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女難危行・拉致した皇女と六人の嫁  作者: 雛人形
第一章
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ハインデリア・別れ

感想等、よろしくおねがいします!

  

 「うわ!龍だぁ━━━ぁ、!」


 

 ハインデリア皇国首都ハインの上空を巨大な白龍が旋回した。

 街中は騒然となり一時は大混乱に陥る。

 宮殿からの伝令が街中に散開し、連れて来たのは皇女ローゼスであると告知。

 事が知れると、やっとのことで騒ぎも収拾していった。


 「まさか、異界人だけで無く、白龍まで連れてこようとは……」


  いまだ、信じられぬと顔を強張らす皇王に比べ、皇后の方はというと。


 「あの子らしいですわ」


 と、いたってご機嫌な笑顔を見せ、上空を旋回する龍を眺めている。


 やがて白龍ズグロは、草原へと降り立った。

 

 「ありがとうズグロ、御蔭で凄く早く帰途できたわ」

 「いえ、大した事でもありません」


 「とに角、宮殿へ行って皆に報告しないとね」


ロゼを先頭にマリネとブラッディが続き、その後ろを俺達五人は付いて行く。長い石橋を渡ると街の中央部へと入っていくが、路肩で見物する者、家の窓から覗いている者、建物や物陰に隠れ怯え見ている者。まさか皇女に物を投げつける輩は居ないと思われるが、まさかの場合に備え、途中から宮殿騎士と衛兵の一部が、俺達の前後左右を警護してくれた。


 「なんか凄い見られてるな」

 「そうですねぇ、怖がられてるんでしょうか?」

 

 「人とは斯くも、怯える存在だと忘れておりました」

 「私達は、この方達に怖がられているのですね……」


 そりゃそうだろう、皇女が連れて来たとはいえ、巨大な龍だ。

 怖いもの知らずの一部の子供以外は、恐怖の対象でしかない。

  

 遠征から、凱旋帰国を果たした騎士団の一行が、街中を行進している映像を思い出した。映像の中では、市民達の熱烈な歓迎を受け、派手なパレードだ。今街中を移動しているのは列には、男は俺一人で七人の女性集団のたった八名だが、市民から見たら得たいが知れないのである。皇女が魔法陣で召喚の儀を行っていた事も、それが厄災が訪れる前兆である事も、この善良な市民達は何も知らない。


 そんな市民の畏怖の視線も、戸惑う俺達五人の思惑も、一切気にせずご機嫌一杯の皇女様は、宮殿の入り口へと指しかかった。此処からは衛兵は下がり、宮殿騎士の付き添いで内部へと案内されていく、恐らくは皇王、皇后が待つ謁見の間へと行くのだろうと想われる。


 長い通路を進み、遂に謁見の間へと通された。

 此処までの情景が、映画の中で見た物とほぼ同じ事に俺は驚いた。


 ロゼが片膝着くと皆それに続く、当然俺も真似るしかない。


 「陛下、約束通り異界の民を招致してまいりました」

 「うむ、ロゼよ無事で何よりだ。してそこの者が異界人の……」


 「はい陛下、ヒロユキと言います、それから……

 

 ロゼは俺を紹介した後、アリアネス達の紹介をしている、ハルだけは皇后と面識があったらしく、名前を呼ばれた時に皇后からも、声を掛けられた。


 「あら?ハル、貴女もご一緒になのね」

 「はい! 皇后様、ゾーイから同行して居りました」

「アジモフ殿は御壮健かしら?」

 「はい、相変わらずで……」


 何処かの金持ちの奥様と、使いの女中が仲良く会話してる、そんな雰囲気を感じていたら、皇王が咳払いをして、紹介を続けるよう促してきた。女の長話を、遮りたくなるのは何処も同じらしい。


 「えっとこの二人は……


 「私は三魔女ラケニス様に創造された、サラトと申します」

 「我が身は、魔女ラケニスが僕、白龍ズグロと名付けられし者」


 この二人の自己紹介には、この間に居る全員に驚愕と成った。


 驚いて当然だ、人が人を創った、龍が人の姿をとっている。どっちも常識の範囲を大きく飛び越えた事象だ。言葉だけなら誰も信じやしない。学者が古い古文書から、ラケニスの描かれたページを見つけ、サラトとそっくりな事に驚いていたけど、似ているだけだと頭の固い学者はそれを信用しない。ズグロの方はその場で龍の姿を晒した、目の前で人から龍へ、龍から人へと変幻され、目の前に在る物は否定できない。


 「夢でも見てるようだが……目の前で見せられると……」


 ロゼが黒衣の者の話を切り出して、二人を好奇の目から解放してくれる。


 「それは今後、調査するとして……、今日はゆっくり休むと良い」


ゆっくり休むと良い、なんて言っていたが宴が催された。異世界から来た俺は勿論の事、一番の関心はサラトとズグロに決っている。さぞや質問学者連中に、質問責めに遭うかと想っていたが、女性陣がイブンニグドレスに身を包み現れたると、学者の爺さん共は、若い騎士や貴族連中から弾き出され、近寄る事さえ叶わなくなった。


 「サラトって凄い人気ね」


 「元が五千歳の婆さんのコピーだと、信じてないなあいつ等…………」


 こういう馬鹿騒ぎが苦手だ、スキみてさっとテラスへ逃げ込んでいたら、ロゼがグラス持ってやってきた。こっちへ連れて来た張本人なのに、ゆっくり話したことすらなかった。向こうからその機会を運んでくれるらしい。


 「ねぇ、ユキヒトは残るの決めて後悔してないの?」


 後悔……、帰る方法が聞けたら、最初は普通にバイバイする心算だったが、マリネの姿で心動かされて事が終るまでは滞在、そのあとに元いた世界にと考えてたのが……。


 「別に……後悔してないよ」


 後悔はしてないのは嘘じゃない、気が重いのはそんな事じゃない。


 「私は……、ね! 、私の事はもう怒ってない?無理やりつれて来て……」


 ネーブルで謝罪してくれてたのに、やはり気に病んでるのか?。

 気の利いた言葉の一つでも知ってれば良いのに、言葉足らずが恨めしい。


 「前にあんな格好までして、謝ってくれたし……」


 仮にも皇女の立場に在る物が両膝着いての謝罪、此方の作法やなんかは知らないが、国の統治者の継承権持ちが、あの様な格好で謝罪とか、普通はしないものじゃないのか?。こっちが思い出させた形になって、ロゼも自分の姿を思い出してテレ笑いしている。


 「あはは、そうね、大臣達があの場に居たら大顰蹙(だいひんしゅく)買ってるわ」

 「だろ?、もう怒ってないし、気にすんなよ」


 最初は確かに、そういう気持ちしか無かった。勝手に連れて来られ放置され、帰る方法を求めて移動している間に……、船内の夜、マリネの姿に感銘してしまった。色々見聞きして彼女への怒りより、別の想いのが大きく膨らんだ事で残留を決めた。


 あの時からマリネの事がやたらと、気持ちの変化の理由として言葉に出てくる、彼女に何かしらの気持ちが生まれているのは間違い無い。今だって、ロゼの姿を見ても平静でいられる。

 

 筈だった…………。


 魔導師のローブでなく、今夜のロゼは完璧にドレスアップした皇女様に戻っている。あの夜もそうだったが、やはり月夜の下で、金の髪を靡かせている姿は美しい……。


「綺麗……だなぁ……

「え?今……」


 「あ!いや、月が、こっちの月夜も綺麗だねって」


 この決り切ったセリフ………、他に言いようがないのか全く。

 しかし焦る、無意識で呟いてしまった。

 

 でも、最終日に俺が捉まらなかったら?、ロゼは如何したんだろ?。ごめんさーい捜したけど見付かんなかったあ、っとでもすっ呆けた態度で謝った?。想像してたらロゼに訊いて見たい、その衝動が抑えられなくなり、口に出した。


 「もしあの日、俺があの道通らなかったら?、他の奴捉まえてた?」

 

 大体、あんな処で何で待ち構えてた?、あんな住宅街の路地で……。


 「多分……、そうなってないかなぁ、何か占いて面白くて……、あの日、自分に試したらあの場所で待て、みたいな結果でさぁ、絶対此処だ! って、そしたらあなたが歩いて来たわけ」


 「あの夜、本当は別の道を通る筈だった、そうか呪いに掛けられてたか…」


 「あ━━━、呪いて酷い!」

 

 若干頬を膨らせ詰め寄る……。

 か、可愛い…………、やばいっ!、なんでこう直ぐ女の姿でコロっとなるのか。マリネの時といい、今夜といい、そもそも……あの夜に彼女の姿に見惚れてさえ……。


 「仲の宜しい事で、なによりです」


 「うわぁ」

 「ぎゃあ!」


 音も無く、後ろにサラトが立って笑顔で見ている。


 「皇女様、驚いて、ぎゃあは、はしたないですよ」

 「あははは」


 見た目と、性格のギャップが無けりゃ……、なぁ。


 「今夜は無粋な話は無しで、明日お時間よろしいですか?」

 「あ、うん、良いわよ皆集めるわ」

 「感謝します、では逢引をお続け下さい」


 「ちょっ、逢引って……」

 「逢引……、て、デートのことかぁ! 、マテマテそんなん………


 これは気まずい! 、露骨に勘違いされた。彼女の方もワインの酔いも手伝い顔の赤みが増していた。


 「あははは、わ、私……挨拶廻りしてくるわ」


 サラトには参った。流石に五千歳の婆さんのコピーだけはある、さっと現れ、場の雰囲気を完全に断ち切ってくれた。しかし、別に明日になって時間が欲しいと、進言したって済む話だろ?。何故、わざわざ今来て言う必要性があったんだ?


 《私も……一緒に居たかった……な》

 「マリネー、次の場所を巡回いくよー」

 

 「あ!うん直ぐ行く! 」


 後で知ったが、二人は宴に参加せず宮殿内の警備に付いていた。

 マリネがどんな心境で観ていたか、当然知らない。


 

 宴の終った翌日、サラトの話で集合する筈が。


 「え?、アネスとハルがゾーイに帰る?」


 起こしに来た侍女さんから、予想外の話を聞き慌て起きた。

 既に、街の出口付近で皆が待ってる聞き、大急ぎで向かう。


 何故急に?。

 街の中を走りぬけ、やっと皆のいる場所へと辿り着いた。


 「はあはあ、何で、はぁはぁ、帰るんだ?」

 「相も変わらず、寝坊だなお前は」


 アネスの憎まれ口から始まり、ゾーイへと帰る理由を話し始めた。


 ネーブルまでの道案内をする。それが彼女との最初の約束で、元々ゾーイ周辺の警備が彼女の仕事である、行きがかり上、首都までは同行したが、此れ以上ゾーイでの役目を他者だけに任せる訳にもいかないと。ハルは、俺が帰還するまでの顛末をと言っていた。この世界に残留するのを決めた以上、一応の顛末は確認出来た事に成る。それに賢者様の身の回りの世話もある、弟子の立場で修行も放置しているし、やはりゾーイへ戻らねば成らないと。


 二人の言い分を、論破する言葉を捜す事は出来なかった。


 「別に今生の別れでもあるまい、縁在れば又、逢う事になる」

 「ですねぇ、又、逢えますよー」


 アネスがあの時居なかったら、絶対に今の状況は無かった。

 ハルが居て、雰囲気を和らげてくれてなかったら………。


 何か凄く込み上げてくる想いが、目頭を熱くしている……。

 こんなにも優しい女性二人に、あの時逢えなてなかったらと。


 「馬鹿者が!、この程度で……」


 最期迄、馬鹿者呼ばわり……、しかしそう言う自分だって流してるじゃないか。


 一瞬だけ手を上げ、地竜に乗りゾーイへと二人は帰っていった。

 過ぎ去る影を見ながら、又、逢えるの日をと、心底願ってみた。


 「さて! 、私達はやれる事をしましょ、サラトの話からね」

 「はい」

 

 そうだ、昨晩サラトが皆に何か話があると言ってた。


 「黒衣の者……、彼らの事です」


 サラトは、彼らの事を何を語る心算なのか?。



 

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