、専属医が数名いた。医師達は脈や熱を測り熱冷ましの調合薬を飲ませてたが、効果が無く頭を抱え込んでいた。


 「お母様!……お父様の様態は?」

 「ロゼ…………」


 皇后は首を横に静かに振るだけで、それ以上の言葉を出せなかった。すぐに医師に詰め寄り、一体何故こんな事になってるのか、治療方法を問うが医師達も原因が分からないようである。


 「ちょっと、治療法が無いとは何よ?」

 「いえ……、無いというか高熱の症状以外、原因が掴めて……

 「何の病気か解らないと言いたい訳?」

 「その通りで……、皇女殿下、我々も最善を尽くしております故……」


 これ以上、医師達を責めても意味は無いと、ロゼは身体の向きを皇王へと戻す。ユキヒトの世界だと集中治療室行きであるが、この世界にはそんな物は存在しない。金持ちの商人や貴族達はまだ良い、医者に見て貰う余裕がある、一般市民の中には只見守るだけで何も出来ず、命を喪っていく事も多々ある。


 皇族ともなると徹底された看護を受けるが、皇王の病名すら判明させる事が出来ていない、このまま病状が悪化すればいずれ命の危険にさらされる事となるのだが。


 「お父様……どうして?」

 「皇女様、お部屋の外の方がお話があると仰っておりますが……」

 「部屋の外……て、誰かしら?」

 「サラトという御方ですが」


 サラトの名前を聞いて、入室の許可を皇后に問う。


 「お母様、サラトが……」

 「ええ、入って貰って」


 皇后の許しを得て侍女が扉を開け、サラトを寝室へと通した。


 「お邪魔致します。私にも皇王陛下を少し診せて頂けますか?」

 「ええ、是非お願いよサラト!」

 「では、失礼します」


 全身真っ白の女性が、静かにベッドで横たわり苦しんでいる皇王へと近付く、その際に医師達の注目を集めたが、それは彼女の容姿に見惚れてではない。魔法が普通に存在するこの世界でさえ、その手の者を煙たがり、胡散臭い顔で見る者が多いのだ。


 自分達が解決出来なかった事を、彼女達にやられるとメンツが瞑れる。

 じっと様態を観察しているサラトにロゼが声を掛ける。


 「ねえ……、サラト、何か……心当たりとかない?」

 「心当たりというか……、多分間違い無いと思います」


 彼女の言葉に医師達は大きく反応して、詰め寄る。


 「むぅ、何の病気だと言うのかね?」

 「陛下は御病気に罹られているのでは無く……夢魔に精神を侵されてます」

 「夢魔……だと、戯けた事を……そんな者が

 「黙りなさい! 、では彼方たちは、これを治療できるの?」

 「そ、それは。これからじっくりと様子を診て……」

 「じっくりとお父様をこのまま苦しめる訳ね」


 ロゼの言葉対しての反論を医師達は返すことが出来ない。じっくりと苦しめるのか?に、反論出来るだけの病状解明に全くの自信が無かったのだ。医師達を制止した後、ロゼはサラトに対処の方法を聞く。


 「夢魔ね……、対処法はあるのサラト?」

 「ええ、夢魔を追い出すか、倒せば……」

 「そうすれば、お父様は治るのね?」

 「普通は、そうなのですが…………」


 少しだけ、考える時間を頂けますか?とサラトは眼を瞑り沈黙に入った。


 《夢魔には間違いない……けれど此れは……何か別の力も?》


 「皇女様、皇王様の夢の中へと赴きましょう」

 「そんっな!事が…………ひぃっ」


 医師が口を挟みかけるが、ロゼからきつい眼で制され止まった。


 「連れて入れるのは、私の他は一名のみです」

 「問題ない! 、私が行くわ」

 「ロゼ……、他に手立てが在りません、頼みますよ、サラトもね」

 「はい、お母様!」

 「承知しました皇后様」


 皇后への返事の後、サラトは。


   彼のものが夢見し世界へと……、我らを導け。


 二人は光の球に包まれ皇王の精神世界へと入った。


 夢魔とは、寝ている者の夢に入り込み悪戯をする、死に至らしめる場合もある。サキュバス、インキュバスと言われるのも、これに類するが此方は寝ている者を性的な対象として襲う奴を指す。どちらも夢に出てくる悪魔であるが、地球側では架空の存在とされている。


 ロゼとサラトが皇王の夢の、精神世界へと降り立つ。

 そこは、螺旋階段が深く下へと続いていた。

 先を急ごうと動き始める前に、サラトがロゼを止めた。

 

 「皇女様、ひとつお約束して下さい」

 

 一刻も早く先へ進みたいのが本音であったが、サラトの語る事である、此処は素直に話を聞いた方が良いとロゼは耳を傾ける為振り向いた。


 「この先、夢魔の居る最下層の場所へ移動する間に、数多くの扉がありますが絶対に開かない事、僅かに隙間のある扉も同じです。絶対覗いては成りません」


 「それは……つまり」

 「扉ひとつに付き、一つの皇王様の思いが入っています」

 「開けば、それを観る事に成る……のね」

 「如何なる理由であれ、それを直接見る事はすべきではありません」

 「そうね、私だって嫌だわそんな事それるの、絶対見ない約束するわ」


 返事の代わりに軽く頷くサラト、二人は螺旋階段へと降り始めた。


 階段の近くの扉と、遠くに散在している扉が在るのが分かる。


 「近い物は比較的に軽い内容や、知って欲しい事ですが……」

 「うん、分かってる見ない」


 見ては為らぬと言われると、人間は見たくなる。知って欲しい事なんだから、少しくらい見てもいいんじゃないの?っと、チラリとサラトの顔を覗くと。


 「ロゼ様っ」

 「はい、見ませんよ!」


 《見透かされてる、何気に怖いのねサラトって、流石に……》


 流石に五千歳のお婆さんのコピーっと、思い掛けるがそれまで見透かされ睨まれる気がして、心の中で呟くのも控えた。


 「遠くに成るほど、知られたくない物なのね」

 「そうです、或いは忘れたい事……です」


 「遠くに在る物の方が多い……」

 「………………」


 一国を統治するという事は如何いう事なのか?、自由奔放に此れまで生きてきた自分にも、隠したいこと位は在る。しかし、この数は……近くに在る物は本当に少ない、遠くに位置する扉の何と多い事か、知られてはいけない事や忘れたい事。


 その数が統治者に成るという事なのか?。

 ほんの少しだが、ロゼの中に突き刺すものを感じた。


 「ロゼ様……着きました」

 「この扉……、なの?」


 到着するまでに見えていた扉と大きさが違う。


 「意識の深層部の扉……、この奥に夢魔がいます」

 「分かったわ」


 サラトが扉を開いていく、その開度に同調する様に鼓動が鳴る。

 

 「居ました、アレが皇王様を苦しめている夢魔です」


 身体は人間に近いが、ボロの衣服に全身剛毛、そして顔は鼠に近い。その悪魔が青く揺らめいている物を囲っている。怖い感じは無いが、言い知れない嫌悪感を感じるロゼ。


 「これが、こいつが夢魔?」

 「下級ですが悪魔の類です」


 悪魔と聞いて、緊張が走る。獣や魔物は幾らでも戦ってきたが、悪魔と言われる類は一度も見た事が無かったし戦闘なんて逸れこそ皆無であり、手に汗が滲むのが分かる。


 「こいつ、強さはどうなの?サラト」

 「凄く!」

 「そう、強いのね!」

 「いえ、弱いです」

 「あら……そうなの?」


 悪魔と聞いて緊張した身体から力が抜けて行く。


 「ほんじゃ、こんなもの……かな?」


 ボッ

 ギイィィィィ

 最弱の火球を当てると死んだ。


 「よわっ!」


 此れまでの緊張と重い空気が嘘の様に感じ、一気に脱力感が起きたロゼだが、それと反対にサラトは緊張が増していた。彼女の嫌な予感が的中していた。


 「サラト……?」

 「いけません皇女様、嫌な予想が当たってしまいました」

 「どういう事?、説明してサラト」


 青い炎の様な揺らめきに手を伸ばすサラト。


 ギィン! 


 音が響いたのと同時に紋章の様な物が一瞬、顕れて消える。

 サラトの顔が更に深刻な物へと変化した。


 「呪詛の……一種です皇女様、夢魔は弱くて良かったのです。アレは呪詛を運ぶ手段で、皇王様の夢から精神世界へと入り込み、深層の魂へ呪詛を根付かせる役目でした」


 「それじゃあお父様は……まだ」

 「はい……、夢魔を倒した事で意識は回復しますが……」

 「呪詛を取り除かない限りは、命は危険なままです」

 

 「サラト、この呪詛を祓える?」


 ロゼの哀願に近い表情から出てきた問いに、苦しげな顔で答える。


 「呪詛が強力過ぎて……私には……、払えません、御免なさい」

 「そんな……、それではお父様は助からないの?サラト」

 「強すぎて払えませんが、あの紋章は見覚えが有ります」

 「本当!」

 「はい、呪詛が判明すればきっと祓う手立てがある筈です、それを」


 サラトの言葉で再び希望が出て、ロゼの気持ちが立ち直った。


 「戻りましょ、そして紋章を解明させてサラト」

 「此処で下手に手を出したら、苦しめるだけですし」


 皇王が目覚めないのは夢魔が原因と、精神世界へと来た。

 しかし、夢魔の討伐完了させても事態の解決には至らない。


 真に苦しめているのは呪詛であった。

 二人は呪詛を 突き止めるべく皇王の精神世界から脱出していった。




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