表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女難危行・拉致した皇女と六人の嫁  作者: 雛人形
第一章
12/90

ネーブル

よろしくおねがいします

 


  怪しいな……

   怪しいですねぇ━━


 アリアネスとハルが見つめているのは、ユキヒトとマリネ。


 「約束……忘れるなよ、内緒だからな! 」


 「はい、分かってます……でも本当に」


 二人が交わした約束とは、ユキヒトがこの世界に留まるという事、そして誰にも告げないという事であった。何故、告知するのをユキヒトが拒んだのか?それは、極単純な思いで。


 「うっせえ、単なる意地だ……悪いか! 」


 あれ程に、皆のまえで俺は帰ると言いながら、女一人に絆され説得されたと知れたら。


 「格好つかねえ! 」


 「ふふ、何かロゼ様と似てます、意地っ張りだし」

 「なぁにぃ━」


 ロゼに似ていると言われ、反発してマリネに突っかかるが、似てるものは仕方が無いと、抗議は却下されてしまい、どうにも立場が入れ替わった気がして、納得できないでいる。


 《優しい方で……本当に良かった》


 最初にペレストで逢ってからこっち、常に激怒を顕にし、詰め寄るブラッディを吹き飛ばしても見せた。あの時の形相は鬼の様に見え、マリネは恐怖以外を感じなかった。船上で二人で再度話をしに行ったときも、冷徹さしか感じ得なかった、それが覚悟を決め船室を訪れてからは、行為を中断された後からは、今迄と正反対にしか見えなくなっていた。


 「ふーむ、あの二人……何かあったか……」

 「さあ?、でも仲良く成ってくれると助かります」

 

 ユキヒト達二人を眺めているハルは、公園で遊ぶ子供を見つめる眼だ。


 「ほぉ、何でだ?」

 「ふふ何ででしょうねぇ……」

 「お━ぃ、内緒か」

 「ふふふ」

 

 船室から出てこないロゼも、昨日よりは落ち着き、会話も出来るようになった。

 

 「あの人と、マリネは?」

 「えっと、多分……又、説得にいってるかと……」

 「上手くいくかしら」


 会話は出来るが、何時もの様な破天荒ぶりは、何処かへ消え失せている。この世界で彼女の言う事は、余程の事でも無い限りは許される。不遜な態度も、皇王、皇后そして自国の重鎮達を前にした、宮廷での乱説も同様だ。普通なら処罰されるがお咎めなし、だがそんな物は異世界の民には関係無い、ただの我侭(わがまま)女としか取られなかった。しかも悪気が無かったせいで、謝罪すらしていない、突然連れて来られたうえに、独り投げ出された者からすれば怒るのは当然だ。


「ちゃんと謝罪しないと……だよね」

 

 きちんと正面から謝罪したいと思ってはいる、自分の行動を全否定されて、まだ完全に立ち直れては居ない、こんな時こそ従者の出番ではないのか?。

 

 「ちよっと様子見てきますね」


 ロゼから離れるのは気がかりだが、戻って来ないマリネも何を?と。

 船室を出て、甲板に上がり二人を見つけた。


 《ん?、マリネなにしてるの?説得してるように見え……


 「お前も怪しいとおもうか?」

 「うわぁ━!」


 いきなりアリアネスに声掛けられて、仰け反るブラッディ。


 「あの二人何か隠してないか?」

 「まあ、確かに少し不審だけど…」


 弓矢を背にするエルフと長剣持つ騎士が、影からコソコソ覗き見している。


 「ほらほらぁ、こんな所でぼけっとしてないで、ソロソロでしょ」

 「あ!そうだ、マリネも呼ばないと」


 次の岬を通り過ぎれば、ネーブルが見えてくる、到着まではもうそんなに長くは無かったのだ。そして到着すれば、魔女に逢いに行く。それはユキヒトが元の世界へ帰るという事だが、二人以外は知らない、ハルだけは女の直感とでもいう、特殊能力で何かを感じ取り安心しているようだが。


 「ユキヒト……如何するか決めたのか?」

 「ああ、勿論決ってる」


 何時の間にかユキヒトの横にアリアネスが居て、気持ちを聞いてきた。

 残る事は明かさず、決めた事だけは伝えた。


 「うむ、迷いは無いな、良い眼だ、間も無く……


 アリアネスは船員が落ち着きが無く、うろつき出したのに気が付いた。

 殆どの甲板上の船員が船首へ向かっている。


 「何だ、何事か?」

 「それが……、ネーブルの様子がどうもおかしくて……」


 聞くや即船首へ走るアリアネス、着くや船員から望遠鏡を取上げる。

 

 「くそっ、燃えてる…、良く見えないが…魔物が襲ってる」


 騒ぎで、船室からマリネとブラッディが出てきた。

 見渡して皆が船首に集っているのを見つけ駆け寄ってきた。


 「何かあったのですか」

 「街が魔物に襲われて、火災も起きてる! 」

 「そんな……如何して! 」


 大昔ならそういう悲劇もあったらしいが、街へ魔物が大挙して押し寄せる等、もう随分と長い年月に亘って、起きたと聞いたことが無いらしい。


 「マズイな、ネーブルには少数の警備がいる位で、守備隊は居ない」

 「それじゃ、ネーブルの街は此のままでは……」


 ブラッデイが街の防御が薄い事を話すと、アリアネスが悲惨な結末を予感する。

 何故、到着のタイミングで街が襲われているのか?ただの偶然だろうか?。


 「偶然とは思い難いな━━━━、あの黒衣の者か! ……」


 

  ………… ふっ、私のせいだと?…………、私は何もしていないが?


 でた!


 「何処だ! 」


 又も、何の前触れも無く、黒衣の者が顕れた。即、戦闘体勢に入る。

 船首から振り向き、舵の上の空中に姿を現した。


 「魔物達がネーブルを襲っているのは、私の与り知らぬ事だ」

 「では誰が操っている?答えろ! 」


 ブラッディが黒衣の者を問い詰めるが、手を広げ首を振る。


 「そんな事知らぬ、まぁ知っていても教える義理は無い」


 黒衣の者は自分の関与を否定した。嘘を付く意味が無い、本当であろう。

 更に言葉を残し消えていった。


 「異界者よ時が近付いた、言葉を違えぬ事だ……」


 突然現れ、そして言葉残して早々に消えた、一同動きが止ったが。

 そんな事より、今はネーブルの方が危険であった。


 「後どれ位で着く?」

 「此処からでは……、あと二時間程は」


 二時間も放置すればネーブルは全滅する。此処からでは手は出せない。

 考え込んでいたマリネが、手を思い付く。


 「ロゼ様……、転移魔法でいけるかもです」


 「あ!、よし私が呼んで来る」


 ブラッディがロゼを呼びに、踏み出すと、マリネから止められた。

 彼女を引きとめ、ユキヒトにそれを代行して貰うよう話した。


 「ユキヒト様がロゼ様を呼びに行って下さい! お願いします! 」


 未だに、立ち直れず姿を現さぬ主に、切っ掛けを与えようとの意である。

 何故、自分なのか理解し兼ねたが、マリネの意を汲み取った。



 《何かあった?……、上が随分慌ただしいけど……》


 バタン!!

 「ローゼス皇女、緊急事態だ!甲板へ…………て


 言葉が途切れたのは、ロゼがベッドの裏に隠れ、背中を向けて居るせい。ノックも無しに女性の部屋へ、しかも入室したのがユキヒトだ。一番逢わないと成らない、そして逢い辛い相手が突如として目の前に飛び込んできた。全盛時のロゼなら即、火球の一発入れている処だが、今は普通の女性以下の行動を取った、悲鳴も罵声も上げず、ベッドの後ろへ逃げ震えている。


 《なんで?、なんでこの人が来るのよ?…………》


 「お前……、震えているのか…?」


 やっとの思いで、震えながら声を出す。


 「貴方が……、急に……入って来た」


 マリネから聞いていたイメージと全く違う姿に、罪悪感を感じるが。

 そんな場合ではない、時間が、余裕が余り無いのだ、気を取り直すと。


 「震えている場合じゃない! 、緊急事態だネーブルが魔物に襲われている」


 「え?ネーブルが?魔物に?如何して?」

 「お前の国の国民が襲われてるんだ! 、急げ甲板だ! 」

 「分かったわ! 」


 国民が襲われている、の言葉で反応した。気弱な素振りから一気に表情が変わり、ユキヒトと甲板へと駆け上がってきた。待っていたマリネとブラッディから、手早く状況説明を受けるロゼ。


 「状況は把握したけど、一緒に飛べるのは三人までよ! 」


 ロゼ、ブラッディ、マリネそして、アリアネスが妥当な人選だが。

 マリネがユキヒトを睨みつける。それを視認した当の本人。


 《マリネ…もしかして……以外と怖い?》


 少したじろぐが、ハルの眼も、【行きなさい】と言っている…気がする。

 

 「俺が行く」


 少しは動じる素振りを、ロゼが見せるかと思われたが。

 平気な顔をしている、ここに来てようやく平時を取り戻しつつある。


 「揃ったから、いくよ! 」


 ロゼが転移先を頭にイメージする。


    風よ……我らを……運べ!


 緑の光が四人を包み、弾け消える。


  


 ネーブルの現状、惨憺(さんたん)たる物だった。突然として魔物が大挙して襲撃してきたのだ、湖を囲み街並が在る事が災いして、少数の警備ではとても、進入を阻める物ではなかったのである、広範囲で一度に攻められ、瞬く間に被害は拡がった。ある者は湖に飛び込み、ある者は港へ逃げ込み、海へと難を逃れようとしている。水中へ難を逃れた者は運が良かった、大多数は魔物の爪や牙、中には火炎で焼かれた者も居る。


 四人が緑の光球より現れる。ネーブルの惨状を目の当りにし、顔を背けた。

 ロゼは即、指示を出し始めた。


「マリネ、怪我人を見て回復、ブラッデイと私は、援護と応戦」


 ユキヒトに指示しなかったのは、力が判明しないせいだ。

 ぼけっと見守る訳にもいかない、動けない者をマリネの近くへ運ぶ。


 運びながら状況を見渡す、港側の魔物はロゼ達の力で掃討されていくが、如何せん範囲が広すぎる。他の場所は既に、警備は全滅寸前である、勇敢な市民は抵抗しているが、所詮一般人であり武器もたかが知れている。港の路上に居た怪我人は、軽い者は良いが、重症や瀕死はマリネの魔法では完治は出来ない、痛みや程度を抑えるくらいだ。動かす事の出来ない重症者は手当てが遅れ、死亡していく瀕死の者は……。


 港に雪崩れ込んでいる魔物を即座に排除し、中央へ入り込まないと全滅だ。


 「ロゼ様、何とかなりませんか?、此のままでは…」


 魔物に剣で斬り付けながら、ロゼに手立てを請う。

 詠唱無しの火炎で焼きながら、やれるならもうやっていると。


 「なあ、お前、魔物だけ撃ち抜けないか?」


 後方からユキヒトが走り寄って来てロゼに進言した。

 個別判定させ魔物だけ、そんな魔法が有るには有るのだが、威力が無い。


 「あるわよ……、けど威力が無いの、倒せない」

 「倒せなくていい! 、怯ませれば……」

 「後は此処に残ってる警備兵で……何とかできるかも、いいわ」


 「援護お願い、ブラッディ」

 「私も! 」


 魔法で治癒出来る者は、一通り手当てしてマリネも加わった。ロゼが目標とする魔物をイメージ仕出したが、種族が複数で時間がいる。ブラッデイが、振り下ろされる斧を剣で捌き、払う、数秒足止めするマリネ。


 森林の時とは数が違う……恐怖心が出てきたが一体、又一体と倒していく。狭い範囲でロゼを魔物から防ぐ三人。


 《へー、初めて見たけど……やるじゃない流石に私が……》


 ロゼの目標設定が完了した、詠唱に入る。


     光守護し者達よ、我のも……


 上空に魔法陣が形成されていく……、大きく広く拡がりを続けネーブル全体へ。

 街全体を範囲に収めると、即座に光矢が天空より降り注ぐ! 。


 「えっ? 、そんな筈、ない……詠唱しきれてない…のに」


 光矢は人を物を避け、イメージで固定された魔物のみを狙い貫いていく。天空から降り注ぐ数千の光矢、その一撃貫かれただけで、魔物は絶命した。避けようと逃げるが、矢はそれを追尾し貫く、盾を持つ魔物はそれを天に向け防御する、しかし光矢は何も無いが如く貫き通す。


 魔法陣が形成され数分間で、光の矢はネーブルを襲った魔物を全滅させた。

 街の各所で歓声が沸き、生き残った者は生還に涙した。


 「ローゼス皇女、お前凄いな! 全滅したじゃん」

 「ロゼ様凄すぎます! 、さすがあ」

 「お疲れ様ですロゼ様」


 三人から賛美されても、ロゼは唖然とした顔を崩さない。


 「如何かされましたか?ロゼ様」

 「全滅?、こんなのおかしい……、威力も桁違い…」

 

 魔物を全滅させたが、ロゼは納得していなかった。


 

 「私は、殆ど詠唱していない! 、魔法が発動する筈が無い! 」

 


ありがとうございましたー

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ