表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女難危行・拉致した皇女と六人の嫁  作者: 雛人形
第一章
11/90

心意

よろしくおねがいします

 渡航船ユキヒトの個室へ、真夜中に女性が尋ねてきた。

 彼女の名はマリネ、皇女ローゼスに従事する騎士の一人だ。

 蝋燭灯の薄明の中、その表情に浮かぶ物、恐れ、困惑、そして羞恥か………。

 マリネは自ら、軽鎧を外した。

 

 「ユキヒト様…………、これで何卒……」


 「君は………


 

 

 ━━━ 半日以上前 ━━━


 ユキヒトの前に皇女ローゼスの従者、女性騎士二人が現れた。

 そして、二人はユキヒトが振り向くと、即座に方膝を着き、頭を垂れる。


 「何卒、我らの話を聞いて下さりますよう……」

 「お願い致します……」


 中世の物語でよく描写される情景で、自らの主に向けられる物では?。

 ユキヒトは咄嗟のことで、困惑し動けなかった。

 予想の範囲を超えた状況に、口を開くのに十数秒経過した。

 言葉を聞くまで、その体勢は維持され、許されるまで微動だにしなかった。

 

 「そんなの止めてくれ、立っていいよ! 」


 許しを得て、二人は立ち上がる。

 

 「お聞き頂き感謝致します…」

 「我が主に成り代わり、陳謝いたし何卒我等が願いを……

 「その、超堅苦しい物言い方を何とかならない?」

 

 ユキヒトは最初の儀礼といい、物言いといい、痛々しくて遮る。生涯でそんな言葉を自分に対して、向けてくる者が現れるとは、想像したことすらなかった。


 「貴方の怒りは、痛いほど理解した心算です、ですが……」

 「今一度、お考え直して貰えませんか?」


 当然の事ながら、この話なのは予測した。


 「ふぅ、やっぱりその話だよな……」

 「はい、ロゼ様にも後ほど、必ず謝罪を……

 「そこなんだよな、何故、本人が来ない?、まあ来辛いのは分かるけど」

 「誤解無きよう聞いて下さい」


 交互に会話をしていたが、マリネが此度の全てを語り始めた。


 一度も反応しなかった召喚の魔法陣が、ある日突然ロゼに反応した。歴史の中で、魔法陣が発動するという事が、このフォーチュンに何を(もたら)すのか?、その為に過去から召喚の儀を行ってきた事。今回ユキヒトを放置したのでは無く、言い訳に成らないのは招致しているが、故意ではなく事故だったと、数日間異世界で捜したが、相手にされず。期限ギリギリでやっと、助けに応じてくれそうな人と逢え、嬉しさの余りに詳細を語る前に、帰還魔法を発動させてしまった。


 「つまり俺は、人徳薄い慌て者の皇女様に掴まったと?」

 「人徳は……一部以外ではあるんです! 、ですが仰るとおりで……す」

 

 「で、どんな事故で俺はほっとかれた訳?」


 最初二人で顔を見合わせ、話し難そうに始めた。帰還魔法を発動させた後も、嬉しさが抜けずはしゃいだせいで、魔法の効果範囲から突き飛ばしてしまった。


 「俺は……突き飛ばされたのかよ」

 「お詫びのしようが……」

 

 「あんたらの仕業じゃ無いだろー」

 「ですが……」


 従事してる者が、主のせいだとは言えない、続きの話を促した。居場所の見当も付かなかったが、皇后から魔女ラケニスなら捜索出来る筈と教えられた。魔女の居場所を知るものは、ゾーイの賢者アジモフで逢いに向かった。途中で悲劇を経験するが、これは今回の件とは全く関連無いので省くと、無事アジモフと逢え、そこでユキヒト達がネーブルに行くために、港町ペレストに向かったと聞き、急ぎ駆けつけた。


 「此れが、ユキヒト様達と逢うまでの全てです」

 「嘘偽りは、一切語っていません、信じてください」


 「別に……疑ってないよ」

 「信じてくれて感謝します」


 二人は深くお辞儀をした。

 

 数多いまでは無いが、ユキヒトが知りたかった事は全て判明した。判明したがそれと、此の世界に留まるかは別である。事情を話さず強引に連れて来た、あちらの世界から見たら、誘拐、拉致、逃亡に極めて近い、事が判明した以上無事に送り返すのが筋ではある。

 

 のだが、冷たく突き放しも…………。

 

 「事情は今の話で、ちゃんと理解した……」

 「ありがとうございます」


 理解はしたが、納得はしていない。


 「放置されたと思ったのも誤解で、もう怒りもないよ」

 「良かった!それでは」


 ここで、自ら断るのではなく、彼女達が諦める様に仕向ける為に質問した。


 「俺が、命を賭さねば成らない、正当な理由が何かある?」

 「それは…………」


 ズルイと思った……。


 「平和な世界を離れ、此処で命を賭さねば成らない理由が知りたい……」

 「無い…です、」


 相変わらず、交互に答え最期にマリネがこう言った。


 「貴方の……御慈悲に……(すが)るしかありません」


 この言葉をユキヒトは、全て他人任せ、他力本願なのかと取ってしまった。


 「自ら動かず、事を成就したいなら、俺が命を賭す代償を払って欲しい」

 「代償…………、何をご希望……なのですか?」

 「俺は神では無いが、神が全部代償を指定するのか?」


 彼女達もこれで諦めてくれるだろう、ユキヒトは本気でそう思った。最期の彼の言葉は、何を意味しているのか?、それを彼女達は理解出来る筈だ。そんなまねを、自己犠牲を払ってまで、自分をこの世界に留まらせようとはしないだろう。その証拠にその言葉を最期に、甲板から離れていくのを……。


 《ほら追って来ない……、これで冷たく断らずに済んだ》


 ユキヒトが立去るのを彼女達は、立ち尽くすだけだった。

 しかしこの時、彼女達の心中をユキヒトは察せ無かった。


 その後は特に変わった事も無く、船内で夕食が出された。

 それは全員が自室で取り、誰も表には出てこなかった。

 

 ユキヒロ達以外に乗船客は居ない、夕飯の後も誰一人表へ出てくる者は居なかった。食事の後片付けに船員が各部屋へ、食器を引き取りに入ってきた事と、甲板と廊下を掃除する音以外は何も聞こえて来る事も無い。


 この状態は夜に船内で消灯と成るまで続いた。

 そして静まりかえった真夜中の事。


 コンコン


 ドアがノックされ、ユキヒロは眠れずにいたせいもありドアを開いた。


 渡航船ユキヒトの個室へ、真夜中に女性が尋ねてきた。

 彼女の名はマリネ、皇女ローゼスに従事する騎士の一人だ。

 蝋燭灯の薄明の中、その表情に浮かぶ物は、恐れ、困惑、そして羞恥か……。

 

 マリネは無言で自ら、軽鎧を外した。

 

 「ユキヒト様…………、これで何卒……」


 「君は………

 《まさかっ!、本当に……来るなんて……》


 軽鎧を外すと、シュミーズ姿が現れ、マリネはその肩紐に指を掛け…て。

 その先の行為は、ユキヒトによって制止された。


「あの…ユキヒト…様?」


 棚から未使用のシーツを引き出すと、彼女をそれで包んだ。シーツを動かしながら、何と馬鹿なマネをしたのかと後悔する。他力本願?違う、彼女達も生きる為に命を懸けていたのだ。この世界フォーチュンとその住人を救う為に、もし彼女に命を代償に差し出せと迫ったら、躊躇無く従うだろう。


 この世界はそういう場所なのだと、初めて理解した。彼女達がどれだけの決意で、ユキヒトを説得しに来ていたのか、代償を要求した時に……どれだけの覚悟を決めようとしていたのか?、なのにそれをただの、人任せの他力本願と取ってしまった。命を賭して事を成す者の為に、彼女もそれを成す者の為に、命を賭そうとできるのだ。


 「ユキヒト様…………私は」


 マリネを見つめた。じっと見ている彼女の顔は、又何か起こらせたのでは無いかと怯えている。此れ以上彼女に、こんな真似をさせる訳にはいかないと、ユキヒトは決めた。


 「マリネ……だったかな?」

 「はい」

 

 「向こう向いてるから、元の格好に戻ってくれ」

 「あの…………」


 怒って着ろと言っているのでは無い事を、優しく伝えるとマリネは従った。

 自分がやった事が恥ずかしくて、たまらなくなっていた。

 元の姿に戻ったマリネが、次の言葉を待っている。


 「ふぅ!、如何やら俺が負けたらしい、マリネの勝ちだ」

 「え!、私の勝ち?………理解が……え、もしかして」


 「うん!、君達の要請を叶える、努力するよ」

 

 その言葉を聞いたマリネは、きっと必死に耐えていた物が、一気に消えた。

 感極まって涙を流し始めた。

  

 そして━━━。


 「ユキヒト様!ありがとう! 」

 の言葉を告げながら抱きついてた。

 

 《あー悲しみの涙を流させなくて、これで正解なんだ》


 ドアを抜けて行く前に、おやすみなさいと笑顔で出て行った。

 眠ってしまう前に、他の二人も同じ事をしたのだろうか?っと。

 

 《これは……なってしまったかな?》



 

 


ありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ